最近、総悟にやたらと腹が立つ。もともと、俺を苛立たせることに関しては天才的な才能を発揮するヤツではあったが…

近頃のアイツは本気で斬ってやろうかと思うくらいだ。ただ…俺への嫌がらせは今まで通りに感じる。

何かっつーと俺にバズーカ向けたり、俺の前で仕事をサボったり…確かに腹が立って当然の行為ではあるが

明らかにこれまでとムカつきの度合いが違う。何でこんなにイラつくんだ?一体どんなワザを使ったって言うんだあのドSめ!

 

 

無自覚のまま嫉妬する土方さん〜壱〜

 

 

くそっ、またサボってやがんな総悟のヤロウ!

屯所での事務仕事中、煙草が切れたので見回りがてらかぶき町のコンビニへ向かった俺は

ファミレスで万事屋とくっちゃべってる総悟を見付けた。

二人ともパフェなんつー、見ただけで胸焼けのしそうな甘ったるいモンを食いながら談笑してやがる。

あの野郎…俺が屯所でワケの分かんねェ書類で苦労してる時に!

ムカついた俺は煙草も買わず総悟のいるファミレスに入っていった。

 

 

「いらっしゃいませェ。一名様ですかァ?お煙草はお吸いに…あっ、ちょっとお客様!?」

 

店員の女を無視して総悟のいる席まで歩いていく。

総悟はこちらに背を向ける位置に座っていて俺には気付いていない。

向いに座っている万事屋の方が先に気付き、締まりのない顔で総悟に何か言っている。

どうせ俺が来たことを教えてやったんだろう。万事屋はニヤニヤと何か企んでいるような顔で笑ってやがる。

…そういやぁコイツもドSだったな。チッ…ドSコンビが揃うと余計にイライラする。

 

 

「よー土方くん、お疲れさん」

 

万事屋がやる気なさそうに片手を上げて俺を手招きする。どーせ、タカる相手が来たとか思ってんだろ!

総悟と違って俺はコイツと楽しくおしゃべりなんざできねェからな。

 

 

「テメーに用はねェんだよ、万事屋」

「あららイラついてんね。カルシウム不足じゃね?マヨネーズばっか摂ってねェで、俺みたいにいちご牛乳飲まなきゃダメだぜ」

「そうでさァ…いちご牛乳浴びるほど飲んで死ね土方コノヤロー」

「んだと総悟テメー!つーか、いちご牛乳飲んだくれェで死ぬかっ!」

「まあまあ、とりあえず座れよ。周りの市民が怖がってるよー」

 

 

万事屋は奥に詰めるとポンポンっと空いたスペースを叩いた。

コイツに宥められた格好になるのは癪だが、このまま総悟を怒鳴りつけても聞かねェだろーから、仕方なく俺は万事屋の隣に座った。

 

 

「あっ、お姉さん。コイツにカフェオレと、それからチョコパフェ追加で」

「てめっ、何勝手に注文してやがんだっ!」

「ファミレス来といて何も注文しねェってのはマナー違反だろ?」

「だからって何でカフェオレなんだよっ!普通のコーヒーでいいだろうが!」

「カルシウム不足のお前にはミルクたっぷりのカフェオレがいいだろ?」

「んな甘ったるいモンが飲めるか!」

「大丈夫だって。ここのカフェオレは砂糖が別に出てきて自分で入れる方式だからさ」

「いや、だが…」

「旦那の厚意をムダにすんなよ土方コノヤロー」

「っるせェよ総悟!…そうだ!テメー、巡回サボってんじゃねェぞ!」

「…土方さんだってサボってこんなトコ来てんじゃねェか」

「お、俺はテメーを見付けたから注意しにだな…」

「はいはい。とりあえず食い終わるまで待っててくだせェ」

「待てるか!さっさと出るぞ!」

 

無理矢理にでも総悟を連れ出そうとした時、「お待たせいたしましたァ」と店員の女が万事屋の注文した品を持ってきた。

万事屋の前にチョコレートパフェ、俺の前にカフェオレが入ったカップと砂糖の入った容器が置かれた。

 

「ほらほら土方さん、注文の品が来ましたぜ」

「チッ…テメーが食い終わったらすぐ出るからな」

「へーい」

 

「そういや万事屋…どさくさに紛れてテメーの分まで注文していたが、まさか俺に払わすつもりじゃねェよな」

「えー、いつもお世話になってる銀さんに奢ってくれるんじゃないの?」

「そうでさァ…いつもお世話になってる旦那と部下に奢ってやれよ土方コノヤロー」

「世話になってねェよ!つーか、ちゃっかり自分の分も奢らせようとすんじゃねェ総悟!」

「…なんかさァ、いつにも増して荒れてねェ?ナニ、仕事忙しいの?」

「テメーよりはな」

「でもさァ、沖田くんはこうやってのんびりおやつ食ってんじゃん」

「土方さんは単に能率が悪いだけでさァ」

「ああそうだな…仕事サボる部下を始末すりゃ能率も上がんだろうな」

「そんな物騒な考え方じゃ今の世の中生きていけませんぜ?」

「るせェよ!いいからテメーはとっとと食って仕事に戻りやがれ!」

「ったくカリカリカリカリ…俺が羨ましいなら素直にそう言ってくだせェよ」

「あ?誰がテメーなんかを…俺ァ仕事サボりてェなんざ思ってねェぞ!」

「土方さんが羨ましがってるのは、こうやって旦那と仲良くパフェ食ってるってトコでさァ」

「ああ?俺がそんな甘ったるいモン食いたいとでも思ってんのか?」

「やれやれ…鈍い鈍いとは思っていたが、ここまでだったとはねィ」

「誰が鈍いって?」

「あんたでさァ…その分じゃ、イライラの理由も俺の嫌がらせだとでも思ってるんだろィ」

「その通りだろうが」

「ハァ…やれやれ。じゃあ聞きますが、以前はここまでイラついてなかったんじゃないですかィ?」

「それは、まあ…」 

 

なんだいきなり?…最近やたらと俺をイラつかせる種明かしでもしようってのか? 

 

「俺ァいつも通り過ごしているだけですぜィ」

「いや、それは絶対に違う」

「違いやせん。いつもと同じなのに土方さんがイラつくようになっただけでさァ」

「…テメーまでカルシウム不足だとかぬかすつもりか?」

「そんなこと言いやせんぜ。まあ思い出してみてくだせェ…

俺のやるコト全てにそんな過剰反応してるワケじゃないんじゃないですかィ」

「いや、テメーの全てがムカつく」

「はいはい…まあ、後は一人でゆっくり考えてくだせェ」

「あっ…おい、どこに!」

「食べ終わったんで仕事に戻りまさァ…あっ、土方さんはまだですぜ?

注文しといて口も付けねェのは失礼ですからねィ」

 

総悟は俺の前のカフェオレを指してから、ヒラヒラと手を振って店を出ていった。

くそっ、またテキトーに誤魔化されたっ!

 

 

「あ、あのさァ…」

「ああ?」

「沖田くん…お金払わないで出てっちゃったけど?」

「総悟のヤロー!」

 

携帯で呼び戻すか?いや…ヤツのことだ、俺に払わせる気で出たんだろうから戻ってくるワケがない。

仕方ねェ…一旦払っておいて屯所で問い詰めるか。

 

 

「そ、それでさァ…」

「あ?まだ何かあんのか?」

「俺、金持ってねェんだけど…」

「…無銭飲食の現行犯で…」

「ち、違うんだって!沖田くんが奢ってくれるっつーからさ…」

「は?アイツが奢るわけねェだろうが…」

「いや…俺も何か裏があるとは思ってたんだけどよ…」

「まさかアイツ…俺が来ることを予想して?…いや、それはねェな。

俺ァたまたま煙草がきれたから外に出ただけで、予定なら今日は一日屯所にいたんだし…」

「お前も大変だね…ま、とりあえずソレ飲めよ」

「ああ」

 

俺はすっかり温くなってしまったカフェオレを流し込む。もちろん砂糖は入れない。

 

「…意外と美味いな」

「だろ?そういえばイライラも少し落ち着いたんじゃね?カルシウム効果だな、うん」

「そうか?」

 

カルシウム摂取の効果がそんなにすぐ表れるとは思い難いが…先程までの苛立ちが落ち着いたのは確かだ。

元凶(総悟)がいなくなったからか?落ち着いてみると…この店は随分暑いな。

まだ秋になったばっかだっつーのに、もう暖房でも入れてんのか?さっさと飲んで出るか!

 

俺はカフェオレを飲み干すと、すでにパフェを食べ終えていた万事屋と共にファミレスを出た。

外に出ても暑さは引かねェ…店が暑かったんじゃなくて外の気温が上がってたのか。ったく、何だこの暑さは?

残暑とかってレベルじゃねェぞ?

 

「じゃっ、俺こっちだから」

「ああ」

 

十字路で万事屋と別れ、屯所まであと数分という所で俺は煙草を買っていないことに気付いた。

だが何となく戻る気になれずそのまま屯所に帰った。

あとで山崎にでも買いに行かせよう。そういえば急に涼しくなったな…異常気象か?

 

 

 

急激な気温の変化が異常気象でも何でもないことに、この時の俺はまだ気付いてはいなかった。

 

 

(09.09.19)


この話の土方さんはちょっと(かなり?)天然です。変化したのは気温ではなく土方さんの体温です。続きはこちら