「あっれェ、土方じゃん。偶然だねー」

「チッ…目障りなヤロウが来やがった」

 

珍しく仕事が早く終わった日、俺は何度か行ったことのある居酒屋で一人静かに杯を傾けていた。

その俺の背後から覇気の全く感じられない声がかかった。…万事屋だ。しかも俺の向かいに座りやがった。

 

「おい…ナニ勝手に座ってんだ」

「別にいーじゃん。一人で飲むより誰かと飲んだ方が美味いんだって」

「…奢らねェぞ」

「ははっ、大丈夫だって。そうだ!こないだのパフェのお詫びに、ちょっと多めに出すからよ」

「ここは俺が持つくらい言えねェのかよ…」

「そこまではムリ!だいたい、パフェ二つと酒代じゃワリに合わねェよ」

「…それもそうだ、なっ!」

「ん?どした…顔赤いぞ?もうそんなに飲んだのか?」

「い、いや…そんなには…」

 

どうしたっていうんだ?急に暑く…あの日以来、暑さを感じることなんか無かったのによ。

確か前の時もコイツといたんだった!

…そういやぁ、このことを話した時に山崎が「次に暑くなったら近くにいる人をよく見てみろ」とか言ってたな。

コイツを観察すればこの暑さの原因が分かるってのか?

 

俺は店の親父に何やら注文している万事屋をじっと見つめた。

 

「な、何だよ…ヒトのことじろじろ見やがって。何か付いてるか?」

「気にするな。こっちの事情だ」

「事情って何だよ…ナニ?銀さんそんなに男前ですかー?」

「いや、俺の方が男前だな」

「いちいちムカつく野郎だな…じゃあ何で見てんだよ」

「それは気にするなと言っただろ?ほら…料理が来たぞ。食え」

「はいはい。…んじゃカンパーイ」

「お、おう…」

 

俺の前まで万事屋が猪口を差し出したので、俺の猪口をそれに合わせる。

カチャと小さい音が鳴って、猪口が離れていって万事屋の口元へ…アイツの唇は結構柔らかそうだな。

女みてェな口しやがって…甘ったるいモンばっか食ってるからか?……何だかまた暑くなった気がするな。

 

 

「なあ、万事屋…」

「んー?」

「お前は、こう…急に暑くなったと感じたことはあるか?」

「は?ナニソレ?」

「実は最近そういうことがあってな…」

「…こんなに涼しいのに?」

「ああ。だから恐らく、俺の体温が急上昇してるんだとは思うんだが…」

「体温?…何だオメー欲求不満か?」

「はぁ?何でそーなるんだよっ!」

「だってよー、急に体が熱くなるってそういうことだろ?ぷぷっ…男所帯は大変だねェ」

 

万事屋はニヤニヤと締りのない笑みをこちらに向ける。ふざけるな!誰が欲求不満だコラ!

だいたい、いつでも熱くなるワケじゃねェんだよ!今のところはお前といる時だけで……えっ?

 

 

「いや、ナイ。いくらなんでもそれはナイ」

「そうかぁ?気付いてねェだけで、溜まってんのかもよー」

「いや、だからってこれはナイ」

「じゃあストレスか何かじゃねェの?副長さんは働きすぎなんだよ」

「そ、そうかもなっ!」

 

そうだ、ストレスってことにしておこう!うん!今もこの前もコイツといる時に熱くなったのだって、偶然だ。

夢のことだって何かの間違いに違いない。決して万事屋に欲j…いいいいや言うまい。言葉にしたら恐ろしいことになりそうだ。

 

 

「おーい、どうした?急に黙って」

 

万事屋が俺の顔の前で手を振っている。つーか、近い!手だけでいいだろ!顔まで近付けんなァ!!

 

「ななな何でもナイ!大丈夫だ!」

「大丈夫じゃねェよ。さっきからほとんど飲み食いしてねーってのに顔赤ェしよ…もう帰った方がいいんじゃね?」

「そそそそうかもな…」

 

親父、おあいそ!そう言って万事屋が店主を呼ぶ。

俺たちは会計を済ませて店を出た。

 

 

「ホントに大丈夫か?屯所まで送ってやろうか?その代わり今度パフェ…お、おいっ!」

「…パフェでも何でも奢ってやるから付いて来い」

「な、何だよ急に」

 

俺は万事屋の手首を掴むとある場所まで引っ張ってきた。そこは…

 

 

「おいおいおい…マジですかーコノヤロー」

 

 

所謂連れ込み宿だ。万事屋以上に驚いているのは俺自身だ。マジで自分が分からねェ!えっこれ現実?

こないだの夢の続きじゃねェよな?というか、むしろ夢であってほしい!

そして現実だったとしたら万事屋頼むからさっさと帰ってくれェ!!

 

 

「あ?嫌なのか?」

「嫌っつーかね…えっ、なんでそうなる?ナニ、本当に欲求不満なワケ?」

「…分からねェ。だからそれを今から確かめる」

「確かめるってなんだよ!えっ…ちょっ、マジで入んの?」

 

 

マジで入んの…じゃねェよ!いや、連れてきたのは俺だけど…何やってんだよテメー。さっさと帰れよ!

なんなんだよコイツぅぅぅ!!なんで逃げねーんだ!!男同士で、しかも会えばいがみ合ってたような仲でおかしいだろうが!

…いや、連れてきたのは俺だけど。……え、オイ…ウソだろ。マ、マジで、マジでいくの?

つーか、俺もナニ淡々と手続きして部屋の鍵とか受け取ってんの!?バカなの?俺はバカなの?

 

 

 

 

オイぃぃぃぃぃ!!誰かァァァァァァ!誰か俺達を止めてくれェェェェェ!

 

(09.09.21)


 土方さん、鈍いというかアホっぽくなってますね; 続きはR18になります。大丈夫な方だけどうぞ。注意書きに飛びます