土方さんに隠し子疑惑!?
「しばらくの間、コイツを預かってくれ」
依頼だ、と言って土方が万事屋に連れてきたのは、三歳児くらいだろうか―小さな男の子だった。
新八と神楽は出かけていたため、銀時が一人で対応することになった。
「はっ?何、急に?」
「ああ、急に出張が決まってな…」
「いや、そうじゃなくてさ…」
「今までは俺が屯所で見ていたんだが…」
「へっ?おめーが見てたワケ?」
「ああ。コイツの母親が入院することになってよ…俺ァ、こんな小さいガキ世話したこたァねーんだが
だからといってガキ一人で放り出すわけにゃいかねェだろ?」
「…で、おめーが預かってた、と」
「そうだ。まあ、実際世話してみると…こっちの言ったことはちゃんと守るし身の回りのことも大概できるし…きちんと躾けられてんだな」
「ふーん」
「つーわけで、頼むな」
土方が子どもを置いて万事屋から出ようとするのを、銀時が慌てて止める。
「ちょっ、待てよ!」
「あ?大丈夫だって!コイツは大人しくしてろっつったら、ちゃんと一人で静かに遊べるし…」
「そういうことじゃねーだろ!」
「んだよ…まだ何か……ああ、悪ィ!依頼料か!」
「いや、まあ、それも必要だけど…」
「とりあえずコレで必要なモン買ってくれ。残りは、帰ってきてから払うからよ」
土方は自身の財布から札を数枚抜き取って銀時に手渡した。
「あ、いや…だから、そういうことじゃなくって!」
「ちょっとくれーなら、オメーらの食費もそこから出していいぞ」
「サンキュ…じゃなくてェ!」
「さっきから何だってんだ?」
「何だって子どもだぞ?いきなり来て『預かれ』『分かりました』ってなるかフツー?」
「…預かれねーのか?参ったな…じゃあ、出張に連れてくしかねェか?いや、でもな…」
「いや…預かれないとかじゃなくてだな…もうちょっと、詳しい事情を、な?」
「詳しい?」
「そ。とりあえず、しばらくってどのくらい?」
「二、三日か…長くても一週間だな」
「それってオメーが出張から戻るまでってこと?」
「あー、出張は四日間なんだが…その後も業務が立て込んでてな。できれば母親が退院するまで…」
「それが一週間?」
「ああ。…無理か?」
「いんや。一週間くれェ預かんのは構わねーよ?…で、コイツとおめーの関係は?」
「……親戚、だな」
「その間はなんだよ」
「いや、別に…とにかく、よろしく頼む!」
「ああ」
釈然としないながらも、銀時は一応依頼を受けることにした。
* * * * *
「ただいまヨー」
「ただいま帰りました…って、えっ?」
「うわー、可愛いアル!銀ちゃん、この子どうしたネ?銀ちゃんが産んだアルか?」
「あのね…俺が産めるわけないでしょーが。依頼だよ依頼。コイツをしばらく預かることになった」
「預かるって…大丈夫なんですか?」
「大丈夫だろ?今だって大人しくしてんじゃねーか」
「それはそうですけど…一体、誰からの依頼なんですか?」
「…土方」
「土方さん!?土方さんってあの土方さんですか!?」
「マヨアルか?この子、マヨの子アルか?」
「違ェよ!アイツの親戚…っつってた」
「本当に親戚アルか?隠し子じゃないアルか?」
「ちょ、ちょっと神楽ちゃん!」
「アイツが親戚っつーんだから、親戚なんだろ」
「親戚って具体的にどーゆー親戚ネ。銀ちゃんはそれで信用したアルか?
もし、この子がマヨの子だったらどうするネ!」
「どーするって…一度受けた依頼を断るわけにはいかねーだろ。前金ももらってるしよー」
「そーゆーことじゃないネ!自分のオトコがよそで子ども作ってるかもしれないアル!
それでも黙ってていいアルか?」
「……」
銀時は言葉に詰まった。自分も同じことを考えていただけに反論出来なかったのだ。
「ワタシ、マヨに確認してくるヨ」神楽が出て行きそうになるのを新八が止めた。
「神楽ちゃん待ちなよ!銀さんが依頼を受けるって決めたんだからいいじゃないか!
…今日からよろしくね…えーっと、銀さん、この子、名前なんていうんですか?」
「…そういや、聞いてなかったな。…ボウズ、名前は?」
「とし」
「ほら、やっぱりマヨの子アル!」
「いや、トシなんてよくある名前だろ…。だいたい、アイツは十四郎だからね?」
「ふん。オトコは信用ならないネ」
「まあまあ…トシくん、よろしくね」
「よろしくおねがいします」
「へー、礼儀正しいんだね。僕は新八だよ」
「しんぱち」
「そう。こっちは神楽ちゃん」
「かぐらちゃ」
「で、こっちが銀さん」
「ぎんさ」
こうして、万事屋とトシの暮らしが始まった。
最初のうちは土方の隠し子疑惑でブツブツ言っていた神楽も、トシの愛らしさに段々と夢中になっていった。
* * * * *
三日後
「トシ、一緒に酢こんぶ食べるアル!」
「トシ、定春に乗ってみるネ!」
「…結局、神楽ちゃんが一番懐いてますね」
「ガキはガキ同士がいいんだろ?」
「そういえば…この子の親ってどうしたんですか?」
「かあちゃんは入院中らしい」
「そうなんですか…それは大変ですね。お父さんは?」
「……」
「えっ…銀さん?何で黙ってるんですか?」
「…聞いてねーんだよ。コイツ預かる時に、母親が入院中だからっつって預けていったんだ」
「まさか、本当にこの子の父親って…」
「んなワケねーだろ。…おーいトシ、お前のとーちゃんはどこにいんだ?」
「とーちゃんは、しゅっちょーっていってた」
「出張ね。ほら、ちゃんと親父がいんじゃねーか」
「あの…土方さん、出張だから預けていったんですよね?」
「出張なんて誰にでもあんだろーが」
「それはそうですけど…」
「トシのパピーは何の仕事してるアルか?」
「ぱぴー?」
「とーちゃんのことだよ」
神楽の言葉が分からない様子のトシに銀時が助け舟を出す。
「とーちゃん?」
「そう。とーちゃんは何の仕事してるアルか?」
「とーちゃんはふくちょーだよ」
「「「…えっ?」」」
「とーちゃんはほんとうは、とーちゃんなんだけど、おしごとのときはふくちょーなんだよ」
「「「……」」」
トシの言葉に三人は言葉を失う。
最初に口を開いたのは神楽だった。
「やっぱりマヨの子だったネ!」
「か、神楽ちゃん!まだ決まったわけじゃ…」
「副長なんてアイツしかいないアル!」
「いや、もしかしたら別の所の副長さんかもしれないでしょ!」
「そんなわけないアル!」
「いーじゃねーか別に…」
「よくないネ!銀ちゃんはそれでいいアルか?」
「俺はコイツの母親が退院するまで預かるって依頼を受けたんだ。
コイツのとーちゃんが土方でも、どっか別の所の副長でも、依頼は依頼でこなさなきゃなんねーんだよ。
それとも何か?コイツが土方の子どもだったら、ここから追い出すのか?」
「そんなことはしないネ」
「だろ?だったら別にどーだっていいだろ?」
「…分かったアル」
「トシ、また定春に乗っけてあげるヨ」神楽が言うとトシは嬉しそうに「うん!」と返事をして、定春の元に走って行った。
定春は足元にトシが来ると、身を低くしてトシが乗りやすいようにする。
その背中にトシを抱いた神楽が乗ると、トシはきゃっきゃと楽しそうに笑った。
子どもに罪はねェよな…銀時の独り言はトシの笑い声にかき消された。
* * * * *
翌日。万事屋三人とトシは遅めの朝食と後片付けを済ませ、
銀時は洗濯、新八と神楽は部屋の掃除をしながらトシの面倒を見ていた。
銀時はいつも通りに振舞っているように見えるが、昨日の「ふくちょー発言」から明かにトシと距離を置いていた。
普段なら新八に任せる洗濯を自分でやると言い、洗濯機や物干し台は危険だからトシを近付けないようにと念を押した。
確かに幼い子にとって危険があることは事実だが…それだけではないことを、付き合いの長い新八も神楽も気付いていた。
そして付き合いは短くとも、幼い子どもは周りの空気を敏感に察知できるようで…
「しんぱち」
「ん?なんだい、トシくん」
「ぎんさ、おびょーきなの?」
「ううん。銀さんは元気だよ」
「ぎんさ、げんきないよ」
「えーっと…」
「銀ちゃんは今ちょっと元気がないケド、すぐに元気になるネ」
「ほんと?」
「そうネ。だから心配しなくていいヨ」
「よかった」
そんな会話をしているところで、玄関の呼び鈴が鳴った。「はーい。どちら様ですかー」いつものように新八が応対する。
そこにいたのは三十歳前後の男女二人。女性の方は産まれたばかりと思われる赤ん坊を抱えていた。
「えーと、どちら様でしょうか?」
依頼人だろうか?それだったら今は受けられないな。そんなことを考えながら新八が尋ねると、女性の方が答えた。
「あの…こちらで息子を預かっていただいていると聞いたのですが…」
「えっ、もしかしてトシくんの…」
「はい。母親です」
「そうですか…どうぞ」
「まま!!」
トシは事務所に入った女性に飛びついた。
「トシ、いい子にしてたか?」
「ぱぱ!お仕事終わったの?」
「ああ。ママが大変だったのに、帰ってこれなくてゴメンな」
「あ、あのー」
新八が恐る恐る尋ねる。
「何でしょう?」
「あなたがトシくんのお父さん?」
「…そうですが?」
「じゃあお前、どっかの副長アルか?」
「えっ?私はただの主任ですが…」
「主任?」
「はい。急な仕事が入って地球を離れていたのですが、その間に妻が産気付くとは…本当にご迷惑をお掛けしました」
「じゃあ入院っていうのは、お産のための…」
「はい。産まれたのがこの子です」
そう言って女性は抱いている子の顔を万事屋の三人に向けた。
「どういうことだ、こりゃ」
「僕にもさっぱり…」
「トシが嘘吐いてたアルか?」
「あんな小さい子が嘘なんて…何か、勘違いしてたんじゃないのかな?」
万事屋の三人は顔を見合わせる。そこへガラっと扉を開けて玄関を入る足音がした。
「邪魔するぜ…」
「とーちゃんだ!」
入ってきたのは土方だった。
そして土方の顔を見るなり、トシは先ほど母親にしたように飛びついていった。
「おお!元気だったか?」
「しゅっちょーおしまい?」
「ああ。今、帰ってきたところだ。…退院したのか」
「ええ。おかげさまで、無事出産できました」
「そうか。良かったな」
「とーちゃん、だっこ!」
「ああ、分かった分かった…ほらよ」
「まあまあ、すっかり十四郎さんに懐いちゃって…」
「最初の頃は、まま、ままってベソベソしてたんだけどな…」
「そうだったの。本当にお世話になりました」
「構わねーよ。…そっちは旦那さんか?」
「はい。本当に妻と息子がお世話になりまして…」
「仕事なんだからしょーがねェよ。もう一人家族が増えたんだ。また頑張って働かねーとな」
「そうですね」
土方が夫婦と話している間にもトシは土方に纏わりつく。土方に抱えられると嬉しそうに笑っている。
和やかムードの四人に、神楽が割って入った。
「おい、マヨラ!お前、トシとはどーゆー関係ネ!」
「どういうって…だから親戚だよ」
「親戚と言っても…十四郎さんのお姉さんの結婚相手が私の従兄で…だから、親戚と呼べるのかどうか」
「だからって友達じゃねーし、知り合いっつーのもな…やっぱ、親戚だろ?」
「まあ、そうなんですけれどね。でも、本当に十四郎さんがいてくれて良かったわ。トシと二人で江戸に来た時に
陣痛が来るんですもの。知らない土地でどうしようかと思っていた時に十四郎さんのことを思い出して…」
「病院から屯所に電話があった時は驚いたけどな」
土方と女性の会話を再び神楽が遮る。
「本当に親戚カ?」
「そうだ…ったく、なんだってんだよ」
「パピーの仕事は副長だってトシが言ってたアル。だから本当はマヨラがトシのパピーじゃないアルか?」
「はぁ!?何言ってやがる!だいたい、トシの父親はここにいんじゃねーか!」
「でも、お前のコトとーちゃんって呼んでるネ!」
「あー、それはトシが屯所にいた時に、他のヤツらの真似して俺のことを『ふくちょー』って呼ぶもんだから
名前で呼ばせようとしたんだが…総悟が、俺の名は子どもにゃ難しいっつーから仕方なく…」
「仕方なくで父親のふりをしたアルか?」
「父親じゃねーって!十四郎だからとーちゃんだ!」
「へっ?」
「もしかして…その呼び方考えたのも沖田さんですか?」
新八は漸くことの真相が見えてきた。
「ああ、そうだ。トシだと、コイツと同じになっちまうからってな」
「やられた…」
全てを聞いていた銀時は頭を抱えて蹲る。
「おい、本当にトシが父親は副長だっつったのか?」
「いいえ。確かトシくんは『とーちゃんはふくちょーだ』って言ってました。
とーちゃんって父親って意味じゃなくて、土方さんのことだったんですね」
「そういうことか。…で、そこの銀髪は勝手に勘違いしてグルグル余計なこと考えてたってワケか…」
「ははは…」
「何だか、色々とご迷惑をお掛けしたようで…」
トシの本当の父親が深々と頭を下げる。
「あっ、いいえ、そんな…」
「これ、出張先の星で買ってきたものなんですが、皆さんでどうぞ」
「お気遣いありがとうございます」
「それでは、私たちはこれで…」
「ばいばーい」
笑顔で手を振って、トシは家族と帰っていった。
「えーっと、じゃあ…神楽ちゃん、買い物に行こうか?」
「そうするネ!じゃあ、銀ちゃん行ってくるヨ」
「お、おい…」
万事屋には銀時と土方だけが残された。
「…とりあえず座れば」
「ここ…俺の家なんだけど…」
「…何か言うことは?」
「…疑ってごめんなさい」
「…他には?」
「他に?」
「今日、出張から戻ったんだが…」
「…おかえりなさい」
「ただいま」
二人は抱き合いながら、深く深く唇を重ねた。
(09.08.31)
無駄に長い上に全く内容がないという…いつにも増して駄文ですみません。小さい子から好かれる土方さんが書きたかっただけです。
ここまでお読みいだたき、ありがとうございました。
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