銀さんが失くした大切なもの

 

ある日の夕刻。普段より仕事が早く終わった土方は、万事屋の玄関へと続く階段を上がっていた。

すると前から新八と神楽が揃って下りてきた。

 

「あっ、土方さんいらっしゃい」

「おう。…オメーら出かけんのか?」

「ちょうど良かった…。今日、僕の家に姉上の友だちが遊びに来てて、神楽ちゃんも夕飯に招待されたんですが…」

「銀ちゃん一人にするの心配だったアル」

 

表情の暗い子どもたちを見て土方も心配になる。

 

「えっ…アイツ、どうかしたのか?」

「僕らからはちょっと…。あの…土方さん、こんなこと僕が言うのは変かもしれませんが…銀さんのこと、

よろしくお願いします」

「銀ちゃんに優しくしてあげてほしいアル」

「…事情はよく分からねェが、オメーらは何も心配すんな。アイツのことは俺に任せて姉貴と楽しんでこい」

「ありがとうございます!」

「ありがとうアル!」

 

「良かったね、神楽ちゃん」「トッシーが来ればもう大丈夫アルな」―二人とも先程とは打って変わって

晴れやかな表情で階段を下りていった。

そんな二人を見送った後、土方はよしっと自分に気合を入れて万事屋の扉を開けた。

 

 

「邪魔するぜ…」

 

土方が玄関に入っても、いつも出迎えてくれる銀時は出てこなかった。

かなり大変なことが起こったのかもしれない―土方はゴクリと唾を飲み込むと草履を脱いで廊下を進んだ。

 

 

「銀時…いるんだろっ…」

 

事務所兼居間のソファに銀時は座っていた。だが、部屋の明かりはついておらず薄暗い。

そして土方が来たというのに、銀時は俯いたまま膝の上で軽く組んだ両手を見つめていた。

 

「ぎ、銀時!どうした?何があったんだ?」

 

土方は居間の明かりをつけて銀時に駆け寄った。

ソファの下にしゃがみ、組んでいる銀時の手を自身の両手で包み、顔を覗き込む。

すると銀時は初めて土方の存在に気付いたような、少し驚いたような顔をした。

 

「ひじ…かた?」

「…銀時」

 

漸く言葉を発したことで土方は僅かながら安堵した。

 

「土方…何で?…仕事は?」

「もう終わった」

「そうか…もう、そんな時間か…」

「…こんなに暗くなってるのに気付かなかったのか?」

「悪ィ。ちょっと、考えごとしてて…」

「何か…あったのか?」

「くっ……」

 

銀時は辛そうに顔を歪めた。全身が小刻みに震えており、土方には涙を堪えているように見えた。

 

「銀時…よかったら話してくれねェか。俺、お前の力になりてェんだ…」

「ひじかたっ…あり、がと。実は…実は…」

 

鼻をすすり、今にも泣き出しそうな震えた声で銀時は言葉を紡いでいく。

土方は銀時の手を包んでいる己の手に力を込め、一言も聞き逃すまいと顔を近付けた。

 

「じっ実はな…俺の…俺のっ…」

「…お前の?」

「……マが、とれたっ」

「えっ?…今、何て?」

「だからっ…キン○マが取れちまったんだよー!」

 

わっと泣き出した銀時はソファを下りて、しゃがんでいた土方に抱きついた。

だが土方は銀時の口から飛び出した言葉の衝撃からフリーズしていた。

 

「はっ?きん…えっ、はぁ?」

「どうしよう土方…俺、俺っ…」

 

自分に抱きついてグスグス泣いている銀時の背中をさすっているうちに、土方は銀時の言葉の意味が理解できた。

と同時に銀時を引き剥がし、未だ涙を流している銀時に立ち上がって蹴りを入れた。

 

「っざけんなァァァ!!」

「いだだだだ…ちょっ、今蹴ったァァ!?傷心の銀さんに向かって何すんのさ!?」

「何すんのはこっちのセリフだボケェェェ!!人がせっかく真面目に話を聞いてやろうとしたのに…テメーは本当に

シリアスパートを瞬く間に台無しにする男、略してマダオだな!」

「ちょっ…マダオって酷くない!?全然台無しにしてないだろ?銀さん真剣だよ?まだまだシリアスパートは続くよ!」

「これのどこがシリアスパートだ!テメーのキン○マなんざ、取れようが潰れようが興味ねェんだよっ!」

「酷っ!それが彼氏に向かっていう言葉かァ!?」

「キン○マの心配しかしてねェような輩を彼氏に持った覚えはねェ!」

「お前…キン○マがないってことはアレだよ?お前がいつも美味しい美味しいって飲んでる精子が作られなくなるんだぞ!

それどころか、一応竿は残ってるものの、玉無しじゃ勃つかどうかも怪しいぞ?

どーすんだ土方!もうお前の大好きな銀さんの銀さんでズコズコアンアンできなく…」

「いい加減、黙れやァァァァ!!」

「ぎゃあああ!!」

 

土方の脚にすがりつきながらとんでもないことを話し出す銀時に、土方はもう一発蹴りを入れた。

まともに蹴りを食らった銀時は吹っ飛んで事務机に頭をぶつけた。

 

「いってェェェ!!ちょっ、おまっ…マジで全力でいっただろ?打ち所悪かったら死んでたよ、これェェ!」

「っるせェェェ!!テメーはマジで一遍死ねやァァァ!!」

「何ィ!?キン○マなくなってエッチできなくなった俺は用無しってか?そりゃないだろ!

キン○マがなくたって、指と舌で絶対にお前を満足させ…」

「だから黙れっつってんだろーがァァァ!!そういうこと言ってんじゃねェよ!

だいたい、俺がいつあんなモンを美味いっつって飲んだ!?テメーが無理矢理飲ませてんだろーがっ!!」

「えー、そんなことねェよ。喜んで飲んでるじゃねーか…。

ゴメンよ、土方…これからはお前の出したのを俺が口移しで飲ませてやr…」

「んなモン飲むかァァァ!!…もう、いい。帰るっ!」

 

くるりと踵を返し、土方は居間を出ようとした。すると、すかさず銀時が脚にしがみついて帰すまいとする。

 

「離せ!俺ァ、帰る!」

「待って!俺を一人にしないでくれ!今一人になったら寂しくて死んじまう!」

「よしっ、俺は帰るから…一人で死んでくれ!」

「頼むから待ってってば!」

「はーなーせー!」

「いーやーだー!」

 

 

 

「離せ」「嫌だ」―このやりとりは、諦めた土方が万事屋に一泊すると言うまで続けられた。

 

(09.11.24)


す、すみません。本誌の銀さんの股間の受難に萌えた話第二弾です(第一弾は土銀)。銀さんの佑助と佐介は元に戻るのでしょうが、ここでは戻らなかった設定になってます。

アンケートでシリアス好きな方がいらっしゃると知り、シリアス目指して大失敗です。てか、ネタ選びからして間違ってますね。本誌ネタなら、土方さんが結野アナに嫉妬するとかそんな感じにすれば良かった…。

そのうちリベンジするかもです。 ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

 

ブラウザを閉じてお戻りください