<おまけ>
深夜の屯所内共同浴室脱衣所。
「副長、お疲れ様です」
「ややや山崎!?おおおお前どうしたんだ」
「どうしたって…これから風呂入ろうかと。副長もですか?こんな遅くまで書類仕事だったんですか?」
「お、おう…」
「大変ですね。お疲れ様です」
「おおおお前もな…」
(何でコイツこんな時間に風呂入ってんだよ!誰にも会わねェようにこんな時間まで仕事してたっつーのに…
まあ、いい。風呂場は広いんだ。離れて体洗ってさっさと出れば気付かれねェよな…)
土方は腰にタオルを巻くと、右手を山崎から隠すようにしてそそくさと浴室へ入っていった。
(って、何でわざわざ隣に座るんだァァァ!洗い場なんていっぱいあんだろーが!
広い風呂場に二人しかいねェんだから、もっとゆったり使えよ!)
土方の後を追うように浴室へ入った山崎は、土方のすぐ隣に自身の洗面道具を置いて体を洗い始めた。
左隣に座ったのがせめてもの救いだと土方は思っていた。
だが、日頃から他人の動向を探ることを生業としている山崎にとって、
そして無茶しがちな土方を密かに見守っている山崎にとって、彼の様子がおかしいことに気付くのは容易いことであった。
だからこそ敢えて隣に座ったのだ。そして山崎はすぐに右手の異常に気付いた。
「ふ、副長、その右手どうしたんですか!?」
「…っ!!い、いや…何でもない」
「何でもないって傷じゃないじゃないですか!ちょっと見せて下さい!」
「ちょ、ちょっと転んだだけだ!気にすんな!」
山崎が右手を取ろうとするので、土方は慌てて左手で右手首を押さえ、傷痕を隠す。
「転んだって傷じゃないですよね?ああっ!足にも傷があるじゃないですか!」
「いいいや、本当に何でもねェ!痛くも痒くもねーし、気にすんな!」
座ったままじりじりと山崎から離れ、何とか足首の傷痕も隠そうとするが、山崎の視線は土方の右足首に注がれている。
「まさか…今日、外回りしなかったのってその傷が原因ですか?」
「ち、違うっ!今日は、片付けなきゃならねェ書類がいっぱいあって…」
「そういえば局長がやたら張り切ってたし…副長の分も頑張らなきゃって思ってたんじゃ…」
「ち、違うぞ!近藤さんはいつも一所懸命なだけだっ!」
「局長、今日はお妙さんのところにも行ってないんですよ?やっぱり副長が一大事だから…」
「こっ近藤さんだって真面目に仕事をする日もあんだろ?いいことじゃねェか…」
「…分かりました。副長のケガと今日の局長は関係ないことにしますから…とにかく、手と足見せて下さい」
「だからコレは何でもねェって…」
「何でもなくないでしょう?…誰にも言いませんから、見せて下さい」
「………」
逃れられないと悟った土方は、渋々右手を山崎の前に差し出した。
手首をぐるっと一周するような傷痕に山崎は目を見開く。
改めて右足首を見ると、そこも同じような痕になっていた。
「これって…拘束の痕、ですよね?」
「ちちち違うっ!」
「ごまかしても無駄ですよ?こんな風に…手首と足首を一周するような痕なんて
拘束でもされなきゃつかないはずです」
「そっそれは…」
「昨日は何ともなかったですよね?いつの間に捕まってたんですか?相手は攘夷浪士ですか?」
「べ、別に、捕まってたわけじゃ…」
「捕まったんじゃないならどうして…。まさか相手は権力者ですか?
それで局長と副長だけで秘密裏に解決したんですか?」
「だ、だから近藤さんは関係ないって…」
「じゃあどうして…水臭いじゃないですか!俺はずっと副長の下で働いてきたのに
副長のピンチに何も知らせてくれないなんて…」
「だから俺の不注意でこうなっただけで、ピンチとかそんなんじゃ全く…」
「不注意ってなんですか!?」
「い、いや、それは…」
「…俺には言えないんですか?そんなに信用できませんか?」
「そういうわけじゃ、ないんだが…」
これ以上聞いても堂々巡りなだけだ。そう結論付けた山崎は自力で原因を探ることにした。
「昨日の副長は確か…いつも通りに仕事を終えてましたよね?その時はケガなんかしてませんでした。
…そういえば、夕飯の時間には屯所にいませんでしたね。えーっと何処に行くって言ってたんだっけな…えーっと、
えーっと…そうだ!旦那だ!昨日の晩は万事屋の旦那と会うって言って…そのまま泊まりだったんですよね?
………あ、あれっ?それじゃあ、もしかしてそれ…旦那が?」
「……」
真っ赤になり俯いてしまった土方に、山崎は全てを悟った。
「ああああの俺…何も見てませんし、聞いてませんからっ!副長の傷痕なんて知りませんし
そもそも今夜は風呂場で誰にも会ってません!そういうことにしますんで…失礼しますっ!!」
バッと頭を下げて、山崎は逃げるように浴室から去っていった。
(09.11.16)
山崎には気付かれちゃいました(笑)。土方さんと山崎の間には、近藤さんや沖田とはまた違う絆があるような気がします。色々隠しているつもりでも結局は全て知られていて、
それを沖田のように嫌がらせに使わないから、土方さんにとっては余計に恥ずかしいんだけど、どこかで知っていてくれることに安心してると思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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