万事屋メンバーに嫉妬する銀さん

 

 

銀時、新八、神楽、定春――万事屋一行は依頼からの帰りであった。

今回の依頼は、とある企業の重役の身辺警護。会社自体は何一つ後ろ暗いことをしていないのだが

この重役は多くの女性社員と関係を持ち、そのことが先日全員にバレてしまったため命の危険を感じているとのことだった。

これがキッカケとなって彼は地方へ飛ばされることが決まったが、それまでの間

無事に自宅と会社を往復させることが依頼された内容だった。

 

ろくでなしの警護などしたくはなかったが、三日間だけということだし、報酬がよかったので引き受けた。

今日はその最終日だ。依頼人と神楽が定春に乗り、その横を銀時と新八が原付きで走る。

何事もなく依頼人を自宅へ送り届けた三人と一匹は、三日分の報酬をもらい、その足でスーパーへ買い物にいくところだった。

 

 

「おっ、土方くん発見!」

 

ゴーグル越しでも目敏く見付けた愛しい人――土方十四郎の前で、銀時は原付きを下りた。

土方は部下の山崎と巡回中なのだが、存在を無視された山崎は「いつものこと」と黙って成り行きを見守ることにした。

 

 

「オメーら全員そろって…依頼か?」

「いやー、実は俺たちすっげー大変な依頼を…」

「ろくでなしのオッサンを家まで送っただけアル」

 

定春から下りた神楽が、銀時の言葉を遮って土方に依頼内容を説明する。

 

「ろくでなしって…まあ、生活のためにはやりたくねェ仕事もしなきゃなんねーよな。よく頑張ったな」

「まあネ」

 

土方は労いの言葉をかけて神楽の頭を撫でる。すると神楽は嬉しそうに、だが少し恥ずかしそうにはにかんだ笑みを見せた。

自分に暴行を加えてばかりの上司が見せる穏やかな態度に、山崎はいけないものを見ているような気がした。

 

「依頼はもう終わったのか?だったら今夜はマシなメシが食えるんじゃねーか?」

「いつも豪勢な食事だよ、ウチは。ガキに我慢させるようなことは…」

「久しぶりにお肉を食べようと思って、今からスーパーに行くところなんです」

 

今度は新八が銀時の言葉を遮る。

 

「スーパーって…今日くらい外食しねェのか?」

「今回は定春も一緒なんで…」

「そうか…ちゃんと全員のことを考えてて偉いな」

「いや、それほどでも…」

 

神楽の時と同じように新八も頭をなでられると、やはり恥ずかしそうでいて嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「定春…オメーも元気そうだな」

「アン!」

 

土方が顔を撫でると、定春は土方の手をペロペロと舐めて応える。

 

「よしよし…メガネがうまいメシ作ってくれるってよ。良かったな」

「アン!」

 

完全に蚊帳の外に放り出されている山崎だったが、自分以外にもう一人、同じ状況に陥っている人物に気付いた。

その人物は自分のように地味ではなく、むしろ目立つタイプに思われた。しかも、土方とその人は恋人同士のはずだ。

それなのに、その人抜きでどんどん会話が弾んでいく。

 

「定春の背中にオッサンを乗せて送ったアル」

「そうか…よくやったな」

「アンッ!」

「私もオッサンが定春から落ちないように支えてたネ」

「そうか…チャイナも偉かったな」

「へへへ…」

「僕だって危険がないかちゃんと見てたんですよ」

「メガネも頑張ったんだな」

「はい」

 

子ども達が次々に仕事の成果を報告し、土方は一人一人順番に褒める。

これは一体なんだろう――鬼の副長が子ども達(+超大型犬)と談笑している――山崎は目の前の光景がまるで

夢の中の出来事のような、フワフワした空気に包まれているように感じていた。

だがここに一人、夢などでは済ませられない男がいた。銀時は子ども達と土方の間に割って入る。

 

「テメーら、ナニ勝手に俺の土方くんと楽しくおしゃべりしてんだ…」

「おい…」

 

子ども達に凄む銀時の背後から、土方は声をかけた。その様子を見て山崎は「いつもの副長だ」と思った。

そのことにまだ気付いていない銀時は、満面の笑みで土方に向き直る。

 

「えっ、なになに?愛しの銀さんに御用ですか?」

「俺ァいつからテメーの所有物になったんだ?あぁ!?」

「へっ?…い、いや、俺の土方ってのはそういう意味じゃなくて…」

「だったら俺が誰と話そうが構わねェよな?」

「そ、それはそうだけど…」

「じゃあ、下らねェこと言ってんじゃねーよ」

「す、すみません」

 

打って変わって剣呑になった空気に山崎はなぜか安心していた。これでこそ副長だ…自分でも良く分からないが、とにかく安心していた。

だが、今度は子ども達と銀時が言い争いを始めた。

 

「銀ちゃんばっかズルいアル。まだ話の途中だったネ!」

「何だよー。俺だって土方くんに『頑張ったな』って褒められたい!」

「銀さんはいつも土方さんと一緒にいるじゃないですか」

「そうネ!たまには私たちに譲るヨロシ!」

「ガルルル…」

 

一人対二人+一匹では銀時に勝ち目はなく、不本意ながら「土方とお話できる権利」を譲ることとなる。

 

 

「土方さん、よかったら夕飯一緒にどうですか?」

「いや、まだ見回りが残って…」

「じゃあ終わったらウチに来ればいいアル!」

「だが…」

「いいじゃないですか副長。どうせ見回りの後、外で食べるつもりだったんでしょ?」

「それはそうだが…」

「俺は先に帰ってますから、どうぞゆっくりしていって下さい」

「山崎さんもああ言ってくれたことですし…」

「分かった。見回りが終わったらそっちに行くから…」

「やったアル!」

 

さっきまで不貞腐れていた銀時の目が途端に輝き出した。

 

「お前らよくやった!夕メシ食ったら全員で新八の家に行っていいぞ。後片付けもしなくていいからな!」

「そうはいかないネ、銀ちゃん!食べ終わったら皆でトランプするアル」

「はぁ!?夕メシ終わったら大人の時間だから!土方くんは俺とセッ…ぐはっ!」

 

銀時は土方の鉄拳によって沈められた。

 

「ガキの前で何てこと言いやがる!…つーか、まだ仕事が残ってっからメシ食ったら帰るぞ?」

「えー、トランプしたいアル!」

「神楽ちゃん、仕事じゃ仕方ないよ」

「悪ィ…トランプはまた今度な」

「…大人の時間は?」

「んなもん最初からねェよ!」

「酷いィィ〜」

「じゃあ土方さん、見回り終わったら来て下さいね」

「ああ」

「ちゃんとマヨネーズも買っておくネ」

「ありがとな」

「アンアン!」

「じゃあ、またな」

 

 

 

万事屋一行(主に銀時以外)に手を振って、土方は山崎と共に巡回へと戻っていった。

 

 

(09.11.05)

 

 

photo by Battle Fever


以前、「万事屋メンバーの中だと扱いが下になる銀さんが好きです」というコメントをいただき、じゃあ定春よりも下にしてみよう!と思って書きました。大人気ない銀さんはかなり好きです(笑)

素敵なコメントを下さったK様、ありがとうございました。土方さんが銀さんにそっけないのは、半分くらい照れ隠しだと思います。…残りの半分は「素」です、多分。銀さんには基本ケンカ腰、そんな土方さんが好きです。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 

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