二人がホテル生活を終えてから二週間が経過した。

土方は屯所に戻ったその日から通常業務をこなし、書類作成に巡回に城での会議にと忙しく

動き回っていた。完全復活した副長に、どやされる隊士たちも何だか嬉しそうである。

一方、万事屋では…

 

 

あー、やっぱあん時ヤっときゃよかった!いや、でもそれじゃあ…いや、だけど…いやいや、でも… 

 

銀時がグルグル葛藤を繰り返していた。

土方と一緒に過ごせて嬉しそうに帰ってくると思いきや、帰ってからずっと思い悩んでいる様子の銀時を、

新八と神楽は心配そうに見つめている。銀時の悩みが土方との××だと知ったら放っておかれるのだろうが、

そんなことは思いもよらない純粋な子どもたちは、何とか銀時を励まそうと考えていた。

 

「あっ、銀さん!お天気コーナー始まりますよ」

「ほらほら、早くこっちに来てテレビ見るネ」

「あー…」

 

和室に引き籠っている銀時を二人掛かりで居間に連れてくる。

 

「今日の結野アナは一段と美人じゃないですか?」

「あーそうねー」

「そんなことないヨ。ケバいだけね、このオバサン」

「あーそうねー」

「ちょっと銀さん、神楽ちゃんが結野アナのことオバサン呼ばわりしてますよ?」

「あーそうねー」

 

新八と神楽は困ったように顔を見合わせる。その時、急にテレビの画面が切り替わった。

 

「あれっ?臨時ニュースかな?」

 

「お天気コーナーの途中ですがここでニュースをお伝えします。番組内でもお伝えしました過激派攘夷浪士による

寺子屋立て籠もり事件の続報です。駆け付けた真選組により先程人質が全員無事に救出されたという情報が

入ってきました。人質無事救出です!主犯格と見られる男は…」

 

「あれっ?銀さんは?」

 

テレビ画面を見ているうちに銀時が姿を消したため、新八は辺りをキョロキョロと見回す。

 

「…慌ててトイレに行ったヨ」

「やっぱり…土方さんと何かあったのかな?」

「銀ちゃん、フラれちゃったアルか?」

「うーん…どうなんだろ。そうだとしても銀さんがあんなになるような断り方はしないと思うんだけど…」

「でもマヨラー警官が原因なのは確かヨ……私、行ってくるネ」

「行くってどこに?」

「もちろん、マヨラー警官の所アル!」

「えっ!それはマズイよ。…ほら、今事件があったばかりだし、行ってもいないと思うよ」

「じゃあ帰ってくるまで待つアル!」

「…分かった。じゃあ、僕も行くよ」

 

銀さん、ちょっと出かけてきます。トイレに籠る銀時に告げて新八は神楽と万事屋を出た。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「たのもー!」

 

真選組屯所についた途端、神楽は門前で叫んだ。それを慌てて新八が止める。

 

「ちょっと神楽ちゃん!道場破りじゃないんだから!」

「あれっ?万事屋の…」

「あっ、山崎さん…」

「マヨラーを出すネ!隠し立てすればお前の命はないアル!」

「神楽ちゃん!…すみません。僕らちょっと土方さんにお話が…」

「副長に?副長は今ちょっと出てるんだけど…中で待ってる?」

「いいんですか?ありがとうございます!」

「お茶受けは酢こんぶにするヨロシ」

 

二人は応接室に通され、一時間ほどして土方が帰ってきた。ガラッと応接室の襖が開く。

 

「俺に話って…何だ?」

「あの…銀さんのことなんですけど…」

「お前、銀ちゃんに何したネ!病気だったか何だか知らないけど、銀ちゃんに無茶言ったんじゃないだろーな!」

「ちょっと神楽ちゃん、落ち着いて!」

「万事屋に…何かあったのか?」

「実は銀さん、ずっと部屋に引き籠ってて…」

「そうネ!お前を泊まりがけで看病して、漸く帰ってきたと思ったら銀ちゃんおかしくなったヨ!」

 

口調はキツイが神楽の目には涙が溜まっていた。

 

「あれから、ずっとなのか?」

「そうなんです。二週間、一歩も外に出ないで…」

「世話になったから付き合えなんて言わないネ。でもちょっとくらい優しくしても罰は当たらないアル。

フラれてそのままなんて銀ちゃん可哀相ヨ…」

「ちょ、ちょっと待て!フラれたってのはアイツが言ったのか?」

「銀さんは何も…でも、違うんですか?」

「違うも何も…告白すらされてねェぞ」

「「えっ!!」」

 

新八と神楽は目を丸くして驚いた。

 

「子どもだからって誤魔化そうとしても無駄ネ!銀ちゃんがずっとお前を好きだったコト知ってるヨ!

お前の看病終わってから、銀ちゃん部屋に籠って泣いてるネ!」

「な、泣いてんのか?」

「部屋には入れてくれないけど、土方土方言いながらグズグズ聞こえるアル。だからお前が悪いネ!」

「か、神楽ちゃんストップ!」

「新八、お前からも何か言ってやるネ!」

「そうじゃなくて!…土方さん、あの…告白されてないって本当ですか?」

「…ああ」

「神楽ちゃんマズイよ!銀さんまだ言ってなかったんだ…」

「でもコイツが原因なのは確かヨ。さっきだって、テレビで真選組って言った途端トイレに逃げたネ」

「だけどフラれたんじゃなかったんだよ!どーしよう、僕らで勝手に銀さんの気持ち伝えちゃったよ…」

「おい…」

「あ、あの…土方さん。僕らが今日ここに来たことはその…」

「コレやるから…オメーらどっかでメシでも食ってから帰れ」

 

そう言って土方は財布から札を抜き、新八と神楽の前に差し出す。

 

「えっ…あの、どういうことですか?」

「いいから!…なるべくゆっくり帰るんだぞ」

「こんなんで銀ちゃんの傷が癒えると思ったら…」

「アイツを誘うんじゃねェ。オメーら二人でどっか行けって言ってんだ」

 

ポカンとしている二人を置いて土方は部屋を出て行ってしまった。

二人が慌てて土方を追うと、門番の隊士に「かぶき町行ってくる」と言う声が聞こえた。

 

「神楽ちゃん…今日、姉上もいるからウチにおいでよ」

「そうするネ」

「このお金でたくさん食材買って行こう」

「肉がいいヨ」

 

 

*  *  *  *  *

 

 

万事屋和室。銀時が布団をかぶって横になっていると、スパンと襖が開いた。

 

「…んだよ。勝手に入るんじゃねーって、土方ァァ!?」

「ああ?元気そうじゃねェか」

「えっ、ナニ?何でここに…」

「あまりガキに心配かけんじゃねェよ」

「へっ?もしかしてアイツら、お前のトコ行ったの?」

「ああ…二週間外にも出ず引き籠ってるそうじゃねーか」

「あ、いや…それは…その…」

「…とりあえず布団から出ろ!」

「あっ、ちょっと待って今は…」

「ごちゃごちゃ言うんじゃねェ!」

「ぎゃああああ!!」

 

土方が無理矢理掛け布団を剥ぐ。布団の上で銀時は……猛る一物を握りしめていた。

 

「だだだだから待ってって…」

「テメーは…二週間引き籠ってずーっとヤってやがったのかァァァ!!」

「ああああだって、だってしょうがないじゃん!お前のあんな姿見ちまったらァァ!」

「人のせいにしてんじゃねェェェェ!」

「ああそうだよ!俺はお前に惚れてんだよ!帰ってからもお前のあんな姿やこんな姿が頭から

離れねェんだよ!終いにゃテレビとか新聞とかで真選組って見聞きするだけで反応するように

なったんだよ!外に出られるワケねェだろーが!俺だって、俺だって…ニュース番組で抜く日が

来るとは思わなかったよチクショー!!」

 

大声で一気に捲し立てると、銀時は土方から布団を奪い返してまた包まった。

その様子に土方はハァと溜息を吐く。

 

「だから…最後の日、一緒にいてやったじゃねェか」

「……へっ?どゆこと?」

 

布団から顔だけ出して、枕元に座っている土方を見つめる。

 

「オメーの気持ちなんざ、とっくに気付いてんだよ」

「……えっ、うそ」

「嘘じゃねェ。そもそも好きでもなきゃ、何であの状態の俺をホテルに連れ込んだんだよ」

「そ、それは…」

「もし仮にテメーが、困ったヤツを見たらどんなに嫌なことでもやっちまう自己犠牲愛に溢れた

人間だったとしても…」

「あ、いや…」

「真選組に連絡した時点で誰かに引き渡せば済むことだし、その後も付き合うこたァねーだろ」

「それは、まぁ…」

「じゃあ何でテメーはその後もずっと俺といた?何で俺のチ○コ扱きながらテメーもおっ勃ててやがる?

何で最中に名前呼べなんて言った?何で帰っていいっつったのに帰らなかった?何で…」

「あの…もういいです」

「よくねェ!…そんで俺が薬抜けてもいてやったっつーのに、何にも言ってこねーしよ」

「えっ…あの…」

「その後も無理矢理かぶき町巡廻多くしても、仕事終わりに以前会ったことのある居酒屋に行ってもいねーしよ…」

「ひ、ひじか…」

「ここまで来てやったってのにテメーはどさくさ紛れに喚くだけだしよ」

「あの…ゴメ…」

「謝る前に…何か言うことねーのか?」

 

銀時は起き上がって正座すると、土方に向き直る。…場違いな下半身は掛け布団で隠して。

 

「えっと……その…お、俺と、結婚を前提にお付き合いして下さい!」

 

布団の上で土下座しながら銀時は土方に告白した。

 

「…ダメだな」

「えっ…ちょっ!ここまで思わせぶりなこと言っといてそれェ!?」

「仕事もせず、ガキに心配かけるようなマダオと結婚する気はねェよ」

「ししし仕事頑張るから!新八と神楽とも仲良くやるから!」

「…それが出来たら考えてやる」

「じゃあ、じゃあ…結婚を前提にお付き合いすることを前提にお付き合いして下さい!」

「何だそれ?フツーに付き合ってくれって言えねェのかよ…」

「普通のお付き合いなんかで満足できるかァ!もっとこう、ぐっちょりねっとり…ああああああ、

うそうそうそ!帰らないでェェェェ!!」

 

無言で立ち上がって行こうとする土方に銀時が縋りつく。

 

「そういやぁオメー、もう二度としないとか言ってなかったか?」

「あああれは違うからっ!ホテルのあれは、薬のせいで…。そもそも二度としないっつーか、

一度だってしてねーし!」

「…しようとしたくせに」

「そそそそれはそうだけど…で、でも結局しなかったよ?」

「テメーも侍なら一度口にしたことは死んでも守り通せ」

「いやいやいやいやっ…侍っていっても僕まがいもんなんで、サムラーイなんで…」

「なんだよサムラーイって…まあ、とにかく俺は仕事に戻るな」

「ええええ、そんなァァァ!!ここは雪崩れ込むトコだろー?銀さん準備万端よ!」

「まだ仕事が残ってんだよっ!…夜まで我慢しろ」

「ムリムリムリムリ夜までなんて……あれっ?夜まで?」

「…今夜九時にホテルのロビーだ」

「えっ…ホテルってどこの?」

「あのホテルに決まってんだろうが…」 

 

 

そこまで言うと銀時を振り解き、土方は万事屋を後にした。

銀時は明日から頑張って働こうと決意し、そういえば前もそんなこと思わなかったっけ?と考えていた。 

 

(09.09.25)


銀さんが真面目に働くのは土方さんのためだけです(笑) 続きはおまけの初エッチ話です