ホテル生活三日目・夜

 

ぐっすり眠っている土方の寝顔を銀時が眺めていると部屋の扉をコンコンと叩く音がした。

銀時は土方を起こさないようそっとベッドから降り、扉を開けた。

そこにいたのは、荷物を抱えた沖田であった。

 

「…いらっしゃい」

「どうも。あの…土方さんは?」

「寝てるけど…入る?」

「…い、いいんですかィ」

 

沖田は目を丸くしている。こんな表情をすると彼もまだまだ幼く見えるんだなと銀時は思った。

だが、それを顔に出すことなく普段通りやる気のなさそうな表情で答える。

 

「いいよー。土方がいつもの着流しで寝てるだけだし…部屋も片付いてるしな」

「そ、そうですか…じゃあ、お邪魔しやす」

「おう」

 

ソロソロと、殊更慎重に中へ入る沖田にくすりと笑みを零して、銀時はソファの一つに腰掛ける。

沖田も銀時の向いに腰掛けたが、チラチラとベッドに視線を送っており、土方の様子を気にしていることが

手に取るように分かる。ソファセットとベッドは垂直の位置関係にあるので、ソファからは掛け布団の膨らみが

見えるだけで土方の顔までは見えない。

 

「土方のこと、気になるなら近くで見たら?」

「…い、いいんですかィ」

「ナニ?お宅んトコは寝顔見たら切腹とかって決まりでもあんの?」

「そ、そういうわけじゃ…」

 

銀時の揶揄に口を尖らせながら沖田は立ち上がると、部屋に入った時よりも更に音を立てぬよう

気を付けながらベッドへと近付いた。

 

「………」

「…どした?」

 

土方の顔を覗き込んだまま黙っている沖田に銀時が声をかける。 

 

「…普通に、寝てるんですねィ」

「へっ?コイツって不眠症だったとか?」

「あっ、そういう意味じゃなくて…ただ、いつもはもっと…こう、眉間に皺寄せて…」

「ははっそうなんだ。まあ、コイツは真選組命だから寝てる時も難しいこと考えてんじゃねェの?」

「そうなんですかねィ」

「今は…とにかく疲れてるから何も考えてねーんだろ」

「でも、今の方がちゃんと休んでる感じですねィ…顔色もいいし」

「…煙草とマヨが減ったせいじゃね?外に出らんねェからな」

「ははっ、それもそうですねィ」 

 

土方の無事を確認したからか、漸く沖田にいつもの調子が戻ってきた。

あっ、そうだ…と呟いてソファに戻り、持ってきた荷を解く。 

 

「これ…換えのシーツや枕カバーをホテルの受付でもらって来やした。それから着替えと食糧です」

「おー、ありがとね。…ん?着替えって…あれっ、俺の服?」

 

銀時は着替えがないために現在ホテルのバスローブを着ている。土方の着替えは初日に山崎が屯所から

持って来てくれた。そして下着は山崎が触るのを躊躇したのか、未使用の物を幾つか買ってきてくれたので、

銀時も使わせてもらっていたのだ。 

 

「ここに来る前、万事屋に寄って取ってきたんでさァ」

「あー、わざわざありがとね」

「いえ、今回はこっちが迷惑かけてるんで…」

「こっちとしては三食保障されてる上に依頼料も弾んでもらってるし、そんなに迷惑じゃねーけどな」 

 

ホテル生活の間、万事屋の従業員二人の食事も真選組が面倒を見ている。二人には薬を盛られて

具合の悪くなった土方を、銀時が付きっきりで介抱しているとだけ伝えてある。

新八も神楽も銀時の想いを知っているので、この機会に二人が仲良くなればいいなと思い快く「依頼」を引き受けた。

 

「それに旦那としちゃあ、惚れた相手を思う存分抱けるんだ…むしろコッチが感謝される方ですかねィ」

「あのねーいくら俺でも、薬でおかしくなってるヤツをどさくさに紛れて抱くなんてマネはしないからね」

「えっ…ヤってねーんですかィ?」

「ヤってねーよ。つーかお前、俺のこと何だと思ってるワケ?」

「いやー、驚きました。旦那がそこまで殊勝な考えをお持ちとは…」

「お前ね…」

「その判断は正しかったかもしれませんぜ。…これが薬の資料でさァ」

 

そう言うと、沖田は数枚の紙を銀時に見せた。

 

「それによると、薬を抜くには徐々に強い刺激を与える必要があるみたいです…

まあ、今まで一緒にいた旦那には予想がついていたかもしれやせんが」

「ああ、そうなんだ…」

「で、全部吐き出し終わるったらパタリと症状が止むみたいですぜ」

「ふぅん…それまでがだいたい一週間ってワケね」

 

銀時は無関心を装いながら資料に目を通し、沖田の言葉に耳を傾けていた。

確かに、これまでの土方を思い出すと、徐々に新しい刺激を加えないとイケなくなっている。

ということは、これから先も刺激を加え続ける必要があるというワケで…

 

「といわけで旦那、ヤるのは最後までとっといてくだせェ」

「い、いや、ヤらないから!銀さんの手にかかればもうイチコロよ?」

「はいはい…じゃあ、その手で土方さんをメロメロにしてやってくだせェ」

「メロメロってお前ね…」

「じゃっ、俺はこの辺で…」 

 

 

訪ねて来た時の健気な態度はどこへやら、すっかりいつものドS王子に戻った沖田は軽く手を振ってホテルを後にした。

 

 

 (09.09.22)


沖田も心配でしょうがないんです。次こそ18禁です