土方さん、新八のほのぼの日常生活とヤキモチを焼く銀さん

 

 

土方が雨のかぶき町を巡回中、店の軒先で買い物袋を抱えた新八を見つけた。

 

「メガネじゃねェか…雨宿りか?」

「あっ、そうなんです。買い物の途中で急に降ってきたものですから…」

「天気予報で、今日は昼から雨だ、つってただろ?」

「そうなんですか?…ちゃんと見てればよかったな」

「…ちょっと待ってろ」

「はい?」

 

土方は内ポケットから携帯電話を取り出しどこかへかけ始めた。

 

 

「俺だ…土方だ」

『何でィ、土方さんか…出るんじゃなかった』

「…ったく、てめーは…まあ、いい。戻るのが少し遅れるから…」

『遅れる?…確か今はかぶき町巡回中でしたよねィ?』

「ああ」

『これから旦那としっぽりってことですかィ。勤務中にとんでもねーやつだぜ土方コノヤロー』

「んなワケねーだろ!…とにかく、用件はそれだけだ。切るぞ」

『へーい。旦那によろしくでさァ』

「だから違うって!…おい、総悟?総悟!…ちっ、本当に切りやがった」

 

 

「あ、あの…土方さん?」

「おしっ、入れ」

 

新八の方へ傘を差し出す。

 

「えっ…そ、そんなっ!いいですよ!」

「ンなこと言ったって、この雨でその荷物でどうすんだよ」

「それは、そうなんですが…でも、仕事中に悪いですよ」

 

土方は制服姿であり、先程の電話からも仕事中なのは明らかで…

 

「遅れるって電話したから平気だ。ほら、さっさと入れ」

「あっ…でも、まだ買い物が残って…」

「そうなのか?あと、どこに行くんだ?」

「大江戸マートですけど…」

「じゃあ、行くぞ」

「えっ…ちょっと…」

 

土方は新八の二の腕を掴むと自分の方へグイと引き、強引に傘の下へ入らせた。

新八は「すみません」と言って土方の傘に納まった。

二人並んで歩きながら、そういえば土方さんと二人って初めてかもしれないな…と新八は思っていた。

新八の働く万事屋の主―坂田銀時と土方が付き合うようになってだいぶ経つ。

二人の関係を知った時には驚いたが、土方が休みの日に万事屋へ来たり

それから四人で食事に行くようになったりして、だんだんと「本当に恋人同士なんだな」と実感してきていた。 

 

 

*  *  *  *  * 

 

 

「随分買うんだな」

「ええ…ほとんど神楽ちゃんが食べるんですけどね」

 

新八の押すカートの上下には、食料がいっぱいに詰まったカゴが乗せられていた。

ここまでの道のりもそうだったが、スーパーの中を土方と並んで歩くというあり得ない状況に新八は何となく居心地の悪さを感じていた。

そういえば煙草が切れそうだったな…土方はそう思い出して新八と共にレジの列へ並ぶ。

すると、先に並んでいた新八から「あっ!」という声があがった。

 

「…どうした?」

「あ…いや、お金が足りなくて…。じゃあ、コレとコレをなしにして下さい」

「そんくらい買ってやるよ。あと…コレも一緒な」

 

新八が店員に買い物のキャンセルを申し出たところ、土方が口を挟み、煙草1カートンを加えて一緒に会計する。

 

「えっ…そんな…いいですって!」

「次の客が待ってんだろ。さっさと行くぞ」

「は、はい」

 

観念したように、新八は財布の中身を全て出し、足りない分を土方が出した。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

スーパーを出て、再び二人は一つの傘に入って万事屋を目指す。

新八は両手に買い物袋、土方は片手に傘、片手に買い物袋を持っていた。

 

「本当にすいませんでした。…荷物まで持ってもらって」

「いつもこんな量を一人で買ってんのか?」

「いつもってわけじゃ…三人で買いに来ることもありますし、神楽ちゃんと二人のことも…」

「そうか…今日はどうしたんだ?」

「神楽ちゃんは遊びに行ってて…普段から傘持ち歩いてるからまだ遊んでると思います。

銀さんは、僕が出る少し前に出かけました。…多分パチンコじゃないかな」

「ったく、しょーがねェやつだな」

「銀さんも、傘持ってないだろうから、多分どこかで雨宿りしてるんじゃないかな」

「けっ…ガキに買い物行かせて遊んでるやつなんざ、ずぶ濡れで帰ればいいんだ」

「ははは…」

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「じゃあな…」

 

万事屋の玄関まで来ると土方は新八に買い物袋を渡し、そのまま帰ろうとする。

 

「えっ、待ってください。せっかくですから中でお茶でも…」

「いや、いい。仕事中だからな」

「そうでしたね。…今日は本当にありがとうございました」

「ああ」

 

「あっ…土方さん!」

「何だ?」

「あの…次のお休みっていつですか?」

「三日後だが…」

「じゃあ明後日の夜は神楽ちゃん、ウチに連れて帰りますね」

「はっ?」

「それから次の日は昼頃まで出勤しないようにしますから、ゆっくりしていってください」

「お、おい…」

「今日のお礼です」

「…ガキが、余計な気ィ回してんじゃねーよ。…じゃあな!」

 

そう言って少し俯きながら帰っていく土方は耳まで真っ赤になっていた。

そんな土方の後姿を、新八は穏やかな表情で見つめていた。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「ただいま帰りましたー」

「おっ、新八か?雨降られただろ?部屋が濡れっから、乾くまで入ってくんじゃねーぞ」

「もう、そう思うんだったらタオルでも持ってきてくださいよ」

 

新八は構わず靴を脱いで部屋に入っていく。

 

「あっ、入ってくんなっつったじゃねーか…って、あれっ?何で濡れてねーの?」

「土方さんの傘に入れてもらったんです」

「へっ?何でそこで土方くん?つーか、新八、何でオメーはそんなに得意げなんだよ」

「土方さん、仕事中なのにわざわざ入れてくれたんですよー。しかも買い物まで手伝ってくれて…」

「おいおい何だよそりゃ…銀さんはパチンコで有り金全部スっちまって

その上ずぶ濡れになって帰って来たってのに…オメーは土方くんと相合傘でお買い物?ふざけんなよ!」

「たまたま会ったんですよ。でも、本当に土方さんっていい人ですよね。

あっ、そうだ!お金が足りなくて出してもらっちゃったんですよ…」

「ちょっとちょっとー、そういうことすっと銀さんがヒモみたいでしょー」

「…パチンコでお金全部使っちゃうような人には頼れないじゃないですか」

「ちぇー。俺も土方くんと相合傘してーな」

「はいはい。…あっ!」

「んだよ。まだ何かあんの?」

「いや…コレ、忘れてました」

 

台所で買ったものを整理していた新八が取り出したのは煙草1カートン。土方が買ったものだ。 

 

「あーあ、これだからお前は…」

「そんな言い方ないでしょー。…あっ、でも明後日来るから大丈夫かな?」

「えっ、なにそれ?土方くん、来んの?」

「来てくれると思いますよ」

「何でよ?まさかオメー…新八のくせにアイツを誘惑したんじゃねェだろーな」

「してませんよ!だいたい…土方さんが僕なんかの誘いに乗るわけないでしょ」

「それもそうか…じゃあどうして明後日来るなんて分かんだよ」

「今日のお礼に、非番の前夜は神楽ちゃんをウチに連れて行くって約束したんです」

「はっ?非番?アイツがそう言ったのか?」

「はい。聞いたら三日後だって教えてくれました。だから明後日の夜…」

「何だよチクショー!俺が昨日電話で聞いた時は『部外者にシフトは教えられねェ』とか言ってたのによー」

「銀さんに教えると、屯所に押しかけるからじゃないですか?」

「恋人に会いに行って何が悪ィんだよ!」

「会いに行くのはいいですけど…土方さんは忙しいんだから、休みの日でもやることがあるんですよ。

それなのに銀さんは強引に押しかけるから…」

「あ?何?オメー俺が押しかけるトコ見たの?」

「見てませんけど…容易に想像できますよ」

「くそー、何だよ。新八だけいい思いしやがって!」

「偶然会っただけですけどね。…でも、土方さんって結構可愛いトコがあるんですね。

僕が神楽ちゃん連れて行くからって言った時、顔を真っ赤にして俯いちゃって…」

「新八、そこに座れ。銀さんがオメーから土方の記憶を抹消してやっから」

「ちょっと、なに木刀構えてるんですか!やめてくださいよ!」

「うるせー!」

「分かりました!すみません!もう二度と土方さんと二人で会いませんから!!」

「よしっ…それなら許してやる。…じゃあいちご牛乳持ってこい!」

「はいはい」

 

 

 

こんなことなら、明後日来てもらう約束なんてするんじゃなかった。土方のことになると途端に心が狭くなる銀時を見ながら新八はそんなことを考えていた。

 

 (09.08.28) 


土方さんと万事屋の子どもたちの会話って楽しいです。土方さんって年下には優しいんじゃないかと思います。小さい子の扱いなんかは慣れてなさそうだけど。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

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