(1)
二人:拍手ありがとうございまーす!
土:早速ですが、次からホワイトデー記念小説が始まります
銀:前回の拍手お礼文、バレンタインデー記念小説の続きです
土:バレンタイン小説は現在、企画部屋にあります
銀:まだの方は是非、読んでいただけたらと思います
二人:それでは、ホワイトデー記念小説です。どうぞ!
(2)〜(7)
2010年ホワイトデー記念小説:暴かれた愛情
バレンタインデーに土方は、密かに思いを寄せている銀時へチョコレートを贈った。
といっても、自分からだと分からないよう、他のチョコレートに紛れさせて渡しただけである。
それでも銀時の手に渡っただけで土方は充分に満足していたし
渡せた達成感から、暫くの間は仕事の面でも普段以上の力を発揮することができた。
あの日から一ヶ月。
すっかり日常に戻り、屯所で書類仕事をしている土方の元を銀時が訪れた。
「お仕事ご苦労さん」
「…何の用だ?」
訪問者が誰であるか確認するため一瞬顔を上げた土方であったが、銀時だと分かるとすぐに仕事へ戻る。
そんな土方の様子に、銀時はフッと口元を綻ばせて副長室の中に入っていく。
「お客さんが来た時くらい仕事中断しろよなー」
「誰が客だ、誰が。テメーなんざお呼びじゃねェんだよ」
「つれないねェ。銀さんがせっかく美味いクッキー持ってきたっつーのに…」
肩が触れるほど土方の近くに腰を下ろし、銀時はキレイに包装された缶入りクッキーを文机に置いた。
「近い。つーか、いらねェ」
掌よりもやや大きめのそれを、土方は銀時の手の中に戻す。相変わらず視線は書類に向いたままである。
「いらねェって、コレはお前に…」
「菓子ならテメーで食えばいいだろ」
「違ェよ。コレはバレンタインデーのお返し」
「はぁ?」
土方は漸く仕事の手を止めた。
銀時はもう一度、クッキーの包みを土方の目の前に置く。
「つーわけで…はいどーぞ」
「あっ、いや、俺がテメーにやったのはもらいモンのチョコで…」
「確かに俺は、土方くんが女の子からもらったチョコをもらいました」
「だったらお返しなんざ…」
「それだけだったらな。でもそん中にオメーが買ったチョコも入ってたから、ちゃんとお返ししなきゃと思って」
「なっ!…に言ってやがる。俺はチョコなんざ買ってねェよ」
「いーや。これはオメーが買ったチョコですぅ」
「っ!」
銀時は黒い空箱と畳まれた包装紙を取り出した。土方はその二つに見覚えがあった。
一ヵ月前、土方がこっそり他のチョコレートに紛れさせたものである。
「なっ何のことだかさっぱり分からねェな…」
「ふうん…この箱の上に、こんなものが乗ってたんだけど?」
「なっ!」
銀時が取り出したのは名刺サイズのカード。そこには「愛するアナタへ 土方十四郎より」の文字。
「おっ俺はこんなカード知らねェ!だいたい、俺の字じゃねェし…」
「まあ、包装紙の中に入ってたからお前が書いたんじゃないってことは予想できたけどね。店側が入れたんだろ」
「だったら…」
「問題は何で店側がこんなカードを入れたかってことだ。
メッセージ付きチョコは他にもあったけど、みーんな『土方十四郎様』だったぜ」
「そんなん…店のヤツが『様』と『より』を間違えたんだろ」
「宛名と送り主を間違えるかねェ」
「店が忙しかったんだろ」
あくまでシラを切り通そうとする土方に、銀時はこっそり溜息を吐いた。
「俺さァ、気になったからこのチョコ売ってる店に行ってみたんだよねー」
「はあ!?あんな遠くまで行ったのか!?……あっ」
「認めたな?」
「ちっ違ェ!前に出張先でこの店を見かけたことがあるだけだ」
「出張ね…。でもこれはかぶき町で売ってたモンだ」
「何でそんなことが…」
「オメー、自分で買った物くらいちゃんとチェックしとけよな」
「だから違ェって…」
「いいからココ見てみ?」
銀時は包装紙を広げて中央に貼ってあるハート型のシールを指差す。
シールには「ハッピーバレンタイン♥かまっ娘倶楽部」と印字されていた。
「あっ…」
「なっ?ここにかまっ娘倶楽部って書いてあっから行ったみたんだよねー。
そしたら確かにオメーが買ったって言ってた。その時、サービスでカードも入れたってよ」
「……俺が買ったってのは認める。だが別にカードに書かれたような意味はねェ。
接待の相手が気に入ったチョコだったから、付き合いで買っただけだ」
「でもそれを俺にくれたのは何で?」
「俺は甘いモン食わねェから…」
「だったらそう言やァいいじゃねーか。何で他のチョコと混ぜてくれたんだよ」
「………」
遂に土方は黙ってしまった。銀時は土方の首に腕を回し、顔を近付けて更に続ける。
「そもそも何でオメーはあの日コレを持ってたんだ?
自分で食わねェなら、買ってすぐ真選組の誰かにでもやればよくね?」
「だからそれは…」
「それは?」
「………るかったな」
「えっナニ?」
「……悪かったって言ってんだよ!オメーの言う通りだよ!
付き合いでだがチョコ買っちまったんでオメーに渡したかったんだよ!オメーに惚れてんだよ!
でももう会わねェから安心しろ!じゃあなっ!」
開き直った土方は早口で捲くし立てた。
「じゃあなって何だよ…」
「るせェ!もう帰れ!」
「ちょっと落ち着けって」
「テメーが帰らねェなら俺が帰る!」
「おっ、おい、ここオメーの部屋だろ…」
土方は銀時を振り払うと立ち上がり部屋の入り口に向かう。銀時は慌てて土方の手首を掴む。
「待てよ!」
「離せ!」
「オメー、告白しといて返事も聞かずに逃げる気か?」
「聞かなくても分かってる!」
尚も出て行こうとする土方の手首を掴んだまま、銀時は机の上に放置されていたクッキー缶を手に取る。
そして土方の正面に回り、クッキー缶を手渡す。
「いいからコレを開けてみろって!」
「これが何だって………っ!」
土方が包装紙を剥がすと、缶の上には先程見たのと同じようなカードが入っていた。
カードには「愛するアナタへ 坂田銀時より」の文字。
「万事屋、お前…」
銀時は一歩前に進み出て土方の背中に自身の両腕を回した。
「…こういうコトってあるんだね。俺も結構前からお前のことが好きでした」
「マジでか…」
「うん。でも男同士だし、そもそも俺らケンカばっかしてたから無理だと思ってた」
「…俺もだ」
土方も銀時の背中に両腕を回す―クッキー缶とカードはしっかりと握ったまま。
銀時はゆっくりと話し出した。
「バレンタインの日にお前に会って、もらいモンでもいいからお前からのチョコが欲しくなった。
まさかそん中にお前からのチョコが入ってるとは思わなかった。…すっげェ嬉しかったよ」
「だったらすぐにそう言ってくれれば…」
「最初はそのつもりだったんだ。でも『アナタへ』ってのが引っかかってさ…。
お前が言ったみたいに、店員の書き間違いじゃないかとか、誰かがお前を陥れるために仕組んだのかもとか、
本当は誰かに渡したかったんだけど渡せなくて、たまたま会った俺に回ってきたのかもしれないとか…」
「そんなこと…」
「分かんねェからとりあえず、かまっ娘倶楽部に行って聞いてみたんだ。
そしたらお前が買ったのは間違いなかった。アイツらが言うには、チョコ買う時のお前の様子を見て
意中の相手がいると思ったらしい。そんでカードを仕込んだんだとさ」
「そうだったのか。…近いうちにあの店行って、ドンペリでも入れてこなきゃなんねェな」
「はははっ…俺も一緒に行くよ」
「…見世物になるぞ?」
「むしろ見せ付ける感じで行こうぜ?俺たちラブラブですってよ」
「アホか…。…なあ、万事屋」
「んー?」
「………」
「………」
二人は暫くの間、無言で見つめあう。
それからゆっくりと唇を近付けていき、やがて重なり合った。
バレンタインデーでの土方の努力は、ひと月かけて実を結んだのであった。
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