後編
手首にしゅるりと巻かれたネクタイ。やはりそうきたか。定石通りで面白くも何ともない。 「はい、有罪確定」 「あん?」 「緊縛は立派な犯罪ですよ」 ここから甘い夜の手本を示す名目で……起き上がろうとした銀時の両手首に、しっかりとネクタイが巻き付いた。 「もしもし土方さん、聞いてます?」 「聞いてます聞いてます」 手首を纏めた「拘束具」の端をベッドへ括り付けられて、銀時は腕を上げた状態で仰向けに。下りてきた手がするりと頬を撫でるのに呼吸が乱されてしまう。そんな己に活を入れ、銀時は平静を装った。 「もう分かりましたから、これ解いてもらえませんか」 「ウチのは縛られるのが好きなんですよ」 だからこれも罪には当たらないと主張したいらしい。しかし架空の配偶者とはいえ、回り回って自身のことになるわけで、坂田弁護士はそんな設定を認めるわけにはいかなかった。 「異議あり!土方さんのお相手はドSで有名です」 「ああ見えてMっ気があるんです」 平然と言ってのける土方に対し異議申し立ては続く。 「それは土方さんの願望を含んだ妄想です。何の証拠もありません」 「証拠なら……」 「んっ!」 左の指で首筋をなぞられて、銀時は無意識に息を詰めた。 我に返り見上げれば、得意げに細められた瞳と搗ち合い臍を噛む。 「ウチのも弁護士さんと同じで、こんなふうに感度が上がるんですよ」 「いっ今のは別に気持ち良かったわけではなく……そう!土方さんの手が冷たかったからビックリしただけです!」 「そうですか。では縛られても興奮しないってこと、証明して下さいね」 「むぐっ!」 返事は待たず上からぶちゅっと唇を合わせた土方。伸ばした右手を銀時のそれに重ねれば、銀時の身体から力が抜けた。 「んっ……」 捕われの身を強調するかのごとく土方の手はネクタイを辿る。それに呼応して銀時は身を強張らせていた。 「んぅっ!」 唇はただ当てているだけ。にもかかわらず、ぞくりぞくりと背筋を這うものがある。 「ん……やめ……」 土方が手首に触れるたび、束縛を意識するのと連動してその反応が生じることに気付いてしまい、銀時は逃れようと身体を捩った。拒絶の言葉で開いた口。その隙をついて舌が侵入する。 「んく……う!」 先ずは口内で最も敏感な上顎を奥から手前にひと舐め。次いで歯の裏側を経て表に戻り、ぽってりとした下唇と、やや薄めの上唇を湿らせた。 「は、んっ……」 求めるように隙間より覗く銀時の舌を吸い出せば、ネクタイに引かれてベッドが微かに軋む音。 土方は両手で銀髪を包み込み、深く深く口付けた。 「んっ、ふぅ……」 混じり合う二人の唾液を体内へ取り入れながら、銀時の頭の中は次第に霞んでいく。こうなると羞恥も矜持もどうでもいい問題。快楽を優先したくなる。 そんな銀時の視界の端に眼鏡の赤。そうだ。今、己は万事屋銀ちゃんではないのだ。これから言うこともやることも「別人」のこと。ならば―― 銀時は首を振り強引に口付けを外した。 「土方、さん……」 「やはり解かないとダメですか?」 瞳を見れば陥落したのは明らか。けれど弁護士に成り切る相手には、この際きちんと言葉にしてもらいたいもの。 その辺は銀時も充分に心得ている。 「もっと気持ち良くできるなら、訴えられずに済むと思います」 「分かりました」 思惑通りと緩む口元を抑え切れず、土方は背広とワイシャツの釦を外していった。 コスプレで素直になる銀時。 はだけた胸へ吸い付き、その愛しさを堪能していく。
「あっ!もう早く……下に、くださいっ」 膝を擦り合わせ腰を捻り、より強い刺激をねだる銀時。 左の乳首を吸われ、次は右へと移る前に我慢の限界が訪れた。細身のスラックスを窮屈そうに押し上げながら、股間はパンパンに膨らんでいる。最早、自然の流れで愛撫が下りるのを待つ余裕などなかった。 「土方さん……ハァ……」 拘束がなければ自ら脱いでしまいたいところ。それができない歯痒さは銀時をより高ぶらせていく。 「はいはい、すぐにあげますよ」 「んんっ!」 ベルトを外す僅かな振動にも震えるほど。このままでも軽く撫でるだけで弾けるに違いない。 「きつそうですね。傷付けないようにそっとやらないと……」 「あ、あ、あ……」 全て理解した上で土方は殊更ゆっくりとファスナーを下ろしていった。 「寒くないですか?」 「だい、じょーぶ」 気遣う素振りで焦らしつつ、そろそろとスラックスを下へ引く。腰を浮かせた銀時は、衣擦れに歯を食い縛った。 「いっ――!」 「どうしました?」 あくまで脱がせる口実で、土方の手が臀部へ回る。 「はあっ!!」 ぽすっと銀時の腰が沈み、下着の染みはみるみる広がった。 土方は銀時の顔を覗き込み、その頬に唇を当てる。 「すいません。可愛いイチゴのパンツを汚してしまいました」 「あ、う……」 「腕を解くので許して下さいね」 「や……」 焦点の定まらぬ瞳で、それでもはっきりと申し出を拒絶。腕の自由よりも早く欲しいモノがあった。 半ばまで脱がされていたスラックスから右足を抜き、足を開いて土方を誘う。 「いれてください」 「……はい」 壮絶な色香を放つ恋人に喉を鳴らしながら下着を剥ぎ取った。 己の裾を開け、下着をずらして猛るモノを取り出せば、銀時も喉を鳴らすのが分かる。 銀時の足を両脇へ抱え、土方は一気に根元まで挿入した。 「あああぁっ!!」 待望の衝撃に背を仰け反らせ、銀時は出さずに達する。イチゴ模様の裏側へ放ったばかりの一物も、再び回復していた。 「あぁっ!あぁっ!あぁっ!」 土方が出入りするたび、銀時は痙攣しながら喘ぐ。それでも足首を交差して土方を囲い、もっともっとと求めていった。 「ひぐっ!あっ……そこ!」 「ここですね?」 「あーっ!!」 前立腺をぐりぐりと抉れば、堪らず銀時は二度目の精を吐き出す。それでも止まぬ律動に、目の前でチカチカと火花が飛んだ。 「ひああぁぁぁっ……!!」
* * * * *
「……あれ?」 銀時が目を覚ました時、広いベッドに一人、何も身に付けずに寝ていた。相方の気配は足元、ソファーのある方向から――上体を起こして時間を確認すれば、まだ日付も変わっていなかった。 「起きたでござるか」 「!?」 恋人ではないその口調に銀時は慌てて布団を引き上げる。もしや裸を見られたのか。脱がせたのは「土方」だと信じたいがまさか…… 「おおお前、いつ来たんだよ!」 「五分くらい前……十四郎がシャワーを浴びた後ナリ」 ということは身体を見られることも、トッシーと同衾などという事態も避けられたらしい――安心すると同時に湧く疑問。 「お前、何でいんの?」 「これでござる」 「ちょ……近寄んな!」 携帯電話の画面を見せながらこちらへ来る男を言葉で威圧して、肩まですっぽり布団で覆う。 「つーかそれ、トモエ何とかか?」 映し出されていたのは美少女戦士と思しきフィギュアの画像。 「トモエ5000ハイグレード可動フィギュアでござる!危うく予約しそびれるところだったナリ」 「ああそう」 途端に興味を失った銀時は布団の中に潜り込んだ。けれど、 「オメーはこっちに来んなよ」 恋人でない者の行動を制限するのは忘れない。 場所が場所だけに大人しく従って、トッシーは布団の膨らみに呼び掛けた。 「坂田氏ィ」 「……何?」 「このケータイ、坂田氏の写真が殆どなくなっているナリ」 「消したんじゃねーの」 しれっと言って布団の中でほくそ笑む。顔も見せずに会話は続いていった。 「間違って消したでござるか?」 「さあね」 「でも安心するナリ」 「あ?」 「バックアップは完璧ナリよ」 「は?」 不穏な単語に思わず首を起こした銀時。ソファーの男は腹立つ笑顔を浮かべている。 「前に拙者の写真を十四郎に消されてしまったから、バックアップを取ることにしたでござる」 「で?」 「ついでに十四郎のデータも保護してあげたナリ。拙者の優しさはさながら――」 「けっ消せ!」 「いやしかし……」 「今すぐ消せェェェ!」 ベッドから下りられぬ銀時はその場で喚くしかない。だがそうこうしている間に、 「――消させるかァァァァ!」 「げ……」 土方の復活。 結局、今夜も無許可で撮影していた画像を加えて、「銀時メモリー」は順調に増えていくのだった。
(15.02.26)
受けてもドSな銀さんも好きですが、夜だけドMな銀さんも好きです*^^* エセ弁護士プレイ、楽しんでいただけましたら幸いです。 ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
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