後編


時は一週間前に遡る。仕事帰りにふらりと立ち寄った居酒屋で、銀時は土方と出会した。土方は
カウンターにおり連れはなく、その右隣りが空いていた。顔見知りだし――深くは考えずそこへ
座った銀時に土方も何も言わなかった。
かといって特に話をするわけでもなく、二人はそれぞれのペースで飲んでいく。先に来ていた
土方が先に席を立ち、店を出るかに思えたその時、銀時の椅子の脚に土方の爪先がコツンと
当たった。
それは、その日初めて二人の視線が交わった瞬間。

「すまん」

店内の喧騒に半ば埋もれつつもかろうじて銀時に言葉が届くと同時、土方は出口に向かって足を
踏み出していた。その瞳に何か思うところを見ると銀時は残りの酒と肴を一気に平らげ、支払いは
ツケにして、今しがた土方が閉めたばかりの引き戸を開ける。
己の勘を信じて左右を見回せば、脇道から仄かに煙草の匂いがした。

「ポイ捨てするなよー」

現れた銀時にも表情を崩さず一瞥しては、煙を吐き出しながら「ああ」と応える土方。居酒屋の
壁に凭れる土方と半歩分、距離を空けて銀時も同じ壁に寄り掛かった。

「万事屋……」
「んー?」

小さくなった吸い殻を携帯灰皿に入れつつ土方は銀時と対峙する。銀時もゆっくりと両足に体重を
移せば、自然と二人の間が縮まった。

「お前のことが好きだ」

よくもまぁ堂々と道を踏み外せたものだ……他人事のように銀時は「そうなんだ」と呟く。それを
否定の返事と受け取って通り過ぎていく土方の手首を掴んで止めた。

「銀さんを抱きたい?それとも、抱かれたい?」
「てめっ――」

真摯な思いを踏み躙られたと憤る土方であったが、

「俺はどっちかっつーと抱かれたい」
「…………」

銀時と目が合った瞬間、その感情は消え失せる。同じ高さからじっと見詰めるその瞳には、喜びと
情欲が宿っていた。
掴まれた手を掴み返し、ぶつかる勢いで口付けて、土方は路地の更に奥にあるホテルへ銀時を連れ
込むのだった。



こうして恋人同士となって一週間、今日はあの日以来初めての逢瀬である。
あの日と同じ場所へ、あの日とは逆に土方を引き込んだ銀時。朝っぱらからと呆れる土方を
ベッドへ転がして、帯と下着を剥ぎ取り一物を咥えた。

「風呂くらい入らせろよ」
「んー……」

とりあえず言ってみただけで聞き入れられるとは思っていない。頭の後ろで手を組み、自らの
股間で上下する銀髪を眺めていた。

「ハァ、あ……ハァ……」

次第に質量を増す一物に舌を這わせつつも、それが自身の中に挿入された時のことを想起して、
喘ぐ銀時。その姿に煽られる形で、土方のモノは硬く膨れていった。
唾液と先走りを一緒に飲み込み、銀時は身体を起こす。すっかり勃ち上がった一物を見下ろして
ほぅ、と息を吐きながら服を脱いでいく間に、土方も着物を脱いだ。

外には爽やかな春の朝が広がっている。公園のソメイヨシノは僅かに花を付けており、気の早い
花見客が場所取りを始めているとか。
そんな穏やかな光は遮断された橙色の明かりが灯る部屋の中、裸で横たわる土方の上へ、同じく
裸の銀時は腰を下ろした。

「あ、ハァッ……気持ちイイ……」

体内に土方の一部が埋まる感覚に、恍惚の表情を浮かべる銀時。最も感じる箇所に当たるよう腰を
浮かせ、入口を締めて身体を揺らす。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

口元は薄らと笑みを湛え、快感を享受する様に土方の喉が鳴った。

「あ、あ……」

最初は銀時の動きに合わせて軽く、

「ああぁっ!!」

次に突き刺すように鋭く動かれて、銀時は精液を出さずに達する。
繋がったまま何処とはなしに空を見詰め、肩で息する銀時の足に土方は手を添えた。

「すまん。やり過ぎた」

銀時の手が土方のそれに重ねられる。

「平気。もう一回ヤって」
「……上等だコラ」
「あっ!」

銀時の視界がぐるりと回り、今度は土方が覆い被さる体勢となった。ふわふわの銀髪を両手で
包み、唇を合わせながら最奥を抉る。

「んんーっ!」

腕を土方の背に、足を腰に巻き付けて、与えられる快楽に浸る銀時。

「んぅっ!ん……んあっ!」

口付けは外れてしまったものの身体全部で縋り付き、もっともっとと譫言のごとく繰り返す。

「あっ、ああっ!そこっ……イイっ!」

求められるままに腰を振る土方であったが、

「土方のチ、コ……気持ちイイっ。もっと、してっ!」
「ああ」

銀時の求めは単なる快感ではなく己なのだと理解をすれば、更に気分が高揚するというもの。

「あぁ!あぁ!あぁっ!」

感じる所ばかりを責めていった。

「はぁん!あっ……イク……イっちゃう!」

限界を訴える銀時の性感帯を土方のモノがぐりぐりと刺激すれば、もう耐えることなどできない。

「イクっ……ああぁっ!!」
「くっ……!!」

互いの身体に挟まれた銀時の一物から精が放出され、土方も銀時の中へ欲を吐き出した。

「ハァー、すげぇ……」
「大丈夫か?」
「気持ち良かったよー。次はバックがいいなァ」

まだ息も整わないうちからそんなことを言って俯せた銀時。その入口を濡らすのは先程自分が
放った精液で、土方はまた喉を鳴らして銀時に覆い被さった。


*  *  *  *  *


「あ〜……」

浴槽に浸かりつつ銀時は怠いと一言。シャワーを浴びる土方が詫びれば、謝る必要はないと
返ってきた。

「気持ち良い怠さだから大丈夫」
「そうか」

身体の泡を流してこちらへ向かう土方のために湯舟を半分空けてやり、入ってきた土方の胸に
背中を預ける。振り返って土方の頭に手を伸ばし、サラサラヘアーめと恨み言を漏らしつつ尋ねた。

「……あと二時間くらいいいか?」
「まだ足りねぇのかよ……」

フリータイムを利用して、かれこれ五時間程この部屋で過ごしている。チェックアウトまでは残り
一時間といったところだが延長したいということか。

「二時間だけだぞ」

今夜は屯所に戻らなければならない。それは銀時も分かっていたし、そもそもそういうつもりで
聞いたのではなかった。

「延長しなくていいから、ウチ来てくんねぇ?」
「は?」
「新八と神楽に紹介してぇから」

銀時は今朝のことを話して聞かせる。土方との関係を伝えたつもりで伝えそびれていたこと、今更
普通の説明では二人が納得しそうもないこと、そして付いて来てほしいこと――土方は二つ返事で
引き受けた。

「俺もそっちに挨拶行っていい?」
「今は立て込んでるから少ししてからな」
「了解ー」

先ずは一時間、しっぽりしてから行こうと言う銀時に口付けで返事をして、二人は浴室を出た。
公認の恋人同士となるのは、もう少しだけ先の話。

(14.03.29)


エロエロしつつも真剣 交際の土銀を書きたかったんです。あと、エッチに積極的な銀さん……は、いつものことか。
ここまでお読み下さりありがとうございました。


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