「し〜ぬぅ〜……」
「わたしもネ〜……」
「僕もです〜……」
「わぅ〜……」
「…………」

とある非番の日。午前中に部下達へその日の指示を出し、昼前に恋人の家を訪れた土方が
見たのは「死にそう」な恋人とその家族だった。


夏の暑さと死んだフリ


「おい、お前ら起きろ。暑いからってダラけ過ぎだ」

土方は溜息を吐きつつ咥えていた煙草を携帯灰皿へ揉み消し、床に俯せる銀時の脇腹を右足で突く。
銀時達は特段体調が悪いわけでも怪我をしているわけでもない。真夏になるといつもこうなのだ。
貧しくて冷房機器を買えないこの家は、夏になると朝から晩までサウナ状態。しかも今年は
数日前に扇風機も壊れてしまったというから「死にそう」な気持ちも分からないではない。
だがその状況でもいまいち同情しきれないのは、彼らがあまり働いていないということにあった。

銀時と付き合い始めて最初の夏。この状況を初めて見た土方は彼らを気の毒に思い、
屯所内の掃除を「依頼」してやった。それなのに……


*  *  *  *  *


「掃除ぃ?ンなもん自分でやれよ……」
「金はちゃんと払う。そしたらクーラーも買えるぞ」
「そんなことより氷いちご練乳小豆がけが食いたい……」
「私はアイス乗ってるやつがいいネ」
「じゃあ僕はクリームソーダで……」
「わうわうっ!」
「何でもいいから仕事して買えよ」
「今食わないと死んじまう〜……」
「死ぬアル〜……」
「暑くて動けません……」
「わう〜……」
「……分かったよ!奢ってやるから喫茶店行くぞ!」
「「「やったぁ!!」」」


*  *  *  *  *


あの日、喫茶店へ行くのでは定春だけ可哀相と言われ、高級ドッグフードも買う羽目になった。
しかも喫茶店で涼めた万事屋三人はそれで満足し、結局、クーラーを買えるまで働くということは
しなかったのだ。
コタツは買うのに何故……

「それはきっと、原作者が寒い所出身だから……」
「ナレーションに応えるな!つーか元気そうじゃねーか」
「ううっ……く、苦しいっ!」

顔を上げて土方の方を見ていた銀時はわざとらしく蹲る。

「うなぎを……鰻を食わなければ死んでしまうゥゥゥゥゥ!」
「あ〜、私も鰻を食べれば元気になれるネ……」
「国産だと尚いいですねー……」
「おい……」
「国産特上うな重を肝吸い付きで食わなければっ……」
「デザートはメロンがいいアル〜……」
「定春はペットサロンでリフレッシュを……」
「わう〜……」
「お前らいい加減にしやがれ!どんだけハードル上げんだよ!そんなに食いたきゃ働け!」

かき氷から始まった夏のおねだりは年々パワーアップしていった。
いくら恋人とその家族の頼みとはいえ甘やかし過ぎだ。今年こそはこの悪い流れを断ち切るぞと
思う土方であったが……

「鰻の後で、デカいベッドとジャグジー風呂付きの部屋で『土方くんと』過ごさないと
死ぬ気がする〜……」
「鰻食べたら、朝まで銀ちゃん帰って来なくても平気になるアルな〜……」
「そうだね〜……」

ここをクリアしなければ碌にデートもできないから、今までずるずると奢らされてしまったのだ。
忙しい仕事に何とか都合をつけてもぎ取った非番。それを台無しにするのは惜しい。
しかも、ここで自分が奢ると言えば、それはそれは楽しいデートが待っているのだ。
普段は意地っ張りで素直じゃない銀時が大変しおらしくなる。俗にいう「デレ」状態だ。

「土方ァ……」
「…………」
「助けてェ」
「…………」

土方は考えた。
恋人が助けを求めているのに手を差し延べないというのはいかがなものか、と。
そもそも自分だって昼食前だし、どうせデート前に皆で食事をするつもりだった。
そうだ!元からそのつもりだったのだから食事に行くのに何の問題もないではないか。
決して強請られたから行くのではなく、最初から予定していた通りに動くだけだ。
そして、こんな暑い日には鰻が一番ではないか。夏といえば鰻だ。確か、そろそろ鰻が食べたいと
思っていた気がしないわけでもない。偶然、銀時も鰻が食べたいと言っている。やはり自分達は
似た者同士だ。思考が似通っているんだ。同じタイミングで同じものを食べたいと思うなんて……

「……行くぞ」
「「「やったぁ!!」」」

こうして、定春をペットサロンへ預けてから、土方と万事屋三人はうな重を食べに出掛けた。



*  *  *  *  *



「あ〜、美味かったァ!」
「そうだな」

昼食を終えて、土方と銀時は約束通りホテルの一室(ジャグジー風呂付き)にいた。
銀時はダブルベッドの中央で大の字になる。

「ここも涼しくていいねェ……」
「そうだな」

だから働いてクーラーを買えばいいのにという言葉は飲み込んで、土方はベッドの横にある
ソファに座り煙草を咥えた。

「土方ァ……」

天井をぼんやりと眺めたまま銀時が土方を呼ぶ。

「ん?」
「いつもありがとね」
「お、おぉ」

ああやはり奢って良かったと土方は思った。考えてみれば、うな重だ何だと我が儘を言えるのも
自分に気を許している証拠だ。素直でない銀時のこと、日頃の感謝を伝える切っ掛けに利用して
いるのかもしれない。可愛いところがあるじゃないか……煙草を落とさない程度に口元を
緩ませて土方もベッドへ。

「銀、とき……?」
「…………」

銀時は気持ち良さそうに眠りこけていた。扇風機しかない万事屋で寝苦しい夜を過ごして
いたのだろうと土方はそっとベッドを下りた。
それから寝冷えしないよう冷房の設定温度をやや上げて、本来の掛け布団は銀時が乗っかって
しまったから、備え付けの浴衣を代わりに銀時の上に掛けてやった。


*  *  *  *  *


「…………ヤベェ、寝てた!」

銀時が目覚めると、そこには土方の姿はなかった。緊急召集でもかかったかそれとも……

「怒って帰った、わけねーよな……」

恋人とホテルに入って早々寝入ってしまった……これはあまり褒められた態度ではないものの、
土方はそのくらいで臍を曲げて帰るような人間ではない。というより、怒りや苛立ちを押し殺す
タイプではない。
腹が立てば何としてでも銀時を起こして直接文句を言う……土方とはそういう男だ。
だから、銀時の知らぬ間にいなくなったということは、起こす暇もないくらいの急用か
すぐに戻ってくるかのどちらかだろう。仕事だとしても、そのうち何かしらの手段でここへ
連絡をくれるに違いない。風呂にでも入って待っているかと銀時は自分の上に掛かっていた
浴衣を持って浴室へ向かった。

*  *  *  *  *

「ジャグジーは満喫したか?」
「あーうん、ありがとね」

銀時が風呂から上がると土方が戻っていた。
寝る前と同じくソファに座り、煙草を吸っている土方。銀時は髪の水分をタオルで拭いながら
その隣に腰を下ろした。

「何処行ってたんだ?」
「煙草買いに」
「ふーん……。にしても風呂場は暑ィな。死にそう……」
「ジャグジー満喫したんじゃねーのかよ」
「ジャグジーは楽しかったけど暑くて死にそう……」
「ああそうかよ」

また何か強請られるのかと土方はぞんざいに返事をしたけれど、

「これは土方ミルクを飲まないと死ぬね」

ニッと口角を上げて銀時が強請ったのは土方自身。土方は煙草を灰皿へ放り、銀時の腰を抱き寄せた。

「上からと下から、どっちがいいんだ?」
「んっ……最初は上から……」

耳元で囁かれ、銀時は微かに身じろぐ。

「じゃあ、ベッドに行こうぜ」
「こ、こで……んっ……耳、やめっ……」

土方に近い側の耳を片手で塞ぎ、銀時はソファから下りた。

「俺がしてやるって言ってんだから大人しくしてろよ」
「分かった分かった」

力を抜いた土方の、着物の裾を割り開き、銀時は下着の前開きからまだ萎えている一物を
引っ張り出して咥えた。
口を窄めて根元から先端へ。舌先で鈴口をちろちろと刺激して再び根元へ。唾液をたっぷり
含ませて頭を前後に動かせば、忽ち土方のモノは膨張する。

「ハァッ……」

土方から息が漏れると銀時は先端を咥えた状態でその様子を見上げる。
目を合わせたまま、裏筋をべろりと舐め上げれば、土方はくっと息を止めた。
ずくりと膨れた下半身。そこに浮き上がる血管へ舌を這わせる銀時。
その自由奔放に跳ねる髪を撫で付けながら、土方はまた熱い息を漏らした。


「っ……くっ……ぅ!!」

両手で銀時の頭を固定し、腰を数回振って土方は精を吐き出した。

「んっ、ハァッ……ごちそーさま」

唾液と精液に塗れた口元を手の甲で拭う銀時の表情に土方はまた息を飲む。
立ち上がり、今度は見下ろしているその瞳は情欲に染まりながらも挑むような光を湛えていた。
上等だ――持ち前の負けん気の強さで土方も「挑戦」を受ける。
銀時の腰を引き寄せて己の膝の上に跨がらせた。

「ノーパンかよ……」

浴衣越しに割れ目をなぞれば想定以上に温もりを感じて、銀時の本気を悟る。
「ん」と短い息が銀時の鼻から抜けた。

「下の口より先に、お前のミルクを飲んでやろうか?」

乱れた裾から覗く銀時のモノは既に先から雫が垂れ始めていた。

「ハッ……回復の時間稼ぎか?銀さんのおフェラが気持ち良すぎて、まだ足腰立たねぇんだろ?」
「てめっ……」

直接的な刺激を受けずとも息が上がるほど興奮しているというのに、憎らしい口を聞く銀時。
こんな男が可愛く見える自分は何処かおかしいのだと心から思う。

思いはするが、それを治す気はさらさらない。
この手の「病」は医者でも温泉でも治らないと昔から言うではないか。
だったら病と上手く付き合っていけばいい……そんなことを考えながら土方は銀時を抱えて
ベッドへ向かった。


何の変哲もないある夏の日の話。

(12.08.10)


夏の土銀エロ話2012でした。ちなみに2011版は企画室の「暑い冷たい〜」です。「夏」を理由に甘える銀さんは可愛いと思います。

そんな銀さんを甘やかしてしまう土方さんも可愛いと思います。結局、二人とも可愛いんだ*^^* お似合いカップルですね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

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