続きの続編
土方十四郎と坂田銀時が恋人関係となり半年が過ぎていた。初めの方こそ互いの価値観の相違に戸惑うこともあったものの、今や将来を誓い合い、交際は順風満帆。湿った空気が肌に張り付き、日は落ちても汗の引かない季節。今宵も仕事を終え、恋人の元へ向かおうとする土方を、上司兼親友の近藤が呼び止めた。 「これからデートか?」 「ああ」 「上手くいってるみたいだな」 「まあな」 それは何よりと笑顔で頷いた後、やや遠慮がちに近藤は続ける。 「向こうの都合もあるとは思うが……いつ頃、連れて来てくれるのかなァなんて思ってな」 「近藤さん……」 元より軽々しく恋人を作る男ではなかった。その土方が銀時を選んだのだ。仲間に紹介して然るべき間柄だと信じている。 勿論、土方自身もそのつもりなのだけれど、銀時側から何も話がないだけに言い出せずにいた。 「俺から言ってもいいもんなのか?」 「こういうことは男が……あ、どっちも男か。だったら尚更どちらからでもいいんじゃないか?」 「そういうもんか?」 「ああ。トシが言ってくれるのを待ってるのかもな」 「……そうだな」 激励とともに送り出された土方であったが、不安は拭いきれない。己の恋愛観と恋人のそれとはかなりの乖離があった。勿論、それが悪いことだとは思わないし、付き合う中で徐々に近付いている手応えもある。しかし、近藤のように楽観視はできないでいた。 あちらの方が経験豊富。 二人の距離を詰めるのは、あちらからの歩み寄りに他ならない。将来の誓いも閨での役割も、こちらの心情を慮ってなされたこと。これ以上の負担を掛けないためにも、下手な提案は避けたいところ。 待ち合わせ場所へと向かう土方の周囲だけ、気温が更に上がっていた。
* * * * *
涼しげな川の流れる音を身に浴びて、銀時はぼんやりと月を見上げる。約束の時刻まで優に一時間。依頼先から直行したわけでも間違えて来たわけでもない。ただ、相手を待たせたくはないだけ。 誠実で実直な男は恋愛に対しても同じであった。土方にとって自分は最初で最後の恋人。爛れた恋愛ごっこに興じていた己なんぞにそんな大役が務まるのか。かといって他の誰かに譲るつもりなど毛頭ないのだけれど。 ――たまには土方さんに手料理でも振る舞ったらどうです? 出掛けに言われた新八の台詞が、水音に乗って再び鼓膜を揺らした気がした。以前、神楽にも似たようなことを言われたっけ。
家に呼んでやれば土方は喜ぶだろうか……。生涯を共にするつもりなのだから、そのくらい当然と考えているのかもしれない。 でも今はまだ無理。 アイツの顔を見たら抱き着きたくてたまらなくなる。抱き着いたら最後、行き着く所まで止まれない。だからもう暫く二人っきりで過ごしたい。 それでもあちらに呼ばれたら、お返しに招待する心積もりはできていた。
「すまん」 土方が到着したのは銀時が来てから四十分ほど経ってから。遠目で恋人の存在を確認し、息を切らして走ってやって来た。 「遅れてねーよ」 「そうか」 分かりやすくホッとする姿に銀時の熱は急上昇。己の右腕を土方の左腕に絡めて歩き出した。 「今日も暑ィな。早く涼しい所に行こうぜ」 「あ、ああ」 大義名分を引っ提げてホテル街を目指す銀時の足取りは軽やか。 「ウチ扇風機一台しかなくて……なのに神楽のヤツ、夜兎だから暑さに弱いとかで占領しやがるし」 「体質じゃ仕方ねェだろ」 「いいや。夜兎の弱点は日差しだからね」 「そういやァそうだな」 恋人との会話を楽しみつつ土方は胸のつかえが取れた心地がしていた。気候の変化をまともに受けてしまう万事屋だから、渋々外で会っていたのだと理解して。 ならばやはりこちらから―― 「ウチはクーラーあるぞ」 「贅沢な暮らししてんねぇ」 「普段は鍛練と節電を兼ねてあまり使わねぇようにしているが、客が来れば別だ」 「ふーん、ちゃんと持て成すんだ」 「当然だろ」 「……あ」 やっとのことで土方の思惑を悟った時、二人はネオン煌めくホテルの前にいた。 とりあえず今日は入ってしまえ――体の疼きに任せて銀時は当初の予定通りに足を運ぶ。土方も特に抵抗はしなかった。
「あのな」 銀時が部屋を決めて鍵を受け取り、二人のみの空間になったところで土方は意を決して切り出す。 「今度ウチに来ねェか?良かったらメガネとチャイナも一緒に……」 「あー……」 予想通りのお誘い。しかも「家族に紹介」と「両家顔合わせ」が一度にできる優れたご提案。着実に退路を絶たれているようでいて、元より銀時も使うつもりはなかった道。なくなったところで何ら不便はない。 「お言葉に甘えて、お呼ばれしちゃおうかな」 気恥ずかしさに耐え兼ねて、土方の肩口に額を乗せた。 「アイツらの都合聞いたら電話する。どうせ暇だからいつでも大丈夫だと思うけど」 「そうか」 「うん。というわけで土方くん、ヤらないか?」 「ああ」 甘くも重い空気を散らすかのように、パッと顔を上げた銀時は土方の手を引きベッドへ乗り上げる。いそいそと着物を脱いでいく愛しい人に、シャワーを浴びてからの方がいいかなどと野暮な台詞を飲み込む土方であった。 程なくして生まれたままの姿になった二人。銀時が下になり確と抱き合う。 「土方くん体べとべと。そういや走って来たもんな」 「すまん」 「俺もべとべとでお揃い。おかげでくっついたら離れにくいし」 下から頬に手を添えて口付けをねだれば即座に叶えられてご満悦。 「んっ、んっ、んっ……」 唇から下半身まで、ぴたりと重ねて身を揺らすと、瞬く間に一つになる準備が完了した。
「ああ、そこっ!」 仰向けで一物を受け入れ喘ぐ銀時。その熱を逃すまいとするかのごとく土方の背に腕を、腰に足を絡ませている。 「あぁん!いいっ!も、イっ……ああっ!!」 出さずに達し、虚ろな瞳で体を震わせる銀時。土方が動きを止めれば下から腰を揺らしてきた。 「もっと……出るまで、止まん、なっ」 「分かった」 「ひあっ!!」 言われた通りに腰を突き入れるも、強すぎる刺激を受ける銀時は苦しげにも見えて、自然と手加減したくなる。 「はあっ……あっ、あぁっ!!」 恋人を気遣う土方の緩やかな動き。それを補って余りある形で銀時は自ら腰を振り快楽を追った。 「っ――!」 それは土方をも追い詰めていく。 己を見下ろす表情でそれを察知した銀時は、右手を伸ばし、汗の滴るこめかみから頬へと滑らせた。指先で感じる、羨ましいほど真っ直ぐな黒髪の感触に目を細めて。 「一緒に、な。俺も、すぐだから」 「お、う」 再び遠慮なしに腰を振る土方。狂おしいまでの快感に包まれて銀時は愛する人の背中に爪を立てた。 「あああぁっ……!!」 「くっ!!」 土方の腹筋に自身を擦り付けながら銀時は吐精する。その直後、内部に熱い迸りを感じて歓喜に震えるのだった。
「ハァー、マジでサイコー……」 薄桃色の天井を見上げながら交わりの余韻に浸る銀時。すぐ隣から漂う煙の匂いも最早なくてはならぬものと化していた。 布団の中で密かに後孔へ触れ、溢れる粘液を確かめてまた悦に入る。 「ふぅ……愛って気持ちいいねー」 「それは良かった」 愛して求めて、愛されて求められる――土方と付き合うことで初めて知ったこと。言葉にするのは照れ臭いけれど、この胸の高鳴りも性交のスパイスとなるからやめられなかった。 煙草が灰皿へ移ると同時、銀時は土方を押し倒す。 「もう一回。次は俺が上で」 「ああ」 銀時は芯の通り始めた自分自身と萎えたままの土方自身を纏めて握り扱いた。 「あっ……早く、土方の……太くて硬いの、欲しいっ」 「ハァ、ハァ……」 可愛い恋人の淫らな様に土方は息を乱していく。 「硬くなったァ……先走りも全部、俺の中にちょうだい」 「あ、ああ」 主導権を握った銀時の艶は横になっていた時の比ではない。一応は伺う形式をとっているものの、銀時の思うままに行為は進んでいった。 「は、ぁ……土方の、奥まできてる……あっ、もう、我慢できない」 目を瞑り、眉間に皺を寄せながら腰を揺らめかせる銀時。 「気持ちいい……ひじかた……気持ちいい……」 譫言のように繰り返し、上り詰めていった。
* * * * *
「…………」 見知らぬ枕の肌触りに意識を浮上させた銀時は、恋人とホテルに来ていたのだと思い出し寝返りを打った。そこには案の定、こちらを心配している土方の顔。 「大丈夫か?」 「んー……すっげぇ気持ち良かった」 ふかふかの枕は肌に合わない。恋人に抱き着くと銀時はその固い腕に頭を乗せた。うつらうつらと閉じそうになる瞼に叱咤して言う。 「お前ん家行くの……もう少し後でもいい?」 「構わねぇが……」 とは言いつつも不満そうな声。くすりと笑みを零して銀時が続けた。 「まだ、二人の時間を減らしたくねぇ」 「お前……」 「……ダメ?」 やはり最愛の人を前にして穏やかに過ごすなどできそうもない。上目遣いに小首を傾げて聞いてみれば、構わないと言ったはずだと赤い顔。 またしても疼き始める銀時の体。当分の間「挨拶」は不可能だと開き直り、今宵の三度目を所望するのだった。
今日もまた熱帯夜。
(15.07.28)
愛ゆえにきちんと手順を踏みたい土方さんと、愛ゆえに手順をすっ飛ばす銀さんでした。 結局はラブラブなんですけどね*^^* ここまでお読み下さりありがとうございました。
ブラウザを閉じてお戻りください |