おまけ
深夜。社員の退社したオフィスに残り、土方十四郎はパソコンに向かっていた。彼一人のために全館空調は機能できず、熱の籠った室内は春だというのに蒸し暑い。背広を脱ぎ、ネクタイを外し、腕まくりをする。それでも滲む汗は室温のせいだけではなかった。内股を僅かながら圧迫する違和感で勝手に期待が膨らむ。動かなければ中は気にならないものの、そこまで馴染んでしまった己の浅ましさに目眩がした。 これのせいでこんな時刻まで働く羽目になったのに。 「ひっ!」 突如、微かなモーター音と共に内部が振動を始め、土方の手が止まる。まさかそんなはずは…… 「あ、あ、あ……」 震えだした手は机の上で拳を握り、必死に体勢を保とうとする。そんな土方を嘲笑うかのごとく内部のモーターは更なる高音を奏でた。 「あぁんっ!」 びくんと仰け反り慌てて口を塞ぐ。ここは会社から特別に与えられた土方の個室で、そうでなくともこのフロアーには土方しか残っていないはず。しかし警備員は定期的に巡回しているし、何よりこの振動が誤作動でないとしたら確実にもう一人いる。 「くっ、う……」 電波の届く範囲が狭いのが難点だと彼は言っていた。それ以外は静かな駆動音と確かな振動、受信機が小さいのも申し分ないとも。 焦点がぼやけ始めた瞳でドアを見詰めるも一向に開かない。我慢できずに自分が開けるのを待っているのかそれとも…… 「くぅ!」 イスから崩れ落ち、土方がデスクの横で蹲ったその時、ゆっくりと扉が開いた。 「あっれぇ〜、まだいたんですか?」 物音がしたから来てみれば、なんていけしゃあしゃあと言いながら近付いてくる背広姿の男。 「土方さん、一人で仕事抱え過ぎなんですよ」 かりそめの笑顔を貼り付けた男の名は坂田銀時。土方の大学時代からの後輩であり、仕事への情熱が微塵も感じられないにもかかわらず、解雇できるほどの業績不振でもないという、会社としても扱いに困る人物である。 「そのうちぶっ倒れても知りませんよ。……あ、今ぶっ倒れたのか」 大丈夫ですかと腕を引かれるも、土方は最早、立ち上がれる状態ではなかった。 「頼むから、止めてくれっ――」 「何のことです?」 「聞こえてるだろ!」 「あー……流石に周りがこれだけ静かだと聞こえちゃいますね」 笑みを濃くして坂田はスラックスのポケットから、掌にすっぽり収まるサイズのリモコンを取り出す。だがすぐにスイッチを切ってはくれず、「ああ本当に点いてる」なんて不作為を装っていた。 「昼間は誰にも聞こえてませんでしたよね。でも土方さんがエロい顔してたから、何人かは怪しんでたような……」 「早く、止めっ……」 向かいで腰を下ろす坂田の持つリモコンへ必死で手を伸ばすも、難無く躱されてしまう。 埋め込まれた物の刺激だけではない。坂田に見られているという事実が土方の身体を歓喜に湧かせ、下着に染みを作っていた。 「んんっ!」 「気持ち良さそうですね。このままイケるんじゃないですか?」 「い、やだっ――お前以外で、イキたくな……」 「そんなこと言ってぇ……トイレでヌいてたの知ってますよ」 「それは……っ!!」 内側の敏感な箇所を苛まれ、どうにも我慢ができなくて緊急避難しただけ。坂田と思いを通わせ合ってからというもの、自らの手で処理することもなくなっていた。 「今日、何回イキました?」 「……三回」 「それはザ〇メン出した回数でしょ?土方さん、出さなくてもイケるじゃないですか」 「……分からない」 「分からないくらい沢山イッちゃった?」 「う、んんっ!!」 「今もイキましたね?」 話しているだけで上り詰めていく身体。坂田との交際でそのように変えられたのだ。彼の手ではないけれど、彼から与えられた玩具の振動で、彼の視線に晒されて―― 「んっ……あぁ!!」 土方はまた出さずに達してしまう。それでも辛うじて射精だけは食い止めていた。 「はいどうぞ」 「え……」 唐突に握らされた小型リモコン。止めたかったらご自由にと言われ、突き放されたように感じた。 「お前が、止めてくれ」 「俺は止めたくないなァ……感じてる土方さん見るの楽しいし」 「あ……」 己の痴態が坂田を悦ばせている――背筋をぞくりぞくりと快感が這っていく。 「止めなくていいんですか?だったらもっと強くしてみます?」 「強、く……?」 手元を見れば、三つある小さなランプのうち二つが灯っていた。 日中に味わった強い振動は今まさに身に染みているもので、つまりは未知の刺激があるということで……柔らかく、且つ愉悦たっぷりの声が耳元で囁く。 「きっとすぐに出ちゃいますけど、もうカウパーでパンツびちょびちょだからいいですよね?」 「…………」 暗示にでもかけられたかのごとく、土方の指はスイッチを押した。 「ああぁっ!!」 弾けるような感覚と共に土方は床へ倒れ込む。 「ああ!ひっ……ああっ!!」 停止ボタンは未だ自らの手に。止むはずのない刺激に襲われて、着衣のまま吐き出したことに頓着する余裕はない。 「坂……銀時、ぎんときぃ……」 「どうしたの十四郎?」 「お前が……ほしい……」 「ローターでイケたんだからいいでしょ」 「や……だ……」 今日一日ずっと思い続けていた願望。プライベート用の呼び名を使い、口にしてしまえばもう堰を切って溢れ出した。 高い所から己を見下ろす坂田の、隆起した股間に喉が鳴る。 「いれて……おねがい……」 内側からモーター音を響かせたまま、足元へ這い、革靴の爪先へ唇を寄せた。 「仕方ないなァ……」 「あっ!」 腕を引っ張り上げられて立つも、抱き着いていなければまた床に沈んでしまう。右手を優しく包まれて、リモコンのスイッチがオフになった。 「ハァ、ハァ……」 「本当はね、俺もローターに嫉妬してた。十四郎の中にずっと入ってられるんだから」 「銀時がくれたから、俺……」 「うん。分かってるよ」 漸く動きを止めたリモコンローターは坂田からの誕生日プレゼント。職場で使ってみたいと言われ、土方自ら中に入れて出社したのだった。 その時はお互い、これ程までに振り回されるとは思ってもみなかったのだけれど。 「机に手を……あ、やっぱり手は後ろ」 「んっ……」 土方の上体をデスクに押し付け、後ろに回させた両腕を、外してあった土方のネクタイで括る。ベルトが開かれ、スラックスと共に腿まで剥かれれば、残りは重力に従いすとんと落ちた。土方の下着から伸びる水色のコードの先は、右足に巻き留められた同色の受信機と繋がっている。 間もなく、下着もずらされ挿入部分が露わになる。坂田が軽くコードを引くと、親指大のローターがずるりと抜けた。 「あ、んっ……」 素早く自身の前も寛げ、物足りなさにひくつく孔へ坂田は己の欲望を捩込んでいく。 「あーっっっっっ!!!!」 土方から噴出した白濁液は机の下へ飛び散った。
* * * * *
一ヶ月後、万事屋にて。 「ここは名前呼んでイッてほしいよなァ……」 「なに読んでんだ?」 「もっもう風呂上がったの!?早いね!」 「それ、トッシーが書いた本じゃねーか!」 「違っ……」 「捨てろ、つっただろーがァァァ!!」 「いっ一応アイツ霊的なアレだから、下手に処分して呪われないように、まずは中身の確認をしまして……」 「いいから寄越せっ!」 「あっ……」 哀れ銀時は密かな「愛読書」を奪われてしまった。内容はほぼ暗記できているくらいに読み込んではいるが、現物のない寂しさはいかんともしがたい。 「チッ……」 「痛っ」 しょげる天然パーマに向けて、土方は奪取したばかりの本を投げ付けてやった。 「俺の目に触れなければ、所持は認めてやる」 「土方ァ……」 銀時の目に温かな涙が浮かぶ。そこから視線を逸らした土方の頬は朱に染まっていた。 「すっ少しなら、SMプレイにも付き合ってやるから……あんま読むな」 「土方っ!」 感激のあまり抱き着いた拍子に土方が長イスに倒れる。風呂には入れと殴られて、意気揚々と鼻歌混じりに浴室へ赴く銀時であった。 その背中を見送った後、放置された薄い本を手に取り、恋人の好みの研究に勤しむ土方がいたとか。
(15.05.09)
最後にはデレた「本物」の土方さんでした*^^* 恥ずかしいから怒鳴って否定しちゃうだけで、本当は銀さんの好きにされるのも 悪くないと思っているのではないかと。銀さんは銀さんで、土方さんが素直なドMだったら物足りないと思いそう(笑) ここまでお読み下さりありがとうございました。
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