飲めば眠れる夜もある
今日も今日とてよく飲んだ。火照った身体に夜風が心地好い。時折舞い落ちる桜の花びらが更に気分を良くしてくれる。 ふふふんと鼻歌混じりに家へと辿り着いた銀時は、玄関に立つ黒い人影――着流し姿の土方――に相好を崩した。 「いらっしゃーい」 「遅ェよ」 家主の帰宅を確認し、即座に扉を開けた土方。長い付き合い。鍵がかかっていないことは知っていて、それでも留守に上がり込むことはしない律儀さに愛しさが募る。待たせてごめんと抱き締めて、ふと、約束などした覚えがないと思った。 だがそれは詮なきこと。どうやら彼も大分酔っている。酔って素直になった恋人の、会いたい人が自分なのだという事実だけで満ち足りた。肩を抱き、薄暗い室内へと入っていく。 「お茶入れるから上がってて」 「ここでいい」 「おわっ!」 草履も脱がずに銀時の着物を引いて、土方は板の間に腰掛けさせた。己を見下ろすその目は据わっていて、逆らわない方が身のためだと言外に伝えている。 「出せ」 「へ?何を?」 「何って……ナニだよ」 「はい?」 理解の追いつかない様子にチッと舌打ち、土方は土間に膝を付き銀時の帯に手を掛けた。 「ひひひ土方くん?」 まさかそんなはずは……聞き間違いだと思いたかったが、土方の行動は銀時の耳が正常に機能していることを証している。 「ふおっ!」 動揺のうちに取り出されてしまった一物は、ぱくりと咥えられてしまった。 一体これは何事だ。幾度肌を合わせても、閨に誘えば毎回頬を染める土方が、そういう類のプレイでなければ自ら求めることのない土方が、AVの話をしただけで蔑むような視線をくれる土方が――そうだ。酔っているのだ。 「土方くーん、それ、銀さんのチ〇コですよー」 酒のせいで正常な判断が下せないのだろうと結論付けた銀時。きっと、マヨネーズでも啜っているつもりなのだ。我に返れば後悔の渦に飲み込まれること間違いなし。この状況も、覚醒して羞恥に震える土方も美味しいけれど、気の毒だから真実を告げてやることにした。 「ん、むっ……」 「土方くん聞いてる?それ吸っててもマヨネーズ出ないからね」 「……何でデカくなんねーんだよ」 「あれ?」 下からじっと見詰めながら右手で陰茎を擦り上げる土方。台詞からするに存外事態を把握できている模様。しかも、左手を自身の着物の中へ潜り込ませたではないか。 「ハァ、ハァ……」 「…………」 銀時の位置からはよく見えないけれど、おそらく秘所に指を這わせている。もしかしたら中に入れているかもしれない。 ごくり――銀時は喉を鳴らした。 滅多にどころかもう二度とお目にかかれないような景色。本人がヤりたがっているんだし、こちらがヤれと言ったわけでもないし、酒に飲まれたのが悪いんだし……いいかな。 「ハァッ……やればできるじゃねーか」 「……どうも」 芯の通り始めたモノへ満足げに視線を落とし、口付けるかのように先端へ唇を寄せる。「本体」にはキスの一つもくれないくせにと妙な嫉妬心が擡げてしまった。 「土方くんのパンツの中が見たいなぁ」 素面の時なら殴られかねないおねだりをして、こちらも用があるのは下半身だけだと装う。充血した瞳が無言で見上げてきた。 「えっと……見せてくれたら、ムスコがもっと元気になるかなぁと」 普通の状態でない相手を思い通り動かすのはやはり気が引ける。恋人ならなおのこと。ちょっと贅沢言ってみただけだから、見なくても土方くんが触ってくれるだけで充分だからと茶化したにもかかわらず、普通の状態でない恋人は、帯を解き、下着を脱いでしまった。 「見えるか?」 「あ、はい」 脱ぐのに邪魔だと蹴り飛ばした草履はそのままに、土方は素足で土間に立ち、膝を開きながらしゃがんでいく。その中心は真上を向いて濡れそぼち、銀時の喉がまた鳴った。 「ハァ、んっ」 銀時のモノを再び口内へと招き入れつつ左の指を後孔に埋める。 こんな強烈な光景を見せ付けられて興奮しないはずがない。間もなく口の中いっぱいに膨らんだ。 「ぐ、ぅ……」 やや苦しげに声を漏らしながら喉の奥まで使い一物を愛撫する土方。中の指は三本に増え、張り詰めたモノは刺激を受けずに雫を量産し、土間に丸い染みを作っている。 その黒髪を指で梳き、銀時は熱い息を吐いた。 「もういいよ」 ここまで育て上げてくれた礼に最高の快楽を。指では届かぬ所までたっぷり愛してあげたい。 「……土方くん?」 なのに口が離れる気配はなく、銀時に焦りが見え始めた。右手でやわやわと袋を揉まれ、先走りを啜られ、舌が蠢く。このままでは土方と合体する前にイッてしまう。 「土方っ、出そう」 情けないが背に腹は変えられない。土方ほどではないにしろ己も立派な酔っ払い。二回も勃てられる自信はなかった。 だから正直に負けを認めたと言うのに土方は止まってくれない。 「あっ、く!」 むしろ口撃は激しさを増していった。股の間で揺れる頭に冷や汗が流れる。 「離……イッちま、からっ」 ちらりと下から視線を寄越してラストスパート。銀時は白旗を揚げた。 「っ――!!」 土方の口へ欲を吐き出して、ばたんと後ろに倒れ込む。足の間では荒い息遣いとともに陰茎を舐め上げられていた。 土方くんごめんなさい。今夜の銀さんはギンギンさんになれません。おやすみなさ―― 「い?」 右腿に重みを感じて上体を起こせば、そこを枕に下半身裸の土方は、膝を土間に付き座った姿勢で眠っていた。黒い着物に飛び散る白い跡は土方の出したもの。口端から垂れる白濁液が何とも煽情的で、眠気など何処へやら。再び上を向かんとする愚息にかぶりを振った。 「おやすみ十四郎」
* * * * *
翌早朝、土方が目覚めると薄い布団の上、銀時に抱き締められていて頭を抱えた。 同衾者の起きた気配で銀時の意識も浮上する。 「おはよう。昨日の君は最高だったよハニー」 「誰がハニーだ」 朝からふざけるなと布団の中で背を向けた土方は耳まで赤くなっていて、しでかしたことをきちんと覚えているのだと背後の男はにんまり。抱き寄せる腕にも力が篭る。 「離せ」 「昨日は土方くんからくっついてきてくれたのになぁ」 「…………」 己の痴態を悔いているのか無言で打ち震える土方。覚えてない?――揶揄するように問われてキレた。銀時に肘鉄砲をお見舞いする。 「ぐふっ!おいおい土方くん、照れ隠しなら抓る程度にいたたたたた!」 自身の胸に回る腕を、土方は爪が食い込む程に抓り上げた。 「爪!爪は反則!ギブギブ!」 「チッ」 「おー痛ェ……」 爪痕からは僅かに血が滲んでおり、やり過ぎたかと口には出さずに反省。傷口を撫でる替わりにぽんと軽く叩いた。 「いきなり来て、悪かったな」 からかわれて頭に血が上り失念してしまっていたが、昨夜の件に関しては自分に非がある。謝罪はせねばなるまい。 殊勝な態度に出られれば、銀時も穏やかに接するというもの。 「いつでも来いよ」 「……メガネとチャイナは?」 申し出はありがたいけれど気になるのは年頃の少年少女の行方。もしや前夜のあれを見られたのではあるまいか――判決を言い渡される心持ちで銀時の言葉を待った。 「新八は自宅。神楽はいるけど、寝ててお前が来たのも知らねェよ」 「そうか」 判決は辛うじて無罪。このまま神楽が目覚める前にここを出れば子ども達にとっては「なかったこと」にできる。早速起き出そうとする土方だが銀時の腕は緩まない。 「離せ」 「今日はゆっくりできるんでしょ?朝メシ食ってけよ」 万事屋を訪れた土方はかなりの泥酔状態だった。翌日早い時間から仕事があるのならそんな飲み方はしないはず。けれど土方の心配はそこではない。 「チャイナが起きちまうだろ」 「昨日のは見られてねぇから大丈夫。……今日は神楽がメシ当番だから卵かけご飯だけど、マヨネーズは常備してあるし」 「だがな……」 銀時と交際してからというもの、ここで夜を明かし、万事屋メンバーと揃って朝食ということは何度もあった。しかし普段なら夜は銀時と二人きり、朝になって新八と神楽が合流という形。 「慌てて帰ったら逆に怪しまれるよ?何食わぬ顔でいればいいって」 「そうは言うが、チャイナがいる家でことに及んだとバレるのは……」 「酔い潰れた俺を連れて来てくれたってことにすれば?で、土方くんは俺が心配で泊ってくれた」 「……お前はそれでいいのかよ」 「問題ねぇよ。ゴミ捨て場で寝てたこともあるしな」 汚れ役はお手の物。この程度で揺らぐ銀時の「株」ではない。従業員の印象よりも、珍しく酒に溺れた土方の支えになりたかった。 「正体なくすくらい飲みたい日なんて誰でもあるって」 「別に、酒が飲みたかったわけじゃねぇよ」 「色々とストレス溜まりそうだもんなぁ」 「……溜まってたのはストレスじゃねぇ」 一人で悪者になろうとする銀時に申し訳なさが募り、土方は全てを暴露する。 「ふいに、飲みたくなったんだ」 「うんうん、そういうことってあるよね」 「酒じゃなくて、その……アレを……」 「あれ?」 「だから、お前の、アレを……」 「俺の……?え?もしかして俺のザ○メンが飲みたかった、とか?」 「…………」 「冗談だって。そんなわけねぇよな?分かってるよー」 「…………」 笑い飛ばす銀時と静かになった土方。「もしかして」が真実の様相を呈してきた。 「え?マジでザーメン飲みに来たの?溜まってたのってそっち!?」 「……悪ィか」 「いやいや悪くない!そうだよねー……土方くんだってムラムラする時あるよねー」 「言うなっ!」 「ごめんごめん。もう言わない。昨日のことは二人だけの秘密な」 「……おう」 間もなく新八が出勤してくる時刻。 己の犯した失態に未だ落ち着きを取り戻せないでいる土方は気付いていない。自身が下着を身に付けていないことに。自ら脱ぎ飛ばした下着はまだ玄関に放置されていることに。
(15.04.10)
土方さんだって飲みたくなる日もあるよねということで*^^* 酔ったせいでおかしくなったわけではなく、酔って欲求に素直になっただけでした。 ここまでお読み下さりありがとうございました。
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