後編
改札口から三人が出て来たのを見届けて、土方は定春のリードを外してやった。一日ぶりの再会に
喜び勇んで突進した定春を神楽が難無く受け止め、心温まる触れ合いが繰り広げられる。
「競走ネ!」「わおん!」「待ってよ神楽ちゃん」――走り出した子ども達に「転ぶなよ」と声を
飛ばす銀時につられ、土方も彼らの保護者気分で微笑ましく見守っていたのだが……「俺達も
行こうか」と銀時に言われて初めて、彼らが戻って来ないことを知った。
分かっていたら味噌汁をタッパーに詰めて来たのに……不要になったリードを雑に畳んで握り、
土方は言葉数少なく万事屋へ向けて足を運んでいく。寒さが増したように思えてマフラーを顎まで
引き上げるのだった。
「寒い?」
「冬だからな。……味噌汁、アイツらの分も作っちまった」
「そうだったんだ。ありがとね」
リードごと包まれた手。寒さを理由に振りほどかず、ネオン煌めく町を歩いていった。
* * * * *
「あ〜、腹ん中がたぷたぷいってる……」
二人きりの夕飯を済ませ、銀時は炬燵に足を入れたまま後ろへ寝転がり天井を仰ぐ。自分の好みと
寸分違わず調理された味噌汁。感極まって鍋一杯平らげてしまったではないか。買ってきた駅弁は
封を切っただけの状態で放置されている。
「全部食うヤツがあるかよ」
食後の一服を終えて土方は、呆れつつも嬉しそうに銀時の弁当を包み直して冷蔵庫へ片付けた。
「こりゃ腹熟しの運動が必要だな。土方くん、協力してくれる?」
「はいはい……」
食べ過ぎなくともそのつもりだったくせに……土方が炬燵の電源を切れば、銀時もよっこらしょと
身体を起こした。
* * * * *
「はっ、んん……」
炬燵の脇に一組だけ布団を敷いて、下着一枚で抱き合い口付ける。
膨らみ始めた土方の股間に同じモノを押し付ければ、苦しげな喘ぎが上がった。
銀時は腰を僅かに浮かせて土方の下着へ手を潜り込ませる。
「っ……!」
「…………」
土方の反応は普段通り。けれど感触に違和感を覚え、銀時は布団を剥いで下着を取り去った。
「何かあった?」
「ん?」
口付けも愛撫も止んで、向けられた慈しみ深い眼差し。気遣いに不安、その根底に仄かな怒りが
見てとれて、土方は圧倒されてしまう。
「何かって……」
「お前が浮気なんてするわけねェ。無理矢理ヤられたんだろ?」
「は?」
土方には全く身に覚えがないこと。しかし、今や銀時の瞳には明らかな憤怒の色が表れていた。
「昨日か?今日か?」
「だから何の……」
昨夜、銀時を見送ってから今夜、銀時を出迎えるまで、すこぶる平和に過ごせたと説明しても
信用してはもらえない。何を根拠に疑われているのだと問えば、
「これ!」
「うっ……」
寒さで萎縮した陰茎に触れられて思わず眉を顰める。ナニがどうしたのだと起き上がった土方は
己の失態にやっとのことで気付いた。
根元と半ばにぐるりと付いた拘束痕。これまで幾度も自身で締め付けていたけれど、それは毎回、
銀時と会った直後。そこから次に会うまでに傷は自然と治癒していた。それが意図せず連夜の
交わりとなり、遂にその痕跡が明るみに出てしまったのだ。
「ここここれはその……」
「安心しろ土方。何があっても俺は味方だ!」
「いや……」
窮地に追い詰められた土方。こんな時、「真選組の頭脳」など少しも役に立ちはしない。
真実を吐露する以外の解決策が思い浮かぶことはなかった。
「あ、あのな……これは、昨日、自分で……」
銀時の腕から抜けて膝を抱える。凍えるような寒さの中、布団を手繰り寄せることも忘れて土方は
じりじりと徐々に銀時から遠ざかっていく。だが銀時は即座に間を詰め、土方の右手首を掴んだ。
「どういうこと?」
その目には未だに怒気を孕んでいる。土方を傷付けた「相手」に対する怒気を。
「昨日……自分でヤったんだよ!」
「うべっ!」
真剣に心配してくれる銀時の気持ちにいたたまれず自棄になった土方は、これが証拠だとばかりに
自分の荷物を銀時の顔面に投げ付けた。風呂敷の結び目が解け、二人の間に中身が散らばる。
その中から赤墨色の巾着袋を拾い上げ、銀時は開けていいかと尋ねた。
冷静さを取り戻したせいか肌寒さを感じて浴衣を羽織った土方は、銀時の申し出に黙って頷く。
「…………」
「…………」
巾着を開いた銀時はそこに入っているものを確認した瞬間、動きを止めた。
張り型と避妊具とコックリング二つ。まさかこれはもしかして……
「……私物?」
「ああ」
「自分で買った?」
「ああ」
「昨日、ここで使った?」
「ああ」
「えっとー……」
こういう形の「自分で」は予測していなかった。誰かに脅されてとか、自分のミスを取り返そうと
してとか、そういう理由で「被害」に遭ったのだと確信していたから。
土方が自ら進んで、というのはつゆ程も思わなかったのだ。
「こういうの、好き?」
「まあ……」
「そうなんだ……」
とても驚いた。心臓が飛び出るなんて生温い。胃も肺も肝臓も腎臓も、五臓六腑全てがショックで
機能停止するレベルの驚きだ。一緒に入浴するのも恥ずかしがるような土方がこんなに激しい
プレイを一人で……しかも俺ん家で。もしかして銀さんの布団に興奮しちゃった?いやでも道具を
持参してるってことは最初からヤるつもりで?というか俺の記憶が確かならば、昨日は銀さんと
ヤってるよね?それなのにこんな物使ってオナる程、足りなかったってこと?
「あのさ……」
普段より低い声。土方は微かに肩を震わせた。
「俺のエッチに不満があるなら言ってよ」
「そういうわけじゃ……」
「不満だから自分でヤってたんだろ?」
「……普通じゃない俺が悪いんだ」
膝に顔をうずめた様子からして、積極的に一人拘束プレイをしていたわけではなさそうだ。
ソフトなセックスで満足したいのにできないといったところか……
土方の葛藤は理解しつつも銀時は己の欲望を抑える気はなかった。
「ねえ、今日はこれ使っていい?」
ちゃりんとリングを人差し指に掛けて回す。うっすらと湛えた笑みは土方の背筋をぞくりと
冷やした。それを快楽と感じてしまう自身が疎ましく、土方はかぶりを振る。
「使わなくていい」
「俺は使いたいんだけどなァ」
「…………」
横目で見遣れば銀時の股間はトランクスに見事なテントを張っていた。それが自分のナカに納まる
ところを想像すると身体の奥がむず痒くなる。銀時の指に掛かった輪が自身に装着されると思えば
更に疼きが増す。
「使っていい?」
ここで駄目押しの一声。最早、首を縦に振る以外に道はなかった。
「わっ……」
了承した直後、布団へ押し倒され、手首を帯で括られて頭の上へ持っていかれる。
「おい……」
「手は縛っちゃダメ?」
「……ダメじゃねぇ」
「へへっ、やっぱり俺達、最高の相性だな」
「ふん」
せめてもの抵抗にと顔を背けてみたものの、身体はどうしようもなく高揚していた。左右の手首の
交点に帯が二周。固く結ばれた感覚に喉が鳴る。
帯の端は右側にある炬燵の足に結ばれた。身体が斜めになり、左足が敷布団からはみ出る。
「もうよだれ垂らして……昨日もシたんだろ?」
「っ……」
ぴんっと先端を弾かれて透き通った滴が飛び散る。
気を緩めれば忽ち達してしまいそうな状況で、土方はそれを堪え、銀時を見詰めた。この二ヶ月、
思い出の中でしか見ることのできなかった銀時の表情。柔和なようでいて射竦められるような瞳。
手首の束縛などなくとも身動きする気力すら奪われる。
全ては銀時のされるがままに――
「あっ、あぁ……」
前夜の痕に重ねられた金属のリング。二つ目の輪が閉じた瞬間、土方は精を出さずに昇り詰めた。
その人工物の間を、上を、銀時の舌が這い、土方は身を小刻みに震わせて感じ入る。
「土方くんのチ〇コ、パンパンに膨れて輪っかが食い込んでる。こりゃ痕が残るわけだ……」
「ハッ、んんっ……!!」
銀時の言葉に息を詰めて膝を擦り合わせる土方。その太股の間に手を滑り込ませて撫でながら、
「またイッちゃった?」
分かりきったことを敢えて問えば、土方の首が縦に数度振れた。
一人でしていた時よりも格段にキツイ――けれど興奮する己を止められず、撫でられているだけの
足は、この先を期待して徐々に開いていった。
「自分から足開いちゃって、やーらしー」
「あ……っ……!!」
まだ「そっち」にはあげないとでも言うように両乳首をぎゅっと摘まれて、土方はまた身体の
内側で達する。
「またイッたな?もう何回目?そろそろ外してやろうか?」
「やっ……」
両手でリングに触れられ、土方は慌てて腰を引いた。何度も射精を阻まれてとても苦しいし痛みも
感じる。血管を浮かべ赤く膨れ上がった一物は、銀時にも痛々しく見えて解放してやりたくなる。
けれど土方にはその前に欲しいモノがあった。
「入れてから、外し……」
「銀さんのチ〇コ、欲しい?」
「ほしいっ……!!」
ねだる台詞にも感じて震える土方。そんな身体で自ら膝を立て、足を広げていった。
「入れたらすぐ外すからな」
「んっ……」
潤滑剤を纏った先端が押し当てられると、土方の唇は無意識に弧を描く。
「あ、あ、ぁ……」
殆ど焦点の定まらない状態で、その代わりに愛しい人の存在を確かめようと、入口が蠢いた。
「う……」
銀時のこめかみを汗が伝う。そういえばナマで挿入するのは久々だ。なのに土方くんってばお尻の
中までノリノリで、いつもより気持ちがいいに違いない。ということはいつもより早――
「はっ……あ、んっ……」
「えええええ!?」
奥まで欲しくて堪らない土方は銀時の腰に足を巻き付け、一気に引き寄せた。
頭が少し埋まっただけであった一物は根元までずっぽり嵌まってしまう。
「はぁ……あっ、うんっ……」
「ちょちょちょちょちょっと待っ……」
土方の内部は歓喜に震え、それはそのまま銀時への直接的な刺激となる。体勢を立て直さねばと
抜きにかかった銀時であったが、
「あっ!!」
「ハァー……」
我慢できずに発射。それにも感じる土方は恍惚の表情で息を吐いた。
そしてナカは尚も蠕動を続け、銀時に萎える間を与えない。
「ああもうっ!」
「あぁん!!」
やけくそ気味に腰を打ち付ければ、愉悦に満ちた顔で喘がれる。
「ひぅっ……」
コックリングに手が伸びた。
初めに根元を戒めているものを。瞬時に迫り上がる射精感――土方は固く目を閉じた。
次に半ばのリングも外し、銀時の律動が再開される。
「ああああぁぁぁ……!!」
溜め込んだ精を一挙に吐き出して、土方は意識を手放した。
* * * * *
「…………」
「あ、起きた?」
土方が目を開けると、真っ暗な部屋で後ろから抱き締められながら布団の中に入っていた。
障子越しの明かりもなく、未だ夜だというのは判る。そう長くは眠っていないようだが、自分の
出したものはキレイに拭かれていた。
「水、飲むか?」
「ああ」
軋む身体を起こして見れば、炬燵の上に水差しとグラスが用意してある。土方にグラスを手渡すと
銀時は、布団から抜け出て電気ストーブを運んできた。
炬燵と反対側にストーブを置き、土方へ向けてスイッチを入れる。自分は寝ていた時と同じように
土方の背へ抱き着いた。
前に回った手が土方の萎れた一物を包む。そこは交わる前とは比べものにならない程、くっきりと
拘束痕が付いていた。
「痛そー……」
「ストーブのせいだ」
赤い光に照らされたら何だって重傷に見えると土方は言うが、有り得ない箇所にできた括れは軽く
触れても痛みを感じるらしい。銀時の指先が痕を辿ると、土方の身体はぴくぴくと不随意運動を
起こした。
しかし反応はそれだけにとどまらない。
「痛いのも好きなんだ……」
「…………」
返事はないものの、硬さを増した一物が何より雄弁に知らせてくれる。傷痕をなぞりながら銀時は
耳元へ唇を近付けた。
「もう一回ヤろうか?」
「……ヤるしかねぇじゃねーか」
「だよなァ」
支えの要らなくなった土方のモノは、出さずに治まることなど不可能に近い。
「でもよー……銀さんとしては、可愛い土方くんをこれ以上傷付けたくないわけ」
「……なら普通にヤればいいだろ」
流石にひかれてしまったかと気落ちしたのも束の間、
「尿道プラグって知ってる?」
「は……?」
まるで蓋をするかのごとく人差し指の腹で鈴口を塞がれて思わず振り返れば、加虐心に縁取られた
瞳と出会い、土方のモノから体液が滲み出てくる。
「差し込んで止めれば、括って止めるより痕は付かないと思わねぇ?」
「そう、だな……」
「じゃあ、使ってみようか?」
土方が頷くのを待たずに銀時は箪笥へ向かった。一番上の引き出しを開け、細長い箱を手に戻って
くる様子に、土方の熱い視線が注がれる。
「おもちゃ屋の福袋に入ってたんだ」
土方の目の前で開封され、取り出されたのは上部に輪の付いた銀色の棒。先は丸く、全体に緩い
凹凸がある。
未知の体験に土方の期待はいやがおうにも高まっていた。
銀時の言い付けに従い仰向けに横たわる。
「気持ち良くても動いちゃダメだよー」
「ああ」
万が一手元が狂えば、日常生活に支障を来す程の怪我をすることくらいは分かっている。
尤も、銀時の許可なしに動く気など今の土方にはないのだが。
尿道口に潤滑剤が垂らされ、プラグの先が埋め込まれる。
「ゆっくりやるから安心して」
「ああ」
元より銀時に全てお任せ。イタズラを仕掛ける子どものように煌めく目は土方の呼吸を大いに
乱していった。
「あっ、ん……」
「気持ちいいんだ?」
「はぅっ!」
最後の一寸程をずぶりと押し込めば土方の目尻に涙が溜まる。
「ごめんね。痛かった?」
「へー、き……」
「じゃあ……こうするとどう?」
ほんの少し抜いて元に戻す。それを数回繰り返すと、隙間から先走り液が漏れ出した。
「あっ、あっ、あっ、あっ……」
「こっちの穴も感じるんだ。でも、後ろの穴にもないと寂しいでしょ?」
「んっ、欲しい……入れて……」
「はいどーぞ」
にっこり笑って銀時は土方の右手にバイブを握らせる。それは既にコンドームが被されていた。
「これも福袋。俺のより細いけど、土方くん締まりイイから問題ないと思うよ」
「ぎん……」
「銀さんのチ〇コはまだあげない。ドMだってこと隠してた罰でーす」
「あ……」
こんな罰ならいくらでも……膝を立てて土方は自らの秘所へ性具を挿入した。
「あっ、ああっ……」
「慣れてるねぇ」
先ずは奥まで全部。次に抜けないギリギリまで戻る。先の方で前立腺を探り、見付けたらそこを
通過点に大きく前後運動。
「左足で影になって見えにくいなァ」
ストーブの明かりは土方の左足に当たり、挿入部に影を落としていた。
土方が左の膝裏に手を入れて引き寄せると光源は右の手元を照らし、銀時の眼前にバイブを
咥え込んだ穴が晒される。
「うんうん、よく見えるよー」
「あっ……んんんっ!!」
足の間から銀時の声が聞こえれば、高速で身体が痙攣し、土方の手は止まった。
「もうイッちゃった?まだスイッチ入れてないのに……」
「ああっ!!」
銀時がバイブに触れると、土方のナカで機械音が轟く。根元が回転し、先の方が強く振動する。
土方は瞬く間に再び絶頂へと昇り詰めた。
「ああああっ……!」
「さっきみたいにずぶすぶ動かしてんの見たいなァ」
喘ぎ叫びながらも銀時の要望はしっかりと捉らえていて、土方は右手を動かし始める。
「ひああっ!!はっ……ああぁっ!!」
快楽点を僅かでも掠めれば達し、達したそばから次の刺激でまた達する。左の内腿には己の爪痕が
刻まれ、一物は放出を求めて張り詰めていた。
「土方……」
「んんんんーっ!!」
覆いかぶさって口付けつつ、バイブと足から土方の手を解放させる。
「あ、あ……」
「いいもの見せてくれたご褒美あげる」
ずるりと抜けたバイブを止めて、銀時は猛る自身を最奥まで捩込んだ。
「ああああああっ――!!」
* * * * *
一週間後、真選組屯所と万事屋の、ほぼ中間に位置する連れ込み宿の一室で、萌黄色の浴衣を来た
坂田銀時はいそいそと風呂敷を広げて恋人の土方十四郎に中身を見せた。
「これ知ってる?エネマ……」
「だからどうした」
「使ってみたい?」
「いや」
「そんなこと言ってぇ、普通のエッチじゃ満足できないくせに!」
「つーか普通のエッチすらヤる気がしねぇ」
「はい?」
「今日はもう寝ていいか?明日、朝一で会議なんだよ」
「ちょっ……何言ってんの!?そんなことして困るの土方くんだよ!?」
「じゃあ困ったら会いに行く……」
「えええええ!?マジで?マジで寝ちゃうの?」
「ぐうぐう……」
「おいいいいっ!お前、そんな鼾かかねーだろ!?」
「zzz……」
「何人だ!なあ土方くーん、エッチしようよー」
「溜まってんなら厠でヌいてこい」
「はあああああ!?」
憑き物が落ちたように欲のなくなってしまった土方。銀時はどうにかこうにか拝み倒し、道具を
一切使わず中にも出さないという条件で今宵の交わりを許されたとか。
(14.01.29)
土方さん、一回(二回?)ヤったら満足しちゃいました*^^* まあ、暫くソフトにしてたらまたヤりたくなるかもしれないので、それまで銀さん頑張ってw
そして初・尿道プラグです!いつか書きたいと思っていた尿道プラグ!やっと書けました尿道プラグ!ノリノリM方さんに尿道プラーグ!!
……ここまでお読み下さりありがとうございました。