「すいまっせーんんんんんん!!許して下さいもう二度と致しません!!」
「……おう」

まだ薄暗い冬の早朝。万事屋と真選組屯所の、ほぼ中間に位置する連れ込み宿の一室で、萌黄色の
浴衣を着た坂田銀時は畳に額を擦り付けて謝罪していた。
相手は前夜からここで共に過ごしている恋人、土方十四郎。同じ浴衣を纏い、今し方目覚めた
ばかりの土方は、理由も分からないままに銀時の詫びを一先ず受け入れた。

全身が怠い。体内に銀時の名残を感じる。いや、そこにしか名残を感じない。自分の顔を汚す程、
多量に吐き出した記憶があるというのにだ。
そもそも今着ている浴衣だって自分で着た覚えがない。備え付けの、あまり着心地のよろしくない
浴衣。固めの生地は身体の線に寄り添いきれずすぐにはだけてしまう。脱がせやすいという点では
理に適っているとも言えるか……

脱線しつつ記憶を辿れば、謝られている訳も判明してくる。
昨夜、土方は陰茎を紐で縛られ強制的に射精を止められた状態で銀時と交わった。幾度も幾度も
出さずに達した末に拘束を解かれ、全てを吐き出すと同時に気絶――で、今目が覚めた。
激しくしすぎたと反省しているのだろう。大丈夫だと言って掛け布団を内側からめくってみせた。

「あの……」
「寒い。入れ」
「あ、はい」

有無を言わせず抱き寄せて目を閉じる。暖房の点いていない部屋は室内とはいえ凍り付く寒さ。
銀時の身体はすっかり冷え切っていた。
そういえば、何度目かの絶頂を向かえた頃、汗だくで暖房を切ったのは銀時だった。
自業自得――冷えた身体に思わず笑みが零れる。

「な、なに?」
「何でもねー……」

銀時の狼狽えぶりにくつくつと笑えば、ヤりすぎて変になったと平謝りでまた笑った。

「本当に本当にごめん。もう二度と激しくしないから」
「……どうやって?」

滅多に拝めない殊勝な態度に、少し意地悪な質問を投げかける。

「チ〇コ縛るとか、イカせまくるとか……とにかく、SMプレイからは卒業します!」
「はいはい……」
「本当に本当だからな?俺は生まれ変わる!」
「分かった分かった」

どうせ口だけだろうと高を括り、土方は二度寝に入っていった。


売り切れたもの程ほしくなる


日は長くなったにもかかわらず、寒さは益々厳しくなった真冬の深夜。銀時は土方を屯所まで
送り届けていた。

屋台で一杯ひっかけてから三時間のご休憩。土方の仕事の関係で、今夜の逢瀬はこれで終わり。
局長が地方へ出ている今、副長は屯所へ詰めている必要があった。それでもいいかと銀時を
誘ったのは土方である。

「泊まれねェのに悪かったな」
「そんなことねーよ。三時間に一晩分のアレとかナニとか凝縮したからね」
「ハハッ……おかげで風呂に入りそびれた」

ぎりぎりまで抱き合っていた二人は、土方の出したものを軽く拭っただけで宿を後にしていた。
銀時のそれは避妊具に包まれて屑籠の中。

「ちゃんと暖まってから寝るんだよー」
「お前もな」

風邪引くなよと手を振り合って、土方は建物の中へ、銀時は帰路へ着いた。



縁側を通り、自室へ辿り着いた土方。左右を見回してから障子を開けて入り、静かに閉めた。
部屋の中央には床の用意。今夜は戻ると聞いて小姓が敷いたもの。恋人の気遣いも無視して土方は
そのままそこに潜り込んだ。


「ハァッ……」


冷たい布団に包んでも解消されない高ぶる身体。こんな状態で共同風呂になど入れるはずがない。
下着だけを取り去って、左の指を三本ナカへ挿入。快楽点に刺激を与える。


「んっ……」


SMプレイからの卒業を宣言されて一ヶ月。銀時は実に優しく土方を抱くようになった。
こそばゆい程に柔らかな愛撫と触れるだけの口付け、ゆるゆると引き出される快感に焦れた頃、
潤滑剤をたっぷり纏って侵入してくるモノにはゴムが被せられている――達せないわけではない
けれど物足りない。銀時と付き合う中で気付いたが、おそらく元からその気はあったのだろう。

辱められながら快楽に溺れたい。

前立腺を擦りつつ、吐精しそうな陰茎を右手で強く握った。


「くうっ!」


「卒業」前だって、なにも毎回縛られて気を失うまで嬲られていたわけではない。けれど穏やかに
交わっているようでいて、反応の良さを指摘されたり結合部分を見せられたりと、土方の羞恥を
煽ってくれる瞬間が大抵あった。

それがこの一月はないのだ。

薄れゆく意識を必死で繋ぎ留め、脈打つモノを握り締めて左手を動かす。


「んんっ……!」


唇を引き結び、射精せずにイッて……


「あっ!んうっ……」


緩んでしまった右手に放出された精。堪えきれなくなった声を先走りに塗れた右手で塞ぐ。
その間も左手は内部で蠢いていた。


*  *  *  *  *


更に一ヶ月後。今宵は銀時の仕事前――夜行バスにて遠方の依頼先へ向かう前――の束の間の逢瀬。
「ご休憩」を終えて二人は新八と神楽の待つバスターミナルに来ていた。

「定春のことお願いネ」
「ああ」
「すいません土方さん」
「構わねーよ」
「いってきますのチュ〜」
「できるかっ!」

三人の乗り込むバスの発車を見届けて、土方はかぶき町へ引き返す。手には風呂敷包み。バスに
乗れない定春の世話を、二泊三日万事屋に泊まり込みで引き受けていた。

土方は今日から三連休。年末年始を休みなく働いた替わりの休みである。
こんな時に出張依頼なんてとサボる気でいた銀時を説得したのも土方。何でも、依頼人は山奥の
温泉宿の女将で、麓へ通じる唯一の道が大雪で鎖されてしまったらしい。それなのに、女将は
スタンド使いだから平気だとか土方には理解しかねる理屈でごねた銀時。見送りと出迎えと、
その前後にデートすることで何とか合意を取り付けたのだった。

「わうっ!」
「邪魔するぜ」

玄関にいた定春の額を撫でて上がれば、今日の主と認めてくれたのか、寝床である押し入れで
定春は丸くなる。土方も休もうと和室へ足を踏み入れた。

炬燵を隅に寄せたその部屋の中央に、銀時の布団が敷かれている。寝る準備はしておいたと出発前、
銀時が言っていた。予備の布団もあるというのにあの野郎――土方くんが寂しくないように
しといたから、などと恩着せがましくしていたが、自分の布団で寝てほしいだけじゃないのか?
瞼に浮かんだ銀髪天然パーマに仕方ねぇなと息を吐き、土方は寝巻に着替えて布団に入った。



「くそっ……」

明後日になれば銀時に会えるけれど、こんな布団では我慢できそうにない。銀時が傍にいると
錯覚してしまうようなこの状況では……念のため持って来ておいて良かったと土方は枕元の
風呂敷を広げた。

中身は着替えと煙草、マヨネーズは既に冷蔵庫、そして潤滑剤にコンドームにコックリングと
張り型。先の交わりで銀時と使用した物ではなく、土方が個人的に買い得た物。温和になった
銀時に代わり、自身を慰めるために――


「んっ……」


下着を脱いで裾を開き、勃ち上がった己の欲の、根元と半ばをリングで戒める。
ゴムを被せた張り型に潤滑剤を塗布して、土方は再び横になった。


「あ……」


人工物を押し込みながら、脳裏に描くのは恋人の顔。チ〇コ欲しかった?お尻、気持ちいい?
揶揄 するような笑みを浮かべつつ自身も酷く高揚しているあの表情を、もう見ることはできない
のだろう。


「う、あっ……」


張り型で内部を掻き回せば、膨らむ幹に輪が食い込んだ。痛みを感じる程にキツイ。けれどそれが
気持ちいい。土方は張り型を動かし続ける。


「ハァ、んんっ……!」


銀時に求めるつもりはない。自分が間違っていると思うから。
緊急召集に備えておかねばならない身の上。こんなことで足腰立たなくしていいわけがない。
しかし、身体は意に反して疼きを増していき、道具に頼らなければ治まらなくなっていた。


「あっ、ああっ!!」


リングに阻まれて内側のみで絶頂を迎え、止まりかけた手。全霊を込めて動かせば、その身は
歓喜に震えた。


「うあっ!ぎ、んっ……」


右手でナカに突き刺さる物を、左手は液を漏らし続ける先端を弄る。意識と同時に羞恥心も
罪悪感も霞んだ。


「あぁっ!ハッ、あぅ……!!」


一物を離して左の乳首を抓り上げる――また出さずに達した。
翌朝、自己嫌悪に陥ることは確実。己の浅ましさに反吐が出る。枕を濡らしたのは、そんな土方の
葛藤ゆえか、単に強い快感を享受したからか。


「ぎんときぃ……!!」


考えることを放棄して土方は漸く二つの戒めを解いた。唯一人の愛する者を求めて。

(14.01.18)


後編では銀さんと絡む予定です。アップまで暫くお待ち下さいませ。

追記:予定を変更して中編は土方さんと定春の話です。