月日が経てば自然にできると高を括っていたあの日の俺は、天津甘栗よりも甘かった。
酔った勢いでうっかり口を滑らせ、結果オーライ、十四郎と恋人同士になって一年余り。なのに
俺は未だ付き合う前の状況から一歩たりとも進めていない。無理をしてかなり照れながらも初日に
一歩踏み出した十四郎は、更にもう一歩先へ行っている。
これはマズイ。非常にマズイ。何とかしなくてはと焦る気持ちとは裏腹に俺は立ち往生……
どころか後退しているとすら言えよう。十四郎は気にしていないみたいなんだけど、これは俺の
問題だから。


言うは易しというけれど


「銀、風呂空いたぞ」
「……どうも」

濡れた髪を後ろへ撫でつけ首にタオルをかけ、浴衣姿の十四郎がほっこり湯気を立たせて居間に
やって来た。
言い忘れてたけど、今夜は十四郎がウチに来て四人と一匹でメシを食った。で、ドラマを見てから
二人と一匹は無駄に広いメガネ屋敷へ。メガネとメスゴリラだけで暮らすにしちゃあデカいから、
部屋は有り余ってるんだってよ。

というわけで現在、十四郎と俺は二人きり、ラブラブいちゃいちゃタイムへ突入!
……の準備として十四郎が先にお風呂を終えたところ。本当は一緒に入りたいんだけど、
受ける方は何かと色々することがあるし、俺がしてもいい、というか寧ろそんなプレイも
ありだと思う、けれど十四郎が嫌がるので基本、風呂は別々。
タオルでがしがし髪の水気を取る十四郎。あんないい加減でピッタリV字ヘアーを保てるんだから
羨ましいことこの上ない。

「風呂、入らねぇのか?」
「風呂よりも土方くんに入っちゃおうかなァ……」
「冷める前に入っちまえ」

追い焚きは不経済だなんてウチの家計まで心配してくれちゃって。しっかり者の十四郎に口元が
緩めば、ヘラヘラするなと厳しい一言。そして携帯電話を取り出すと、

「一本連絡入れなきゃなんねぇんだ」

暗に席を外してくれと示した。
聞き分けのいい俺はすぐに風呂場へ向かおうとしたがその背中越しに、

「銀、いつも悪ィな」
「……いや」

またしても今の俺を落ち込ませる言葉がかかる。十四郎にそんな気がないのは分かってる。
俺が情けないからそう聞こえるだけだってのも分かってる。だけど……

「ハァ……」

建て付けの悪い扉を思い切り開けて溜め息を掻き消し、俺は着物を脱いだ。
暖房なんて勿論ない脱衣所は先客のおかげで暖かく、また遅れをとったと感じて溜め息が出る。
居間からは電話をしている十四郎の声。微かに「総悟」と聞こえたから大した用事ではないはず。
つまり予定通り朝まで一緒にいられるってことだ。

よしっ。

今夜こそ決めてやると固く心に誓い、俺は風呂場へ足を踏み入れた。


*  *  *  *  *


ふ〜やれやれ、やっとできたぜ。一度やっちまえば何てことはなかったな。これも一年以上続けた
イメージトレーニングの賜物。
けどあの時の十四郎の表情は生唾ものだった。もっと早くしてやればと申し訳なく思う反面、
このタイミングだったからこそ、照れと喜びを気怠さに混ぜ込んで幸せソースで和えたような、
あの顔に出会えたのだとも思う。
とにもかくにも俺達の恋人レベルは格段に進化を遂げたのだった――

うん、イメトレはこのくらいでいいだろう。
ある意味今もまだイメトレ続行中なのだがそれは置いておくとしよう。

風呂から上がった俺は十四郎の待つ寝室へと急いだ。節約に協力的な恋人のおかげで廊下も居間も
電気は消されており、開け放たれた襖から広がる寝室の明かりが懸命に俺の元まで照らしてくれる。
その光がいざなうままに進めばそこには、布団の中で俯せて煙草を吸う十四郎。枕元に置かれた
灰皿は、依頼人用とは別に半年前二人で選んだもの。普段は箪笥の中にしまってあって、十四郎が
来るというと新八か神楽が出しておいてくれる。

「布団、温まった?」
「テメーのは冷えてるけどな」

隣の布団を顎で指し灰皿に煙草を押し付けてニッと笑う十四郎は、別の布団でなんか寝かせて
くれない妖艶さを纏っていた。
ごろりと仰向け、空いた左側の掛け布団を捲って身体を潜り込ませる。
狭い――文句を言いつつも、俺の手が胸元に侵入してることには一切触れてこない。
だからぽっちり小さな性感帯を難無くつまませてもらった。

「んっ……!」

きゅっと目を閉じ眉を寄せる様はいつ見ても俺の股間を高ぶらせてくれる。先ずは乳首でイカせて
やろうか……人差し指の爪を立て、素早くかりかりと引っ掻いた。

「んんっ!」

びくんと身体が震えても手は止めないでいると、十四郎は内股をもぞもぞ擦り合わせ始める。
胸の快感が下に伝わっているらしい。でもそこには触らないよう上半身だけ斜めに覆い被さり、
両側のぽっちをかりかりかりかり……

「んあっ!」

声が抑えられなくなった十四郎はますますきつく目を瞑り、自らの痴態を恥じている。
もっともっと感じてくれていいのに。

「う、あっ!くっ……」

十四郎が声を上げまいとするのは羞恥心以外にもう一つ理由がある。
ここが俺の家だから。
階下は未だ営業中のスナックで、ご近所全員顔見知り。しかも俺が客商売ときてるから、
十四郎は部屋の外に喘ぎ声が漏れぬよう堪えていた。俺達の関係は皆知っていると教えたが、
それとこれとは別だと思っているらしい。
だけどそんな気配りを台無しにしたくなるのが人の性ってもんだろ?人っつーか、ドSの性かな。

「ハッ……あぁっ!」

かりかりの合間に指の腹でぺしぺし叩いたりくにくに潰したりしてみる。異なる刺激を受けて
十四郎の身体は跳ねっぱなし。布団の中で見えないけれどきっとチ〇コは完勃ち状態で、
お汁だって漏らしているかもしれない。

「あっ、はぁっ!」

だけどソコへ触れてほしいなんて要求は聞かれない。俺の思惑に乗っかってくれるらしい。

「あ……ぎ、んうっ!」

自分の耳を塞ぎたかったが無理なので十四郎の口を塞がせてもらった。
勿論、俺の唇でね。
こんな惨めな思いをするのもこれで最後。一通り終わったら、二通り目に行く前に――!

「んっ、んうっ!んっ、んっ……」

そうこうしてるうちに十四郎が限界みたい。
俺はキスを止めて右の乳首に吸い付いた。

「ああぁっ……!!」

びくんびくんと身体を震わせ、精液を出さずにイッた十四郎。

「あ、あ、あ……」

チ〇コでイカないと余韻が長引くようで、手も口も離したってのにまだ身体がひくついている。
ではその熱が冷めないうちに――

「は、ぁ……」

布団を剥いでわざと十四郎の肌に触れながら帯を外し、下着を脱がせた。パンツには恥ずかしい
染みがべっとり付いていて、出てきたチ〇コは発射寸前。これ、ぱくっとやったらイクな……
やらねぇけど。
焦らしプレイじゃなくてね、十四郎自身が望んでないんだ。だってその奥、下のお口がぱくぱく
してる。早く欲しいって、こっちでイキたいって。
チ○コから垂れた汁がケツの穴まで濡らしている。そのぬめりを借りて俺は指を二本埋めた。
そして、

「あああっ!!」

内部で指を曲げて伸ばしてを数回。前立腺の快感に十四郎はあっけなく射精した。
だが当然、これくらいで終わりじゃない。

「あああああっ……!」

指を動かし続けながらチ○コをぱくり。萎える間も与えず次の液を溢れさせる。

「ひうぅぅっ!」

俺の頭を押さえ込む両手は引き剥がそうとしているのか、もっとやれと言いたいのか……
勝手に後者だということにして続行。出てきたモノをじゅるっと啜りつつ中の指を三本に増やした。

「はあぅっ!!」

口の中が十四郎味で満たされる。この辺で俺も限界。ズボンとパンツを一緒くたにずり下げて
一気に挿入。

「ああああっ!!」

本日二度目の射精を果たし、十四郎は今、俺のなすがまま。だけど俺もそんな十四郎の虜に
なっていた。

「あっ、あっ、あっ、あっ……」

ケツにチ○コを突っ込まれて喘ぐ十四郎。それが許されるのは俺だけ――この事実は俺を大いに
高揚させてくれた。キツめの締め付けも逃すまいと吸い付くようで心地よい。
俺とお前さえいればいい、なんて薄ら寒いことを考えてしまう程に幸せな時間。
現実を突き付けられる前にと俺は十四郎にキスをした。


*  *  *  *  *


何度もイッた余韻で呆けてる十四郎を後ろから抱き締め、いよいよここからが俺にとっての本番。
やるぞ!やってやる!
……いかんいかん、気合いを入れてはダメだ。流れるように、スマートに、さらりとやり遂げ
なくては。こんなことに必死でイメトレを繰り返していたなんて絶対に知られてはならない。
至って普通に、何でもないことのように……

「てぃょ……」
「ん?」

ミスったァァァァァァ!!何か日本語には存在しない音が出た!!振り返られちまった。
どうする?今日はやめるか?ちょっと息を吐いた隙に声が漏れちまっただけで特に意味はないって
ことに…………ダメだ!そうやって一年以上経っちまったんじゃねーか!今日は必ず決めてやる!
幸い、俺の野望には気付かれていない。ここから仕切り直せばいいだけだ。行け坂田銀時!!

「とっ……ても気持ち良かったでしょ?」
「あ?ああ、まあ……」

いちいち聞くなと頬を染めてぷいっと向き直る姿はとても可愛い。可愛いんだが……
そんなことが聞きたかったわけじゃねェんだよォォォォォォ!!バカっ!俺のバカ!
でっでも視線が合わなくなった今なら――

「とっ……特別、頑張ったからね」
「え?」

うがァァァァァァァァ言えねェェェェェェェ!!たった五文字。何なら二文字でもいいのに
言えねェェェェェェ。ヘタレ!意気地無し!天パ!

頭の中で自分自身を罵ってみても口は動かない。早く言わなくてはと気だけが急いていく。

「なあ銀……」
「なっ何か!?」
「もしかしてお前――」

くっそ〜、何で簡単にできるんだよ!ずりぃよ!

「――たのか?」
「へっ?」

聞いてなかったァァァァァ!何て言ってた?何か尋ねてる感じだよな?とりあえず肯定しとくか。

「えっとー……まあ、そうかな?」
「そうか」

あれ?納得しちゃったんですけど。あんなんで切り抜けられた?

「それで家に呼んでくれたのか?」
「へっ?」

切り抜けられてなかったァァァァ!もう早いとこ謝っちまおう。長引けば罪が重くなるだけだ。

「ごめ……」
「一年前はお前の布団だったか?」
「え……」
「外で飲んで、その後誘われたんだったな」
「ああそうね……」
「お前がやけに親切だから、魂胆はすぐに分かったけどな」
「そうだったんだ」

ぼんやりと前を見ながら語られた内容から、有り難いことに話の筋が理解できた。
今日は俺達の初エッチ記念日。一年前の今日この場所で俺達は初めて結ばれたんだ。今の今まで
忘れていたが、偶然にも計画を実行するのに最良の日だったのか!
折れかけていた心を奮い立たせ、俺は大切な存在が腕の中にいる幸せを噛み締める。
己のちっぽけな矜持のためではなく、この人のために、愛と感謝を……

「あのな」
「ん?」

愛しいあの子が一瞬だけこちらを向いた。一年だからと、か細い声で話し始める。
どうやら何かしたいようだ。記念エッチ的なこと?
なら二回戦は希望を叶えつつあれもすれば一石二鳥ではないか。

「その、もし良かったらで構わないんだが……」
「何でも言って」
「俺のこと……」
「土方くんのこと?」
「下の名前で、呼んじゃくれねぇか?」
「…………」

絶句。硬直。ご臨終。
チーンと、お鈴の音が頭の中で響いた。

身も心も恋人同士になって一年の記念にと望まれたことはまさに、俺がイメトレを積んだ――
いや、頭の中でしかできなかったこと。
恋人に対して「万事屋」はないだろうと初日に「銀時呼び」を宣言され「だったら俺も十四郎って
呼ぼうかな」と言おうとしたものの言葉が出なかった。
脳裏に「十四郎」と浮かべただけで脈拍過多。少し練習期間が必要だと、その日から瞼の裏の
恋人に向かって名前を呼ぶ日々。トレーニングの甲斐あって今では普通に呼べるようになった。
……想像上は。

なのに相手はあれよあれよという間に「銀時」から「銀」に進化してしまう始末。今宵こそはと
奮起したはずなのに結局ぐだぐだで、結果、求められるという大失態。

「無理にとは言わねぇよ。呼び方なんぞで思いの大きさを測る気もねぇしな」

俺が黙ったのを拒否か葛藤と受け取ったようで透かさずフォローを入れてくれる。
こんなに優しい恋人に俺は、俺は……

「十四郎ォォォォォォォ!」
「なっ!?」

腕だけじゃ足りず足も巻き付けて十四郎を掻き抱く。

「大好きだよ十四郎。愛してるよ十四郎。結婚しよう十四郎!」
「てってめ……誤解だ誤解!テメーの気持ちを疑ってるわけじゃねーよ!」
「分かってるよ十四郎。俺が言いたいだけだよ十四郎」
「いちいち呼ばなくていい!」
「呼びたいんだよ十四郎……あ、トシって呼んでもいい?」

覚えたての言葉を連呼するガキみたいな俺に呆れつつ十四郎は……いや、トシは呼びたいように
呼べばいいと応えてくれた。

「トシとずっと一緒にいたい。俺にはトシだけだから」
「わっ分かってる……」
「アイラビュートシ〜。アイニージュートシ〜」

それから俺は、思い付く限りの愛の言葉をトシに捧げた。

情けなさと申し訳なさから顔を上げられなかった俺にトシの反応は見えなかったけれど、
とにもかくにも俺達の恋人レベルは格段に進化を遂げたってことでひとつよろしく。

(13.12.03)


ヤることはとっくにヤってるくせに、こういう初歩的(?)なことでもだもだする二人も好きです。銀さんと土方さんでは恥ずかしさのベクトルが違う気がする。
土方さんは、エッチにとても積極的な銀さんが呼び方くらいで照れるなんて思ってもいません。だから最後に連呼されたのもリップサービスだと思ってるんじゃないかな。
何にせよ、ヘタレ攻めっていいですよね*^^* ここまでお読み下さりありがとうございました。



メニューへ戻る