おまけ
前の晩。気の利く子ども達のおかげで二人きりになれた恋人達は、早々に布団へとなだれ込んだ。
こうして睦み合うのもひと月ぶり。口付ける前から銀時の下半身は膨れ上がっていた。
「メシ食ってる時も、早く土方くん食いたくてうずうずしてたんだからな」
「悪ィ……」
仕事のせいで会えなくて、暖房のない部屋の寒さが心地好いと思える程には高ぶっていたから、
「その……今日は、ちょっと激しくても、いいぞ」
「マジでか!」
土方も控え目に誘い文句を口にしてみた。
「何にしようかな〜」
いざという時の煌めきを瞳に宿して箪笥を漁り始めた銀時に、痛いのはナシだと慌てて追加。
「分かってる。……これでどう?」
銀時が手にしたのは黒いアイマスク。それくらいならと装着を了承した。
布団の上で胡座をかく土方の目をアイマスクで覆い隠し、にんまりと笑う銀時。
その様は視界を奪われた土方にも何となく感じ取れた。
「楽しそうだな」
「あ、分かる?」
「テメーはっ……」
ふいに左耳に柔らかなものが触れ、土方の言葉が止まる。
「俺は、なに?」
「チッ……」
目隠しを受け入れたのは自分だけれど、銀時優位なこの状況は腹立たしい。舌打つ恋人に
くすりと笑みを零して、銀時は土方の帯に手を掛けた。
「脱がすよー」
「ああ」
しゅるりと帯を解き、肩からぱさりと着物を落として土方の後ろへ回る銀時。
「そっちの手もちょうだい」
「ん」
右腕を後ろに回されて、縛られるのだと思いながらも土方は自ら左腕を後ろへ。肘を曲げて腕を
揃えれば、予想通り二本の腕が纏めて固定された。この感触は恐らく先程外した己の帯。
「縛るの好きだな」
それしかないのかと皮肉を込めて言ってやれば、土方くんは縛られるの好きだよねと返された。
「誰が……」
認めたくはないが、縛られるのは嫌いじゃない。でなければ大人しく拘束させるわけがない……
きっと、銀時もとうに気付いている。けれどいつも「なんだ違うのか」と残念そうにしてくれる。
「っ……」
首の後ろをちゅうと吸われ、それからゆっくりと後ろに倒された。
煎餅布団と背中に挟まれた両腕が窮屈だが仕方ない。それよりも銀時が離れて行く方が堪える。
触れられていないと、取り残された感覚に陥る。声が聞けないと更に。
「…………」
普段は煩いくらいに喋る男が無言で口付けた。不安を煽るため敢えて、というのは触れた口元が
弧を描いていたから分かる。だからまた一つ舌打てば、
「傷付くなぁ」
漸く声が発せられた。
「キスしちゃダメ?」
「テメーのにやけ面がムカついただけだ」
「……見えんの?」
「見えるわけねェだろ」
「だよねー……」
「っ……」
乳首をくすぐる感触に身を強張らせれば、やっぱり見えてないんだと零される。
「何だよ」
「何が?」
「今やったやつ。……さっきの耳と同じか?」
「さて、何でしょう!」
「……どうでもいい」
「え〜……」
ノリが悪いなァと言いながら、耳かきの梵天だと教えてくれた。
梵天は土方の胸の上を滑っていく。
「っ……んっ……」
「気持ちいい?」
「…………あっ!」
答えないでいると、下着の上から俄かに股間を掴まれた。
「硬くなってる。……気持ちいいなら素直に言ってよ」
「ん……あ、ん……」
銀時の手が土方の下着に掛かり、それは一気に取り払われる。
「おー、絶景!」
土方の足首を掴んだまま立ち上がり、脚を開かせて股間を見下ろす。
「おつゆ漏れてる土方くんのチ〇コ、丸見え」
「下ろせ」
「だーめ」
言いながら銀時は足の裏で土方のモノを踏み付けた。約束通り、痛みは感じない程度の強さで。
「くっ……」
「気持ちいい?」
「っ……あ!」
ぐりぐりと絶妙な力加減で踏まれ、土方は歯を食い縛り快感に耐える。
「銀さんの足の裏、土方くんのおつゆでヌルヌルなんですけどー」
「るせっ……ぁ……や、なら……やめ、ろっ……」
「やめたら困るくせにィ」
と言いつつも銀時は一物から足を外し、土方の脚も布団に下ろした。
「拘束目隠しでチ〇コビンビンの土方くん……ほーんと、いい眺め」
「ハッ……見てるだけで、いいのかよ」
「口が減らねェの……そういう悪いコにはお仕置きしちゃおっかな〜」
「ケッ……」
銀時は新たな道具を求めて箪笥に向かう。土方にとってもこれは想定の範囲内。
もし「良いコ」だとしたら「そんなに好きならもっとシてあげる」となるだけ。
結果は変わらないのだ。
フッフッフと悪役顔負けに笑いながら戻ってきた銀時。土方の足元に立っており、
見下ろされている気配は土方も感じている。
「っ!?」
右足の付け根に痛いような熱いような鋭い感覚。土方は飛び起きてアイマスクを外した。
「てめっ、何を……あぁ?」
銀時の手には白い二十センチ程の蝋燭。
却下――そう言って土方は蝋燭の火を吹き消してしまう。当然、銀時からは不満の声。まずは、
「縄抜け禁止!」
許可なく拘束を解いたことについて。仕事柄、抜けられるのは分かっているが、プレイ中は
そのスキルを用いないという暗黙の了解があった。そして、
「蝋燭もダメなのかよ!」
蝋燭プレイが認められなかったことについて。
「この前は鞭がダメ、つって蝋燭もダメ?……鞭も蝋燭もないSMプレイなんて、天パのない
銀さんみたいなもんだぞ!……あれっ?それっていいことじゃね?……って天パなめんなコラ!」
一人漫才を始めた銀時に土方は冷ややかな視線を送る。そもそも何故SMプレイありきなのかが
分からない。
「あっ、低温蝋燭ならいいだろ?」
「良くねーよ」
「低温だぞ!コレより熱くないから!」
「…………」
「ローション塗ったらもっと熱くないよ!ねっ?」
「…………」
銀時が熱くなればなる程、土方の気持ちは冷めていった。だが銀時は諦めない。
「お願い!三百円あげるから!」
「いらねー」
「チ〇コにはもう垂らさないから」
「さっきのはチ〇コ狙いだったのかよ」
「もうやらない!内股までにするから!」
「…………」
「じゃあ背中は?バックで挿れた時にちょろっと!」
「うーん……」
あまりの必死な様に土方は少し面白くなってきて、考えるフリをしてみた。
土方にとって非常にバカバカしいとしか思えないことに一所懸命な銀時が、愛しく思えてくる。
そもそも銀時を張り切らせたのは土方の「激しくしてもいい」発言なのだが。
「本当にちょろっと!痛くしないから!」
「……ちょっとだけだな?」
「誓います!」
「じゃあ……」
「愛してるよ土方くん!!」
仕方ないなと息を吐く土方に満面の笑みで抱き着いて、銀時は土方の首元にちゅうと吸い付
「痕、付けんな」
こうとしたが拒まれてしまった。
* * * * *
「んっ、んっ、んっ……」
布団の上に四つん這いになって、銀時を後ろから受け入れる土方。数回揺さ振られた後、
動きが止まった。ローションを背中を塗り込める銀時の呼吸は荒い。いよいよなのだと土方は
腹を括った。
「いくよ……」
「ああ」
背後でライターの音がすると土方が息を飲む。
それを結合部でも悟った銀時はにたりと口角を上げ、火の灯った赤い蝋燭を土方に向け傾けた。
「っ!」
ぽたり――肩甲骨と肩甲骨のちょうど中間辺りに赤い蝋が垂れる。「低温」だからか、心の準備が
できたからか……何はともあれ、これくらいなら堪えられそうだと土方は胸を撫で下ろした。
尤も、蝋燭など使わずに済めばそれが一番なのではあるが。
「ん……っ!」
再び銀時が腰を動かし始め、感じ入る土方の背にまたぽたり――
「うーん……」
「なんだよ……」
しかし間もなく銀時は動きを止め、考え込んでしまった。
「なんか……痛そう」
「あ?」
自らそういうプレイを持ち込んでおいて何を今更……見通しの甘さに土方は苛立ちを覚える。
「蝋燭が赤いから、流血したみたいに見えるんだよね……」
だから何を今更……まあ、これに懲りて蝋燭プレイなど止めるのであれば許してやろうか……
そんな土方の慈悲は、
「よしっ、普通の蝋燭にしよう」
「はぁ?」
発揮されることはなかった。
「くっ……万事屋てめー!」
土方の背に白濁の蝋がぽたり。当然、抗議の声を上げるのだが、
「色的にザー〇ンっぽくてこれはなかなか……」
「このや……あっ!」
銀時は聞こうともせず、蝋燭を傾けたまま腰を振り出した。
「ハッ……くっ!あ、ん……っ!」
ナカの刺激と背中の刺激――快と不快、二つの相反する刺激に土方は翻弄されていく。
「ハァッ……土方くん、サイコー」
「チッ……」
激しくてもいいなど金輪際言うものか――新たな誓いを胸に土方は意識を手放した。
* * * * *
「…………」
土方の意識が次に浮上したのは真夜中のこと。一応、後処理を済ませてくれたようだが背中は
ヒリヒリする。同じ布団ですやすやと眠る男の顔を見ると徐々に腹が立ってきた。満足そうに
寝やがって……
土方は銀時側の掛け布団を手繰り寄せ、それでしっかりと自分の体を覆いほくそ笑む。
そして朝まで、疲れた体を休めるのだった。
(13.02.03)
本編より長いとか気にしないで下さい^^; 本編の後書きでも言ったように、本編のほのぼのな雰囲気をぶち壊すのが目的の「おまけ」です。
こんなことが風邪の理由だったので、子ども達の前で気不味くなった土方さんでした。 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。