青い空、白い雲、眩しい太陽――花のお江戸は夏真っ盛り。

現在の気温は三十度。日中は三十六度まで上がるでしょう
「三十六!?」
こまめに水分を補給し、熱中症には充分注意して下さいね
「わっわかりました、結野アナ……」

もはや日課となったテレビとの会話にも力が入らないのは、エアコンもなく、扇風機も使い過ぎが
祟り数日前から止まったまま、見れば余計に暑く感じるので温度計は押し入れの中に仕舞い込み
朝から蒸し風呂状態の万事屋銀ちゃんの主・坂田銀時である。
憧れの女性がテレビの中で着ていたものと同じTシャツ―クリスマスにもらった「KILL ME」の
ロゴ入りドクロTシャツ―を箪笥から引っ張り出してはみたが着る気になれず、トランクス一枚で
ソファに寝そべっている。

「銀さん、せめてTシャツ着て下さいよ。お客さん来たらどうするんですか」
「客ぅ〜?こんなくっそ暑いトコに客なんか来るわけねーだろ」
「だったら何とかして下さい。このままじゃいつまで経っても新しい扇風機買えませんよ」
「ンなこと言っても暑くて働く気になんねェよ。あーあ……気温が十度下がったら絶対バリバリ
働くのになァ〜……」
「まったくもう!」

自堕落な経営者に何を言っても無駄だと、新八はお天気コーナーの終わったテレビを消して
玄関へ向かった。水でも撒けば少しは涼しくなるだろうとバケツを持って。



暑くて熱い日



「邪魔するぜ」

夕刻になり、万事屋の玄関扉がガラリと開いた。

「はーい。今行きまーす!ほら、お客さんですよ」

日は落ちたものの気温は相変わらず三十度超えで、いつもは定春にべったりの神楽も毛皮の塊に
接するのが辛くて、銀時とは逆のソファに突っ伏していた。

「ちょっと銀さん!服着て、服!」
「あー大丈夫大丈夫。この声は裸でもいいお客さんだから」
「何言って……あっ」
「よう」

出迎える前に上がってきたのは、銀時の恋人・土方十四郎であった。その手には大きな風呂敷包み。
その包みをローテーブルに置いて土方は聞いた。

「まさか、朝からずっとその格好か?」
「そうなんですよ〜」

漸く現れた常識人に新八は安堵の息を吐いた。

「ったく、しょーがねェな……」
「だって暑いんだもん」

ソファに寝たまま銀時は顔だけ土方の方を向けて答える。

「普段、真面目に働かねェから扇風機も買えねーんだよ。……ほら、屯所から使ってないヤツ
持って来てやったぞ」
「マジでか!?」

神楽は飛び起きて土方の風呂敷包みを見詰めた。

「何年も倉庫にしまったままだったから、暫く貸してやるよ」

土方は包みを解き、扇風機の正面を神楽へ向けた。

「きゃっほ〜!ありがとうネ、トッシー」
「ありがとうございます!」
「おう」
「このお礼は今夜カラダでたっぷりと……」
「いらねェ。つーか、ガキの前でそういうことを言うな。ちゃんと働いて早く新しいの買えよ」

やっと起き上がった銀時へ土方が冷ややかなツッコミを入れているうちに、残った二人によって
扇風機の設置は完了した。
万事屋三人は念願の風に当たり、幸せを噛み締める。

「あ〜……涼し〜い……」
「土方さん、本当にありがとうございます」
「おう」

扇風機片手に外を歩いてきた自分も充分に暑いのだが、三人の幸せを邪魔する気にもなれず
土方は少し離れた所に座ってその様子を眺めていた。

「ねえねえ銀ちゃん、これ知ってる?ア〜〜〜……」

回転する羽に向かって喋ることで声が震えて聞こえることを得意気に披露する神楽。

ワレワレハ、ウチュウジンダ……」
「ハハッ……その遊び、どこで覚えたの?」
「みっちゃん家に行った時ネ。宇宙人の真似、私が一番上手かったアル」
「真似っていうか、神楽ちゃん本物だし……」

異星で生まれ育った彼女がまさにその「宇宙人」であることに、神楽もそしておそらく友人の
「みっちゃん」も気付いていないのかもしれない。尤も、彼女達が真似ている「宇宙人」は
映画などに登場する、人型ではないもののことではあるが。

「おしっ、土方くんの扇風機のおかげで元気になったし、ちょっくら行ってくるわ」
「え、何処へ?」
「買い物」
「そういえば、冷蔵庫に何もありませんね」
「つーことで、ちょっと待っててね」
「ああ」

朝から一度も袖を通していなかったTシャツを着て、いつもの黒いズボンを履き、
銀時はのんびりと玄関へ向かった。


*  *  *  *  *


「ただいま〜」
「遅いアル!もうお腹ペコペコヨ!」

買い物帰りの銀時を神楽が怒って出迎える。

「ンな遅くねーだろ。バイクで行ってきたんだからよー……」
「ごーはーん!ごーはーん!」
「分かった分かった……ちょっと涼んでからな」

空腹を訴える神楽の頭をポンポンと撫でて宥め、銀時は買い物袋を手に居間へ。
テーブルの上にはオセロ盤と麦茶の入ったコップが三つ。

「オセロして遊んでたのか〜」
「トッシー弱いから私が手伝ってあげてたネ」
「そうかそうか。そんないい子の神楽ちゃんには、コレ」

銀時は袋の中から水色のアイスキャンデーを取り出した。

「甘いもの苦手な土方くんにはコーヒー味」
「サンキュー」
「新八は神楽と同じソーダ味な」
「ありがとうございます」

三人にアイスキャンデーを配り終えた銀時は土方の隣にどっかと腰掛け、薄赤色の
イチゴ味アイスキャンデーを取り出して銜えた。

「ハァ〜、労働の後のアイスは格別だな!」
「買い物行っただけだろ。おっと……」
「…………」

喋っている間にもみるみるアイスキャンデーは溶けていき、土方は垂れそうになる水分を
下から上へと舐め上げる。その様を見て銀時は密かに喉を鳴らした。

「あっ土方くん、こっち側も溶けそうだよ」
「んっ……」
(おぉっ!)

手首を返して反対の側面を舐め上げた土方の様子に、銀時は心の中で瞠目しつつ
自分のアイスキャンデーを銜えた。銀時の脳内では勿論、土方のアイスキャンデーが
別のナニかに変換されている。そのために買ってきたと言ってもいい。
こうして土方とアイスキャンデーのコラボレーションを密かに堪能していた銀時であったが、
ふいに土方から「耳を貸せ」と言われた。

「えっ、何?銀さんに愛の囁き?」

もしかして土方も自分とアイスキャンデーを同じように見ていたのだろうか……ふざけるなと
言われながら耳を引っ張られてもなお、銀時は淡い期待を抱いていた。
そんなこととは思いもよらぬ土方は、子ども達に聞こえないよう細心の注意を払って
銀時へ耳打ちする。

「前、隠せ」
「へ?何が前だって?」
「ナニを隠せって言ってんだよ!」
「え?あ……」

銀時のモノは僅かに膨らみ始めており、ズボンにはやや不自然なシワが寄っていた。
向かいに座る新八達に悟られぬよう膝を立てて膨らみを隠しつつ、土方に夕涼みの散歩を
しようと誘う。

「一人で行けよ」
「一緒にイこうよ〜」

銀時の言う「いく」が違うことに気付かれやしないかと土方はチラッと子ども達の様子を伺う。
すると、小声で話し続けているのが気になっていたのか、こちらを向いていた新八と目が合い、
土方は慌てて目を逸らした。

それがいけなかった。

「あのっ、僕もう食べ終わったんで帰りますね」
「えっ……」

余計な気を回させる結果となり、そこからは土方がいくら訂正しようとしても無駄で、
新八は神楽と定春を伴って自宅へ帰っていった。


二人きりになり、銀時は小さくなったアイスキャンデーの最後の一口を飲み込みながら言う。

「いや〜、よく分からねーけど気の利くヤツらで良かったな。では夕メシ前に一発……」
「っざけんな!アイツらには絶対ェ迷惑掛たくなかったのに……」
「大丈夫大丈夫。アイツら迷惑だなんて思ってねェし……」
「いきなりおっ勃てたテメーが悪い!」
「それは不可抗力だって。土方くんが余りにもイイ感じにアイスをしゃぶってたから……」
「はぁ?」
「少しは楽しめるかと思ってそれらしい色のを買ってきたんだけどね?いや、想像以上にキたよ……」
「てってめぇ〜……」

何ら具体的な種明かしはなされていないが、銀時の股間の反応と現在の表情、そして今はもう
胃の中へと消えたアイスキャンデーの形状を思い返せば、銀時の思惑は正確に理解できた。

「こっの変態野郎!!」
「そんな怒ることか?好きなコにアイスとかチョコバナナとか食わせてイケナイ妄想、なーんて
誰でも一度や二度はやるだろ?」
「やらねーよ!少なくとも人前でそんなになるまではな!」

土方はビシッと銀時の股間を指差す。

「勃っちまったもんは仕方ねーよ。自然の摂理だ。誰のせいでもない」
「テメーが下らねー妄想してそうなったんだから、明らかにテメーのせいじゃねーか!」
「いやっ、土方くんがエロ過ぎたせいとも……」
「あん?」
「言えない、かな……」

土方の眼光に怯み、銀時は語尾を濁す。
けれど一度擡げた欲はそれくらいで治まってはくれず、何とかして機嫌を直してもらわねばと
銀時は遠慮がちに土方の手を取った。

「あの……反省してます」
「本当かよ」
「もう二度と、新八達の前でエッチなことしません」
「……本当だな?」
「うん」
「分かった」
「……許してくれる?」
「ああ」
「ありがと〜!」

子どものような笑顔で抱き着く銀時を口では暑苦しいだなんだと言っても、本気で突き放す
ことはない。銀時の行動に土方が腹を立てるのもこれが初めてではないし、「二度としない」
などという約束が守れないのも分かっている。それでも……

「それでさ……今は、二人きりだし……だから……ダメ?」

素直に謝られ、小首を傾げて問われれば否とは言えない。
頭の何処かで甘やかしてはいけないと思いつつも、恋人になる前は決して見られなかった一面を
見ることができて嬉しいと思う気持ちの方が勝っていた。
だから今日もまた、銀時のお願いに頷いてしまう。

「最後まではヤらねーぞ」
「分かってる。けど、入れないからちょっと触ってもいい?」
「俺はいい……」
「触りたいんだけどな〜」
「勝手にしろ」
「ありがと」

土方が銀時の膝の上に跨ると、銀時の手が土方の帯へ伸びた。
下着の前開きから萎えた状態の一物を取り出せば、土方も銀時のジッパーを下ろして
半勃ち状態の一物を晒させた。

「本当はアイスみたいにしゃぶって欲しいんだけど……」
「ヌいてやるだけありがたいと思え」
「はいはい、どーもありがとーございます」

大して気持ちの籠もらない感謝の言葉を述べて、銀時は握っているモノを扱き始める。


「ん……」


土方も手を動かせば、元々反応しかけていたモノはあっという間に硬くなった。


「ハァ、ハァ……」
「んっ……」


簾が掛かり、外から見えないとはいえ窓は開いたまま。声が漏れるのを防ごうと、
土方は片腕を銀時の首へ回して口付けた。


「ふっ……」
「ん、んんっ……」


口内で舌を絡ませながら二人の距離は更に縮まって、銀時は一物を握っていた手の親指を開き
土方に扱かれている己のモノを引き寄せて、二本を重ねた。


「んっ、ん……」
「っ……むっ……」


土方も、銀時の手の上から二人分のモノを握り、二人は同時に上り詰めていく。


「んっ、んっ、んっ……」
「んっ、んっ、んっ……」

「「……んんんーっ!!」」


二本のモノから白濁液が噴出し、二人の手と服を汚した。


*  *  *  *  *


「っかー、生き返ったぜ!」
「あ゛〜〜……」

シャワーを浴び、寝巻きに着替えた二人は冷えた缶ビールで喉を潤す。
蒸し暑い部屋で熱く抱き合った二人の、渇いた体へ水分が行き渡り心地好い。
こうして、恋人達の暑くて熱い夜は……

「いやまだだから。これからが本番だから。もっともっとねっちょりぐっちょりドロドロに……」
「誰と話してやがる。つーかその前にメシだ、メシ」
「あ、はーい……」

ビール片手に扇風機の風に当たる土方の、もう新たな汗が伝うその蟀谷に軽く口付けて
銀時は台所へ向かった。

夜になっても三十度を下回らない気温。今夜も確実に熱帯夜だけれど、どうせ熱い夜を過ごすのだ。
とことん熱くなるのも悪くない。


こうして、恋人達の暑くて熱い夜は更けていく。


銀:あっ、マジで終わっちゃった……

(12.07.30)


作中で銀さんが言っていたように、誰もが一度は考えるアイスキャンデーネタでした(笑)。この二人は、真夏の暑さにも真冬の寒さにも負けずに

いちゃいちゃしててほしいと思います。春夏秋冬年中無休でいちゃいちゃラブラブな二人が好きです^^

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 

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