後編

「んっ!!ハァ……トシのお尻いつもよりぐにぐに動いて気持ちいい」
恋人の中で果てた銀時はドロドロになったゴムを外し、新しいものを用意する。薬を盛った罪悪感が全て消えたわけではないけれど、身悶える土方を堪能したいというそもそもの欲望が優位になってきていた。それゆえ、
「はぁ、ん……あっ!」
「ダメだよトシ」
繋がりが解けたことに耐え切れず土方が自ら慰める手を取って、頭上に帯で一括り。結んだ端はベッドに巻き付けて固定した。
「ぎん?」
「俺のせいなんだから、トシは何もしなくていいよ」
煌めく瞳から贖罪の意識以外のものを明白に感じ取り、土方は恐怖にも似た感情を抱く。普段は形を潜めている嗜虐性。図らずもそれを大いに発揮できる場ができてしまったのだ。
俎上の魚のごとき土方の横で銀時は持参した風呂敷を開いていく。そこには幾つかの性具が収められていた。
「どれにしようかなァ……」
「嫌だ。やめてくれ」
「こういうの使った方が気持ち良くなれるよ。早く終わりにしたいでしょ?」
「それはっ……」
こうして話している間にも疼きは増しており、腕を拘束されていなければ恋人の眼前でも構わず自慰行為に耽りたい。少しでも早く薬を抜くには道具を用いるのも一つの手か――頷くことは土方にとって苦渋の決断であった。
「使い方ちゃんと勉強したから安心して。先ずはこれね」
「あうぅっ!!」
碇のような形の物体がずぷりと挿入される。エネマグラだ何だと解説する声を聞く余裕など土方にはなかった。淫らに熟れた孔が異物を締め付けるたび、ぐいぐいと前立腺を押し上げ刺激していく。
「あああああっ――!」
「いい所に当たってる?良かったァ」
「ひあっ!!」
銀時が手元のスイッチを入れれば土方の内からモーター音が轟いた。ぶるぶると震える玩具は、弾け飛ぶような衝撃を敏感な体に与えていく。その様子にごくりと喉を鳴らして銀時は、桃色のリングを手にした。
「これ着けるとイクより気持ちいいんだって」
「あぐぅっ!!」
根元と括れ部分に一つずつ、その周囲よりほんの僅か小さい輪で戒められる。体力面から既に射精がキツくはなっているものの、強制的に堰き止められて楽になるはずもない。その上、
「トシのちんちん美味しそう」
「ひぎぃぃぃ!!」
ねっとりとしゃぶられて、土方の目にチカチカと火花が見えた。全身が痙攣し、悲鳴めいた喘ぎを上げ、嫌だと発することさえ不可能。知らぬ間に涙が零れていた。
「おっ……うぅっ……」
「トシ?」
己と性具に嬲られて泣きながらよがる最愛の人――銀時の中で何かがぷつりと切れた。
スイッチも切らずに道具を抜き取り、猛るモノで土方を貫く。そして緩やかに腰を揺らしつつコックリングを外していった。
「ひゃうぅぅぅ!!」
初めに根元を解放されて、込み上げるものは頭まで来て阻まれる。膨れ上がったモノに輪は容赦なく食い込んでいた。
「トシ大好き」
震えたまま布団に転がしていた玩具をそっと土方の鈴口に宛てがう銀時。
「ひゅ……がっ!ひぐっ!」
確かに目は開いているのに何も見えない。叫びたいのに声が出ない。何をされているのかも分からない――最後のリングが外れたのは、土方がそんな状態に陥った時だった。
「あー……トシの中、サイコー……入れてるだけでイッちゃう」
「ふぎぃぃぃぃぃ……!!」
存分にセックスを味わう恋人の呑気な声を遠くに聞いて、びちゃびちゃと大量の液体を漏らしながら土方の意識は彼方へと沈んでいく。催淫剤の効力などとうに消し飛んでいた。

*  *  *  *  *

「すいまっせーんんんんん!!」
「…………」
翌昼過ぎになって土方は目を覚ました。浴衣を着て、下着も履いている。涙も精液も拭われているようだ。うっすらとだが、銀時に世話を焼かれた記憶がある。
四肢を投げ出しぼんやりと天井を眺めていると、下から謝罪の叫び声。姿の見えない恋人は、ベッドから下りて土下座している模様。
「水」
「あ、はい!」
要望だけを端的に伝えて上体を起こせば、体のあちこちに痛みを感じた。
「どうぞ!」
恭しくグラスを差し出すと、銀時は再び絨毯の上で正座する。土方の手首には薄紅色の拘束痕が残っており、目視はしていないけれど、陰茎がより酷いことになっているのは容易く想像できた。
水を含めば忽ち体中に染み渡る心地がする。一杯では足りないと空のグラスを返してやれば、たちどころに水が注がれて戻ってきた。
「ぎん」
「はいっ!」
二杯目も空けてふぅと一息。恋人の名前を呼べば、びしっと背筋を伸ばす様に思わず吹き出した。
対する銀時は、やらかしてしまった自覚があるだけに、どんなお叱りを受けるのかと気が気ではない。魅惑的な土方の様子に自制ができなかった。薬のせいで黙っていても乱れていく愛しい人を、自分の手で更に乱してやりたくなった。相手への負担などお構いなしに。
「なあ……」
悄気る銀髪に柔らかく手を差し延べて、土方は目を細める。
「もう少し、寝ないか?」
「え……」
「セックスはできねェけどな」
はにかむ土方の両手をがしっと掴み銀時はもう一度頭を下げた。
「本当にごめん!今日は……いや、トシがいいと言うまで金輪際セックスはしません!」
「分かった分かった」
とにかく来いと銀時をベッドへ引き入れ、その左腕を抱えて目を閉じる。布団に包まり寝ていた自分よりも幾分低い体温は、反省の表れのようで愛しさが募った。
「ぎん、すまない」
「え?」
「お前にセックスを教えておきながら、お前がやりたいことに応えられなくて」
「トシ……」
銀時の右腕が土方を抱き寄せる。
「悪いのは俺だ。トシと仲良くしたいのに、セックスの時だけ変になっちまう」
「変って?」
「……トシのこと泣かせたくなる。俺、ドSやめたい!」
ストーカー忍者との関わりの中でSとMについては恋人ができる前から知っていた銀時。交際を始めて間もない頃は土方にMの素質があるらしいことを嬉しく思っていたものだ。しかし今日のような交わりを歓迎しているのは己のみ。嫌がる恋人を無理矢理に高ぶらせて興奮してしまう自分の性癖が憎かった。
「俺なら平気だから」
土方の左手が銀時の背に回る。
「今日のことは妙な薬を渡した総悟が悪い。まあ、総悟に相談したお前にも責任がないわけじゃねぇけどな」
「ごめん」
「次からは俺に言ってくれよ」
「最初からトシに言えば良かった。俺にセックスのことを教えてくれるのはトシなんだから」
「俺だって分からねぇことだらけだ。二人とも満足できる方法を一緒に考えような」
「うん」
見詰め合った二人は殆ど同時に目を閉じて唇を重ねた。深い愛情という絆で固く結ばれた自分達なら、この壁も越えていけると信じて。

(15.11.14)


結局、何があっても二人はラブラブです。性癖の不一致があっても問題なしです!
といっても、このシリーズの土方さんもM寄りなのは間違いありませんから、そんなに不一致でもないんですけれど。
ここまでお読み下さりありがとうございました。そのうち続きを書きます。

追記:続きを書きました

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