後編


「あ、んうっ……はぁん!」
「……もう、いいよな?」
返事ができる状態ではないと分かっているが、銀時は一応お伺いを立ててみる。土方の入口は辛うじて指を三本飲み込んでいた。
それは本当にギリギリの状態。
入ったは良いが押すことも引くことも能わず、ぎっちり締め付けられている。
そもそも二本目だってかなり無理して拡げて漸くといったところだったのだ。まだまだであることは百も承知。けれど銀時自身が最早、我慢できなかった。思いがけず時間を掛けて味わってしまった懐かしい温かみに早く包まれたい。更に言えば、土方と一つになれるなら、今の己の指のごとく痛い思いをしても構わない――などと生まれもった性癖を押し込める程に切迫していた。
それは土方も同じこと。例えこの身が裂けようとも、愛してやまない男を受け止めたゆえなら本望。
「ぎん、とき……はやく……」
恋人を後押しするように自ら孔の左右に手を添えた。紅く色付く口がひくひくと誘いを掛けている。ここまでされて「もう少し時間を掛けて……」などと真っ当な対応ができる状況に、今の銀時はない。
「うっ!」
無言で指を引っこ抜き、発射間際の噴射口を目的地へと宛がった。メリメリと、音こそ鳴らないもののそれに近い硬い肉を押し分けていく感触。しかし確実に中へは入っている。
「あっ!!」
鈴口までは嵌め込んだ。そこで感極まって出てしまった。待望の場所への吐精に土方は満足げに腰を震わせ自らも腹上へ放つ。
だが最奥で吐き出したかった男は茫然自失。二度の射精程度で治まる気などなかったモノが次第に萎れだした。
「早く寄越せって……」
「ほえ?」
嵩が減ったのを幸いと、下の男は未だ半ば以上に芯の通ったそれを掴み、相手の腰へ両脚を巻き付け、己の中へと取り込んでいく。
「はあ……ああ……んあっ!」
土方にとっても待望のもの。一寸進むごとに、そうそうこうだったとかつての記憶が鮮明に蘇った。
「ああっ!!」
「ひ、土方っ!」
張り出し部分まで入れて出さずに絶頂。その声で銀時は息を吹き返した。こんなことで悄気て五年振りの再会を台無しにしてはならないと奮起。土方の足を外して抱え、思いを込めて腰を突き入れた。
「あああっ!!」
「くうっ!!」
ガツンと互いの体がぶつかる衝撃で迸る精。その直後、結合部分から二人の体へ、血液が逆流した錯覚を覚える。
「あああああ……!」
「ぐっ……やば……なにこれっ!」
未知の事態を共に乗り越えんと抱き合う二人。それは、全身を巡る快楽の記憶。五年前に途切れてしまった、彼らの愛し合う記憶。
「ひうぅぅぅ!は……あああっ!!」
「あっ!あっ!と、しィ……」
「ぎんっ!!」
「「んんんっ!!!」」
唇を重ね、更なる快感と幸福に包まれていく。もう何も、それを邪魔する者はいない。

*  *  *  *  *

そして現在。
「あ、あ、あ……」
「ハァ……」
さすがに感度は落ち着いたものの、すっかり毎日「愛し合う」癖がついてしまった二人。浴槽内で向かい合い、恍惚の表情で土方が跳ねている。
「あっ、もうイキそっ……!」
「まだだ」
「ちょっ……」
下から銀時が限界を告げれば、土方は不服を申し立てて動きを止めた。そして腰を沈めたまま、濡れた銀髪をそっと抱き締める。
「もう少しだけ……」
「ああうん」
「んっ、あ……」
あの日以来、たまにではあるが挿入されているだけでイケるようになった。銀時には分からないけれど、強い刺激を受けてイキ続けるのとは異なり、穏やかに持続する絶頂なのだそう。
いつ、どうすればそうなるのかは不明。本人としても狙ってできるわけではないらしい。だからこうして、それらしい予兆を感じたら静かに待ちたい。それでも不発に終わることだってしばしば。
といっても土方自身、激しくイカされまくるのも嫌いではないけれど。
「あっ、んん……ハァ……」
今日は来そうだと中の蠕動で銀時は悟る。本人に聞けば無意識らしいのだが、「こちら」の時は内壁のうねり方が異なっていた。それが銀時にとっては非常に心地好いから困りもの。恋人に気持ち良くなってもらいたいけれど、その前に自分がどうにかなりそうだった。
「ふぅ、ふぅ……」
「あ、んんっ!はぁ、あ……」
もう少し、もう少しと自らを奮い立たせて土方の背を撫でる銀時。その手が尾てい骨まで届いた瞬間、土方が背を仰け反らせて喘いだ。
「ごめん!」
余計な刺激を与え、異なる絶頂を迎えさせてしまったと謝罪する銀時に、震える声で「ちがう」と返ってくる。
「あああああ……!」
どうやら無事に到達できたらしい。と安堵したのも束の間、銀時の事態は何一つ好転していないのだから。
「あ、あんっ!!あんんっ!!」
「はぅぅっ!!」
寧ろ悪化。達し続ける土方の内壁に揉まれては、銀時とて挿入のみでイケる現象を引き起こす。
「ひひひじ……」
「出せよ」
「あ……くっっ!!」
「はあん!!」
銀時の愛を受け、土方のモノからも白濁液が噴出した。


「こっちもイケたんだ?」
「ああ」
繋がりを解き、己の胸板へ凭れる黒髪の股間を銀時が救い上げる。くたりと力をなくした姿は満ち足りた証。
「ちょっと腰上げて」
「あ?お、おい……」
浮力を借りて土方の腰を上げさせ、その熟れた孔へ後ろから指を二本埋め込んだ。
「二回もヤったらのぼせるぞバカ」
「分かってますぅ。掻き出すだけ……」
本当だろうな――言いながらも土方は浴槽の前の縁へ手をついて、銀時の好きにさせてやる。
「あっ!んっ……」
「……土方くんがその気なら吝かではありませんが?」
洗浄の名目でイイ所を擦られて一物が反応してきたことを揶揄されれば、ふざけるなと頭を振った。
「次は、布団でっ……」
「はいはい……終わりましたよー」
浴室で二連戦にしても、長時間湯舟の中にいるのが危険なことは銀時も承知している。己の欲を湯に溶かしきれば先に上がり、シャワーを浴びた。低めの温度で体を流しつつ扉を僅かに開ければ、涼しい空気が火照りを鎮めてくれる。いつの間にか土方も風呂椅子に掛けていた。
「あれっ?栓抜いちゃった?」
「ああ」
恋人の体にシャワーの湯を掛けてやりながら銀時の視線は浴槽へ。みるみる減っていく湯量に何故かわたわたと栓をする始末。
「落とし物でもしたか?」
「いや。せっかく俺達の精子が混ざり合ったんだから、暫くこのままにしてみようかなァなんて」
「は?」
「上手くいけば俺達似の可愛い子が生まれるかもよ?」
「アホか」
汚れた湯を放置したら掃除が大変になるだけだと土方は再び栓を抜き、脱衣所へ上がっていった。


「お前なァ、世の中何が起こるか分かんねェんだぞ?」
寝巻の作務衣に着替え、髪の水分をタオルで拭いながらも銀時の小言は止まらない。見慣れたV字前髪に戻った男はそれを適当に聞きながら歯を磨いている。
「この五年間、俺ァ今までの常識が通用しないところを色々見て来たんだよ」
「だからって風呂からガキが出て来てたまるか」
「甘ェよ十四郎。ここは龍脈の星なんだ。何時まかり間違ってそのエキスが水道水に混じらないとも限らない。それが今日の風呂の湯だったかもしれない。そんな湯に俺達のザーメンを加えたら……」
「あー、分かった分かった」
「おまっ龍脈の力、ナメんなよ?マジで凄いんだからな?」
「はいはい」
「信じてねェな?ちょっとそこに座んなさい」
「あのなァ……」
あしらい続けるのも面倒になり、土方は最終手段に打って出た。銀時の左肩に手をついて、耳元へ唇を寄せる。
「テメーさえ隣にいてくれりゃあ充分だ」
「――っ!」
ボッと頬を染めた男へ妖艶な笑みを湛え寝室へ向かう土方。
今宵も愛する者達は、愛し合える幸福に感謝して過ごすのだった。

(15.11.04)


遅くなりましたがこれにて終了です。本誌の銀土にも早く穏やかな幸せな日々が戻りますように!



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