後編
朝食後、四人は沖田の部屋に集合した。
「なんだかちょっとズレてきてません?」
「そうだね。真面目に仕事してくれるのはありがたいんだけど…」
「仕事しかしてないネ。」
「寝る時も別々とはな…」
「どうしましょう…」
「で、でもさっ、旦那は副長の服、着られるようになったし、食事の時だって自主的に隣同士だったし
進展してないわけじゃ…」
「まあな…。仕事だと思って普通でいられんならそれでもいいか…」
「じゃあバンバン仕事させて、もじもじする暇を与えないようにするアル!」
「副長はいつも忙しいから大丈夫だよ。」
作戦の方向性が決定し、四人も其々の持ち場へ向かった。
* * * * *
「あ、れ…?」
山崎が副長室へ様子を見に行くと、そこには平隊士達が長蛇の列を作っていた。
列の半ば程の所に銀時を見付け、山崎はそこへ駆け寄る。
「ちょっと旦那、何なんですか?これ…」
「ジミーも土方に用?だったら最後尾は外だから。」
「外!?えっ…どういうことですか?」
「だからー、列が長くなったから途中で区切って、残りは外に出したんだよ。」
「はあ…」
よく見れば山崎が最後尾だと思っていたところでは、並んでいる隊士が「副長室 列の途中」と
書かれた厚紙を持っていた。おそらく中庭に「最後尾」の札を持った隊士がいるのだろう。
「それにしても何でこんなに…」
「知らねーよ。なんか次から次に『副長副長』って来てよー…収拾つかなくなったから一列に並ばせたんだ。
…いつもこうなんじゃねーの?」
「確かに副長はいつも忙しいですけど、ここまでじゃないですよ。」
「そうなんだ…。まあとにかく、ジミーも土方に用なら並んでよ。緊急の時は近藤の所に行ってくれ。」
「分かりました。」
様子を見に来ただけだった山崎は列に並ぶことはせず、その代わり並んでいる隊士達に訳を聞いた。
すると、銀時のおかげで土方が普段より優しいと知り、有休申請や業務軽減を頼みに来たとのことだった。
皆、考えることは同じか…山崎は笑顔でバドミントンラケットを取りに行った。
* * * * *
副長室の列が消える頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
「フーッ…」
「お疲れ様。」
縁側に足を投げ出した土方の隣に座り、銀時は労いの言葉を掛ける。
「ありがとな…助かった。」
「いや…俺は何も…」
「途中で坂田が『明日でもいいヤツは帰れ』って言ってくれたから楽になった。」
「そ、そんなことは…」
銀時は照れ臭そうに笑って頭を掻いた。
因みに二人は話している最中もずっと真っ直ぐ前を向き、互いに目を合わせようとはしない。
普段から相手の顔を見るのが恥ずかしいのに加えて、土方は制服姿で魅力の増した銀時に緊張するから、
銀時は土方に嫌われないよう仕事に打ち込み過ぎるあまり、恋人らしいことは一切していなかった。
「お疲れ様ヨ〜。」
「お茶をお持ちしました。」
「あ、ああ…」
「サンキュー。」
そこへ、新八と神楽がお茶を持ってやって来た。土方の隣に新八が座り、神楽は銀時の隣に座る。
両端を固められて二人の距離は少しだけ縮まり、心拍数が少しだけ上がった。
「土方さん、今日は大忙しだったみたいですね。」
「そ、そうでもねぇよ。」
「銀ちゃん、こういう時こそ秘書の出番アル。」
「…は?」
「マッサージしてあげるネ。」
「「はぁ!?」」
「あ、それいいね。」
驚き叫んだ二人を無視して新八も神楽の意見に賛成する。
「銀さんってマッサージすごく上手いんですよ。」
「あ、いや…別に凝ってねぇから…」
「遠慮することないネ。ねっ、銀ちゃん。」
「え、あ…(土方はきっと疲れてるだろうし、体を解した方がいいと思うけど…それを俺がやんの!?
そそそそのためにはさささ触んなきゃなんねーだろ?しかも新八と神楽の前で!?…ムリムリムリ!!)」
「まずは肩からですよね?…土方さん、上着脱いでもらえます?」
「え、あ…(待って!もうやる感じ?決定事項?肩からって何?まままままさか、ももも揉むのか!?
坂田が?俺の肩を!?しかもメガネとチャイナの前で!?…ムリムリムリ!!)」
パニックに陥り碌に言葉が出ないのをいいことに、新八と神楽はマッサージの準備に取り掛かる。
「失礼しまーす。」
「ちょっ…」
まず新八が土方の上着を脱がせた。
「ほら銀ちゃん、立って。」
「ちょっ…」
神楽は銀時の腕を掴んで立たせ、土方の後ろまで引っ張って行く。
「はいっ!」
「ひっ!!」
神楽に掴まれた銀時の手が土方の肩に触れると、土方は短い悲鳴を上げてキツく目を閉じた。
「土方さん…目は瞑らなくてもいいですよ。」
「お、おう…」
銀時は後ろにいるため特に何が見えるわけでもないのだが、土方はおっかなびっくり目を開ける。
「銀ちゃん、手を動かさなきゃダメヨ。」
「お、おう…」
辛うじて返事はしたものの、銀時の手は開いたまま、土方の肩にギリギリ触れないところで
ぷるぷる震えていた。
「…何やってるネ?ハンドパワー?」
「あ、あう…」
「ふざけてないで真面目にやって下さいよ。」
「「はい!」」
((ぎゃああああ〜!!))
新八と神楽により銀時の両手が土方の肩に密着し、二人は声にならない叫びを上げる。
(ささささ坂田がさわ、さわっ…)
(ひひひひ土方にさわ、さわっ…)
((はわわわ……))
「あっ…」
「ショートしたアル。」
二人は肩揉みの体勢のまま、目を回して動かなくなってしまった。
「何やってるんでィ。」
「これくらいで固まっちゃうとはね…」
隠れて様子を伺っていた沖田と山崎も出てきたが、銀時と土方は依然動きを止めたまま。
「すいません。ちょっとやり過ぎちゃったみたいで…」
「どこがアルか!肩を揉むだけネ!ていうか、揉んでもいないネ!!」
「それでも、二人にしては刺激が強過ぎたんだよ。」
「いつもお手て繋いでるのに何でネ!」
「多分…仕事モードの時に無理矢理くっ付けたからじゃないかな?」
「ケッ、バカらしい…。今日はもう放っておこうぜ。」
「そういえばもうすぐご飯の時間アル!こうしちゃいられないネ!」
「神楽ちゃん、少しは遠慮しなきゃダメだよ。」
縁側に二人を残したまま、四人は食堂へ向かって行った。
その日から万事屋の住み込み期間が終わるまでの間、銀時と土方は黙々と仕事に取り組んでいた。
(11.06.07)
というわけで、大した進展もせず共同生活は終了しました^^; いや「共同生活した」ってこと自体が、この二人にとっては進展ですかね?
でも仕事だと二人のいちゃいちゃが足りない!そんな思いから「おまけ」を付けました。共同生活終了後の二人です。短いですが、どうぞ。→★