中編


沖田が副長室を出てから暫く後、銀時が別の書類を持って戻って来た。

「近藤に渡して来たよ。…それからコレ預かって来た。」
「あ、ありがとう…。じゃあ次は、総悟にこれを渡して来てくれるか?」
「了解。…沖田くんって結構真面目に仕事してるんだね。サボってる印象しかなかったから意外だった。」
「…総悟は隙あらばサボってるぞ。」
「でもさっきは、俺のせいで土方の仕事が遅れるのを心配してる感じで…」
「あれはただ、俺をからかいに来ただけだ。その証拠に…それ読んでみろよ。」
「えっ、いいの…?」

隊服を借り、秘書役を任せられたとはいえ、一応「部外者」という自覚のある銀時は、仕事の内容まで
踏み込むことはしないように気を配っていた。

「それは読んでも大丈夫だ。」

そういえば、先程近藤に渡した書類は封筒に入っていたのに、今回は裸のままである。
書類を表に返した銀時は、土方が「大丈夫」と言った理由がすぐに分かった。
そこには「すいません<m(__)m>もうしませんbyおきたそーご」と殴り書きされていた。

「…沖田くんらしいね。」
「だろ?…多分、その辺の縁側で昼寝してると思うから、一発小突いて『書き直し』と伝えてくれ。」
「ハハッ…了解。」

銀時はひらひらと沖田の始末書を振りながら副長室を出た。

*  *  *  *  *

新八と神楽が掃除を任された道場。そこに沖田と山崎も集まり今後の計画を練っていた。

「とりあえず仕事は始められたみたいだが…次はどういう手でいく?」
「うーん、そうですねー…あっ!」
「何かいい案ありますか?山崎さん…」
「いや、後ろ…」
「銀ちゃん…」

山崎が指し示す方―道場の入口―を見ると、そこには銀時が立っていた。
銀時はそのまま四人へ近付いて行く。

「何やってんだお前ら…。ちゃんと仕事しろよ。」
「いっ今、道場の掃除の仕方を教わっていたところなんです。」
「そうアル。…銀ちゃんこそ何してるネ?まさか、恥ずかしくて逃げて来たアルか?」
「恥ずかしいって何?意味分かんないんだけどー…」
「…顔赤いヨ銀ちゃん。マヨの服着てるだけでドキドキか?」
「そ、そんなわけねーだろ!これはただ…あ、暑いだけだっ!」
「はいはい…。じゃあ頑張って土方さんのお手伝いして下さいね。僕らも頑張るんで。」
「あ、そうだった…沖田くん、これ…」

持っていた始末書を沖田へ差し出した。

「書き直しだってさ。」
「チッ…頭の固ェ野郎でィ。旦那はあんな野郎のどこがいいんですかね?」
「えっ?………」

沖田に聞かれて銀時の顔はみるみる赤くなっていく。最終的に顔を背けて「内緒」とだけ言って銀時は
逃げるように道場を出て行ってしまった。

「…なんか、俺達の制服着てもじもじされると、余計に腹立つな…」
「でも、これで銀さんが『服』に慣れてくれれば、少しは土方さん本人にも慣れると思いますよ。」
「だといいけどな…」
「それに、旦那がいるから副長に怒鳴られなくて済んだじゃないですか。」
「おっ…言われてみりゃ、今はサボり放題じゃねーか。」

沖田は他の隊士達のようには土方の雷を恐れておらず、怒鳴られてもサボり続けていた。
けれど、いつものようにガミガミ言われないのなら、より楽に自由な生活が送れると気付いたのだ。

「そういうことじゃないですよ、隊長。…あっ、でも、任務失敗した報告するなら今しかないですね。」
「山崎さんまで…」
「いや…こういう機会でもないと、副長ってすぐ殴ったり蹴ったりするから…」
「じゃあ、マヨラーが銀ちゃんの前でも怒れるようになったら、成長したって言えるアルか?」
「まあ、そうだな。」
「よしっ、お前らいっぱい失敗して怒られてくるアル!」
「何もわざと失敗しなくても…。今回の目的はとにかく互いに慣れてもらうことだったでしょ?
仕事なら二人とも普段より確りすると思ったから、こうして雑用係にしてもらったんじゃない。」
「そうアル。だからマヨラーには、いつもと同じ調子でキレてもらうアル。」
「そうでィ。…つーわけで俺は、土方さんを怒らすため敢えて今から昼寝するからな。」

懐からアイマスクを取り出す沖田に、残りの三人は「ただサボりたいだけだろう」と思ったが、
土方から注意をさせようと放っておくことにした。



「土方さん、すみません…」

新八が副長室を訪ねると土方は文机に向かって書類仕事をしていて、それに背を向ける形で銀時は
副長室に届けられた書類に日付の印を押す作業をしていた。
入口に近い銀時が新八の応対をする。

「どうしたんだよ、新八…」
「実は僕と神楽ちゃんで道場の掃除をしてたんですけど、沖田さんが寝ていて…」
「総悟の野郎…」
「あっ、大丈夫だよ。」

新八の話を聞いて立ち上がりかけた土方を銀時が止める。

「そういうのは、神楽に任せりゃ何とかなるって。」
「でも…神楽ちゃんだとケンカになって、掃除どころじゃなくなりそうなんで土方さんに…」
「それなら俺が行く。」
「えっ!銀さんが、ですか?」
「だってよー…俺がここにいる間だけでもすげぇ量の書類が届いてるんだぜ?土方は一人でこれ全部に
目を通して、自分がやるものと他のヤツらに回すものを分けなきゃなんねェんだ。」
「それは大変そうですね…」
「だろ?だから俺が手伝えるところは手伝わないと。」
「坂田…」

銀時の気遣いに感動している土方が銀時越しに見え、新八はこのまま二人きりにさせておいた方が
いいのではないかと思う。

「そういうことなら、銀さんはここで土方さんのお手伝いをしてて下さい。沖田さんのことは、僕と
神楽ちゃんで何とかしてみますから。」
「おう、頑張れよ。」
「悪ィな…」
「それじゃあ、失礼します。」

書類の積まれた副長室を見た新八は、今回の作戦は早めに切り上げないと土方の仕事に支障を来たして
しまうのではないかと心配になった。


*  *  *  *  *


その日の夜。食堂で夕食を摂りながら、新八は作戦の早期終了について他の三人に提案した。

「甘いアル!これだからお前はいつまで経っても新八ネ!」
「だって土方さん、本当に忙しそうだったんだよ?夕飯も部屋で食べるみたいだし…」
「それはいつものことでィ。土方の野郎は要領が悪くて、大抵仕事が終わらねェんだ。」
「まあ、副長の仕事が忙しいのは今に始まったことじゃないから大丈夫だよ。」
「そうなんですか?銀さんがいるから、余計に時間がかかってるんじゃ…」
「食事を運ぶ時に進捗状況を見てみたけど、特に遅れてはいなかったよ。」
「それならいいですけど…」

山崎が言うなら大丈夫なのだろうと、新八はもう暫く様子を見ることにした。


*  *  *  *  *


翌日の朝食は、銀時と土方も食堂へ顔を出した。
二人とも制服を着ていたがジャケットとスカーフは外した格好である。

「銀さん、土方さんおはようございます。」
「おはようございます副長、旦那。」
「おう。」
「おはよー。」

新八と山崎でさり気なく二人を近くの席へ誘導する作戦であったが、そうするまでもなく二人は同じ
テーブルの隣り合った席に座った。

「一緒にいることには、大分慣れたみたいですね。」
「そうみたいだね。」

二人に聞こえぬようひそひそと話しながら新八は銀時の隣に、山崎は新八の向かいの席に着く。
すると間もなく神楽がやって来て銀時の向かい―山崎の隣―に座り、その隣―土方の向かい―に
沖田が来て朝食が始まった。

「そういや総悟、例の件の始末書はどうした?」
「昨日出したじゃないですか。」
「書き直しっつっただろ。」
「えっ?そんなこと言われてませんが…?」
「…坂田から聞いただろ。」
「あー、そういえば旦那が秘書でしたねィ。」
「とぼけるんじゃねぇ。今日、午前中に書き直したもの持って来いよ。」
「ったく、朝イチで仕事の話って…旦那、どう思います?これ…」
「えっ!そ、その…」

銀時に話を振られたことで土方は食事の手が止まる。ついいつもの癖で沖田に小言を言ってしまったが、
食事の時くらいもっと楽しい話題にすべきだったか、そもそも隣なんかに座らないで、万事屋三人で
寛げるようにすべきだったかと、次々に反省点が浮かぶ中「仕事熱心ですごいと思う」と言ってもらえ、
その不安は一瞬にして消え去った。

ふわふわした空気に若干ムカつきつつも、漸く仕事以外の話ができると神楽が口を開く。

「銀ちゃん、昨日もマヨとお手て繋いで寝たアルか?」
「「ぶふーっ!!」」

土方と銀時は同時に吹き出した。

「あああ朝から何言ってんだ神楽!!」
「ちょっと聞いただけネ。…で、どうアルか?いつもみたいにお手て繋いだアルか?」
「いいいつもって何だ!おおおお俺達がそんなことするわけねーだろ!」
「はいはい…。じゃあ昨日『は』どうだったんですか?」

バレバレのくせにまだ隠せてるつもりなのかと呆れながら、新八が言い換えて質問する。

「仕事で来たのに、そんなことしねーよ。」
「でも、寝る時くらいは…」
「いい加減にしろよ…。仕事中にンなことしねェって。」
「…じゃあ、どうやって寝たネ?」
「どうって…普通に布団で…」
「布団はくっ付けて敷いたアルか?」
「あ?違ェよ。…隣の部屋に寝たの。」
「隣?一緒の部屋じゃないアルか?何で?」
「オメーらここに何しに来たと思ってんだ?仕事だぞ、仕事!」
「それは、まあ…」
「そうなんですけど…」


新八、神楽そして沖田、山崎の四人は視線を送り合い、食後に集まることを約束した。


(11.06.05)


二人に仕事をさせたら、あまりフワフワラブラブな雰囲気でなくなってしまいました^^; すみません。続きはなるべく早くアップしますのでお待ち下さいませ。

追記:続き書きました。