ピリリリリ…

自室で書類仕事をしていた土方は、着信を知らせる音で携帯電話を手に取って開いた。
画面には「万事屋」の三文字。
土方は通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てる。

「もしもし…」
『あっ、土方?俺だけど…今日さァ…ウチに来ねェ?』
「は?お前、正気か?」

確かに今夜、銀時と会う約束はしていたが、身体だけの関係である二人の逢瀬といえばホテルであった。

『いや、実はよー……あっ、こら!まだ話の途ちゅ『ようトッシー。銀ちゃんと付き合っていながら
私に挨拶もないとは、どういうつもりアルか?『ちょっと神楽ちゃん、そんな言い方ないでしょ。
…あっ、土方さんすいません。』
「いや…」

どうやら万事屋三人で受話器を奪い合っているようである。

『実は、いつも銀さんがお世話になっているお礼に、ウチで夕食をと思いまして…『ご飯終わったら
二人きりにしてやるから、好きなだけいちゃいちゃするといいネ!『いい加減にしろ、お前ら!
あっ、もしもし?そういうわけで悪いんだけど、今日ウチに…』
「…分かった。行ってやる。」
『サンキュー…『マヨネーズも用意してやるからありがたく思えヨ〜!『お待ちしてま〜す!』
「お、おう…」
『ほら銀さんも土方さんを誘って!『あー…じゃあ、今夜、よろしく…?』
「ああ、じゃあな…」

子ども達の高いテンションに圧倒され、土方は通話を終えた後も暫くの間携帯電話を握り締め、
呆然としてた。


*  *  *  *  *


その夜、土方は菓子折を持って万事屋を訪れた。
幾度となく訪れたことのある場所であるが、一応「恋人」として訪問するとなると妙な緊張が走る。
土方は扉の前で数回深呼吸をしてから呼び鈴を押した。

ピンポーン

ドタバタガヤガヤと扉の向こうで騒がしい音がして、出迎えたのは銀時であった。
新八や神楽が出て来るのではないかと身構えていた土方は、銀時の顔をみてホッとする。

「い、いらっしゃい…」
「お、おう…」
「………」
「………」

慣れない空気に戸惑い、何となく相手の方を見ながら固まっていると、後ろから新八と神楽が顔を出した。

「見詰め合っちゃって…ラブラブアルな。」
「ダメだよ神楽ちゃん、二人の邪魔しちゃ…。あっ、お二人共ごゆっくり。僕ら奥で待ってますから。」
「あ、いや、その…」
「いっ今、上がろうと思ってたところだ。」

土方は慌てて草履を脱ぎ、土間を上がった。

*  *  *  *  *

「「いっただっきまーす!」」
「「…いただきます。」」

やたらテンションの高い子ども達と居心地の悪い大人達―四角い炬燵に四人で座り、本日の夕食が始まった。
席順も子ども達の指定で、一番奥の上座に客である土方、そこから右回りに銀時、新八、神楽が座る。
神楽がマヨネーズボトルを手に取った。

「トッシー、マヨネーズかけてあげるネ。」
「いや、自分でやるから…」
「遠慮しなくていいネ。…どれにかけるアルか?」
「…全部。」
「了解ネ!」

普段は犬のエサだなんだと蔑まれる土方スペシャルであるが、今日は神楽が率先して土方の皿を
マヨネーズ塗れにしてくれた。
喜々としてマヨネーズを絞り出す神楽をボーっと見ていた銀時の脇を新八が小突く。

「銀さん、土方さんにビール注いであげないと。」
「えっ?あっ…ど、どうぞ…」
「ど、どうも…」
「なーんか余所余所しいアルな…」

ぎこちない態度でビールを注ぎ、注がれる二人に神楽が溜息を漏らす。
本当は恋人同士でないということがバレるのではないかとビクビクしていると、新八が神楽に言った。

「僕らの前だから遠慮してるんだよ。」
「そうアルか?二人きりになったら、ちゃんといちゃいちゃするアルか?」
「きっとそうだよ。…ですよね?」
「あ〜…そ、そうかもしれないなっ、土方くん。」
「バ、バレちゃったね、坂田くん。」
「遠慮なんかしなくていいのに…」
「とっとりあえずメシを食おうか、土方くん。」
「それがいいね、坂田くん。」

子ども達は食事が終われば志村家へ行くことになっている。
二人はとにかく早くこの場を終わらせようと、急いで目の前の皿を空にしていった。



*  *  *  *  *



「ふ〜っ…」
「お疲れ様。」

子ども達が去った万事屋。交代で入浴を済ませた二人は、事務所のソファに並んで座り
酒を酌み交わしていた。
和室は子ども達がいた頃に片付けられ、布団も敷いてあるのだが、そのまま雪崩れ込む気にはなれず
こうして時を過ごしていた。

「悪かったな…。まさかアイツらあんなにはしゃぐとは…疲れただろ?」
「いや、別に…。メシ、美味かったぞ。」
「それはどーも。」

会話をしながらも、互いに頭の中では別のことを考えていた。

(何で俺達、酒なんて飲んでんだ?いつもみたいにヤればいいのに…)
(メガネもチャイナもいなくなったんだから、恋人のフリはしなくていいはずだが…)

銀時は自分の左腕が土方の右腕にくっ付くほどに二人の距離を詰めた。
土方が銀時に問う。

「…どうした?」
「別に…」
「そうか…」

土方は自分の右手で銀時の左手を握った。
今度は銀時が問う。

「…どうした?」
「別に…」
「そっか…」

二人はそれから何も言わず、ただ手を繋いで座っていた。



(何この状況…。いい年した野郎二人でお手て繋いでって、キモくね?…だったらさっさと離せばいいのに、
何で俺、黙って繋いだままにしてんの?)
(何で俺は万事屋の手なんか握っちまったんだ?ていうか、何でコイツもこんなにくっ付いて
きやがった?そんで俺は、何でこの状況を心地いいとか思ってんだ?)
(新八も神楽も楽しそうだったな…。俺も、案外悪くなかった。前は、マヨ塗れのメシ見るだけで
吐き気がしたってのに、不思議なもんだ…。…そうか……)
(こうしてコイツと静かに過ごすのも悪くねェな…。くそっ…総悟の言うとおりじゃねーか…)

((俺は、コイツのことが…))


「「好きなんだ…」」


「「………えっ?」」

二人とも、自分の口から飛び出した言葉に驚き、そして相手の言葉を理解するまでにかなりの時間を要した。

「ひ、土方…お前、今…」
「おおお前こそ、今…」
「…エイプリルフールにゃ、まだ早いぜ?」
「それはこっちの台詞だ、ボケ。」
「…顔、赤いよ?」
「テメーもな。」
「………」
「あー…これからも、よろしく?」
「…うん。よろしく。」

二人は目を閉じ、触れるだけの口付けをした。



「あ〜あ…銀さんってば、ゲイだったのか…。別にいいけど、この年になって判明するとは驚きだよ。」
「は?オメー、女とヤったことあんだろ?」
「それはあるけど、好きになったことはなかったからな…。気持ちいいことできればそれで良かったし、
それ以外の…デート的なことは面倒なだけだと思ってた。」
「そうかよ…」
「でも今日、一緒にメシ食うのは楽しかったし、新八達が楽しそうにしてんのも嬉しかったし、
土方となら、エッチ以外のことも面倒じゃない気がする。」
「そうか…」
「…土方はゲイじゃねェよな?女の子、好きになったことあるし。」
「ブッ!おまっ…それを今言うか!?」
「ハハハ…すげぇ動揺してやんの。」
「るせェっ!」

土方はフイと顔を背ける。
銀時は繋いでいた手を解き、土方の腿の上に乗っかった。

「そろそろ…いつものヤツ、しようぜ。」
「テメーは本当に…」
「なに?」
「何でもねェよ。」

土方は銀時を引き寄せ、唇を重ねた。


*  *  *  *  *


「はぁっ…あっ!土方っ、ヤバイって!」
「…れだって、くっ…!」


ソファの上、銀時が土方の上に乗ったまま抱き合いながら互いのモノを扱いている。
上半身の着物は肌蹴け、背中に回る相手の手からゾクゾクと熱が生まれる。
いつになく昂ぶりを見せる身体は、二人の意志でも止められない状態になっていた。


「もっ、だめ…イキそう…」
「俺もだ…」


銀時は土方の首に腕を回し、唇を合わせた。


「んっ…んふぅっ…んむっ!」(銀)
「んんっ!…んっ、んっ…」(土)


キスしたことで身体がより密着し、二人は互いのモノを重ねて擦り始める。


「んっ、んっ、んっ、んっ…」
「んっ、んっ、んっ、んっ…」

「「んんーっ!!」」


間もなく二人は達した。


「ハァ、ハァ、ハァ…」
「ハァ、ハァ、ハァ…」

相手の肩口に顎を乗せて荒い呼吸を繰り返していると、再び身体の中心が熱を帯びてくる。

「万事屋…隣の部屋に行かねぇか?」
「行く…」

二人はその場に着物を脱ぎ捨てて、布団の上で再び抱きあうのだった。


こうして、恋人同士の「初めての夜」は官能的に過ぎていった。


(11.03.21)


漸く自覚して正式にお付き合いが始まりました。ここで第二部は終わりまして、次は最終章「交際編」になりますが、また少し時間をいただいて

固定CPを書こうと思います。おそらく続きをアップできるのは四月になると思います。その時はまたよろしくお願いします。

それでは、ここまでお読みくださりありがとうございました。

追記:続き書きました。