弐
万事屋一行が宴会場に着いてから数時間後。
「寒ィ…」
酔い潰れて寝ていた銀時は寒さで目を覚ました。辺りを見回すと、まだ飲んでいる隊士達もいたが
かなり数が少なくなっている。人口密度が下がったために部屋が寒くなったのだろう。
銀時の隣には、服からはみ出すほどに腹を膨らませた神楽が、ヒッヒッフーと呼吸をしながらひっくり返っている。
ちゃっかり残り物をタッパーに詰めていた新八が銀時に気付く。
「あっ、銀さん起きたんですか?」
「寒くて寝てらんねェよ…」
「ハハッ…。山崎さんが車で送ってくれるみたいなんで、そろそろ帰ります?」
「…んとに、寒くて寝てらんねェよ…」
「…まだ酔ってるみたいですね。」
同じことを繰り返す銀時をよくよく見れば、目は半分閉じていて姿勢もふらふらと定まらず、
まだ酔いが醒めていないことが判る。
「あ〜…寒ィ…」
「ぎ、銀さん?」
銀時はゆっくりと立ち上がり、よたよたと歩き出す。
「銀さん…帰るんですか?」
「寒ィから…あっちの火に、あたるんだよ…」
「火?…ちょっ、あっちはダメですよ!」
「寒ィな〜…」
新八が止めるのも聞かず、銀時は「火」に向かって歩いていく。
銀時の向かう先には、ライターで煙草に火をつけている着流し姿の土方十四郎。
普段から会えばケンカしかしない銀時と土方である。
土方が遅れて宴会場入りした時も、銀時を一瞥するや舌打ち一つして、できるだけ離れたところにいた。
そんな二人に酒の力が加われば更なる被害を出すかもしれないと、新八は気が気ではない。
「お〜…あったけぇ…」
「ん?」
「ぎ、銀さん!」
胡坐を崩して座っている土方の脚の上に銀時は顔を埋め、土方の腰に腕を巻き付けて再び寝入ってしまった。
土方が下を向いて状況を確認するかしないかのうちに新八が謝る。
「す、すいません土方さん!銀さん、かなり酔ってるみたいで、その…」
土方の手がゆっくりと銀時に伸びる。
「あ、あの…すぐどかしますんで、許してくださ…えっ!」
「ふわふわ……フフッ…」
新八は我が目を疑った。
土方が、鬼の副長と恐れられるあの土方が、こともあろうに犬猿の仲である銀時の頭を穏やかな表情で撫でている。
どうやら土方もかなり酔っているようだ。
「こりゃ、随分と面白ェもんが見れたな…」
「お、沖田さん…」
いつの間にか新八の隣に立っていたのは沖田総悟。
沖田は携帯電話を取り出して言った。
「お二人ともー…あっ、旦那は寝てるか…じゃあ、土方さーん、こっち向いてー…」
「んー?」
土方が焦点の定まらない目で前を見ると、正面にいた新八と目が合う。
「…そうご、かみそめたのか?…よろずやのメガネみてぇだぞ…」
「ソイツぁ間違いなく万事屋のメガネでさァ…」
「ん〜?」
カシャッ―土方が声のした方を向くと、沖田は携帯電話のシャッターを押した。
電子的なシャッター音が聞こえ、土方は反射的に人差し指と中指を立ててピースサインを作る。
沖田は更にカシャカシャと写真を撮っていった。
シャッター音が鳴り終わると、土方は再び銀髪の感触に浸る。
「土方さん…それ、気に入りましたか?」
「ああ…ふわふわで、きもちいーぞ…」
「へぇー…俺も触っていいですかィ?」
「……だめ。おれの。」
「ククッ…それは残念でさァ。」
肩を震わせてニヤニヤしながら土方達を見ている沖田は、特に残念がっているようには見えない。
そんなことを新八が思っていると、広間の襖が開いた。
「ふっ副長!?」
どこかへ行っていたらしい山崎は、襖を開けた瞬間、土方の状況を見て驚きの声を上げた。
「よう、山崎…面白ェだろ。」
「いったい、何があったんですか!?」
「この二人、デキてたらしいぜ。」
「えぇっ!!本当ですか!?」
「違いますよ、山崎さん。二人とも酔っててよく判ってないみたいなんです。」
「なんだ…そういうことか。じゃあ、副長は部屋に連れて行くよ。俺、布団敷いてきたから。」
「居ねェと思ったらそんなことしてやがったのか…」
「そのあと車出すから、新八くん達はもう少し待っててもらえる?」
「構いませんよ。…送っていただけるだけで、ありがたいですから。」
「じゃあ…」
山崎はしゃがんで、土方の顔の前で手をひらひらと振った。
「副長、判りますか?山崎です。」
「やーざき……ふわふわは、おれのもんだ…」
「ふわふわって…あの、そろそろ寝ませんか?」
「…ねる。」
「いてっ…」
土方がふらりと立ち上がると、脚の上にいた銀時は畳に落とされてしまった。
そのことにも気付かず、土方は山崎に支えられながら宴会場を後にした。
「銀さん、大丈夫ですか?…もうすぐ帰りますよ。」
「寒ィ…枕、どこいった?」
「枕って…」
「旦那、こっちですぜィ。」
「お、沖田さん!?」
「さあさあ…」
「ん〜…」
沖田に誘われるまま、銀時は半分寝ながら歩いていく。新八も心配そうに二人の後を付いていった。
「隊長…それに旦那と新八くん…」
「土方さんはもう寝たのか?」
「はい。…あ、あの、何を企んでるんですか?」
「企むなんて人聞きの悪ィ…俺はただ、旦那の探している『枕』の在り処を教えてやってるだけでィ。」
沖田は土方の部屋の襖を開けた。
部屋では、中央に敷かれた布団で土方が寝息を立てていた。
「ほら、旦那…枕も布団もありやすぜ。」
「おー…」
「ちょ、ちょっと銀さん!」
「旦那!待ってください!」
「邪魔するんじゃねェよ。」
土方の布団に向かっていく銀時を山崎と新八で止めようとしたが、それを沖田に止められてしまう。
「旦那の自由を認めてやらねーか。」
「自由って…旦那は酔ってるんですよ?」
「そうです。銀さん、ここが何処かも判ってないですって。」
「でも二人は案外、良さそうだぜィ?」
「「えっ?」」
沖田に言われて布団の方を見ると、土方は寝惚けながらも銀時が入れるように布団の端に寄り、
その隙間に銀時が潜り込んでいた。二人は一つの枕に頭をくっ付けるようにして仰向けに寝る。
「うわ〜…このまま朝になったら、副長も旦那もビックリするでしょうね…」
「せっかくだから、もっとビックリさせてやろうぜ?」
「お、沖田さん、何するんですか?」
沖田は枕元にしゃがみ込み、ニタッと笑って銀時と土方に語りかける。
「お二人とも…抱き合って寝ると暖かいですぜィ。」
「隊長!」
「なに言ってんですか!」
「まあ、見てろって。…ほらほら、もっとくっ付いて。」
「んっ…」(銀)
「んー…」(土)
銀時と土方は沖田の誘導通りに向かい合い、上になった腕を相手の背中に回す。
その様子を沖田はまた携帯電話で撮影していた。
山崎と新八には、沖田に黒い悪魔の尻尾が生えているように見えた。
「そんだけくっ付いたら、キスの一つでもしたらどうです?」
「たたたた隊長!」
「もうこれ以上は…」
「何でィ…二人ともいい大人なんだから、キスの一つや二つ、どうってことねーだろ。」
「そういう問題じゃないでしょ!」
くちゅ…
「「えっ!」」
「おー…」
枕元で沖田と山崎・新八が言い合いをしていると、下方から微かな水音が聞こえてきた。
山崎と新八は驚きで固まり、沖田は感心したように二人の口元を見詰める。
「いきなりディープキスかますとは、なかなかやってくれるじゃねーか…」
カシャッ
「たっ隊長!もう出ましょう!」
「そ、そうですね!」
携帯電話のシャッター音で正気を取り戻した山崎と新八は、これ以上沖田をここに居させては危険だと、
二人で協力して沖田を部屋の外へ連れ出した。
「チッ…いいとこだったのに…」
「どこがですか!隊長、悪ふざけが過ぎますよ!」
「…おっ?今、喘ぎ声みたいなのが聞こえなかったか?」
「き、聞こえません!もう、そっとしといてあげましょう!」
「仕方ねェな…。まあ、充分面白ェ写真が撮れたし、この辺で勘弁してやるか…」
「それがいいですよ。…新八くん、お待たせ。帰ろうか?」
「あ、あのー…銀さんは、どうしましょう?」
「あっ!そうだった…」
山崎と新八は先ほど閉めた襖を見詰め、そして互いに顔を見合わせる。
「…この中に入って、旦那を起こして連れて行くかい?」
「い、いや…ちょっと、それは…」
中から荒い息遣いが聞こえてくる気がしたが、二人は空耳だと思いたかったし、確かめる勇気もなかった。
結局、銀時はそのままにして新八と神楽だけが車(パトカー)に乗って帰路へ着いた。
(11.02.19)
銀さんと土方さんが仲良くケンカしながら宴会する様子を期待されていた方がいましたら、すみません。しかも節分とか全く関係ないです^^;
屯所で宴会する口実がほしかっただけです(笑)。今回、どっちのセリフか分かりにくいものには、後ろに「(銀)」とか「(土)」とか書くことにしました。
地の文でちゃんと説明すればいいんでしょうけど、地の文書くの苦手なんです。セリフで進める方が楽なんです。…物書きとして致命的ですね^^;
まあ、原作でもフキダシにマル銀とか書いてるし…。 三人が出て行った後の土方さんの部屋の様子は、次で詳しく書きます。もちろん18禁です!
…ですが、すみません。数日中にアップできると思いますので、もう少し時間をください。 まずは、ここまでお読みくださりありがとうございました。
追記:続き書きました。18禁のため注意書きに飛びます。→★