後編


(本気なのか…?土方が俺と……まあ、既に一回アレなんだけど……でも、あん時俺は酔ってて…
ん?じゃあ、土方は何で俺と?…話聞いた限りじゃ、結構軽いノリでヤっちゃうみたいだけどさァ…
ていうか、今素面だし…。…そりゃまあ、コイツの言うとおりにすりゃあ、絶対ェ誰にも言えないと
思うけどさァ……これ以上、不祥事重ねるのもなァ…。…あれっ?互いに合意の上だからいいのか?)

銀時は土方を正面から見据えた。

「よしっ、ヤろうぜ!」
「おう。…で、いくらだ?」
「金はいい…。ここに泊めてもらう宿代だ。」
「そうか…。そんで万事屋、テメーどっちだ?」
「どっちって?」
「上と下。」
「ああ。…土方は?」
「どっちでも…」
「俺も両方ヤったことあるけど…。…あっ、今回は俺が上でいい?色々あって今ケツが痛くて…」
「じゃあ上んなれ…」

土方は再び枕に後頭部を付けて横になった。



*  *  *  *  *



行為が終わり、銀時は土方の上になったまま土方の胸に頭を預け、二人で忙しない呼吸を繰り返す。

「ハァ、ハァッ…あ〜…マジで疲れた…」
「…そういやテメー、帰る気力がねェとか言ってたが…ヤる気力は充分だったみてェだな…」
「そんな気力、なかったんだけどねー…」
「どこがだよ。二発もヤりやがって…」
「ハハ…土方のナカがよすぎんだよ。あの、入れた時にぎゅるって締まるの、アレどうやってんの?」
「知るか…」
「あー…マジでヨかった。前にヤった時のこと、覚えてねェのは残念かも…」
「は?前って…ナニ言ってんだテメー?」
「だから、年末に店の厠でヤった時のことだよ。俺、酔ってて何も覚えてねェの…」
「…誰と誰が厠でヤったんだ?」
「俺と土方。」
「ヤってねェよ。頭湧いてんのかテメー…」
「えっ!」

銀時は頭を上げて土方と目を合わせる。

「ヤって、ない?」
「ああ。」
「だ、だってお前…昼間、詫びがどうこうとか、『店の厠で俺に』とかって言ったじゃん!」
「それで何でヤったことになるんだよ。…俺ァ、厠で揉めてたテメーらの仲裁に入っただけだ。」
「仲裁ぃ〜!?」

銀時が思わず体を起こすと、二人の間に冷たい空気が流れ込んでくる。

「ちょっ…寒ィじゃねーか!起き上がんなよ…」
「あっ、悪ィ…。でも重いし、隣に移るな。」
「おう。」

土方の右側に移動し、銀時は土方の方を向いて横になった。

「えっと、あの日…何があったか教えてもらえる?」
「ああ…」

土方はあの日のことを銀時に話して聞かせた。



*  *  *  *  *



銀時達が忘年会をした日、土方はまたしても近藤から「休みの前の晩くらい羽目を外していい」と
屯所を出され、一人で個室のある居酒屋に飲みに来ていた。土方が店に入って三十分程経った頃、
この店の店主がやって来て言った。

「土方さん、大変申し訳ないのですが…」
「何か事件か?」
「その…厠でお客様同士が何やら揉めてまして…。顔馴染みの方なので、通報などをして事を荒げれば
今後の関係が…。そこで、土方さんのお力をお借りできないかと…。土方さんも今日はお客様として
来ていただいているのは重々承知しているのですが…」
「構わねェよ。…厠だな?」
「ありがとうございます。あの、今日のお代は結構ですから…」
「そうか…」

一人で飲んで時間を潰すより、酔っ払いのケンカに首を突っ込んだ方が楽しい―土方はそんな思いで
店主に軽く手を振って厠へ向かった。

厠には銀時と妙がいた。銀時は床に座って寝ており、その前に妙が立って泣き喚いていた。

「おい、何があった?」
「土方さん…聞いて下さい!銀さんったら、私のお気に入りをこんな…」
「あー…」

見れば、妙の着物は吐しゃ物に塗れていた。

「気分が悪くなった私を介抱してくれてたはずが、銀さんも気分が悪くなったって…」
「それは災難だったな…」
「本当ですよ!それなのに銀さんは、吐いてスッキリしたら眠くなったとか言って…酷いわ!」

まだ酔いが醒めていないのか泣き出した妙を、土方は溜息を吐きつつ宥める。

「分かった分かった…。とりあえず今日はもう帰った方がいい。…駕籠(タクシー)呼んでやるから。」
「ううっ…」

土方はトイレットペーパーで適当に妙の着物を拭うと、店員に駕籠を呼んでもらい妙を乗せた。
そして土方が厠に戻ると銀時の姿はなく、自力で戻れたのだと思い土方も自分の席に戻った。



「あの、土方さん…本当に申し訳ないのですが…」
「…あの野郎、また何かしやがったのか?」

暫くするとまた店主に請われ、土方は厠へ向かうことになった。
今度は銀時と九兵衛が暴れていた。九兵衛は「僕に触るな」とトイレットペーパーや掃除用具を投げ
銀時は「大丈夫か九兵衛」と言いながら自分が便器に向かって嘔吐していた。

土方はまた駕籠を呼んでもらい、女性店員に頼んで九兵衛を駕籠に乗せ、どこからか現れた東城と共に
柳生の屋敷へ帰した。
そして厠へ戻ると、銀時はフラフラと席へ戻ろうとしていたので後を付いて行き、同席している面々に
「あまり店に迷惑を掛けるな」と釘を差して土方も席へ戻った。


けれどその後、一人SMショーを始めたさっちゃんを止めたり(銀時は鞭を持たされて寝ていた)、
店の裏で「あっち向いてほい」に負けたから脱げと言って銀時の服を裂いていた月詠を止めたり、
長谷川がこれまでの恨み辛みを銀時に向かって言うのを聞いているうちに、自分も愚痴を言ってみたり
(実際には銀時は酔ってボーっと立っていただけで、長谷川の話は土方が聞いていた)、とにかく
銀時達の対処に翻弄されて、土方自身はゆっくり飲む暇などなかった。

いい加減、元凶である(と思われる)銀時を万事屋に帰そうと、土方が銀時を駕籠に乗せたところ、
お登勢に声を掛けられた。

「バカ息子が世話になったね…」
「いや…。酔っ払いの世話も警察の仕事だ…」
「そういうことなら、最後にもう一仕事頼まれてくれるかィ?」
「何だ?」



*  *  *  *  *



「…そんで、バァさんに言われて俺はテメーを宿に連れて行って服を脱がせて…」
「はぁぁっ!?ちょっ…それじゃあナニか!?お前が俺とババァのベッドイン手伝ったってのか!?」
「ベッドインって…バァさんはただ、年末だからって羽目外し過ぎるお前をちょっと懲らしめようと…
せっかくアニメ再開も決まったってのに、不祥事起こして原作が打ち切られちゃ堪らねェからな。」
「マジでか…。つーことは、他のヤツらも口裏合わせてたってのか?」
「ナニ言われたか知らねェが…まあ、そうなんじゃねーの?」
「ア イ ツ ら〜…俺の純情を弄びやがって!」
「何が純情だ…。元はと言えば記憶失くすまで飲むテメーが悪いんだろ…」
「マジかよ…マジで?マジで何もなかったの?俺、誰ともK点越えてねェの?……良かったぁ〜〜。」

銀時は力なく布団にうつ伏せた。そして間もなく、叫び声を上げて両腕で体を起こした。

「あああああああああああああ!!!!」
「っるせェな…。それから、寒ィから起きるなら出てけ!」
「うがっ…」

土方は銀時を布団から蹴り出す。裸で放り出された銀時は慌てて布団へ潜り込む。

「ちょっ、寒ィ!この部屋、マジでシャレになんねーくらい寒ィぞ!?」
「隙間風は入ってくるし、今の時間帯は一番冷えるからな…」
「ていうか土方、お前は何でそんな冷静でいられんだよ!」
「眠ィんだよ…。テメーが無茶しやがったおかげでな…」
「それだよ、それ!どーすんだよ…俺達ヤっちまったんだぞ!?」
「だから何だよ…」

不祥事、規制、条例改正…様々な単語がぐるぐる回る銀時の脳裏に服部の言葉が浮かぶ。

 『別にその行為自体は悪いことじゃねーだろ。…今後の身の振り方しだいだな。』

「(そうだ…ケジメだ!それしかねェ!)…土方十四郎くん!」
「あ?」

銀時は布団の中、手探りで土方の手を取り名前を呼ぶ。

「僕と結婚を前提にお付き合いして下さい!」
「…飲んで不祥事起こすような野郎とは付き合えねェ。」
「起こしてないもん!起こしたと思っただけで…起こしてなかったもん!!」
「じゃあ…不祥事起こしたと思って、ヤケでテキトーに身体重ねるような野郎とは付き合えねェ。」
「うっ…」

土方の尤もな言い分に銀時は言い返すことができなかった。
決してヤケになった訳ではなかったが、不祥事を起こしたと思わなければ土方とこうすることが
なかったのも事実だと思った。

「そもそも俺が『万事屋』に依頼したんだ…。テメーが責任感じることはねェんだよ…」
「でも…」
「いい加減、寝かせてくれや…」
「あ、うん…」

ほどなくして、土方からは規則的な寝息しか聞こえなくなった。



*  *  *  *  *



「やっぱり俺、土方くんとお付き合いしたいです。」

昼近くに土方が目覚めると、枕元にいつもの服を着た銀時が正座していた。
土方はゆっくり起き上がって着流しを羽織る。

「またその話かよ…。俺とお前が付き合う必要なんかねェんだって言っただろ…」
「でも俺は、土方くんとお付き合いがしたいの!」
「なんで?」
「好きだから。」
「嘘吐け。」
「嘘じゃないもん。」
「嘘だ。」
「大好きだもん。」
「あのなァ…」
「今更なのは分かってる!でも本当に、本気なんだ…。一晩ちゃんと考えて、その上でお前と正式に
お付き合いしたいと思った。誰にも話してなかった秘密を話してくれたのも嬉しかったし…」
「それは、テメーが似たような経験してたからだ…」
「…今までお前と関係したヤツら、全員ぶっ殺してやりたくなった。」
「………」

一瞬、瞳の奥にどす黒い殺気を漲らせた銀時に圧倒され、土方は何も言えなくなってしまった。
けれどすぐに、いつもの本気だか冗談だか分からないような瞳に戻る。

「俺、諦めねェから…。お前んトコの大将みたいに、しつこく付き纏ってやるから!」
「勝手にしろ…」
「それで、できればでいいんだけど…」
「あ?」
「これからは、その…カラダ張る仕事、あまりしないでほしいなァ、なんて…」
「何でテメーに仕事の口出しされなきゃなんねーんだよ…」
「そう、だよね…」

銀時は下唇を噛み締め、膝の上に置いた手で拳を握った。土方は穏やかな表情でフッと息を漏らす。

「勘違いすんなよ?もう、その仕事は辞めてんだ…」
「えっ…」
「組織がデカくなると、俺一人がカラダを張ったからってどうにかなるもんじゃねーんだよ。」
「そう、なんだ…」
「それに…できなくなってたからな…」
「何が?」
「ナニが。不思議なもんだな…誰かに惚れただけで、ソイツ以外とヤれなくなるなんて…」
「えっ?…あ、あの、それって…」
「俺にしつこく付き纏うんだろ?頑張れよ…」

土方は悪戯っ子のような笑みを浮かべて玄関に向かう。
銀時も慌てて後を追ったが、草履とブーツでは履く時間に差が出る。
土方はさっさと扉を開けて外に出てしまった。

けれど、普段よりもゆっくり歩いている土方に銀時はすぐに追いついた。

「待っててくれたの?」
「…テメーが昨晩張り切りすぎたせいで、腰が痛ェ。」
「ゴメンね…。」
「次はテメーの足腰、立たなくしてやるから覚悟しやがれ。」
「―っ…望むところだ!」


銀時は土方の腕に自分の腕を絡め、笑顔で冬の街を闊歩するのだった。


(11.01.13)


えーっと…またしてもエロシーン丸々カットですみません^^; 例の条約改正のせいではないのですが、エロ入れるとあまりにも長くなってしまいますし、そもそもこれ

次のジャンプ発売日(17日)より前にアップしないといけないので…。カットしたシーンは皆様でご自由にご想像下さいませ^^ 銀さんのお尻が痛いのはカレーのせいです。

この土方さんは元々銀さんのことが好きで、落ち込んでる今がチャンスと思って誘いました(笑)。ヤってからネタばらししたのも、そのためです^^

今回と前回(336訓ネタ)の話を書いて思ったのは、「どんな話でも銀土銀(土銀土)に繋げられる!」ということです。これで338訓がどんな展開になっても大丈夫(笑)!

ここまでお読みくださりありがとうございました。

追記:続きを書きました。単行本三十九巻表紙ネタです。