「安心しろ。俺はジャンプではラブコメをいの一番に読むと言っただろ。」
「安心できねーよ。TOLOVEる起こす気マンマンじゃねーか!!」
六人を同じ長屋に住まわせることになった銀時は、屋根の上にいる長屋の提供者・服部全蔵に
不満をぶつける。
「元はと言えばお前の責任だ。協力してやってるだけありがたいと思え。」
「あ〜〜〜!マジで俺が悪いのかよォォォ!」
「まだそんなことを言ってるのか…。往生際が悪いぞ。」
「だって信じらんねェよ!一人や二人ならともかく、六人だぞ、六人!…そうだ!店に行きゃ何か
分かるんじゃねーか?ちょっと行って来………どこの店だっけ?」
「そこから覚えてねーのか…。行くのは自由だが、店員だって厠の中で起きたことまでは把握して
ないんじゃないか?気付いてたんなら一人目の時点で店を追い出されてるだろ。…いや、待てよ…」
「んだよ!?」
「ヤツなら事情を知ってる可能性があるな…」
「あ?誰だよ…」
「俺はあまり面識がないんだが・・・」
きっと七人目にいるんだよ
あまり気は進まなかったが、銀時は服部の言う「事情を知っていそうな人物」を訪ねることにした。
(まさかアイツとも…ってことはねェよな?あの六人だって有り得ねェと思うが、アイツとは更に
有り得ねェよ…。あの六人は比較的俺に好意的なヤツらだが、アイツはむしろ…まあ、嫌われてるって
感じでもねェけど、好かれてはいねェよ。うん、大丈夫だ。……でもアイツ…男、知ってるし……
聞いたわけじゃねェけど、そういうの、何となく分かるんだよね…。いや、でも大丈夫!…多分。)
今回のことで、銀時は自分の行動に自信が持てなくなっていた。銀時は服部の言葉を思い出す。
『なんならソイツも長屋に呼ぶか?猿飛の裏の部屋がちょうど空いてるし…』
(くそっ…あの野郎、絶対ェ楽しんでやがる!増えるならせめて、大人しくて可愛い女の子にしろや。
目付きの悪い男なんかにゃ用はねェよ!状況が悪化するだけじゃねーか!……いや、アイツは
オッサンじゃねーから、今よりマシになんのか?…いやいや、人数増えてマシになるわけねーよ!
…いやでも、六人も七人も変わらねェか…。…って、だから、アイツとは大丈夫だって!むしろ、俺の
無実を証明してくれるかもしんないんだぜ?そう!大丈夫!絶ーっっ対に大丈夫!……だと思う。)
既に目的地へは着いているものの、どうにも踏ん切りがつかず、銀時は門の前を何度も行き来する。
「ここで何してやがる。」
「うおっ…って、うぉわ!」
急に声を掛けられたことと、声を掛けてきた人物が目的の人物であったことで、銀時は二度驚いた。
「ななな何だよ…。急に声掛けんじゃねェ!」
「屯所の前をウロついてるヤツがいれば職質すんのは当然だろーが。…ウチに何か用か?」
「ええーっと、その…何つーか…土方くんに、ちょっと聞きたいことが…あるよーな、ないよーな…」
「どっちだよ…」
「えっと、あのですね…年末に、その…飲み屋で、あの…」
「ああ…あん時の詫び入れに来たのか?」
「わわわわびって何の…」
「覚えてねーのか?ったく…記憶なくすまで飲むなよな…。あの日、店の厠で俺に「ああ〜〜!!!」
「ちょっ…何すんだテメー!」
大声で土方の台詞を遮ると、銀時は叫び声を上げたまま土方の制服の後襟を掴んで走り出した。
* * * * *
銀時は土方を引き摺るようにして件の長屋まで走り、土方を空き室へ放り込んだ。
「ってェな…何しやがる!何処だ、ここは!」
「あー、はいはい…責任取ればいいんでしょ。ここで一緒に暮らしましょーね!」
「テメー、そのふてぶてしい態度は何だ!何で俺がこんなワケ分かんねェ所でテメーなんかと一緒に
暮らさなきゃなんねーんだよ!」
「出て行きたきゃ出て行けばいーだろ!銀さん止めねーよ!?つーか出て行ってください!」
「テメーで連れてきといて出て行けだァ!?…ふざけんのもいい加減にしやがれ!
俺は仕事中だったんだぞ!?」
「だから好きにしろっつってんじゃねーか!仕事でもどこでも行きやがれ!!」
「邪魔したのはテメーだろ!!…もういい!俺ァ仕事に戻る!!」
「あー、どこへでも行けよコノヤロー!!」
ワケも分からず連れてこられた土方は、ワケが分からないまま仕事場へ戻ることになった。
* * * * *
その夜、夕食だか攻撃だか分からない持て成しを女性陣から受けた銀時は心身ともに疲れ果て、
万事屋へ戻る気力もなく、長屋の空き室で休もうと扉を開けた。
「あれぇ〜?」
「よう…」
空き室だと思った部屋には、昼間、怒って帰ったはずの土方が、着流し姿で本を読んでいた。
挨拶してしまった手前、そのまま踵を返すわけにもいかず、銀時は仕方なしに後ろ手で玄関を閉めた。
部屋の中央の卓袱台の上に大きめの蝋燭が灯っている以外に灯りのない部屋は、街灯のある外よりも
暗く感じられた。
土方は卓袱台の上の本を閉じ、蝋燭をもう一本灯して中央に突起が付いただけの簡素な燭台に差し、
畳に置いて銀時の方へ押しやった。
銀時は玄関を上がると、それを持って卓袱台に座る。
「た…ただいま…」
「…気色悪ィことぬかすな。俺ァ別に、テメーと暮らすためにここへ来たんじゃねーよ。」
「あ、そうなの?じゃあ何で…」
「…明日は、非番なんだよ。」
「それで?」
「俺ァ屯所に住んでんだ。」
「…知ってるけど?」
「これといった趣味もなくてな…」
「うん…」
「非番つっても、普段より少し遅く起きて制服を着ないってだけで、大抵は仕事をしてる。」
「マジでか…」
「そんな休みを暫く続けると、近藤さんから『休みの日は遊べ』とか言われて屯所を追い出されんだ。
つっても特にやりたいこともねェから、テキトーにその辺ぶらついて、外でメシ食って帰ってた。」
「へぇ…」
かぶき町界隈に知り合いも多く、仕事がなければないでそれなりに充実した時を過ごしている銀時に
とって仕事しかすることがないという生活など、したくてもできないと思った。
(でもまあ、コイツならありそうだよな。友達も少なそうだし…)
「だからな、今夜も近藤さんから『明日は休みなんだから帰って来なくてもいい』つって追い出されて
…で、昼間ここに連れて来られたのを思い出して…」
「ちょうどいいから休日を過ごす場所にしようとしたワケか…」
「ああ。そういうわけだから家賃も俺が払うし、テメーは自分ん家に帰っていいから心配すんな。」
「そっか…。でも、家賃は大丈夫。この長屋、親の遺産たんまり持ってるボンボンのもんだから。」
「そうなのか?でもよ…」
「それより電気代払おうぜ?この部屋暗いし、めっちゃ寒いんですけど…」
土方は室内だというのにマフラーをしていた。銀時は抜いていた右腕の着流しを着込み体を擦る。
「住んだ初日に電気が止められてるわけねーだろ。この部屋、電灯の類が一つもねェんだよ…。
俺も来てから気付いてな、とりあえずコンビニで蝋燭買ったんだ。」
「何でそこで蛍光灯買わないわけ?」
「電気の傘もねェのに蛍光灯だけあっても仕方ねェだろーが…」
「あっ…」
天井を見上げると確かに何も付いていないようだった。
「卓袱台と布団があんのは良かったけどな…。カイロ、要るか?」
「カイロも買ったんだ…」
「ああ。」
「でもいいや。もう寝るからさ…」
「…ここでか?」
「悪ィんだけど俺、くたくたで帰る気力ねェのよ。…一晩だけ泊めてくんない?」
「…布団、一組しかねェけどいいのか?」
「マジで?……ん?いいのかって聞くっつーことは、オメーはいいわけ?」
「寒いからな…」
「行火代わりか…。まあ、いいや。お願いしまーす。」
どうせそれ以上のことヤってんだし、行火代わりに一緒に寝るくらい…そんなことを思って銀時は
土方の部屋に泊まることを決めた。
銀時が押し入れを開けると土方は卓袱台を端に寄せたので、銀時は部屋の中央に布団を敷いた。
土方は閉じていた本を開く。
「あれっ?お前、寝ねーの?」
「布団が温まったら呼べ。」
「へーへー…まっ、ここはお前ん家だから言うこと聞いてやるよ。…おー、冷てぇ…」
銀時は外気と同じくらいに冷えた布団に潜り込んだ。
「土方ァ…」
五分程して、銀時が土方を呼んだ。土方は視線を本に落としたまま答える。
「…布団、温まったか?」
「いや、まだ冷えてるよ…」
「そうか…。しっかり温めとけよ。」
「はいはい…。ところで土方ァ…」
「あ?何だ?」
「お前…男とヤったことあるだろ?」
「ブッ!」
思わぬ質問に吹き出した土方は銀時の方に視線を送る。銀時はうつ伏せに寝て頬杖を付き、
頭だけ起こしていた。枕元に置かれた蝋燭だけでは銀時の表情までは窺えない。
土方は煙草の煙をゆっくりと吸い込み、心を落ち着かせてから応える。
「この状況で聞くことかよ…」
「いや〜…前々から聞いてみたかったんだけどね、折角俺達しかいないんだしこの機会にと思って。
で、どうなんだよ?男と付き合ってるって感じでもなさそうだけど…」
「…そういうテメーの方こそ男と寝たことあんだろ?」
「あっ、やっぱりオメーも分かるんだ?」
「何となく、な…。俺の話を聞きたきゃテメーから話せ。」
「俺は、まあ…何というか…」
「…話したくねェならそれでもいいぞ。」
「別に、そういうわけではないんだけどね…。ちょっとさァ、こっち来ない?」
「チッ…」
土方は卓袱台の上の蝋燭を消し、銀時の隣―布団の中に入った。
銀時から枕を渡され、土方はそれを頭の下に置いて仰向けになる。
「これでいいかよ。」
「うん。やっぱ、こういうのは布団に入ってこそこそ話すもんだよなァ…」
「…同じ布団に入ってする話じゃねーけどな。」
「ハハハ…」
銀時は頬杖の姿勢で前を向いたままゆっくりと話し出す。
「血の気の多い頃はさァ…眠れない夜とかもあって、でも彼女なんかいねェし、プロのお姉さんトコに
行く金もねェし、そんで……。まあ、こういう時って人肌恋しいとか、そんなんもあるし…
スッキリしたら余計なこと考えないで眠れるっつーか…」
「…戦争中か?」
「あっ、知ってんだ。…うん、そう。肌を重ねると、俺もソイツも生きてんだって安心できた。」
「そうか…」
「戦争終わってからは…まあ、何でもやる万事屋だからね。ハハッ…」
「そうか…」
「コッチ系の方が短時間で纏まった金が入るから、俺としては楽なんだよねー…」
「そうか…」
「…軽蔑した?」
ずっと正面の蝋燭を見詰めながら話していた銀時が、初めて土方の方を向いた。
土方は天井を向いたまま答える。
「別に…。俺も似たようなもんだ…」
「それって、こっちに出てくる前?」
「…田舎にいた頃は、テキトーにその辺の道場にケンカ売って戦って…夜になると寝床確保のために
テキトーに繁華街ウロついて、声掛けてきたヤツとテキトーな宿に入って…」
「クスッ…お前、テキトーばっかだな…。声掛けられないことはなかったわけ?」
「繁華街つっても田舎だからな…。俺がそういう目的で来てるってのはすぐに広まって…」
「そっか…お前、モテそうだもんな。」
「店で買うより安上がりだからだろ…。だが、近藤さんに拾われてからはやらなくなった。
…ていうか、家ができたからやる必要がなくなった。」
「…でも、お前さァ…」
横目でちらりと銀時を見て言いたいことが分かったのだろう。土方は短く息を吐いた。
「それも分かんのか…」
「何となくだけど…土方が男とヤってたのって、昔だけじゃない気がして…」
「まあな…。江戸へ出てきてからも、何度か男と寝たな…」
「それって…俺が聞いていい話?」
「あ?テメーで聞いといて何を今更…」
「そうなんだけどさ…やっぱ、俺なんかが興味本位で聞いちゃマズかったかも、とか思って…」
殊勝な態度をとる銀時に土方はフッと口元を緩める。
「アホか…。興味本位だからいいんじゃねーか。無駄に重く受け止めるようなヤツには話せねェよ。」
「そう?ならどうぞ…」
「…俺が、江戸に出てきてから関係を持ったのは…幕府の要人なんかだ…」
「………」
「真選組のためにできることは何でもやりたかった…。向こうから言われて相手をすることもあれば
こっちから誘われるように仕掛けることもあった。こういう経験があるヤツってのは何となく分かる。
…テメーが俺を見て分かったように、な。」
「ふぅん…。本気になっちゃうヤツとかいねェの?」
「その辺は気を付けてた。『遊び』にしとかねェと、他のヤツと関係を持つ時に面倒くせェからな…。
そういう意味で、既婚者は都合が良かったな…」
「嫁さんいんのに男遊び?」
「ああ…。そういうヤツらは大抵、地位を得るために結婚してる。いい家柄の娘を嫁にして後ろ立てを
得たり、逆に家柄も何もないところの娘と結婚して、分け隔てない優しさをアピールしたり…」
「ロクなヤツじゃねーな…」
「だから都合がいいんじゃねーか…。」
「ハハッ、なるほどね。…えっとー……」
銀時は次の言葉を探した。土方に確認したいことがあるが、それをしていいものか迷っているのだ。
そんな迷いを感じ取ったのか、土方が「何だ?」と促す。
「……答えたくなきゃ、答えなくていいんだけど…」
「いいから言えよ。」
「今話したこと…誰かに話したことある?」
「ねぇよ。」
「何で……俺に話したの?」
「あ?聞いてきたからじゃねーか…」
「でもさ…テキトーにはぐらかすこともできたじゃん。どうすんの?俺が誰かにバラしたら…」
「そしたら俺もテメーの話、バラしてやるよ。」
「俺は別に…かぶき町で働いてるし、誰に知られようとダメージねェし…」
「…誰に知られても構わねェなら、何でソッチの仕事を辞めたんだ?」
「えっ…」
「やっぱりな…」
「てめっ…カマかけたな?」
土方はフフンと勝ち誇ったような顔をした。
「まあ、何となく分かってたけどな…。ソッチの仕事でガキを養ってるとは考えにくいんだよ。」
「…カラダ売るのが悪いとは思ってねェけど…アイツらは、そういうの嫌がりそうだったから…」
「だろうな…。つーことだ…ガキ共に知られたくなきゃ、俺のことも黙っとけよ。」
「お前が、子ども相手にそんなこと話すわけねーじゃん…」
「それはテメーの態度次第だろ?」
「…尊敬する上司にチクったりしたら、逆上して何するか分からねェ?」
「かもな…」
「もし、何かの拍子にポロッと言っちまったら?」
「…テメーは何が何でもバラしてェみたいだな…」
「そういうわけじゃないんだけど…あんまり俺を信用しない方がいいって言ってんの。」
「ったくテメーは…聞いといて答えたら信用するな?ふざけるのもいい加減にしろよ…」
「だってさ…俺、忘年会でお前と会ったことすら覚えてねーんだよ?」
「なんだ、そのことか…」
「俺は自分で自分が信じられねェんだよ。」
「…だったら二人の秘密にするか?」
銀時には土方の言葉の意味が理解できなかった。
「は?何言ってんの?その約束を守らずに俺だけがバラすかも、って言ってんだぞ。」
「違ぇよ…。テメーの秘密と俺の秘密、二つあるからうっかりバラしそうになるんだろ?
だったら、それを合わせて一つの秘密にすればいい。そうすりゃ、片方だけバラすなんてできなくなる。」
「合わせてって、どうやって…」
「簡単なことだ…。テメーはカラダ売ってたことが秘密で、俺は勝手にカラダ張ってたのが秘密だ。」
「つまり…?」
「いくらだ?『万事屋』…」
「―っ!」
土方は体ごと銀時の方を向いて距離を詰め、首を起こして耳に直接吹き込むように「万事屋」と囁く。
その瞬間、銀時はピシリと固まって動けなくなってしまった。
(11.01.13)
本誌の展開に再び色々な衝撃を受け、「七人目が土方さんの夢を見た」と、自分でもドン引きなことを「にっき」に書いたところ、ありがたいことに「土方さんの
長屋生活を読みたい」と言って下さった方がいて、小説にしました。…小説の内容と夢の内容は違いますよ(笑)。それから、土方さんが長屋に連れて来られた時の
ケンカシーン、ああいうケンカは久々に書いた気がするのですが楽しいです。やっぱり二人はケンカップルですね!…まだデキてませんが^^;
後編も15禁で直接飛びます。→★