「いや〜、いいところで会ったね土方くん」
「なに偶然会ったみてェな口聞いてやがる。…たかる気で待ち伏せしてたくせに」
「あっ、バレた?今月ちょーっと厳しくてさァ…」
「今月『も』だろ。ったく、仕方ねェな…」
「へへっ…サンキュー」
俺と土方はこうして月に何度か二人で飲みに出かけている。
本当はそこまで金に困ってるわけじゃねェけど(家賃滞納はいつもの事だから困ってない)俺はコイツと
一緒にいたくて声を掛ける。
そう、俺は土方のことが好きだ。ライクじゃなくてラブの方な…言われなくても分かってんだろ?
土方は…よく分かんねェけど、嫌われてはいないと思う。それが恋愛感情かどうかは別だけどな。
土方はホモじゃねェ。でも、酔ったフリして抱き付いてみたり、ほっぺにチュウしてみたりした時の
反応からすると、男が全くダメってわけでもなさそうだ。
だからと言ってヘタなことして今の関係が気まずくなるのもなァ…でも、土方は自分で言うほど冷たい
ヤツじゃねェから、例えフラれても「今月ピンチだから」とか理由を付ければ飲みに行く関係は
続けられるかもしれない。でも、意外とこっち方面は初心みたいだから俺を避けるようになるかも…。
でも、もしかしたら土方も俺のことを…って可能性もゼロではないよーな…でも…
「土方くんとお付き合いしたいなァ…」
「はっ?」
「えっ!」
ぐるぐる考えながら飲んでいたら、ついポロッと出ちまった。
言われた土方以上に俺がビックリしてる。ナニ言ってんの俺ェェェェ!!
「万事屋…」
「あ、あのね…これは、その…」
「タチの悪い冗談はやめろ。本気にされたらどーすんだよ…」
「俺は本気だ!」
「…っ!?」
言っちまったもんは仕方ねェ。こうなりゃ押して押して押しまくる!
「なあ土方…俺のこと、嫌いか?」
「き、嫌いじゃねェけど…」
「じゃあ、とりあえず付き合ってみない?」
「だ、だめだっ!」
「その気になるまではプラトニックでいいからさァ…なっ?それだったら今と変わんねーだろ?」
「それでも、だめだ!」
「なんで?」
「お前は、俺なんかと付き合っちゃいけねェんだ」
「は?なにそれ?銀さんは土方くんのことが好きなんですけどー」
「すっ好きでも、やめた方がいい…」
「なんで?」
「その方が、お前のためだ」
「…なあ、俺と付き合うのは嫌じゃねェの?」
「そっそれは…」
土方の顔がカッと赤くなった。これはもしかして、いけるんじゃね?
「もしかして土方くんも銀さんのこと好きですかー?」
「そ、れは…」
「……こういう質問に即答しない時点でイエスって言ってるのと同じだぞ」
「ち、ちが「違うの?」
「うっ…」
いける!絶対ェいける!
「なぁ…好きかどうかだけでいいから教えて?お前が嫌ならお付き合いは諦めるから…」
「………俺は、お前に、惚れてる」
「マジで!?やったぁ!今日はお付き合い記念日だね♪」
「はぁ!?」
「よしっ、祝杯だ!…親父ィ、酒追加〜」
俺達のいる個室の襖を開け(普通に店内で告白してると思ってた?残念でしたァ)追加注文した。
「おっおい、万事屋!」
「恋人同士になったんだからさァ…銀時って呼んでよ〜。あっ、マヨネーズも追加?」
「そうじゃねェ!祝杯とか恋人とか…お前、俺とは付き合わないんじゃ…」
「あ?ンなこと言ってねーよ。俺は、お前が嫌なら諦めるっつったの」
「お、俺はお前と付き合う気は…」
「俺に惚れてるって言ったじゃん。で、俺もお前が好き。…何か問題ある?」
「…俺は、つまらねェ男だ」
「は?」
「お前には、もっと相応しい相手がいるはずだ」
「…お前それ、マジで言ってんのか?」
「ああ」
「ふざけんな!」
「!!」
「…あっ、悪ィな。驚かせちまって…」
俺が叫んだとほぼ同時に店員が追加の酒を持ってきた。すぐに謝ったが、店員は酒を置いて逃げるように
部屋から出ていっちまった。
「やべーやべー…えーっと、何の話だっけ?ああ、そうだ。他に相応しい相手が、とかそんなんね…」
「あ、ああ…」
「相応しいねぇ…俺はお前が好きなのに、お前は俺の恋人に相応しくないって言うの?」
「ああ」
「ってことは、好きでもないヤツと付き合えってこと?」
「そういうことじゃ…」
「そういうことだろーが。でも銀さんは、好きな人以外と付き合う気なんかねェから」
「だっだから、別のヤツを…」
「そんでもって、せっかく両想いになったのに今更新しい相手を探す気もねェからな」
「………」
「観念しろって。互いに好きなんだから、余計なこと考えずにお付き合いすればよくね?」
「…嫌になったら、すぐに言えよ」
「はいはい。…嫌になったら、ね」
こうして俺と土方はお付き合いを始めた。
時間が経てば変わるだろう
一ヶ月後。
「あれっ、旦那だ…。副長、旦那ですよ。おーい!」
何か依頼でもないかとテキトーに町を歩いていたらジミーに呼び止められた。土方も一緒だ。
「よう…巡回中?」
「ああ」
「旦那は散歩ですか?」
「まあ、そんなとこ」
「この前新八くんが『依頼がない』ってぼやいてましたけど、最近どうですか?」
「どうもこうも…依頼があったらこんなとこ散歩してるわけないだろ?」
「ハハハ…そうですよねー痛っ!」
ゴンと鈍い音がしたと思ったら、土方の拳がジミーの頭上に振り下ろされていた。
「何するんですか、副長!」
「るせェ!勤務中に無駄話しやがって…行くぞ!」
土方はスタスタと歩いて行ってしまった。…せっかく会えたんだから、もう少し話したかったな。
まあ、仕事第一のアイツにゃ無理か…。
そんなことを思っていたら、ジミーが俺だけに聞こえるように耳打ちした。
「副長のあれ、ヤキモチなんですよ」
「へっ?…うっそだー」
「本当なんですって!俺も最近まで信じられなかったんですけどね、屯所でちょっとでも旦那の話を
すると副長の怒声が飛んでくるんですよ。更に、旦那と会話したと分かれば拳が…」
「へ、へぇ…」
「今日は副長と一緒だから大丈夫かと思ったんですが…ダメみたいですね。じゃあ俺、仕事に戻ります。
これ以上旦那と喋ってたら殴られるだけじゃ済まないと思うんで…それじゃあ」
「ハハハ…」
ジミーの言葉になんと返していいか分からず、俺は笑うしかなかった。
土方がヤキモチ?しかも、俺と会話しただけの部下を殴る?…いくらなんでもそれはナイな。
どうせ、さっきのジミーみたいに、仕事中に関係ない話をしたってことで怒られてるんだろ…。
その相手が偶々俺だったってだけだよ。真選組第一のアイツが、俺のことでそんなことするわけねェよ。
とか思ってたんだけど…
「あっ、旦那だ!」
「やべぇ、逃げろ!」
「お、おい…」
気が付けば、真選組の連中から避けられるようになっていた。
「おい、ちょっと待て」
「ひぃっ!!」
俺の顔を見た途端方向転換した名前も知らない平隊士を掴まえてみれば、心底怯えきった表情をされる。
「すすすすいません、副長。許して下さい副長…」
「おいおい…どこに土方がいるってんだよ…」
「おおお俺は何も知りません!旦那となんかしゃべっていません!」
「あのさァ…」
「離してあげて下せェ、旦那…」
「お、沖田隊長!」
沖田くんの登場で一瞬緩んだ俺の手から隊士は抜け出し、沖田のもとへ駆け寄る。
「あああの、沖田隊長…これは、その…」
「あー、いいって…。土方さんには言わねェから…」
「あ、ありがとうございます!…それではっ!」
隊士は一目散にその場から逃げ出した。
「…なんなの、あれ?俺、真選組に何かしたっけ?」
「何かしてんのは土方さんでさァ…」
「どういうこと?」
「あの野郎…仕事が忙しくて屯所から出られないんで、ストレスが溜まってるんでさァ」
「ハハハ…それで部下に当たり散らしてるわけね。…でも、それと俺に何の関係が?」
「とぼけちゃって…旦那と土方さんの関係は皆知ってやすぜィ?」
「いや、まあ、別に隠してねェからいいけど…それで何でさっきみたいな扱い受けなきゃなんねェの?」
「ハァー」
やれやれと沖田は腕を開いて掌を上に向け、軽く肩を上げた。
「土方さんがイラついてんのは旦那に会えないからでさァ」
「はっ?またまたァ…その手には乗らないよ。確かにここ一週間くらい会ってねェけど、仕事の鬼である
アイツがそれくらいで…」
「それくらいで部下が恐怖するくらいイラついてるんでさァ」
「…冗談でしょ?」
「冗談かどうかはご自分で確かめて下せェ」
「確かめるって?」
「野郎に会いに行けばいいでしょう?…あっ、一緒に行くと俺にもとばっちりが来るんで、旦那一人で
屯所まで行って下せェよ」
「…まあ、暇だから行くくらいいいけどよ…」
「くれぐれも俺から言われたとか野郎に言わねェように」
「はいはい…」
どうせ沖田くんの冗談に決まってるけど、ちょっと様子見にだけでも行ってみるかな…。
十中八九「仕事の邪魔だ」とか言われると思うけど…まあ、恋人の顔見に行くくらいいいよな…。
そんな風に軽い気持ちで俺は屯所に向かった。
* * * * *
「よっ、久しぶり〜」
屯所に着くとすぐに中へ通されたが誰も副長室までは案内してくれず、俺は一人で土方の元までいった。
「ぎ、銀時!?…どうしたんだ?」
「最近会ってなかったからさァ…元気かなぁと思って…。忙しい時にごめんね」
「いっいや、気にすんな。来てくれて、ありがとう」
「お、おう…」
えっ…誰コイツ?土方ってこんな穏やかに笑うヤツだっけ?コイツが笑うのって討ち入りの時とかで
市民の安全を守ってるヤツとは思えない極悪面でニヤリと…
「あっ…すまない銀時、ちょっと待っててくれ」
「あ、うん…」
土方は急に走って部屋から出ていった。…多分、仕事なんだろうなァ。随分忙しいみたいだし
長居しないで帰った方が良さそうだな。
…とか思っていたが、土方は座布団と茶を持って部屋に戻って来た。
「どうぞ」
「ど、どうも…」
差し出された座布団に座ると、高級そうな茶菓子も出てきた。…なんか俺、持て成されてる?
「こんなモンしかなくて申し訳ない」
「あ、いや…充分だよ。連絡もなしに来たのに、むしろ気を遣わせちまって悪かったな」
「そんなことはない!お前さえよければ、いつでも来てくれて構わない」
「そっか…」
なんだかケツの辺りがムズムズする気がする…。エッチしたいとか、そういう意味じゃなくてね…。
土方のヤツ、俺のこと好き過ぎじゃね?もしかして、沖田くん達が言ってたことも本当なのかな?
「なあ土方…もし…もしもの話だよ?俺が、土方以外の…例えば長谷川さんとかと二人で飲みに行ったら
あんまりいい気分じゃない?」
「……お前の交友関係に口出しするつもりはねェよ」
「そうじゃなくて、どう思うか聞いてんの。俺達男同士だからさァ…その辺どうなのかなぁと思って。
ちなみに俺は…知らせておいてくれればいいけど、後からそういうことがあったって分かると嫌かも?」
本当は、二人で飲みに行くくらい別に何とも思わねェけど、こう言っとけば土方が嫌だと言いやすいと
思って言ってみた。
「分かった。必ず事前に知らせるからな」
「あ、いや…だから、土方はどうなんだよ」
「俺は、その…お前と同じ、感じだ…」
「ふーん…」
「あっ、だからって飲みに行くなとは…」
「分かってる。でもまあ、そもそも俺、金ねェからそんな出歩かねェし…」
「そ、そうか…」
土方は明らさまにホッとした表情になった。マジで俺が他のヤツと一緒にいんの嫌なんだな…。
かなり意外…。土方ってとにかく仕事一番で、それ以外の、恋愛とか友達付き合いとかは余力でやってる
感じのヤツかと思ってた。だから、仕事さえ充実してれば友達や恋人はいてもいなくても同じっつーか…
実際、真選組以外で土方のダチって知らねェし、付き合う前に「俺はやめた方がいい」なんて言ったのも
土方自身が人付き合いを煩わしいと感じてるからかも、なんて思ってたんだけどな…
そっか…土方はちゃんと俺のことが好きなんだ。仕事が忙しいのに、俺が来たら手を止めて茶菓子まで
用意してくれるくらい…。ダチと一緒にいるだけで、妬いちゃうくらい…。そっか…そうなんだ…
「ぎっ銀時!?」
気付けば俺は土方を抱き締めていた。
「仕事中なのに相手してくれてありがとう」
「あ、あの…」
「忙しい時は出なくていいからさァ…たまに、電話していい?」
「ああ」
「土方も、たまにでいいから…」
「ああ、電話する」
土方の腕が俺の背中に回る。
「今日はありがとう。…仕事、頑張ってね」
「ああ」
「仕事が落ち着いたら、デートしようね」
「ああ」
「それじゃあ、また…」
「ああ…」
俺が腕を下ろすと、土方の腕も下ろされる。
立ち上がって帰ろうとすると「銀時」と呼び止められた。
「なに?」
「あの…今日は、本当にありがとう」
「いいって。…俺も、会えて良かった」
恥ずかしいこと言ってる自覚はあるけど、まぁ、このくらいはサービスしてやってもいいよな?
でもやっぱり恥ずかしいから、さっさと帰ろう…
「それじゃあね〜」
「こ、今夜…電話してもいいか?」
「んっ」
俺は短く返事をして土方の部屋から出た。
今夜はババァが夕メシ奢ってくれるって言ってたけど…仕方ねェな。留守番してるか…。
土方と電話で話すのは初めてだし、慣れてきたらこのむず痒い感じもなくなるんだろうし、それまでの間
土方優先の生活も悪くないかもしれない。
誰だって付き合い始めはバカップルみたいなもんだよな…。俺と土方も、始めのうちはそれでいいか。
そんで、ある程度時間が経ったら落ち着いてきて、嫉妬なんかもなくなるんだろうな。
けど、俺が土方のことを好きで土方も俺のことを好きだったら、どんな付き合い方でもいいかもな…
(10.11.15)
とある方のコメントに萌えて書いた「嫉妬心の強い土方さん&それに戸惑いつつ絆されてくる銀さん」です^^ 実はこれ、53535HITキリリクの馴れ初め話のつもりで
書いたのですが、これだけでも読めるので特に「続き」表記はせず、でも何となく続いてるのが分かるようなタイトルにしました。銀さんは土方さんに優しくされるなんて
夢にも思わずお付き合いを始めて、意外に優しかったのでちょっと引きつつ…だけど、そんな風に愛されることが嬉しくも思うような、そんな感じです。
53535HITキリリク読んだ方はお分かりでしょうが、この二人は、最後に銀さんが言っているようなことにはならず、何年経っても土方さんは嫉妬してます^^;
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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