純情な二人の欲求の続きです。

 

銀時と土方を大人の恋人同士にするための会議が今日も開催された。参加者はいつもの四人。
口火を切ったのは沖田であった。

「おい、知ってるか?あの二人、付き合ってもう一年超えてるらしいぜィ」
「銀さん達…もうそんなになってたんですね」
「新八、コイツの言うことすぐに信じちゃダメアル」
「何言ってやがんでィ。俺ァ、わざわざ見たくもねェ昔の小説読み返して調べたんだぜィ」
「隊長…それ調べたの、俺ですよね?」
「うるせェな…調べろって言ったのは俺でィ」
「どっちでもいいネ。それで?調べたら一年以上前だったアルか?」
「ああ。旦那が土方さんに告白したっつー話が載ったのは去年の十月だったぜィ」
「もうそんなになるんですね〜」
「新八、懐かしんでる場合じゃないネ!あの二人、一年も付き合って握手とキスしかしてないアル!」
「あっ、でも、一つの布団で寝られるようにもなったし…かなり進展してるんじゃない?」
「「えっ!」」

新八の言葉を聞いて、沖田と山崎の動きが止まった。

「あの二人…一緒の布団で寝てんのか?」
「あ、あれ?言ってませんでしたっけ?」
「初めて聞いたよ。…だけど、この前見た時は布団を二組敷いてたような…」
「じゃあ、あの時だけだったアルか…」
「何があったんでィ」
「依頼で、ホラーゲームをすることがあったんですよ」
「銀ちゃん怖がりだから、一人で寝るのが怖かったアル」
「なるほどねィ」
「恥ずかしさに怖さが勝ったってことだね」
「でも元に戻ってるんじゃ、進展とは言えないですね…」
「そうでもないんじゃないかな?かなり頻繁にデートするようになったし…」
「でもよー…あの二人、本当にデートしてんのか?」
「何言ってるんですか。副長は早番の夜とか非番の日とかには必ず旦那と…」
「けどよ…未だにまともな会話一つできねェ二人が、どうやって時間を過ごしてるんだか…」
「今日はいい天気ですね、とかどうでもいいこと言ってるんじゃないアルか?」
「さすがに一年以上それってことはないんじゃ…」
「じゃあ新八は何してると思うネ」
「うーん…そう言われると謎だね」
「よしっ、じゃあ調べてみるか」
「隊長、調べるってまさか…」
「山崎、頼んだぜィ」

沖田は山崎の肩をポンと叩いた。

「やっぱり俺ですかァ!?」
「土方さんが旦那ン家に泊まる日、また屋根裏にでも忍び込んで…」
「どうせそんなことだろうと思いましたよ…」
「二人の様子をメールで実況しろィ」
「えー…」
「よろしく頼むネ、ジミー。酢こんぶ一枚あげるから」
「いや…別にいいよ。気持ちだけもらっておく」
「じゃあタダ働き頼んだぜィ」
「はいはい…」
「山崎さんすいません。今度、一緒にミントンやりましょう」
「ありがとう新八くん」



純情な二人と実況中継



「それじゃあ山崎さん、よろしくお願いします」
「はいよ」
「気を付けるアル。あの二人、もじもじでキモイけどジミーより強いネ」
「分かってるって」
「見付かったら切腹な」
「怖いこと言わないで下さいよ〜。…じゃあ、行ってきます!」

土方の万事屋お泊まりデートの日、隠密活動をする際の服に着替えた山崎は三人に手を振り
万事屋へ向かっていった。
山崎が無事に万事屋内へ侵入したのを見届けてから、三人は志村家へ向かう。
その途中で、山崎から沖田の携帯電話へ一回目の報告メールが届いた。新八と神楽も沖田の携帯電話を
覗き込む。

 『副長と旦那は手を繋いでいます。』

「やっぱり、あの二人はいつも手を繋いでるんですね」
「でも、これだけアルか?」
「山崎の野郎!『もっと詳しく書きやがれ』っと…」

沖田は山崎にメールを送信し、三人は再び歩き出した。
三人が志村家へ到着した頃、二回目の報告メールが届く。

 『二人は事務所のソファ┏┫に並んで座っています。副長の左手と旦那の右手が
 繋がっています。腕をクロスさせて指を絡めるような形で繋いでいます(*∩∩*)

「おぉーっ、意外とやるアルな」
「なんか…ドキドキしますね」
「まだ続きがあるぜィ」

 テレビは付いていますが、二人とも俯いているので見てないと思います。
 というか、俺が観察し始めてから二人は一言も話していません(^_^;)』

「ハハハ…あの二人らしいですね」
「…何やってるんでィ」
「まさかこのままお手て繋いでボーっとテレビ見てるだけアルか?」
「どうだろう…」
「少しは会話するだろ…」


その後、ドラマの時間になったと神楽がテレビを付け、三人で見ながらメールを待った。
しかしドラマが終了しても、山崎からのメールは届かなかった。

「山崎さん、どうしたんでしょう?」
「もしかして二人に見付かったんじゃないアルか?」
「まさか…」

その時、山崎から漸くメールが届いた。

 『隊長、もう帰っていいですか…(;o;)

「何があったネ!」
「落ち着け!…続きがある」

 二人とも、全く動きがありません(゜Д゜)一時間以上、何も話さず手を繋いで座ってるだけです。
 それなのにやたら満足そうというか、幸せそうな表情です。
 二人の周りに点描トーンが見える気がします(―_―)』

「点描トーン?何でィ、それ」
「漫画の背景なんかに使われてるやつですよ。点々で丸とかが描かれていて、ふわっとした感じの…」
「パンデモニウムの時に出てたみたいなやつアルか?」
「あっ…うん。そう、だね…ハハハ…」
「ヤツらがふわふわしてるのなんざ、いつものことじゃねェか。ったく…『いいからそのまま
見張っとけ』…送信っと」

沖田のメールに対してすぐに山崎から返信が来た。

 『そ、そんなぁ〜(TOT)この二人、もう何もしませんよ!帰らせて下さい(>人<)!』

「…『顔文字がウザいからダメだ』っと」

山崎に容赦ない沖田の指示が送信される。
それから三十分ほど間が空き、山崎からメールが届いた。

 『漸く動きがありました!

「おっ…」
「チューでもしたアルか?」
「続きは何て書いてあるんですか?」
「えーっと…」

 旦那が厠へ行きました。』

「…だとよ」
「それだけアルか?」
「ああ…おっ、またメールが来た。なになに…」

 『旦那が厠へ行っている間、副長はずっと部屋の入口(旦那が出ていった方)を見ていました。
 でも、旦那の足音がすると急いでテレビに向き直りました。ちなみに今、手を繋ぐかどうかで
 ちょっと揉めています。』

「あの二人がケンカでしょうか?珍しいですね…」
「何で手を繋がないネ?」
「さあな…『何で揉めてるのか詳細を教えろ』…これでよし」

少しして、山崎から長めのメールが届いた。

 『旦那は、厠へ行った直後で自分の手が汚いから繋がない方がいいと言い、副長は手を洗ったから
 平気だと言っています。でもそんなにピリピリした感じじゃなくて、二人のセリフを再現すると…

 旦那:(両手を後ろに組んで)だだだだめだって!土方の手が、汚れちゃうから…
 副長:だっ大丈夫!坂田に、汚いところなんて、ねェ…(言いながら顔が赤くなる)
 旦那:(副長の言葉に顔が赤くなる)そそっそれは、嬉しいけど…でも、汚いから…
 副長:じ、じゃあ…俺も厠に行く!
 旦那:えっ!
 副長:…そしたら、同じだからいいだろ?(何とかして手を繋ぎたい模様)
 旦那:うーん…それでも俺の方が汚い気がする…(こんなことを本気で悩んでる模様)
 副長:何だよソレ…。俺は、坂田と、一緒がいいのに…(この世の終わりのような顔をする)
 旦那:(慌てて副長に駆け寄る)ごごごごめん!俺だって、土方と一緒がいいよ。
 副長:…本当か?(不安げな表情…こんな副長、初めて見ました!)
 旦那:もちろんだよ!(副長の両手を掴む)
 副長:………(赤面)
 旦那:ごっ、ごめん(片手を離す。両手と片手で何が違うのか不明)
 副長:いや…。ありがとう、繋いでくれて…(嬉しそうにはにかむ…初めて見た副長Part2!)
 旦那:本当にごめんね。…こんな俺を受け入れてくれて、うう嬉しかった…(赤面)

 こんな感じのやり取りがあって、今はまたソファに並んで座って無言で俯いています。
 ツッコミどころが多すぎてツッコむ気にもなれません。』

「「「………」」」

予想を大きく下回る二人の純情ぶりに三人は、山崎のメールを読み終えても暫くの間何も言わず
携帯電話の画面を見続けていた。
最初に言葉を発したのは新八。やはりツッコミとしての役割を担わずにはいられなかった。

「えっと…厠に行っただけで何、大騒ぎしてるんでしょうね?」
「そうだな…アホらしいったらねェや…」
「銀ちゃん、いつも私達には鼻くそほじった手で触ってくるネ!」

新八の発声をきっかけとして、沖田と神楽も徐々に調子を上げてくる。

「そうだよね。銀さん、僕らの前ではもう少しキレイにしてほしいくらいだよね?」
「それなのに銀ちゃん『こんな俺を…』とか言ってるアル!バカみたいネ!」
「だいたい…手を繋ぐかどうかとか、こんな騒ぎ立てるほどのことじゃねェだろィ」
「そうですよ。何だかんだ言って二人とも繋ぎたいみたいなんだから、普通に繋げばいいのに…」
「接着剤って言って一日中手を繋いで過ごしたこと、忘れたアルか?あの時は厠行っても手なんか
洗えなかったはずヨ」
「覚えてても『あん時は仕方なかったけど…』とか思ってるんじゃねェのか?」
「こんな調子なんじゃ、なかなか進展しないはずですよね…」
「コイツら、一年以上もこんなことやってたアルか…」
「…おっ、またメールが来やがった」

 『副長は今風呂に入っていて、旦那が床の準備をしています。布団は二組並べて敷いています。
 実は少し前にテレビでキスシーンが流れ、それに触発されてキスがしたくなったようです。
 けれどまた「自分は汚い」とか何とかという言い合いが少しあって、交代で風呂に入ることに
 決まりました。』

「…キスっつっても、前に見たみてェに一瞬だけなんだろーな…」
「そうアルな…」
「布団は、やっぱり二組なんですね…」
「…どうする?この後も見張らせるか?」
「いや…僕はもう、充分です」
「私もいいアル。どうせこの後、バカみたいにもじもじしながらチュッてして、寝るだけヨ」
「そうだな…『山崎、もう帰っていいぞ』…じゃあ、俺も帰るな…」
「あ、はい。お疲れ様です」
「じゃあな」
「おぅ」

沖田からメールを受け取った山崎は急いで万事屋を後にし、その他の三人もかなり疲れた様子で
この日の作戦は終了した。

前途多難―理想と現実にかなり深い溝があると、改めて四人は思うのであった。


(10.11.03)


冒頭で言っていたように、この二人は付き合って一年以上経ちました。実際の時間の流れと小説内の時間の流れは違うことも多いので、今後も実際の流れと同じとは

限りませんが、とりあえず交際一年かけてキス止まりってことで(笑)。改めて二人がどんなデートをしているのかを書いてみました。この二人は一緒にいられるだけで

幸せなので基本的に動きがありません。山崎は苦痛だったでしょうね^^; 三歩進んで二歩下がるどころか、二歩進んだのに三歩下がることもある二人です(笑)。

おまけに山崎が帰った後の二人の様子を書きました