「なぁコレ、お揃いで買わねぇ?」
「はぁ?銀時おまえ、マジで言ってんのか?」
「とーぜん」
「…こんなもん買ってどうすんだよ。まさか使うつもりか?」
「んー、別に使いたいとは思わねぇけど…」
「じゃあ買わなくていいじゃねーか」
「でもさァ…せっかく知り合いの店に来たんだし、何か買ってやらねぇと…」
「だからって何でコレなんだよ。いつも使うモンでいいだろ?」
「それだと使ったらなくなっちゃうじゃん。俺はお揃いがいいの!」
「お揃いならストラップとか…」
「俺、携帯持ってねーよ」
「じゃあキーホルダー」
「オメー、屯所住まいなのに鍵とかあんの?つーか俺も家に鍵なんかかけねぇし」
「………」
「何も見えるところに飾っておけって言ってるんじゃないんだからいいじゃん。なっ?」
「当たり前だ!んなモン飾れるかっ!」
「はいはい…じゃあ、どれにする?」
「…好きにしろ」
「俺が選んでいいの?それじゃあ………この青いヤツでどう?大きさも丁度よくね?」
「…使わないんだから何でもいい」
「ではでは、コレに決定〜」
「ハァー…」
お揃いといえば聞こえはいいが、完全に無駄遣いだとその時の土方は思っていた。
お揃いで長電話
秋も深まり、朝夕は冬を思わせるような冷たい空気に包まれるようになったある日の深夜
銀時は自宅兼事務所にある自分専用のイスに座り、ひとり窓を開けて空を眺めていた。
何度寒いと訴えても窓を閉めない銀時に呆れ、同居人の少女はもう一人の従業員の家へ避難していた。
昼間の天気は曇り。夜になったからといって雨が降るわけでも天候が回復するわけでもなく今も曇り。
一面を雲に覆われた空は、夜だというのに白に近い薄鼠色をしている。
(こんな日は真っ黒いアイツよりも俺の方が目立たないかもな…)
月も星も隠れた空を見上げながらもふと、そんなことを考えてしまう自分に自嘲的な笑みを零す。
(秋ってのは感傷的になっていけねェな…。そんなに離れてるわけでもねェのに…)
土方は現在屯所に籠って仕事をしている。銀時も詳しくは教えてもらえなかったが、重大犯罪の捜査か
何からしい。ここ十日間程、二人はいつでも会える距離にいながら会えない日々を過ごしていた。
(電話くらいはいいのかな…)
窓の外から机の上に視線を移し、じっと黒電話を見詰める。その時、ジリリリリと電話が鳴った。
「はい、万事屋銀ちゃんでーす」
『俺だ』
「…仕事は?電話なんかしてていいの?」
『ああ。今日はもう寝るだけだ』
「そっか…」
たった今、電話をしようか否か迷っていた人物からの電話に口元が自然と緩んでいく。
『悪ィな…会いに行けなくて』
「仕事なんだから気にすんなよ。それより、もっと楽しい話しようぜ」
『楽しい?』
「じゃあ…秋も深まってきましたね〜」
『何だそれ…。季節の挨拶じゃねェか』
「仕事の話よりは楽しいだろ」
『そうだな。じゃあ…秋の夜長には読書でもしているんですか?』
「いえいえ…食欲の秋を迎えた子どもがいるもんで、本を買う金もありませんよ」
『それは頑張って働かないといけませんね』
「おーい、また仕事の話になってるぞー」
『あっ…』
「じゃあ仕切り直しな?えっと秋といえば…」
『おい、その話題まだ続けるのか?』
「いいじゃん。それともナニ?土方くんが話題提供してくれんの?」
『えっと…お元気ですか?』
「プッ…何だよそれ」
『別にいいだろ!』
「はいはい…。まあ、どちらかといえば元気ですよー。土方くんは?」
『俺もどちらかといえば元気だな…』
「どちらかといえば、なんだ。…愛しい恋人と会えなくて寂しいんですか?」
『それはテメーだろ』
「いやいやオメーだろ」
『テメーが寂しいから、寂しいですか?なんてセリフが出てくんだろ』
「違うって。土方くんの声が寂しそうだったからね」
『テメーの声の方が寂しそうだ』
「土方くんの方が寂しそうだって!身も心も銀さんを求めてるんでしょ?遠慮せずに言っちゃいな」
『そうだな…テメーが欲しい』
「えっ…」
他愛もない軽口の応酬が続くのだとばかり思っていた銀時は、急に肯定されて言葉に詰まる。
『どうした?お前の言うようにしただけだぞ?』
「いきなり素直になるなよ…」
『で、テメーはどうなんだ?』
「あー、はいはい…銀さんも会いたいですぅ」
『そうか…』
「…仕事終わったら覚悟しとけよ?絶対ェ、寝かせてやらないからな!」
『それはこっちのセリフだ』
「いやいや、銀さんの溜まり具合はハンパじゃないからね?これは二度や三度じゃ治まらねェよ」
『だったらヌいとけよ』
「ヌいてもすぐ溜まんだよ。…銀さん若いから」
『いや、俺の方が若い』
「そんなことありませんー。その証拠に今も勃ってますー」
『は?まさかヌいてる最中だったのか?』
「違いますー。土方くんの声がエロいから勃っちゃったんですー」
『…普通に喋ってただけだろーが』
「でも俺達、ヤる時も普通に喋りながらヤること多いじゃん」
『まあな…』
「ところで土方くんは?銀さんのカッコイイ声聞いて勃ってないの?」
『変態のテメーと一緒にするな』
「でもさっき、身も心も銀さんを求めてるって言ったじゃん…なぁ、十四郎」
『っ!』
滅多に呼ばない下の名前を囁くように呼ばれ、土方の心臓はドクリと跳ね上がった。
「どう?今のは感じた?」
『…まあ、少しは…』
「あのさァ…このままヌかねぇ?」
『…通話したまま?』
「うん」
『………』
「まっ、嫌なら無理にとは言わねェよ。…その代わり聞いててよ」
『聞いててってお前…』
「服脱ぐから、電話切らないで待っててねー」
『お、おい…』
戸惑う土方をよそに、銀時は受話器を机の上に置いてイスから立ち上がり、下に履いているものだけを
脱いで再びイスに座った。
銀時の声が聞こえなくなり、ガサゴソと何かの音だけが聞こえる携帯電話を土方は握り締めていた。
「脱いだよー。…あっ、下だけね。全部脱ぐと寒いから。ちなみに今は六分勃ちくらいかな?」
『い、いちいち説明しなくていい!』
「何でよー。電話なんだから言わなきゃ分からないだろ?…じゃあ、触りまーす」
『マジかよ…』
銀時は左手で受話器を持ち、右手で自分のモノを握った。
「んんっ…ハ、ァ…」
『ぎ、ぎんと…』
「ハッ…ちょっと、握っただけ、なんだけどさ…ぁ…聞かれてると、思うと、いつもより、んんっ!」
『…随分、よさそうだな』
「ま、ね…あ、んっ!」
『………』
土方の喉がゴクリと鳴ったが、電話越しの銀時までは届かなかった。
銀時の右手がゆっくり上下する。
「あっ…はぁ…ひ、じかた…聞、てる?」
『…ああ』
「なぁ…お前のチ、コ…どうなってんの?」
『ど、どうって…』
「俺の…あっ…エロい声、聞いて…興奮、してる?」
『……まぁ、それなりに…』
「フッ…それなりって、どのくらい?」
『………』
銀時は一旦手を止め、土方との話に意識を向けた。
「もしかして…完勃ち?」
『……てめーは』
「ん?」
『電話でもドSだな』
「ハハハ…。で、どうなのよ?」
『…お前の言うとおりだよ!』
「完勃ちってこと?」
『ああ…』
「それなら、一緒にシようよ」
『…一緒に?』
「そっ、一緒に。いつもみたいにさァ…一緒に触って一緒にイコうよ」
『………』
「土方の声が聞こえるのに一人でイクのは寂しいなァ…」
『…てめーは本当、そういう知恵だけは回るよな』
「本心だけどー?」
『分かったよ…ヤればいいんだろ!』
「よろしく〜」
土方は着物の裾から右手を入れて下着から猛ったモノを取り出した。
(10.10.28)
photo by NEO HIMEISM
というわけで、後編はテレフォンエッチです。冒頭で買った「お揃いの物」は後編の後半で出てきます。→★