昔から、そういう傾向はあったように思う。つまり、強い者に惹かれるというようなことが…。
近藤さんはその代表のような存在だが…だからといって近藤さんに抱かれたいとは思わない。
なのに何でアイツには…
でもアイツは近藤さんと同じ女が好きなんだろ?だったら俺がアイツにどんな思いを抱こうと気にすることはない。
どうして俺がアイツに抱かれたいと思うのかとか、そんな理由を考えるだけ無駄だ。
近藤さんの敵であるアイツと、いい関係を築くなんてできるわけがない。近藤さんの敵は俺の敵だ。
そう思っていたのに、実は近藤さんの敵ではなかったことが分かった。そして現在特定の相手がいないことも…。
チャンスだと思った。酒のせいにでもしてアイツと一夜を共にしちまえば…
アイツが男を受け付けるかどうかは分からねェが…ダメだったら縁がなかったってことだ。仕方ねェ。
だがもし最後までできたら…とりあえず、具合がよかったとか何とか言って次の約束を取り付けよう。
アイツはいつもガキと一緒だし、花街に行く金もねェし、おそらくソッチに関しては不自由しているはずだ。
後腐れなくヤれる相手が見付かれば、それなりに便利だと思ってくれるだろう。
よしっ、まずは一緒に飲みに行くような関係にならねェとな。アイツは会う度に奢れだなんだ言ってくるから
それに乗ってやればいい…。次に会うのが楽しみだぜ…待ってろよ、万事屋。
カラダから、カラダだけ
「う゛〜…」
「おい、万事屋…大丈夫か?」
「むり…。どっかで休ませて…」
「…そこの宿でいいか?」
「いいから早く…う゛〜!」
「分かった」
それなりの過程を経て、土方は予定通り銀時と飲み友達のような関係になった。何度か二人で飲みに行き
そろそろ例の「酔ったフリして一夜を…」作戦を決行しようと思ったその日、銀時が先に潰れてしまった。
だが結果オーライで、土方は銀時と連れ込み宿に入ることに成功した。
「ひーじかーたくーん」
「ンだよ」
「呼んでみただけ〜」
「そうかよ…」
部屋に入り、二人は布団の上に座った。銀時は土方の首に抱き付き、クスクス笑いながら土方を呼ぶ。
「ひーじかーたくーん」
(…この酔っ払いが)
「ねえねえ、ひじかたくんってばー」
「だから何だって…んうっ!?」
意味もなく自分の名を呼ぶ銀時に若干苛立ちを覚えて土方は振り向いた。すると思いのほか銀時の顔が至近距離にあり
そしてその距離は間もなくゼロになった。
「………」
薄く開いた土方の唇の隙間に舌を捻じ込み、銀時は土方の舌を絡め取っていく。
暫くは銀時の好きにさせていた土方だったが、ふと、ある考えに思い至り積極的に口付けに応えていった。
「ふっ…んんっ!んくっ……ぷはっ!」
土方の舌の動きに翻弄され始めた銀時は、このままではマズイと口を離した。そんな銀時を見て土方はある確信を持つ。
「万事屋テメー、酔ってねェな?」
「あ、バレた?」
「酔ってるにしちゃあ舌の動きが的確だったからな…」
「ハハハッ…でも、それが分かった上で応えてくれたってことはさァ…OKってことだよね?」
「ああ。テメーが言い出さなきゃ俺が誘おうと思ってたところだ」
「マジでか?そうかぁ…俺達、両想いだったんだ。…なあ、いつから俺のこと好きだったの?」
「両想い?好き?」
土方は眉間に皺を寄せた。
「おいおい…そこ考えるところか?…あっ、気付いたら惚れてたとか、そんなん?」
「…ていうかお前は俺のことが好きなのか?」
「はぁ?ナニ言ってんの?ヒトの話聞いてた?」
「オメーは酔ったフリして俺とこの宿に来たんだろ?」
「そう。…そんで、あわよくば酒の勢いってことにして一発キメようと思った。…オメーもだろ?」
「ああ」
「ってことは、俺達互いに好き合ってるってことだろ?」
「そうなのか?」
イマイチ理解していないようなので、銀時は言い方を変えてみることにした。
「じゃあ聞くけど…お前は何で銀さんを誘おうと思ったんだ?」
「…ヤりたいから」
「何で銀さんとヤりたいの?」
「………分かんねェ。何となく、ヤれる関係になれればいいなァと…」
「なんっだそれ!テメー身体目当てか!?何だよチクショー…」
銀時は土方に背を向けて、膝を抱え込んだ。土方が銀時の前に回ると、銀時はぷいと顔を背けた。
「万事屋…お前は俺のことが好きでヤりてぇのか?」
「当たり前だろ!」
土方から視線を逸らし、銀時は吐き捨てるように答えた。
「それって、付き合いたいってことか?」
「…そーだよ。銀さんはオメーみたいに爛れてねェから」
「そうか…。じゃあ、付き合おうぜ」
「はあ!?」
銀時は土方の方を向き、思い切り顔を顰めた。
「っざけんなよテメー!例え好きな相手でも…いや、好きな相手だからこそ、同情なんかで付き合ってほしくねーんだよ!」
「同情じゃねぇよ」
「じゃあセフレとしてってことか!?ヤるために恋人ごっこするってか!?俺ァな…テメーが俺を好きにならなきゃ
お付き合いなんてお断りだ!!」
「…俺はお前のことが好きだぞ」
「今更ウソ吐くんじゃねェ!」
「ウソじゃねェ。好きでもねェ野郎とヤりたいなんて思うかよ」
「あー、そうですね…」
これ以上話しても無駄だと判断し、銀時は立ち上がって部屋の出口に向かった。
「おっおい、どこ行くんだよ!」
「帰るの!銀さん、オメーとは根本的に合わねェみたい」
「何でだよ!俺のこと好きだって、付き合いたいって言ってくれたじゃねェか!」
「だから、その『付き合う』がオメーと俺とじゃ違うの!俺は、ヤれれば誰でもいいってわけじゃねーんだよ!」
「俺だってそうだ!」
「ウソ吐け」
「ウソじゃねェって。そもそも、ヤりたいと思うのはお前だけだ!」
「…お前、モテるんだろ?ナニ俺なんかに必死になってんの?俺みたいに面倒なヤツじゃなくてさァ…
もっと後腐れなくヤれる相手探せばいいじゃん。お前ならすぐ見付かるだろ…」
「俺はお前意外とヤる気はねェ」
「何なのお前…。何でそんな…。別に、真選組の副長が男を口説いたとか言い触らさねェから安心しろよ」
「そんなんじゃねェ。好きなヤツを怒らせて、そのまま帰せるわけねェだろ」
銀時は大きく溜息を吐いた。
「もういいって…。気遣いありがとう。じゃあね…」
「待てよ」
土方は銀時の手首を掴んで引き寄せる。
「…なに?」
「俺はお前のことが好きだ」
「はいはい分かりました。でも銀さんはオメーとお付き合いできません」
「嫌だ!」
「嫌だってオメー…」
「俺とお前の『付き合う』の何が違うのかは正直言って分からねェ。でも、俺はお前と付き合いたい!
お前に合わせるから、だから…」
「俺に合わせる?ふぅ〜ん…じゃあ、セックスしねェ」
「えっ!」
「ほら、無理だろ?分かったら手ェ離せ」
「無理じゃねェ!お前がヤりたくねェならヤらねェ!」
「本気で言ってんの?今日ここに泊まってもセックスしねェんだぞ」
「泊まってくれるのか!?」
土方の顔がパァッと明るくなる。その無邪気な笑顔に流されそうになり、銀時はかぶりを振った。
「…マジでヤらねェの?」
「ああ。お前が嫌なことはやらねェ!だから万事屋、俺と…」
「分かった。そこまで言うなら付き合ってやる」
「本当か!?」
「ただし!俺がいいって言うまではセックスなしだからな!」
「分かってる」
「ちょっとやそっとでできると思うなよ?下手したら一生セックスなしだぞ!」
「お前が付き合ってくれるならそれでもいい」
「言っとくけど…他のヤツとヤるのもなしだぞ。プロでもダメ!」
「当たり前だ!恋人がいるのにそんなことしねぇよ」
「絶対だな?破ったら即、別れるからな!」
「ああ」
どうせすぐ襲ってくるか、夜の街に繰り出すに違いない―そんなことを思いながら銀時は土方との交際を始めた。
(10.08.31)
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