ある夏の夜、真選組一番隊隊長・沖田総悟は一人の男を連れて万事屋を訪れた。
長い髪を一つに束ね、濃紺の着流しを着たその男を見て、出迎えた新八は目を丸くした。

「沖田さん…そちらの方はまさか…」
「立ち話もなんなんで、中へ入れてくれィ」
「わ、分かりました。どうぞ…」
「どうも。…ほら、早くアンタも上がりなせェ」
「ああ」

沖田は連れの男を促して、玄関で靴を脱ぐ。新八は「銀さん、大変です!」と言いながら一足先に事務所へ戻った。


ポニーテールと銀さん


事務所のソファの一方に沖田と連れの男、もう一方に万事屋三人が並んで座る。
銀時は沖田の隣の男をまじまじと見詰めた。

「お、沖田くん…そちらの方は一体…」
「今日は依頼で来やした」
「いやだから、そんなことよりそっちの野郎は一体…」
「この男を暫くの間こちらで預かってほしいんでさァ」
「だーかーらー、そいつは誰だって聞いてんだよ!」

こちらの話を聞かずに依頼内容だけを話す沖田に、銀時は若干語気を荒げて言った。
しかし沖田はそんなこと気にも留めず、いけしゃあしゃあと答える。

「見て分かりませんかィ?土方さんでさァ」
「…本当にマヨラーアルか?何で髪が長いネ?ヅラか?」
「違ェよ。…つーわけで旦那、依頼料はそこから好きなだけ取ってくだせェ。それじゃあ…」
「ちょ、ちょっと待って!」

テーブルに財布を置いて帰ろうとする沖田を銀時が慌てて引き止める。

「わけ分かんないんだけど!この財布、土方のだよな?」
「その通りです。さすが、恋人同士」
「それで?何でコイツはこんな姿になってんの?」
「ちょいと性能のいい育毛剤を使っただけでさァ」
「マジでか?それどこに売ってるネ?パピーに教えてあげるアル」
「神楽、沖田くんの言ってることは嘘だからちょっと黙ってて」
「何でヨ。マヨラー、あんなに髪伸びてるアル!」
「髪は伸びてるけど育毛剤とかじゃなくて…土方、若返ってんじゃん。それ、昔の髪型だろ?」
「髪型が変わると若く見えたりしますよねィ」
「違うよね?見えるんじゃなくて、本当に若くなってるよね?沖田くんと同い年くらいじゃない?
何かこう…『自動ドアに挟まった』とか言いそうだよね?こっそり丸太で素振りとかしそうだよね?」
「…何で旦那がそれを知ってるんでィ」
「いいから何でこうなったか理由を言えって!」
「仕方ないですねィ…」

やれやれ、と溜息を洩らしながら沖田はソファに座り直した。


「実は先程まで、屯所の庭で花火をしてたんでさァ。その時誤って打ち上げ花火を土方さんの部屋に向けてしまいまして…」
「…誤ってっつーか、絶対ェわざとだろ?」
「しかもそれが天人製の花火だったらしく、爆音と共に土方さんの部屋が白煙に包まれて…」
「そんで、煙が晴れたらこうなってたってわけ?」
「ええ。しかもロクに記憶がないらしく、全く使えないんで元に戻るまで旦那に預かってもらおうと…」
「はぁ!?」

沖田はサラリととんでもないことを言い出した。

「記憶がないってどういうこと?」
「そのまんまでさァ。身の回りのことは一通りできるようなんですがね、自分の名前すら覚えていませんでした。
とりあえず名前だけは教えておいたんで、後のことは旦那から教えてやってくだせェ」
「…元に戻るの?」
「花火の包みには丸一日で戻ると書いてありやした。ただ、黙ってて戻るわけじゃありやせん」
「どうすんの?」
「エッチしてくだせェ」
「なにそれ?冗談だろ?」
「いいえ…ヤらなきゃ何日経っても戻りませんぜ?長いこと副長が留守じゃ困るんで、よろしくお願いしやす」
「ちょっと待て。絶対ェ冗談だろ。コイツが元に戻ってから、あることないこと吹き込む気だろ?」
「信じなくても構いませんが…まぁ、とにかく元に戻るまで預かってて下せェ」
「お、おいっ」

今度こそ沖田は帰っていってしまった。


「え、えっと…そういうことなら、神楽ちゃんはウチで預かりますね」
「待て。あんなのは絶対ェ沖田くんの嘘だと思う」
「でも…」
「あの沖田くんが元に戻る方法を素直に教えると思うか?とりあえず暫くは様子を見ようぜ」
「それもそうですね」

こうして、若返った土方は万事屋で暮らすことになった。

記憶がないといっても漠然としすぎていて何から教えていいか分からないため、万事屋メンバーの名前だけ教え
その他は聞かれたことに答えるという形にした。しかし、日常生活を送るには何の支障もないようで
ほとんど何も教えることなく二日が過ぎた。

*  *  *  *  *

「マヨラー、元に戻らないアルな」
「こ、こういうのは個人差があんだよ」
「やっぱり、あのドS野郎が言ってたのは本当だったアルよ」
「そうとも限らないんじゃ…」
「銀さんは元に戻ってほしくないんですか?」
「そうヨ。いつもやってるコトなんだからいいでしょ」
「そうだけど…」
「決まりですね。じゃあ僕、今日はもう帰ります。神楽ちゃんもおいで」
「定春、行くヨ」
「ちょっ…」

銀時の返事を聞かず、新八・神楽・定春は志村家へと行ってしまった。
少しして、風呂掃除をしていた土方が事務所に戻ってきた。

「…他のヤツらは?」
「な、なんか今日は新八ん家にお泊りだって」
「新八はここに住んでるんじゃねェのか?」
「あー、そうなんだ。ここに泊まることもあるけど…一応別に家があって、姉きと一緒に住んでんだ」
「ふぅん。銀時は行かないのか?」
「俺は自分ん家が好きだから」
「そうか」

新八と神楽は明日まで帰ってこない。ということはそれまで土方と二人っきりということだ。
今すぐにどうこうする気はないが、どうしても戻らない場合はその方法を試すことになるだろう。
そうなる前に土方に教えておかなければと思い、銀時は土方に聞いてみた。

「あ、あのさァ……セックスって知ってる?」
「知ってる」
「えっ、本当に?」

自分の名前すら覚えていなかった土方がセックスを知っていたとは驚きであった。

「ああ。ここへ来る前、総悟に教えてもらった。好きなヤツができたらそいつとするんだって…」
「そう…。具体的にどうするかは分かる?」
「分かんねェ。なあ、銀時は分かるのか?」
「それは、まあ…」
「良かった。じゃあ、教えてくれ」
「教えるって…だって、好きなコができたらするんでしょ?だったらまだ…」
「俺は銀時が好きだぞ」
「えっ!」
「だから俺は銀時とセックスしたいと思ってたんだ。…ダメか?」
「ダメ…じゃない」

多少若返っているとはいえ恋人には違いないわけで、そんな風に誘われて拒めるような銀時ではなかった。

銀時は土方の手を引いて和室へ連れて行き、布団を敷いた。


「セックスって布団でするのか?」
「そうだよ」
「まずはどうすればいいんだ?」
「土方は服を脱いで横になっていればいいよ」
「…服は全部脱ぐのか?」
「うん」
「分かった」

何の疑問も持たず、土方は銀時の前で着流しと下着を脱いでいく。

(なんか流れでヤることになっちまったけど…本当にいいのか?そりゃあ、ヤらなきゃ戻らないのかもしれないけど…
でもコイツ、今から何するか分かってないんだよな?だから恥ずかしげもなく全裸になって…いや、そもそも
肌を見せるのが恥ずかしいって感覚も忘れちまってるのかも…)
「銀時、脱げたぞ。横になるって、こんな感じでいいのか?」
「あ、うん…」

土方は全裸で布団の上に仰向けになった。銀時はゆっくりと歩いて土方の身体の横に座った。

「えっと…これから土方の身体を色々触るけど、もし嫌だったら正直に言ってね」
「分かった」

銀時は覚悟を決めて土方に覆い被さった。


(10.08.27)


 久々のリバです。前回の「その他」は純情シリーズだったもので…。後編はもちろん18禁です。注意書きに飛びます