最後の終着点


初めて、セックスをした。なんというか……その、凄かった。
興奮したとか気持ち良かったとかそういうアレで凄いのではなく、アイツの……万事屋の行動に
驚かされたという意味だ。

何なんだ、あのエロさはっ!

普段はやる気の欠片もない死んだ魚のような目付きをしてやがるくせに、俺のナニを受け入れて
自ら腰を振るアイツの顔が、声が……エロい!エロすぎるぅぅぅぅ!!

「うぉりゃァァァァァ〜!!」
「ひぃっ!」
「逃げるな!次ィ!」
「は、はいっ!」
「うゎりゃァァァァァ〜!!」
「ひぃぃぃっ!」
「ハッハッハ……最近トシは張り切ってるなー」

……と、このように全力で稽古に打ち込んでいないと、あの時のアイツを思い出して
何も手につかなくなる程だ。アイツの、アイツの……

「うおぉぉぉぉぉ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「次っ!」
「トシ……」
「あ!?何だ近藤さん」
「その辺にしといてやれ。これ以上は業務に差し障るぞ」
「チッ、情けねェ……」
「まぁそう言うな。……よーし、お前ら、今日はここまでだ」
「「「あ、ありがとうございました〜……」」」

よろよろと道場を出ていく隊士達を見るに、少々やりすぎてしまったかと反省した。
これではストレス発散の道具にしているようではないか……いかんいかん。

「ん?トシは戻らないのか?」
「ああ。少し素振りをしてからにする」
「そうか。じゃあ後はよろしくな」
「ああ」


静かになった道場で竹刀を振り上げ、振り下ろす。
今日は、近藤さんがとっつぁんと城に向かう予定だ。万が一の事態に備え、俺は屯所に
詰めていなくてはならない。つまりは、有事がなけりゃ部屋で一人書類仕事だ。
今のうちに邪念を払っておかねェとマズイ。未だアイツの顔がちらつくこの状況で一人に
なったらマズイ。一人になったら……

……あ、今も一人だ。

「ハァ、はぁ、ぁ……」
「――っ!」

熱を帯びた万事屋の声が表情が脳裏に浮かび、稽古のせいではない汗が噴き出る。
いかんいかん……神聖な道場で何を考えているんだ俺は。雑念を捨て、剣に打ち込め十四郎!

「はっ!はっ!」



それからは一心不乱に竹刀を振り続けた。
俺の指示がなくて手持ち無沙汰の鉄が様子を見に来るまで。

「副長……」
「ん?……ああ、もうこんな時間か……今行く」
「はいっ。……あっ、タオルです。どうぞ!」
「おう」

鉄に資料のコピーと書類の郵送を頼み、俺は部屋に戻り制服に着替えて筆をとった。


*  *  *  *  *


「あ、はぁ……あっ!」
「…………」

「あ、あんっ!あっ、あっ……」
「…………チッ」

「あっ、あぁっ!いいっ!」
「…………」

くっそォォォォォ!!全っっっ然、集中できねェェェェェェ!!
何だこれ?天パの呪いか?呪いなのか!?
……いやいや、恋人を疑うもんじゃないぞ十四郎。ヤツは生涯を共にと決めた相手じゃねーか!

生涯を……そういやヤツは俺のこと、どう思ってるんだ?「ちゃんと好き」だと言っていたが、
どの程度「ちゃんと」なのかがイマイチ……俺の思いを分かった上でヤったのだから、
ヤツも同じように思ってくれていると解釈していいのか?俺でいいのだと言ってもいたし。

だがアイツは、好きでもない相手とヤったこともあると言っていた。俺とヤったからといって
一生を捧げる覚悟があるわけではないのかもしれない。……いやしかし、俺はそのつもりだと
伝えてそれで……いやしかし、万事屋からそこまでハッキリ意思表示されたわけでは……
いやしかし、俺はアイツと……いやしかし、アイツは…………

「副長ー、任務完了したっス」
「ひょわぁ!」

スパンと襖が開いて鉄が入って来た。

「副長?どうかしたんスか?」
「いっいや、何でもねェ。早かったな」
「そうでもないっスよ」

一丁前に謙遜なんかしやがってと思いふと時計を見たら、本当にそうでもなかった。
ていうか俺は、何一つ仕事が進んでないじゃねぇかァァァァァ!
くそっ……これというのも万事屋が分かりにくいからだ。ヤる時はとても積極的に自ら足を
開いて「ここに入れて」なんて可愛くおねだりしておいて……

「……くちょう、副長!」
「ん?おおああ鉄か……何か用か?」
「次は何をすればいいっスか?」
「あー、そうだな……」

また万事屋のことで仕事が疎かに……
今は仕事に集中しろ十四郎!万事屋の「ちゃんと」がどうであれ、俺達が付き合っていて
結ばれたことに変わりはない!分からないことをいつまで考えても仕方がない。
客観的な事実だけに目を向けてみれば、万事屋は俺に好きだと言ってそしてあの夜……

「……副長?」
「わっ悪ィ。次の仕事だったな……」
「具合でも悪いっスか?……あれ?もしかして副長、勃ってんじゃ……」
「た、勃ってねーよ!くだらねーこと言う暇あったら廊下掃除でもしとけ!」
「了解っス!」

鉄は右手を額に当てた敬礼をして部屋を出て行った。

「ハァー……」

俺もいい加減、仕事しねぇとな……


それからも気を抜くと浮かぶアイツの顔と戦いながら、俺は仕事を進めていった。


*  *  *  *  *


「あれぇ〜……」
「……よう」

ある夜、明日は非番だからと一人で飲みに出掛けたところ、店を決める前に万事屋と出くわした。
ヤツも一人だったが既に酔っていて、足元も目の焦点も定まっていない。

「ひりかたくんら……」
「……随分飲んでるみてェだな」
「ろーもろーも、おひさしぶりれす」
「一人か?」
「いやいや……ひりかたくんと二人れすよ〜」
「おっ、おい!」

万事屋はへらへらと笑いながら近付いてきて、俺の右腕を抱え込むようにして身を寄せて来た。

「へへ〜……ひりかたくん、あったけ〜」
「…………」

今夜は暖をとるほど寒くはないし、酔ってるコイツの方が体温も高い。
そもそも往来で大の男が腕を組むなど、夜の街でも目立つではないか……とは思うのだが、
妙に楽しそうな万事屋の顔を見ていると腕を振り払う気にはなれなかった。

「……ウチまで送ってってやるよ」
「ろーもありあとーございます」
「おう」

右肩を外しそうなくらい思い切り俺に体を預ける万事屋を引き摺って、俺は万事屋へ向かった。

(12.05.23)


前話(初めての初体験)の後書きで「続きが早く見たい方は発破をかけて」みたいなことを書いて、ありがたくも拍手から続きを望むコメントをいただいたのですが、

結局二ヶ月もかかってしまいました。遅れた理由は私が続きを忘れたからです。前話の後書きを書いた時にはきっと何となく続きを考えていたのでしょうが、

いざ書こうと思ったら何も覚えていなくて^^; コメント下さったM様すみません。この土方さんを「理想」とまで言って下さったのにキャラが変わっているような……。

セックス覚えたてなのでこんな感じかな、と思ったのですが。ヤりたくてムラムラもするけど不安もいっぱいという。タイトルは前話にならって同じような言葉を

繋げてみました。この後はちゃんと18禁になります!なるべく早くアップできるよう頑張りますので暫くお待ち下さいませ。

追記:後編書きました。あまりエロくなりませんでしたが……