(来たっ!)

日の暮れはじめた頃のとある公園。ベンチに座っていた銀時は、己に近付く黒い人影に気付き
表情を引き締めた。黒い男は真っ直ぐに銀時の前までやってきて歩みを止めた。

「よう……早ェな。」
「まあね。」

男の名は土方十四郎。二人は少し前に想いを通わせ合いめでたく恋人同士になったのだが、
だからといってデートの待ち合わせ場所まで駆けて行き「ごめん待った?」「ううん、今来たとこ」
といった、微笑ましさと腹立たしさが絶妙なハーモニーを奏でるような会話など、二人の間には
存在しない。侍然とした彼らに、甘い言葉など不要なのである。

ベンチから立ち上がり、土方と並んで公園の出口に向かう銀時は「あのさ……」と話し掛けた。

「今日はウチに泊まらねェ?」

単刀直入に用件を切り出す。これで充分なのだ。

「お前がいいなら……」
「じゃあ行こうぜ。」
「おう。」

それだけ言うと二人は万事屋へ向かった。
銀時は無事に誘えたことでホッとして、土方は初めて自宅に招かれたことでドキドキしていたが
そんなことはおくびにも出さず、平静を装って歩いていく。

余計なことは言わない……この姿勢により二人の間に大きな勘違いが生じているということを、
二人はしかし知る由もなかった。

(よしよし、これでバッチリだ。いつもは土方の選んだ宿に行ってたから妙に緊張してたんだよ。
今日は俺のテリトリーだから大丈夫!ちゃんとリードできるはずだ!)

そんな銀時の思惑を何となく―あくまで「何となく」―察した土方は、

(今まで、宿の「いかにも」って雰囲気に気圧されていたんだな……。あの家ならそんなムードの
欠片もねェから、コイツも安心できるだろ。)

若干失礼な感じに解釈し、万事屋行きを了承したのだった。



三回目だし



「ただいま〜。」
「お帰りアル。」
「土方さん、いらっしゃい。」
「お、おう……」

銀時と二人きりで過ごすとばかり思っていた土方は、子ども達に出迎えられて面食らう。
それでも「邪魔するぜ」と一応挨拶をしてから玄関を上がって銀時に耳打ちする。

「おい、コイツらがいるなんて聞いてねーぞ。」
「あ?ウチはみんな揃って夕メシ食うって決まってんの。」
「夕メシ……?」
「あれ?お前、メシ食ってきた?」
「いや……」
「だったら、ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ。」
「あ、ああ……(そうか!これは家族に紹介ってやつだな!銀時のヤツ、それほどまでに俺のことを……)」
(土方のヤツ、挙動不審じゃねェ?慣れないところに連れてこられてビビってんのか?フッ……
安心しろよ。今夜は俺がリードしてやるからな。)

相変わらずすれ違ったまま、万事屋一家と土方の晩餐が始められた。



*  *  *  *  *



「銀ちゃん、トッシー、おやすみアル。」
「おう。」
「おやすみ〜。」

食事と入浴を済ませ、神楽は自室という名の押し入れへ、銀時と土方は和室へと其々分かれた。
因みに新八は夕食後に自宅へ帰っている。

「じゃあ、おやすみ。」
「おいおい、なにマジ寝しようとしてんですかコノヤロー。」
「は?」
「失礼しまーす。」
「おっおい……」

和室に並べて敷かれた二組の布団。その一方に土方が入ると、銀時はその掛け布団を捲って
土方の上へ。戸惑う土方の帯を外し、下着に手を掛けたところでそれを阻まれた。

「何すんだよ。」
「それはこっちの台詞だ。チャイナがいるってのに何考えてやがる!」
「大丈夫だよ。静かにヤれば聞こえないって。」
「静かにって……(コイツ、普段どんだけ喘いでんのか自覚ねェのか?まあ、慣れてないから
仕方ねェか……)無理に決まってんだろ。」
「(俺にされたら声抑える自信ねェって?)大丈夫、お前はやればできるコだ。」
「(そっとヤってほしいってことか?)無理にここでヤらなくても……宿に行くか?」
「(慣れない場所で戸惑ってやがるな……)色んな経験した方がいいだろ?だから今日はここで……」
「そうか……(慣れてないからこそ、場数を積みたかったのか!)分かった銀時、静かにヤろう。」
「おう(やっと分かってくれたか……)じゃあ脱がせるぞ。」
「ああ。」

自分で脱いでもよかったが「これも銀時の経験値を上げるため」と土方は身を任せる。
その銀時が「土方の経験値を上げるため」と思っていることも知らずに。

「口でするからな。」
「おう。」

土方を安心させようとこれからの行為を宣言する銀時と、自分に言い聞かせるため宣言したのだと
考えて返事をする土方と。誤解はあるものの、互いを思いやっている事実は変わらない。

(おーおー、相変わらず立派なご子息で……)

まだ萎えている土方のモノの半ばを三本の指で摘んで裏返し、銀時はそれをまじまじと観察する。

(そんなにじっくり見る必要あるか?もしかして咥えんのに抵抗あるとか?そんで、何か別の、
例えば甘い棒状のモンだとでも思い込もうとしてるとか……正直、そこまでしてヤってもらわなくても
いいんだが、コイツは色々経験したいと思ってるみたいだし、それを邪魔しちゃ悪いよな……)
(見てたら何かムカついてきた……。皮伸ばして小粋なサンバイザー被せてやろうか……
くそっ、被るまで伸びねェな……)
「ぎ、銀時……?何して……」
「あー悪ィ。ちょっと遊んでた。」
「……は?(遊ぶってなに?ナニで遊ぶの?ていうか今って遊ぶ時間だったっけ!?)」

状況把握の追い付かない土方を置いて、銀時は摘んだモノをフルフルと振ったり皮を引っ張ったり……

(これはこれで意外と面白ェな……)
(何!?何なの!?俺はどうすればいいの!?)

無邪気に「遊ぶ」銀時をどう扱えばよいか分からず、土方はただただされるがままになっていた。

「……なあ、こんな触ってんのに何で硬くならねぇの?」
「あ、いや……(無理だろ!!ワケ分かんねぇ遊びとやらで勃つかよ!えっ……コイツは勃つの?
こんなんが好きなの!?)」
「どうした?(まだ緊張してんのかな……)」
「あっ?おおああ!その、もうちょい強い方が……(ヤってると思わなかったなんて言えねェ……)」
「そう?じゃあ口でしてやるよ(緊張し過ぎて感度が鈍ってんだな)。」
「おう……(さっきもそう言ったこと忘れてんのか?そんだけ緊張してんだな……)」

実際のところ全く噛み合っていないのだが表面上は会話が成立し、銀時は土方のモノを咥えた。


「んっ、んむ……」
(今度はあっさり咥えたな……。遊びとやらで抵抗感が薄れたのか?)


銀時の口内で土方のモノは嵩を増していく。


(おっ、いい感じ……。でも最初から飛ばし過ぎるとすぐイッちゃうから気を付けねェと……)
(相変わらずもたついてるが、一所懸命な感じが可愛いからこのままでもいいか……)


互いに、相手は性の経験が乏しいと誤解している。そのため銀時は、経験の少ない土方に強過ぎる
刺激を与えては可哀想だと敢えてそっと口淫を施し、土方はそれを不慣れなためだと理解して
愛おしさを感じていた。
土方の手が銀時の頭を優しく撫でる。


(頑張れ、銀時。その調子だ……)
(えっ、なに?何でなでなでしてんの?気持ちいいぞ、ってこと?)


銀時の舌が裏筋を這い、また少し土方のモノは膨らんだ。


「ハァッ……(暇だ……俺も銀時に触りてェ!だが我慢だ十四郎。銀時が頑張っているんだから。)」
「(まだ完勃ちしねェな……)土方、もうちょい強くした方がいい?」
「無理しなくていいぞ。」
「そう?(やっぱ、これ以上はダメなのか……)」


気遣われているなど微塵も思っていない銀時は、再び土方の股間に顔を埋め殊更ゆっくりと舌を
這わせていく。土方はそんな銀時の髪を慈しみを込めて撫で続けていた。


(このなでなで、結構気持ちいいかも……。つっても、ソッチ系の気持ちイイじゃないけどね。
なんか安心するっつーか、心が安らぐっつーか……あっ、おん、な、じ、だ…………)
「…………?」


元々ゆっくりだった銀時の動きが完全に止まり、土方は身を屈めて様子を伺う。

(寝てやがる……)

一物の根元を緩く握り、辛うじて亀頭部分を口に含んだまま銀時は眠っていた。
股間から銀時の頭を外し、土方がそっと身体をずらせば銀時は布団に突っ伏した体勢になる。
土方は銀時の身体に布団を掛けて厠へ向かった。

(俺を家に呼ぶため、寝不足になるくらい頑張って準備したんだろう。)

中途半端で終わったにもかかわらず、土方の表情は晴れやかだった。



*  *  *  *  *



数時間後、銀時は目を覚ました。

「ん……(あれ?俺、何してたっけ……)」

寝起きの働かない脳でも朧げに途中で眠ってしまったのだということだけは判り、眠る前の記憶を
ぼんやりと辿っていく。そして、

(何って……ナニじゃねェかァァァァ!)

思い出した銀時は慌てて身体を起こし、その気配に隣の布団で寝ていた土方も目を覚ました。

「ん?起きたのか……」
「ひっ土方、俺……ごめん。」
「気にすんな。疲れてたんだろ?」
「えっと、その……」
「いいから今日はもう寝ようぜ。」
「え、いいの……?」
「構わねェよ。」
「……そっちの布団に行っていい?」
「おう。」

せめてもの罪滅ぼしにと同衾を申し出ると、土方は銀時側の掛け布団を捲って招き入れた。

「あの……今度はサービスするからね。」
「無理しなくていい。俺は、お前といられればそれで……」
「……どうも。」

二人は抱き合って目を閉じた。

(こんなになっても俺のために……なんて可愛いヤツなんだ。俺も銀時の想いに応えられるよう
頑張らなきゃなんねェな。)
(すぐに起こさなかったってことは、コイツもヤらなくてホッとしてんのか?自宅エッチはまだ
早かったのかもな……)


幸せな恋人達の付き合いは勘違いしたまま続いていく。


(11.11.11)


ひっそりと続いている回数シリーズでした。18禁にしてはガッカリなほど温くてすみません^^; せめて土方さんの自己処理シーンでも書けば良かったかな……。

でも攻めの自己処理って需要あるのかしら?とか思ってカットしてしまいました。多分、そのうち続きを書きます。その時はもっとエロくできたらいいな。

このシリーズは何故だか文体が定まってくれません。この回の冒頭と終わりでもちょっと雰囲気が違うし、前話とも違う……心の声が多いからかな?

続きを書く時にはもっと安定させたいです。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

追記:続きを書きました。

 

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