※土方さんが男性相手に受けたことがある設定です。大丈夫な方のみどうぞ。
下やりたい
「それ」は銀時にとって、あまりに唐突な出来事だった。
「今日は、俺が『下』でもいいか?」
「・・・は?」
これまで何年もの間、自分を抱き続けてきた恋人の土方がいきなり抱かれたいと言い出したのだ。
同性である以上、夜の役割に決まりがないことくらい銀時も分かっている。けれど、土方とは何年も
役割を固定して夜を過ごしてきたのだ。それがなぜ今更交代したがるのか分からなかった。
「お前、なに言ってんの?」
「あっ、今日いきなりが無理なら次回でも…」
「いやいやそういうんじゃなくて……何で急に?そもそも上に拘ってたのオメーだろ?」
銀時は土方と初めて肌を重ねた日のことを思い出していた。
* * * * *
「なあ土方…お前、どっちがいい?」
「上。」
「そっか…。じゃあ、じゃんけん「上。」
「…俺も上がい「上。」
「………」
「絶っっっ対に上。上じゃねェならヤんなくていい。」
「………分かったよ!そんなに嫌なら俺が下でいいよ!…ったく、別に突っ込まれたからって
死ぬわけじゃねーのによー…」
* * * * *
「…つーことで、オメーの強〜い希望で今があるんだよな、土方くん?」
「ああ…」
「それが何でこうなんの?」
「お前も、上がいいと言っていたから…」
「そりゃ言ったけどさァ……何で今更?」
「そ、それは…」
「分かった分かった。ゆっくり話そうぜ?座れよ。」
「…最初から、座ってるんだが…」
二人がいるのは万事屋の和室。並べて敷いた二組の布団の上にそれぞれ座って向かい合っている。
「気持ちも座れってことだよ。…で?何で今になって抱かれる気になったんだ?」
「こっ心の準備が…できたから。」
「…もしかしてオメー、男に抱かれたことあんの?」
土方は何も言わなかったが、その肩がピクリと揺れた。
「その反応…元彼がいるって感じじゃねーよな?…無理矢理的な感じ?」
「いや…」
「酔った勢いとか…?」
「いや…」
「…買ったの?」
「いや…」
「じゃあ…」
「か、過去のことは関係ねぇだろ…」
「だって…お前が上希望だったのはその『過去』が原因なんだろ?そんで今、それにケリ付けたから
下になる気になったんじゃねーの?」
「まあ…」
「だったら話してくれてもいいじゃん。…別に、抱かれた時のことを事細かに話せって言うんじゃ
ねーからよ…。なっ?」
「………」
土方はなかなか話す気になれずにいたが、銀時も引き下がりそうにない。
「ぎ、銀時!?」
銀時は土方の隣に移動し、土方の懐に手を差し入れて煙草の箱を取り出した。
「吸えよ。」
「………」
無言で煙草を一本抜き取り、土方は愛用のマヨネーズボトル型ライターで火を点ける。
煙を肺いっぱいに吸い込んで吐き出すと、少し気分が落ち着いた気がした。
「昔………オメーに会う前の話だ。」
「うん…」
土方は銀時の肩を抱き寄せながら話を始めた。
銀時は自分に回された腕を引き寄せ、土方の胸に凭れかかる。
「近藤さんに付いて上京したはいいが、何もできなくてな…」
「うん…」
「手柄を挙げようにも、実績のねぇ俺達にゃ大した仕事は回ってこねぇ。」
「そっか…」
「それで………」
「…ん?」
土方の言葉が止まり、銀時は後ろを振り返った。その時の瞳が慈愛に満ちているように思えて土方は、
強く銀時を抱き締めて肩口に顎を乗せる。すると銀時が土方の頭にそっと手を添えて口を開いた。
「…真選組のために、カラダ張ったんだ。」
「ああ…」
「一人で?」
「ああ…」
「じゃあ、今の真選組があるのは、土方のおかげだね。」
「そうでもねェよ。…俺ァ、ちょっと切欠を作っただけだ。」
「充分だよ。」
「そうか…」
「…今でも誘われたりすんの?」
「いや…」
「…辛かった?」
「いや…」
「今日くらい、弱音吐いたっていいんだぞ?」
幼子をあやすように銀時の手が土方の頭を撫でる。
「強がってるわけじゃねーよ。当時は義理立てする相手もいねェし、それでチャンスが転がり込むなら
安いモンだと思ってた。」
「そうなんだ…」
「…今は違うぞ?俺にはお前だけだ。」
心配そうに銀時を抱き締め直す土方に、銀時は口元を綻ばさせる。
「分かってるって。でもよー…嫌じゃなかったなら、何で上がよかったんだ?」
「…嫌じゃねーけど、別に好きでヤられてたわけでもねーからな…。だから、同じことしたらお前の
ことも同じように好きじゃなくなっちまうんじゃねぇかと…」
「クスッ……土方くんはぁ、銀さんのコトずっと好きでいたいんだ?」
「当たり前だろ…」
からかうように言う銀時に土方は唇を尖らせる。
「…悪かったな。重くて…」
「ンなこと言ってないじゃん。…お前のそーゆー一途なトコ好きだよ。」
銀時は身体の向きを変え、土方の首に腕を回して口付けた。
「俺が最初に『上』って言ったこと、ずっと覚えててくれたんだ?」
「ああ…」
「どうやって過去にケリ付けたの?」
「…イメージトレーニング。」
至近距離で見詰められ、土方は気恥しくなってすっと顔を背けた。
「俺に抱かれるのを想像してたってわけ?」
「初めは、無理だった。夢で…お前が官僚で『便宜を図ってやる』とか言ったりして……」
「そんな状態で、よく諦めなかったね。とりあえずお前が『上』で付き合えてるのに…」
「だがそれはお前に譲ってもらったからで、いつまでも我慢させるわけには…」
「そりゃ、あん時はどっちかっつーと『上』だったけどさァ…」
銀時は土方の顔を正面に戻し、もう一度口付けてからぎゅっと抱き付いた。
「土方の方が『上』に向いてると思う。」
「そんなことは…」
「だって俺、変えられちまったもん。」
「…は?」
「何度も抱かれるうちに『下』もいいかなって思うようになって…もっと言うと、今はむしろ『下』が
いいと思ってて…ていうか、お前の顔見ると抱かれたくなるから、今更お前を抱くとか無理だし…」
「銀時……」
土方の腕が銀時の背中に回る。
「お前、どっちもできるようになったんならさァ…俺がその気になるまでは『上』のままでいい?」
「あ、ああ…。お前がそうしたいのなら、俺は構わないが…」
「じゃあ……抱いて?」
「ああ。」
身体を離し、はにかみながら抱いてと言った銀時を、土方はそっと布団の上に寝かせた。
そして二人はいつも通りに抱き合うのだった。
(11.06.19)
受ける方が攻めたがる話はたまに見るので、逆があってもいいんじゃないかなァと思いまして。でもどうなんでしょう…。こういうの、あまり見ないってことは
固定派の方には苦手な設定だったりするのかしら?イマイチその辺の「常識」が分からないので、今回のように必要そうな時には注意書きを入れますから
苦手な設定のある方は自衛して下さいませ。
最近、土銀エロを書いていなかったのでおまけにR18の超短文を付けました。注意書きに飛びます。→★