※銀土No.60と同じタイトルですが、全く別の話です。




「ようジミー、土方い「いません。」

ある日の昼下がり、銀時は散歩の途中で何気なく真選組屯所を訪れた。
入口付近にいた山崎に恋人の所在を確認しようとしたところ、銀時が言い終わらぬうちに「いない」と
返されてしまった。

「あ、いないんだ…」
「…まだ何か?」
「いや、別に…」

山崎の態度があまりに素っ気なく感じたものの、それ以上は特に追究することなく屯所を後にした。

(まっ、ジミーだって機嫌が悪い日もあるよな…)


*  *  *  *  *


別の日。

「ようジミー、土方は「いません。」
「えっ…」

またしても山崎から恋人の不在を告げられた。山崎はそれだけ言うと屯所の中へ入ってしまう。
一人取り残された銀時は「何だよ」と声を出さずに口だけ動かして、元来た道を引き返す。

(土方のヤツ…今日は一日屯所に居るっつったのに、居ねェのかよ…。高級茶菓子用意して
待ってるっつーから楽しみにしてたのによー…)
「旦那じゃねーですか。」
「ん?」

帰路についた銀時の前に現れたのは沖田であった。

「土方さんに会いに来たんで?お熱いですねィ。」
「茶菓子食いに来たんだよ。…結局、ダメだったけど。」
「…ダメって?」
「土方、居ねェみてーだし…」
「土方さんは今日一日屯所に居るはずですが…」
「でも今、ジミーが居ないって…」
「ああ、そういうことですか。」

沖田はニヤリと含みのある笑みを浮かべる。

「なに?」
「行けば分かりまさァ…どうぞ。」
「えっ…」

銀時は沖田と共にまた屯所へ戻ることになった。



坂田銀時VS山崎退



「土方さ〜ん、旦那をお連れしやした。」
「おう、入っていいぞ。」

沖田が副長室の襖を開けると、そこには土方と山崎がいた。

「ねっ?いたでしょう?」
「あ、うん…」
「どうした?入れよ。」

入口で立ち尽くしている銀時に、土方はもう一度部屋へ入るよう促した。

「俺が『いない』って言ったのに副長がいたからビックリしてるんですよ。」
「「!!」」

顔色一つ変えずにそう言った山崎に、銀時も沖田も驚きを隠せなかった。

「山崎お前、なんで俺がいないなんて言ったんだ?」
「隊士の居場所をむやみに話すなって…副長が言ってましたから。」
「本当にテメーはクソ真面目っつーか…」
「俺だって、旦那なら大丈夫だとも思いましたけど…でも、どこで敵が聞いてるか分かりませんし…」
「まあ、用心に越したことはねぇか…」
「はい。」
「………」

銀時の訪問がきっかけの話でありながら、土方と山崎の間だけで会話が交わされていく。
その様子を銀時はただ、黙って眺めていた。
沖田がそっと銀時に耳打ちする。

「山崎の野郎、土方さんに気があるんでさァ。」
「へぇ〜…」
「隊内じゃ結構有名な話です。…土方さんは知りやせんけど。」
「ふーん…」
「ふーんって…それだけですかィ?」
「ああ。」

銀時の表情は全く変わらず、沖田は肩透かしを食らってしまう。
いつの間にか、土方と山崎の会話は仕事のことになっていた。

「だから何でお前の報告書は作文なんだよ…」
「どこがいけないんですかねぇ?」
「とりあえず、文末の『〜と僕は思いました』ってのをやめろ。」
「えー…でも、本当にそう思ったんですよ?」
「それは分かってる。だから…『〜と考えられる』とか『推察できる』とか…」
「おー…何か急に重みが増しましたね。さすが副長…」

山崎はメモ帳を取り出して土方の言葉を書き留める。

「それと『僕』も使うな。テメーの報告書なんだから主語はいらねェよ。」
「なるほど〜…勉強になります。」
「そんで、どうしても一人称を使うなら『私』にしろ。」
「あっ、そうですよね。…以後、気を付けます。」
「おう。」

一区切りして土方が咥えていたタバコを指に挟んで紫煙を吐き出すと、山崎はサッと灰皿を差し出した。
土方はその灰皿に当然のように吸い殻を押し付ける。すると今度は山崎が文机の上にあるタバコの箱を
手に取り、取り出しやすいように一本だけ突き出させる。土方がそれを抜くと、最後の一本だったのか、
山崎は箱をくしゃりと握りつぶして立ち上がった。

「旦那…ちょっとそこ、どいてもらえます?」
「ああ。」

銀時を動かして山崎は押し入れを開け、中の棚から新しいタバコを一箱出して土方の隣に戻る。

とても自然に世話を焼き、焼かれている二人を、銀時は見ていることしかできなかった。
再び沖田が銀時へ耳打ちする。

「出ませんか?」
「……ああ。」

土方に視線を向けると、また山崎と書類を挟んで話していた。
まだ暫く仕事が終わらなそうだと判断し、銀時は沖田の誘いに乗ることにした。



沖田と銀時は食堂へやって来る。沖田は何処からかプリンを二つ持って来て
自分と銀時の前に置いた。

「どーも。」
「で?どうですか、旦那…」
「どうって?」
「あの二人を見て、何も思いませんでしたか?」
「あー…まあ、何つーか……意外な感じ?」

銀時はプリンを一口食べて、スプーンの柄を上下させながら答えた。
沖田の目の奥がキラリと光る。

「意外?」
「うん。土方って世話焼いてるイメージしかなかったから…ほら、沖田くんとか近藤とかにさ…。
だから、世話焼かれてんのって意外。」
「…旦那は、世話焼いてやらねェんで?」
「何で俺が…」
「じゃあ、その点に関しては山崎の勝ちってことですね。」
「沖田くんさァ…」

銀時はスプーンを口から外し、溜息を吐く。

「このネタで遊ぼうとしても無駄だよ?ヤキモチとかそんなんが目的なんだろうけど、
俺は、アイツがどーしてもって言うから付き合ってやってるだけで、何の執着もないからね。」
「するってぇと、他の野郎に取られても構わないと…」
「ああ。欲しいならどうぞーって感じ。…でも、今のままじゃ難しいと思うけどね。」
「へぇ〜…そんだけ愛されてる自信があるってことですか。」

ニヤニヤと笑う沖田に銀時は唇を尖らせる。

「そんなんじゃねぇよ。」
「じゃあ何でなんで?」
「何となくだけど…ジミーって攻めっぽい気がするから。」
「おそらく、土方さんを抱きたいと思ってるんでしょうねェ。…でも、それが何か?」
「土方を抱くとか、そんなん無理だよ。」
「旦那じゃねェとダメな身体に調教済みってわけですか…流石ですねィ。」
「…もしかして沖田くん、土方が受けだと思ってる?」
「えっ!」

滅多なことでは動じない沖田が目を丸くしてパチパチと瞬かせる。

「受けだと思ってたわけね…。でも残念なことにアッチが攻めなのよ。俺が冗談でもアイツのケツなんか
触ろうものなら酷いよ?刀持ち出して抵抗するからね、刀!」
「へぇ…そいつァ知りやせんでした。」
「本っ当、土方ってケチだよなァ…一回くらいヤらせてくれたってさァ…。
まっ、その分アイツにゃ、たんまり貢いでもらってるけどね〜。」
「なるほどねィ。…確かにそれじゃ、山崎に望みは薄そうですね。」
「でも諦めませんよ。」
「!!」

銀時が後ろを振り返ると、食堂の入口に書類を抱えた山崎が立っていた。
沖田の笑顔を見る限り、そこに山崎がいることに気付いて話をしていたのだろう。

「盗み聞きたァいい趣味じゃねェか…」
「白々しい…俺がいるの分かってたんでしょう?それに、盗み聞くつもりなら声なんか掛けませんよ。
旦那…」
「んー?」
「俺、絶対に諦めませんから!」
「うん頑張ってねー。…俺はもう、諦めたから。」
「…は?」
「今日のジミー見ててさァ…無理だと思った。」
「無、理って…?」
「土方に突っ込むの。」
「突っ込…?」
「きっとさァ…ジミーみたいに甲斐甲斐しくお世話すれば、土方だってヤらせてくれると思うんだよねー。
実際、今の俺がその状態なワケよ。アイツが色々買ってくれたり奢ってくれたりするから、
まあ、いっかーって感じで…」
「………」

山崎も沖田もポカンとしているのに、銀時は一人でうんうんと頷いて納得していた。

「…あっ、ジミーがここ来たってことは仕事一段落したんだよな?」
「えっ?あ、はあ…」
「じゃあ、高級茶菓子食いに行ってこようっと。…あっ沖田くん、プリンご馳走さま〜。」

銀時はイスから立ち上がり、山崎にもう一度「頑張ってね」と言って副長室へ向かった。



「山崎ィ…諦めた方がいいんじゃねぇか?相手が悪すぎる。」
「確かに旦那は次元が違いますね…」
「そうだな。」


諦めるなんてそう簡単にはできそうもないけれど、旦那には到底敵わないなと僕は思いました。


(11.03.05)


色んなところで書いていますが、土方さんは基本的に受け受けしいんです(笑)。でも銀さんは器用だから(?)受け受けしい土方さんを攻めにできるんです。

銀さんはちゃんと土方さんのこと好きですよ?ただ「去る者追わず」タイプなんです。だからもし、土方さんの心が離れたならそれまでと思ってるんです。

もちろん、そんなことはあり得ませんけどね^^ 二人はいつまでもラブラブです!…山崎ごめんね。ここはそういうサイトだから(笑)

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 

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