土方さん大人気
それは何の変哲もない一日の、朝食の席での神楽の一言から始まった。
「銀ちゃんは何でトッシーと付き合ってるアルか?」
「は?」
唐突に何を聞くのだと、聞かれた銀時は食事の手を止めて神楽の顔を見る。神楽は銀時の戸惑いなど
お構いなしに「何で?」と答えを促した。銀時は箸の先を口に含み、ボソボソと恥ずかしそうに答える。
「何でって…アイツが付き合ってくれって言ったから…」
「何でトッシーは銀ちゃんに告白したネ?」
「…ンなことはアイツに聞けよ!」
「だっておかしいアル!」
「あ?何がだよ。」
まだこの恥ずかしい会話が続くのかと、銀時は徐々にイラついてくる。
「トッシーはマヨラーでニコ中だけど、顔はいいし、金もあるし、優しいアル!」
「…何オメー、土方に賄賂でももらったか?」
「この前、お腹空いたって言ったらご飯奢ってくれたネ。」
「は?ンなこと聞いてねーぞ。」
「言ってないんだから当然ネ。」
「そういう時は今度からすぐに俺を呼べよ。土方って書いて俺の財布と読むんだからな!」
「ハァー…」
神楽は大きく溜息を吐き、空になった丼に山盛りに御飯をよそる。
「おーい、溜息吐くヤツは丼メシおかわりなんてしねェぞー。」
「銀ちゃんのマダオぶりに溜息が出ただけネ。食欲とは無関係ヨ。」
「そーですか…」
「それよりやっぱり分からないアル。トッシーはこんなマダオのどこがいいアルか?もしかして銀ちゃん
トッシーの弱みでも握ってるアルか?そんなの可哀想ネ!」
「勝手に決め付けんなよ…。つーか神楽ちゃん、銀さんの話聞いてた?付き合ってくれって言ったのは
アッチだよ、アッチ!」
「それが信じられないネ。」
「お前が信じなくてもそれが事実なんですー。」
「じゃあトッシーは男の趣味がものすごく悪いアルな…」
「おいっ!」
「それにしても趣味悪すぎアル。トッシーならきっと、いい人選び放題なのに…」
「ふざけんなよ?銀さんには銀さんのいいところがいっぱいあるだろー?」
「トッシー程いっぱいじゃないネ。せっかく付き合えたんだから、なるべく長く一緒にいられるように
頑張ってトッシーを掴まえておかないとだめアルよ。」
「ったく…」
* * * * *
「…つーことがあってよー…これだから胃袋でもの考えてるガキは困るよな?ちょっとメシ奢って
もらっただけでイイ男認定だよ…」
その日の夜、スナックお登勢に出向いた銀時は、カウンターに座る長谷川を見付けて隣に座り
長谷川が頼んだ酒を勝手に飲みながら、今朝の神楽とのやりとりを聞かせた。
「ハハハ…銀さんも苦労してんだ。…その酒、俺のだよ。」
「本当…男の価値は金じゃねェっつーの!」
「そうそう、その通り!…でも、飲むんなら割勘だよ。」
「デモ、アイツハ顔モイイデスヨネ。」
キャサリンが通りすがりにボソッと漏らす。
「あ?ンだよ…テメーも土方派か?」
「別ニ…私ノ好ミジャアリマセンケド、イイ男ニハ違イナイト思ッタダケデス。」
「分かってねェなー…なあ、長谷川さん?」
「いや〜、でもさぁ…顔が良くて金持ってたらモテるのは分かるよ。同じ男として羨ましい限りだぜ。」
「なんだよ…結局、長谷川さんも土方派かよ…。なあ、バァさんは分かるだろ?」
銀時はカウンターの中のお登勢に救いを求めた。
「そうだねェ…私にとっちゃ、収入とか見てくれなんてもんは大したことじゃないねェ。」
「だろ!?オメーら聞いたか?さっすがバァさん。長く生きてるだけあって分かってる!」
「だがアイツはいい男じゃないかィ。…銀時、逃げられないように確り掴まえておくんだよ。」
「あ?」
漸く味方が見付かったと思った銀時であったが、またしても同じことを言われガックリと肩を落とす。
「ババァ…結局テメーも金と顔か?」
「そうじゃないよ。あの男、なかなか聞き上手だろ?」
「聞き上手ぅ〜?ハッ…違うね。アイツは単に無口なだけだって。」
「話すより聞く方が難しいんだよ。アンタだって、アイツといる時は楽しそうに話してるじゃないか。
上手く聞いてくれるから、話すのも楽しいんだろ?」
「別に楽しくありませんー。アイツが全然しゃべらねェから、俺が場を盛り上げようと頑張って
しゃべってやってるんですぅ。」
「そうかィ…。まあ、私が言わなくても、アイツの魅力はアンタが一番分かってるんだろーね。」
「ケッ…」
* * * * *
「…つーわけでよー…ガキもババァも分かってねェんだけど、お前は分かるよな?」
数日後、スナックすまいるに(売り上げに協力しろと脅されて)来店した銀時は、お妙に神楽やお登勢に
言われたことを話した。
「もちろん分かりますよ。土方さんは店の女の子達にも人気ですから、銀さんは大変でしょうね。」
「そっちじゃねーよ!ったく、どいつもこいつも…俺の魅力が分かるヤツはいねーのか!」
「あら…銀さんの魅力なら、約一名とっても分かってる人がいるじゃないですか。今もどこかに潜んで
見てるんじゃないですか?」
「…何があってもあのドMにだけは頼りたくねーよ。」
「そうですか…。それじゃあ無理ですね。一般常識のある人なら、土方さんがモテるってことはすぐに
分かることだと思いますから。…銀さん、土方さんを逃がさないように頑張って下さいね。」
「ンだよ…テメー、キャバ嬢なんだから客を持て成せよ!チキショー…帰る!」
「帰るのでしたら、ゴミ捨て場で伸びてるゴリラを拾って行って下さいな。今日は土方さん出張らしくて
引き取り手がいなくて困ってたんです。」
「チッ…俺は土方の代理かよ…」
銀時はブツブツ言いながらも、お妙に逆らうと後が怖いので、店の裏手で気絶していた近藤を担いで
駕籠(タクシー)に乗せ、真選組屯所まで行くよう運転手に伝えた。
* * * * *
「…ってことがあってね?ほーんと、女って見る目ないと思わない?」
更に数日後、かまっ娘倶楽部にパー子としてバイトに来た銀時は、そこでここ数日女性陣から言われた
ことをアズミに話して聞かせた。
「あら〜、副長さんは素敵な人じゃな〜い。」
「何言ってるのよアゴ美。あんなの、ちょ〜〜っと顔が良くて金持ってるだけでしょ?」
「アズミだって何度言えば分かるのよ、パー子!…まあ、アナタはいつも傍にいるから気付かないかも
しれないけど、副長さんはいい人よ。」
「どこが?」
銀時は明らさまに顔を顰めた。
「事件の聞き込みとか、接待で来た時とかに何度か話したことあるんだけどね…彼は、私達にも普通に
接してくれるのよ。」
「それのどこがいい人なの?普通なんでしょ?」
「…私達に普通に接してくれる人って結構少ないのよ。差別的な目で見るか、すっごく理解を示して
くれるか…いい意味でも悪い意味でも『特別扱い』が多いのよ。」
「ふ〜ん。」
「でも副長さんは普通なの。私達に話す時も他の人に話す時も同じ。…簡単なようでいて、なかなか
できるもんじゃないわよ〜。」
「単にコミュニケーション能力がないだけよ。色んな話し方ができないの。」
「あら、そういう不器用な所も可愛くていいじゃない。パー子、アンタ本当にいい彼氏見付けたわね。
絶対に手放しちゃダメよ。」
「何よ、アゴ美まで…。もういいわよっ!」
プゥと頬を膨らませ、銀時はアズミに顔を背ける。何処かに味方がいないかと考え込んでいる銀時の目に
一人のホステスの姿が映った。
「(そうだよ!アイツなら分かってくれる!それどころか、土方をボロクソに言ってくれるに違いねェ。
…よしっ!)ヅラ子〜、ちょっと話があるの。聞いてくれな〜い?」
「お、おい…」
接客中のヅラ子―桂―の腕を引き、銀時は待機室へと連れて行った。
「何をするのよパー子。私は今、接客中なのよ。」
「すぐに終わるから。…ヅラ子、アンタ、土方のことどう思う?」
「…惚気話なら他を当たりなさい。」
「違うわよ!誰に聞いても土方はイイ男認定されるから、アンタの意見を聞きたいのよ。どう?
ヅラ子は、土方なんてしょーもない男だって思うでしょ?銀さんの方が素敵でしょ?ねっ?」
「そうねぇ……まあ、ロクでもない仕事に就いてるけど…パー子よりはマシなんじゃないかしら?」
「どーゆー意味よっ!」
「真選組は全員カスだけど、あの男、仕事はきっちりこなして仲間の信頼も厚い。子ども二人を食わせて
いくことすらままならぬお前よりはマシであろう…」
「ヅラ…口調が男に戻ってんぞ。」
「ヅラじゃないヅラ子だ。…とにかく銀時、幕臣ということを抜きにすればあの男、それなりにいい線
いっておるだろう…。我らの活動に参加するまでなら、仲良くしておいて損はないと思うぞ。」
「…サラッと勧誘すんじゃねーよ。チッ…面白くねェ。」
* * * * *
更に数日が過ぎ、非番になった土方が万事屋を訪れた。気を利かせて新八と神楽は早々に志村家へ行き
万事屋には銀時と土方二人だけである。二人で一つのソファに座り、土方は銀時の肩を抱く。
けれど銀時は、最近色々なところで言われた土方への好評に臍を曲げたままであった。
「銀時…何かあったのか?」
「べーつにー…」
「じゃあ、どうしてこっちを見ない?」
「べーつにー…」
「なあ銀時…」
「っせェなー…テメーのことが気に食わねェ、ただそれだけだ!」
銀時は元々背けていた顔を更に背けた。
「…俺、何かしたか?」
「何も…」
「だったら何で…」
「いいよなー、お前は。何もしてなくても皆からイイ男だって言われてよー…」
「は?」
「副長さんはモテモテでいらっしゃいマスネー。」
抑揚のない声でそう言うと、銀時は唇を尖らせてソファの上で膝を抱えた。
「銀時…」
「ったく…何でお前ばっかモテるんだよ。」
「お前もモテてるだろ?」
「…ドMのストーカーとかに、だろ。…どーせ俺はロクなヤツに好かれませんよーだ。」
「ロクでもねーヤツで悪かったな。」
「は?」
言われたことが理解できず、銀時は顔を土方の方へ向けた。
「テメーを好きになるヤツはロクでもねーんだろ?つーことは俺がそうってことじゃねーか。」
「土方、オメー…アホだな。」
「あ?テメーがロクでもねェヤツに好かれると言ったんじゃねェか。…俺はお前が好きだ!」
「はいはい…」
素っ気ない態度を取りつつも、徐々に銀時の頬に赤みが差してくる。
「銀時、お前は…」
「ん?」
「その…もっと、いいヤツに好かれたいのか?」
「んー……別にいいや。誰にモテてもお前以外と付き合う気ねぇし…」
「銀、時…!」
感動に打ち震える土方を見て初めて、銀時は自分が恥ずかしいことを言ったのだと気付く。
銀時は顔を真っ赤にして「違う!」と否定した。
「銀時…そんなに俺のことを…」
「違うっ!今のはそーゆーんじゃねぇって!」
「俺だって誰にモテよーが、お前以外と付き合う気はないからなっ。」
「だから、違うって言ってんだろ!あっ、こら、抱き付くんじゃねェ!」
「銀時…愛してる。」
「あいっ!?…て、てめー、恥ずかしいこと言うなよ、アホ!」
「先に言ったのはお前だろ?」
「俺のは違うって言ってんだろ!バーカ、バーカ…」
「銀時ィ…」
「圧し掛かってくんな。重いっ!」
横からぎゅうぎゅうと抱き付いてくる土方に、銀時は「離れろ」だの「重い」だのと文句を繰り返す。
けれどその表情は穏やかで、どこか幸せそうであった。
―みんな分かってねェな…。俺が掴まえてなくたって、土方は絶対に俺から離れねェんだよ。
(10.12.02)
この話はですね…銀魂DVDのおまけラジオCDか何かで、杉○さんが「中○さんはラブコメをやりたいらしい。」とか「女性キャラで○井さんをちやほやして…」とか何とか
言ってまして(曖昧な記憶ですみません;)、それを聞いて「土方さんをちやほやしてみよう!」と思い立ってできた話です。…思いの外ちやほやできてないですね^^;
全然ラブコメじゃないし…。これだけ褒められている土方さんですが、銀さん以外に恋愛感情抱いている人は一人もいません(笑)。結局二人はラブラブなんです。
…(無理矢理)まとまったところで、後書き終わります^^; ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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