「なぁ土方…明日って、仕事?」
「いや…」
「…ならさ、その…やっ宿に、行かねェか?」
「…ああ」
(ついに、ついに言っちまったァァァァ!!)
初めてだから
万事屋銀ちゃんこと坂田銀時と真選組の鬼副長こと土方十四郎が、所謂恋人同士という関係になって
二週間が経過。二人は今日、初めて一夜を共にすることになった。
誘われた形の土方は、自分から誘えなかった悔しさと銀時に求められた喜びで複雑な心境だった。
一方銀時は、無事に誘えてホッとしているかというと、そうでもなかった。
(ヤるのは嫌じゃねェけど…まだ、早かったかなァ…)
実を言うと銀時はまだ「その気」になっているわけではない。ただ、いつ誘われるかビクビクしている
くらいなら、自分から誘った方がマシだと思って誘っただけなのだ。
心の準備ができたことにして誘った銀時は、その直後から「言わなきゃよかったかな?でも…」と
葛藤していた。
「銀時…」
「っ!!」
ふいに、常より甘さの混じる声で名前を呼ばれ、銀時は肩をピクリと跳ねさせた。
土方はそれに気付いたのか、銀時の肩を抱きよせて耳元で囁くように言う。
「なぁ銀時…」
「ちっ近い!お前、そんなんするキャラじゃねーだろ!」
「そうか?…で、どこがいい?」
「ど、どこがって…?」
「お前が誘ったんだ。どこか行きたい宿があるんじゃないのか?」
「別に…どこでもいいよ。…支払いがお前なら」
「…じゃあ、あそこにするか?」
土方は特別新しくも古くもなく、かつ、それほど個性的でない外観の―つまりはごくありふれた―
ホテルを指差した。
「土方お前、普通の宿選ぶ天才だな…」
「…それ、褒めてんのか?」
「まあ、一応…」
おかげで少し緊張が和らいだなどとは言いたくないが、それでも心の中だけで礼を言っておいた。
* * * * *
「先、シャワー使えよ」
「あっ、うん…」
どこにでもあるようなホテルの、これまたどこにでもあるような作りの部屋に土方と入り
銀時は脱衣所で震える手を宥めながら服を脱いでいく。
(くっそ…何でこんなになるんだよ!そりゃあ…新八達が来てからは、あんまりこういうコトなかった
けど…だからって初めてってワケじゃねーし…。あー…くそっ!)
半ばヤケクソになりながら服を脱ぎ捨て、勢いよく浴室へ飛び込んでいった。
「飲むか?」
「どーも」
銀時がホテルの浴衣を着て寝室に戻ると、土方は冷たい水の入ったグラスを差し出した。
それを銀時が受け取ると「じゃあ」とだけ言って、土方は浴室へ向かった。
二人掛けのソファに一人で座り、土方から渡された水を飲んでいると、微かに残っていた酒も
すっかり醒めてしまった。すると緊張感が更に高まっていく。
(…これで俺がこっそり帰ったらアイツ、どうするかな…。いっちょやってみっか?
…いや、別にヤるのが怖いとかじゃなくてね?アイツを苛めてみたいだけっつーか…そうだ!
アイツが土下座してヤらせて下さいって言ったら、ヤらせてやるってのはどうだ?そうだよ!
俺が誘ったからって、ヤる気に満ちてると思われたくないしね。こんな、いかにも脱がせやすそうな
恰好してることねーよな。…うん)
銀時はグラスを置いて立ち上がり、浴衣を脱いでいつもの服を着ようとしたのだが…
「…随分とヤる気みたいだな」
「!?」
タイミング悪く浴衣姿の土方が浴室から出てきてしまった。現在銀時はトランクス一枚。
「ち、違っ!これは服を…」
「ちょっと前まで緊張してるみてェだったが…もう腹ァ括ったのか?」
「きき、緊張なんかしてねーよ!童貞じゃあるめーし…」
「…抱かれんのも初めてじゃねェのか?」
「初めてじゃねーよ。銀さんの場数舐めんな!髪の色が珍しいってだけで寄ってくる輩も多いんだよ」
「そうか…」
「…キレイな身体でなくて悪かったな」
余計なことまで言ったと銀時のトーンが一気に落ちる。
土方はフッと笑って銀時を優しく抱き締めた。
「構わねェよ…。過去がどうであれ、今は俺の恋人だろ?そもそも俺だって、お前をとやかく言える
ような立場じゃねぇしな…」
「……土方も、男とヤったことあんの?」
「………さあな」
「あっ、ずりィ!俺だって言ったんだから教えろよー。なぁ、そん時は上と下、どっちヤったの?
もしかして、どっちも経験アリ?なぁ、なぁ!」
「るせェよ…。今の俺にゃ、お前しかいねェんだ…」
「チッ…誤魔化しやがって。…えっ?ちょっ…どこ行くんだよ!」
抱き締めていた腕を解き、銀時の肩を抱いて進もうとする土方を銀時は慌てて制止する。
「どこって…もうソコしかねーだろ」
土方は顎で正面にあるダブルサイズのベッドを指し示す。
「待てよ。俺はまだ着替え中で…」
改めて下着一枚だったことを思い出し、銀時は土方の腕を外そうともがく。
「どうせ脱ぐんだからこのままでいいじゃねーか…」
「っざけんな!俺ばっかヤる気満々だと思われてたまるか!」
「仕方ねェな…。…じゃあ、これでいいかよ」
「は?」
土方は銀時から一歩離れ、自分の浴衣を脱ぎ捨てた。
「おら、これで俺もヤる気満々に見えんだろ?…つーか。俺はヤる気満々だからな」
「そういう問題じゃねーよ…アホ」
土方の少し焦点のズレた気遣いで脱力した銀時は、そのまま手を引かれてベッドまで辿り着いた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「あ?大丈夫だ。怖くねェから…なっ?」
「違ェよ!俺がビビってるみたいに言うな!ただ…えっと……電気!電気、消して!」
「…分かった」
仰向けになった銀時の上に土方が覆い被さり、さあこれからという時になって銀時が待ったをかけた。
土方は身体を起こして部屋の明かりを半分ほど消す。
「…これでいいか?」
「ダメっ!まだ足下とか廊下とかがついてんだろ!全部消すの!」
「…それじゃあ何も見えねーだろ」
「全部消したって外から多少光は入ってくるんだから、それで充分だろ。お前、暗いの得意だろ?
瞳孔開いてんだからよー…」
「…分かった、分かった。消せばいいんだろ」
土方は部屋の明かりを全て消した。
一瞬、目の前が真っ暗になり、すぐにぼんやりと物の輪郭が見えてくる。土方はベッドへ戻り
再び銀時の上に覆い被さるとフワフワの髪をかき分け、銀時の額に口付けを落とす。
その間、銀時はギュッと目を閉じ、全身を強張らせていた。
「オメーにこんな可愛げがあるたァ意外だったな」
「ちっ違ェよ。明るいとオメーが恥ずかしいんじゃないかと思ってだな…」
「はいはい…お気遣い感謝シマス」
「…信用してねェな?いいか?俺は全っ然、恥ずかしくないんだからな!!」
「分かったって。…それならヤろうぜ?」
「お、おぅ…」
銀時の心臓が本日最高速度でドクドクと鳴った。
土方が銀時の髪に触れていた右手を動かすと、銀時の身体は再び強張る。左腕で上半身の体重を支え
銀時の緊張を解すように優しく右手を滑らせていく。
髪から耳を通って頬へ…自分の手と銀時の頬が同じ体温になるまで待って頬から首筋へ…
鎖骨をゆっくりと辿り、かつて自身が付けた刀傷の残る左肩へ…その肩を抱き締めるように軽く力を
こめて、そのまま腕の方へ…手の甲をひと撫でして再び上へ…
けれどそんな土方の優しさも、銀時の極度の緊張感を解消するまでには至らならなかった。
(う〜〜〜…心臓がバクバクうるせェ…。土方のヤツ、何で腕とかさすってるだけなんだよ…。
もしかして土方、俺がちょっとビビってんのに気付いて呆れてる?……くそっ。イマイチ表情が
見えないから分かんねェよ…。面倒なヤツだと思われてたらどうしよう…)
「あっ、あのさ…」
「…今日はここまでにしとくか?」
「はぁ!?バカ言ってんじゃねーよ。俺はただ、もうちょい明るくてもいいって言おうとして…」
「…オメーが真っ暗にしろって言ったんじゃねーか」
「そうなんだけど…でも、思ったより暗いし、お前の顔も、見えねーし…」
「じゃあ…」
土方は浴室へ続く短い廊下の明かりをつけた。二人のいるベッドに直接光は当たらないが
廊下の明かりが洩れて寝室全体が僅かに明るくなった。
「これでどうだ?」
「…うん」
「銀時…」
互いの顔が見えるようになったところで、土方は再び銀時の額に口付けを落とす。
銀時の身体は依然強張ったまま…。土方はそんな銀時に語りかけるように言った。
「なぁ…やっぱり今日はここまでにしないか?」
「っざけんなよ!平気だって言ってんだろ!こんなん、何回もヤったことあるし…」
「今までの経験がどうであれ、俺とヤんのは初めてなんだからよ…」
「そうだけど…でも、ラブホに入ったのにヤらないなんて…」
「…俺が下になればいいのか?」
「はっ?何言って…お前が上ってのは付き合ってすぐに決めたことだろ。…嫌なのかよ」
「そうじゃなくて、てめーで好きにできた方がいいんじゃねェかと…」
「…下の方がいい(横になってるだけでドキドキなのに、攻められるわけねぇだろォォォ!!)」
「そうか…」
銀時の心の叫びは当然聞こえなかったが、何とか「下希望」であることは土方に伝わった。
「お前がいいなら続きをするけどよ…嫌だったらすぐに言えよ」
「分かったから…」
土方は銀時の唇に軽く自身の唇を触れさせる。唇の次は頬、その次は瞼、反対側の頬…
銀時の顔中に触れるだけの口付けをする。
(またまどろっこしいことを…これじゃあ、いつまで経っても意識がハッキリしたままじゃねーか…。
まさか焦らしプレイ?いやそんなはずは…)
「土方…もう、シタ触れよ」
「いや、だが…」
さっさと我を忘れたい銀時と銀時の不安を取り除きたい土方…二人の目的は似ているのだが
その方法は全く異なっていた。
「いいから触れって。焦らしプレイみたいなのは好きじゃねぇ…」
「そんなつもりじゃ…」
「それは分かってる。分かってるから……早くしろ」
「それじゃあ…」
土方の手が銀時の下着に触れた。
* * * * *
「おい、大丈夫か?」
「………」
どうにかして行為が終わると、銀時は布団に突っ伏して完全に動かなくなってしまった。
土方を受け入れた身体の負担もあったが。それ以上に初めて恋人と結ばれた喜びと緊張の連続で
精神的負担の方が大きかった。
そんな銀時の身体を土方は軽く揺する。
「なあ、銀時…」
「………大丈夫だよ。ちょっと、疲れただけ…」
「立てるか?風呂…」
「…眠いから、後にする…」
「そうか」
土方が銀時を抱き締めると、銀時は張り詰めていた糸が切れたように眠りに就いた。
こうして二人の初めての夜は過ぎていった。
(10.10.29)
そういえば土銀でドキドキ初体験って書いたことないなぁと思ったところからできた話です。…それなのに肝心なところをバッサリカットしてすみません。
銀さんが緊張ゆえにぐだぐだしてて、土方さんはヘタレゆえに強引にコトを進めることもできず、というのが延々と続いてしまうので省略しました^^;
例え受けでも、銀さんの方が性に対して積極的なイメージがあるので、そんな銀さんが「初めて」で緊張してたら可愛いなぁと思ったのですが…
私が書くとあまり可愛くありませんね^^; この話は続きを書く予定なので、その時にはエロ描写を入れた18禁話にしたいです!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
追記:続き書きました。18禁です。→★
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