※「銀さん教えてレッスン9」の続きです。

 

 

 

真選組屯所。今日も沖田の部屋には土方に懸想している隊士達―自称・銀土撲滅隊―が集まっていた。
彼らは銀時と土方の仲をいかに邪魔するかについて、常日頃から知恵を出し合っていたのだが、
最近、それがままならなくなってしまった。

「オメーら仕事に戻れ。もう何したって無駄なんだ…ハハッ…」

虚ろな目をして沖田は力なく言う。
銀土撲滅隊の隊長と崇められ、最も土方に執心している沖田は今や戦意を喪失していた。

「そんなことありません隊長!」
「俺達の副長を取り戻しましょう!」
「ンなこと言ったって…近藤さんを味方に付け、泊まりのデートも増えた。旦那にヤられちまうのも
時間の問題だろ…」
「じゃあ、旦那が我慢できなくなって副長を襲ったところで助けに入りましょうよ!」

山崎の案を聞いても沖田はあさっての方向を向いたまま。

「旦那は全て正しいと土方の野郎は思ってるんでィ。」
「で、でも…」
「まあ、やりたきゃオメーらだけでやってくれィ…」
「隊長…」

「総悟、いるか?」
「「「ふっ副長!?」」」

襖の向こうから土方の声が聞こえ、隊士達はどよめく。けれど沖田はそれにすら反応を示さず、
「へーい」と覇気のない返事をした。

「入るぞ。…お前ら、何かあったのか?」
「い、いえ!」
「その…隊長に剣の心得を教えていただこうと思いまして…」
「そ、そうなんです!」
「そうか…。じゃあ総悟、それが一段落したら俺の部屋に来い。」
「別に、今からでもいいです…」

沖田はフラフラと立ち上がった。

「おい、部下を蔑ろにするんじゃねェ。」
「あー!大丈夫です副長。」
「ちょうど終わったところだったんで。」
「そうか?じゃあ…」

土方の後ろに続き副長室へ向かう沖田を、隊士達は心配そうに見詰めていた。

「あれ、相当参ってるな。」
「打たれ弱いのに、今まで頑張ってくれたからな…」
「でもこれからどうすんだ?隊長がいないとキツイぜ?」
「旦那とも副長とも対等に話せるの、隊長だけだもんなー…」
「「「ハァー…」」」

沖田の戦線離脱は、他の隊士達にとっても敗北宣言に等しかった。


*  *  *  *  *


「何の話ですかィ?」

副長室に入った沖田は土方の目を見ずに話す。

「お前…体の調子でも悪いのか?」
「は?」
「最近、元気がねェからな…。まあ、お前はもともと元気過ぎるところもあったが…」
「…別に、何でもありやせん。」
「そんなことはねェだろ?長い付き合いだ、隠したって分かる。」
「…何も分かってねェくせに…」
「総悟?」

膝の上で拳を握り真下を向く沖田に土方はそっと近寄る。

「お、前…」

沖田は大きな瞳に溜まった涙を零さぬよう、必死で耐えていた。
土方は沖田の肩を掴む。

「何があった!?話せ!」
「つっ…」
「総悟!」
「……きなんでさァ。」
「ん?」

瞬きと同時に瞳から溢れた雫が沖田の拳を濡らした。

「好き、なんでさァ…。土方さんのことが…」

堰を切ったかのように沖田は言葉を紡いでいく。

「ずっと…土方さんのことが好きで、旦那とくっ付いたのが嫌で、でも、でもっ…」
「総悟…」
「………」
「…すまない総悟。俺は、お前の望みを叶えてやれそうにない…」

沖田は袖で目元を拭うと、この日初めて土方と正面から向かい合った。

「へっ…可愛い部下の泣き落としにも揺るがねェくらい、旦那のことが好きですか…」
「その、俺は…」
「あーあ…作戦失敗でィ。」

このような形で想いを伝えてしまったのは沖田にとって本意ではなかった。
銀時との仲を裂こうとしても無駄だと悟ってから、土方と関わることすら避けていた。
それが今日、思いがけず二人きりになり諦めかけていた想いが爆発してしまったのだった。
土方に弱みを見せたくなかったし、同情心で二人の仲に不和が生じても嬉しくない。
だから、先程のことはあくまでも演技だということにしたかった。

「作戦?」
「そう。元気がないように見せたのも作戦でさァ。でも、失敗したんでまた次の作戦を考えます。」
「総悟、俺は好きとか付き合うとか…正直言ってまだよく分かってねェんだ。」
「その辺のことは『銀さん』に優しく教えてもらいなせェ。…じゃ、俺はこれで。」
「待て総悟。」

立ち上がろうとした沖田を土方は止める。
失態を演じた自覚のある沖田は、一刻も早くこの場を去りたくてややイラついた様子で言う。

「何ですかィ?」
「お前は、その…俺よりも、こういったことに詳しいと思うから…」
「…それが何か?」
「だから…お前と付き合えなくても、お前のことが嫌いなわけではないってことは分かるよな?」
「………」
「その…お前のことは好きだが、銀さんとは少し違っていて……あっ、でも、お前がさっき言った
『好き』ってのが銀さんと同じだってのは分かってて…だから…」
「…大丈夫です。」
「総悟?」
「よく分かんねェくせに無理して説明しなくても分かってます。ていうか、最初から分かってました。
アンタが俺をどう見てるかなんて。…長い付き合いですからねィ。」
「そ、そうか…」
「それじゃあ、失礼します。」
「ああ…」

「………」

沖田が立ち上がるのを見て、廊下でこっそり様子を伺っていた隊士達は慌ててその場から離れた。
この日から、銀時と土方の交際について話題にするものはいなくなった。
自分達にできることはもう何もないのだと悟ってしまったのである。



銀さん教えて 其の10



「…ってことがあったんだ。」
「へ、へぇ〜…」

数日後、土方は沖田とのやりとりを銀時に話して聞かせた。
いつもならホテルへ入ってすぐ「レッスン」を始めるところであるが、今日は入室するなり土方が
「総悟に好きだと言われた」と言って銀時を驚かせた。
それから二人でソファに腰掛けて、土方は事の次第を最初から説明したのである。

「総悟は『作戦』だって言ってたけど、あれは本当に泣いてたと思う。」
「そ、そうなんだ…。沖田くんが十四郎のことを…ぜ、全然知らなかったなァ。」
「俺も。だからすげェビックリした。」
「だよねー…」

土方に笑顔を見せながらも、銀時は内心で焦っていた。
沖田の想いは当然の如く知っていたが、告白するつもりはないようだったし、今更しても無駄だと
思わせるよう牽制もしてきた。それが、態とでないにしろ、泣きながら想いを伝えるという
かなり効果的と思える方法で告白をした。弟のように可愛がっている部下からそんな風に言われたら…

銀時は迷った挙句、一番聞きたいことを聞くことにした。

「そ、それで…十四郎はこれから、どうするつもり?」

自分が話を振らなければ、このまま今まで通りの付き合いができるかもしれない。
けれど、いつ「総悟が可哀想だから」という理由で別れを切り出されるかとビクビクして過ごすくらいなら
こちらから聞いた方がマシだ。そのような結論に至り、銀時は先の質問をした。
土方は「うーん…」と考えてから口を開く。

「総悟の前では、銀さんの話をしないようにする。」
「…そ、それだけ?」
「他にもやった方がいいことあるのか?」
「あっ、いや…それでいいと思うよ!」

危うく墓穴を掘るところだった。そう思って即座に発言を訂正した銀時であったが、土方はまた
「うーん…」と考え出してしまう。

「…銀さんと会わないようにすれば、総悟にとっていいかもしれない…」
「そそそそれはさァ…」

マズイヤバイ俺のバカ…恐れていた言葉が飛び出し、銀時はパニックに陥る。

「…けど、それは絶対にできねェ。」
「へっ?」

キッパリと言い切った土方に銀時は全く付いていけず、素っ頓狂な声を上げた。

「総悟なら、分かってくれるはずだ。」
「な、何でそう思うの?」
「総悟はな…俺よりも恋愛について詳しいんだ。」
「そ、それで?」

沖田に限らず、土方よりも恋愛事に疎い者などそうはいない。だからといって、それがどうして
「分かってくれる」に繋がるのか銀時にはサッパリ分からなかった。

「詳しいから…好きな人には会いたくなるんだってことも知ってると思う。」
「そ、そうだね。」
「だから、俺が銀さんに会いたいと思うことも分かるはずだ。…そうだろ?」
「う、うん…」
「総悟には悪いと思うけど…だからって銀さんのこと、好きじゃなくなるわけでもねェし、
好きだからこれからも会いたいし…」
「十四郎…」

銀時は土方を抱き寄せた。

「俺も…沖田くんの前では十四郎の話をしないようにするよ。」
「ありがとな。…ていうか銀さん、総悟に俺の話なんかしてたのか?」
「いや、ちょっと世間話的な感じでね…うん。」

ハハッと銀時は誤魔化すように笑った。
土方と話すことで銀時は、自分がいかに心の狭い人間かということを思い知らされていた。
自分は既に恋人という立場にあるというのに、少しデートの邪魔をされたくらいで目くじらを立てて、
その上、自分よりも真選組を優先するのではといらぬ心配までしてしまった。

銀時は更に強く土方を抱き締める。

「…銀さん?」
「十四郎…大好きだよ。」
「俺も。」

土方も銀時の背に腕を回した。

これからは周りのことなど気にせず、土方本人としっかり向き合おうと銀時は決意した。


(11.04.24)


この後はいつも通りいちゃいちゃしたと思いますが、本編が(ウチにしては)シリアス展開だったので今回の「レッスン」はお休みにしました。

今回で銀土に障害はなくなりました。真選組のメンバーはこの後も少し出てくる予定ですが、今までのように邪魔することはないと思われます。

そして…沖田ごめん。沖土サイトで幸せになっておくれ^^; あっ、このシリーズの最後でも元気になる予定です!誰かが辛い思いをしたまま

終わるのは後味悪いんで…。次回は、銀土しか出てこないくらいのいちゃいちゃエロエロな感じで書きたいです^^

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

追記:続きを書きました。18禁です。

 

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