万事屋銀ちゃん事務所。
今日は朝早くから銀時も着替えて仕事の準備をしていた。
依頼者はかぶき町商店街、依頼内容は雪かき。
高齢者の多い商店街では雪かきをするのも困難で、この時季は毎年のように依頼が来ていた。

「いいかお前ら…雪だからってはしゃぐんじゃねェぞ。これは仕事なんだからな。」
「分かってますよ。」
「そんなこと言って銀ちゃん、この前の雪かきで巨大氷いちご作ろうとしてたネ。」
「はぁ!?ちっ違ェよ…。あれはただ、雪を一か所に集めてただけだ。」
「あの後、いちごシロップ買おうとしたけど冬だから売ってなくて、がっかりしてたアル。」
「…雪には空気中のゴミなんかも混ざってるんですから、きれいに見えても食べちゃだめですよ。」
「しっ知ってるしぃ〜。そもそも食べようとか思ったことないしぃ〜…」
「はいはい。…じゃあ行きましょう。」
「定春、行くヨ。」
「あんっ!」

いつものように和気藹々と話をしながら、万事屋一行は商店街へ向かった。


*  *  *  *  *


「きゃっほ〜!!」
「神楽てめっ…遊んでんじゃねーよ!」

店の前よりも屋根の雪下ろしをしてほしいと頼まれ、銀時と新八が屋根の上に上る役になった。
二人が屋根から下ろした雪を神楽がソリに乗せ、定春と共に道の端に運ぶ算段だったのだが、
神楽は自らソリに乗り込み、定春に引かせて遊び始めてしまった。

「ったく、これだからガキは…」
「まあまあ…とりあえず全部下に落としちゃいましょうよ。」

文句を言いながらも手は動いていて、あっという間に屋根の片側がきれいになった。
向こう側に行こうと瓦を上っていると、先に行っていた新八が銀時を呼んだ。

「どうした、新八?」
「あそこにいるの、土方さんじゃないかと思って…」
「本当だ…」

新八の指し示す方向には黒服の集団がおり、その中に土方らしき人物も見て取れた。

「どうしたネ?」

二人が作業を止めたのを訝しみ、神楽も屋根の上に上って来た。

「あそこに土方さんがいるんだ。」
「ふ〜ん…」

神楽は新八に教えられた方向をちらっと見てから銀時の顔を覗き込む。

「な、何だよ…」
「銀ちゃん、恋するオトメみたいな目してるヨ。」
「は、はぁ!?何言ってんの!?ンなわけねーだろ。」
「いやいや…オトメだったアル。ラブラブアルな。」
「そりゃ、俺と十四郎はラブラブだけどよー…」
「上手くいってるみたいで安心しました。」
「でも意外アル。」
「何でだよ…」
「銀ちゃん、受けだったアルな。」
「はあ!?」
「かっ神楽ちゃん!」

恋するオトメ以上に聞き捨てならないことだと、銀時は即座に反論する。

「ふざけんなよ神楽…。この銀さんのどこをどう見たら受けに見えるってんだ!」
「あんな遠くにいるトッシー見て頬っぺた赤くしてる銀ちゃんは、どっからどう見ても受けアル。」
「見たからじゃありませんー。雪かきして体が温まっただけですぅ。」
「そんなことないネ!」
「そんなことありますー。」
「ないアル!」
「あるある!」
「むきーっ!私の語尾を取るんじゃないアル!」
「返してほしくば、銀さんを攻めだと認めなさい!」
「絶対に認めないアル!」
「二人とも…まずは仕事をしましょう!」

銀時と神楽の不毛な争いは、新八の尤もな言葉で終止符が打たれた。


*  *  *  *  *


ったく神楽のヤツ…冗談じゃねーぜ。俺が受けだと?本当、ガキは見る目なくて困るよなァ…。
どう考えたって、俺の方が攻めっぽいだろーが。十四郎は可愛くて敏感で……まあ、神楽はそんなこと
知らねェんだけどさ…。ていうか、俺しか知らねェんだよ。十四郎がベッドの上でどんだけ可愛いか!
ってことは、神楽が勘違いするのも仕方ねェか…。誰だって、鬼の副長が受けだなんて思わねェよな。

…まだ確定じゃないけど。

だ、大丈ー夫!十四郎は絶対受けに向いてるって!自分でするより俺に触られた方がヨさそうだし…
…でも、俺が十四郎にしてもらって感じると、すげぇ嬉しそうなんだよな…。
いやいやいや…これは違うって!自分のされたことをお返ししたいっていう、十四郎の優しさだよ。
俺が十四郎を気持ちよ〜くさせてあげたから、そのお礼的な意味で同じことを…

…あれっ?このままじゃリバになるんじゃね?

そうだよ!十四郎は俺から教わったことをメモしてまで復習して、俺と同じことができるように
なろうとしてんだよ!いかんいかんいかん…危ねェ!ヤる前に気付いて良かった〜!!
こっから先は、役割分担を含めて教えねェとな…。

…でも、十四郎が受けるのを拒んだら?

そしたら互いに触れるトコだけ触って挿入ナシか…。それも覚悟しとかねェとな。
多分、俺が頼んだら譲ってくれると思うけど、十四郎にだけ我慢させるわけにはいかねェよ。
十四郎が何も知らないと判った時、恋人として大事にしなきゃって思った。…今だって思ってる。
だから、ちゃんと説明して、十四郎の意思を尊重しよう!



銀さん教えて レッスン9



「十四郎…今日は大事な話があるんだ。」
「何だ?」

いつものように人目を忍んでラブホテルへやって来た銀時と土方。
ベッドの上に向かい合って座り、銀時が話を切り出した。
いつになく真剣な表情の銀時に、土方も自然と姿勢を正して話を聞く体勢になる。

「今日はね…十四郎に、セックスの仕方を説明しようと思って…」
「えっ!」

交際初日、銀時から何気なく発せられた謎の単語「せっくす」。
これが分かれば銀時と対等な恋人同士になれるはずだと思っていた土方にとって、待望の言葉だった。
期待の籠った瞳に見詰められ、銀時は慌てて付け加える。

「あの…今日は説明だけ、だからね?俺の話を聞いて、十四郎ができそうだと思ったらしよう。」
「俺、銀さんと一緒なら何でもできると思う。」
「それは嬉しいけど…するにしても、色々と準備が必要だから、どっちにしろ今日は説明だけね。」
「…分かった。」
「セックスっていうのはね…」


銀時はできる限り平易な言葉を用いて話すよう努めた。
そもそもは子孫を残すための行為であること、人間にとっては愛情表現の行為でもあること、
男女と男同士のセックスの違い、具体的に何処と何処を繋げるのか等々…
想像を遥かに超えた「せっくす」の真実に、土方は銀時の言葉を聞き洩らさないようにするのがやっとで
驚く暇さえなかった。


「えっと…こんな感じなんだけど、分からなかったトコとかある?」
「………」
「十四郎?」

一度に詰め込み過ぎたか、何か教材的なものがあった方がよかったか、やり方だけ説明すれば
事足りたのではなかったか…黙ってしまった土方を前にして、銀時の脳裏には次々と反省点が浮かぶ。

「あ、あの…」
「銀さん。」
「はいっ!」
「その…せっくすって、誰でもできるもんなのか?」
「十四郎は俺以外としちゃダメ!…俺も十四郎以外とはしないから。」
「あ、そういうことじゃなくて…何つーか、すげェ大変そうだから、本当にできるのかと思って…」
「そういうことなら大丈夫だよ。」
「そっか…良かった。」

拒否反応が出ていないことに銀時は安堵し、いよいよ本題を切り出すことにした。

「それでね?セックスには入れる方と入れられる方があって、さっき説明したように、男同士だと
体の構造が同じだから役割を選べるんだけど…もしヤるとしたら、十四郎はどっちがいい?」
「うーん…」
「実際にするのはもっと先の話だから、第一印象でパッと思った方でいいよ。」

真面目な土方が難しく考えすぎないようにと気遣ったつもりで掛けた言葉だったが、実際のところ、
自分自身に言い聞かせる意味合いもあった。―たった今、セックスを知ったばかりの土方が出す答え
なのだから、自分の望み通りでなくても落胆することはないと―

「できるなら…両方やってみたい。」
「そ、そうなんだ…」

予想通りの答えが返って来たと、銀時は引き攣った笑顔を浮かべる。
「入れられるのは嫌だ」と言われるよりはマシじゃないかと自分を奮い立たせてみたものの、
銀時を尊敬し、その言動全てに注目している土方には、銀時の戸惑いも伝わってしまう。

「あの、銀さん…できるなら、だからな?銀さんは大丈夫って言ってくれたけど、今のところ、俺には
どうすればいいのかサッパリ分からねェし。それに…」
「それに?」
「銀さんは、片方だけがいいんだろ?」
「えっ!十四郎…なんで、それを?」
「初めてラブホに連れて来てくれた時、言ってただろ…。できれば上がいいって。」
「そんなことまで覚えててくれたんだ…」

予備知識の全くなかった土方はできるだけ早く銀時に追い付きたくて、銀時から学んだことは
理解できてもできなくても携帯電話にメモするようにしていた。

「本当…十四郎は勉強熱心で嬉しいな。」
「分かんねェことだらけだから、教わったことは一回で覚えねェと先に進めないし…」
「そんなに気負うことないのに…ありがとね。」
「なんで銀さんが礼を言うんだ?」
「俺のために、頑張ってくれてるからだよ。」
「だって…本当は銀さん、最初の日にセックスしたかったのに、俺が何も知らなかったせいでできなくて…」
「あー…うん。まあ、そうなんだけどね…」

そもそも、交際初日にラブホテルへ連れ込むというのは、一般的に推奨できる行いではないのだと、
銀時は伝えようか迷う。だが、土方は自分との付き合い方だけ知っていればいいという結論に至り
その件は伝えないことに決めた。

「それで…『上』ってのは、入れる方と入れられる方、どっちのことなんだ?」
「えっと…別に、俺の希望に合わせなくても…」
「俺は銀さんとしかセックスしないんだから、銀さんに合わせるのは当然だろ。」
「で、でもさ…俺が十四郎に合わせることもできるし…」

土方に抱かれるなど考えられないことではあったが、だからといって全面的に合わせてもらうのも
申し訳ない気がした。

「俺は、できることが多い方がいいと思って『両方』と言っただけだ。片方しか覚える必要がないなら
片方だけでいい。…銀さん、上ってどっちなんだ?」
「…い、入れる方、デス。」
「じゃあ俺は、入れられる方か…」
「あ、あの…本当にいいの?」
「…やったことないから、分かんねーよ。」
「あ、そうだよね…。じゃあ…『仮』で、十四郎が下ってことにしとくけど、無理だと思ったら
遠慮なく言うんだよ。セックスは我慢してやるもんじゃないからね。」
「分かった。…で、今日は説明だけってことだったが、これからどうすればいいんだ?」
「えっと……ちょっとだけ、入れてみる?」
「…ちょっとって?」
「指、一本だけ、とか…」
「………分かった。」

土方は小声で、しかしハッキリと口を動かして了解の返事をした。


(11.03.03)


前回(レッスン8)、前々回(レッスン7)とエロがあっさり目だったので、今回こそはと頑張りました!その結果、無駄に長くなってしまいましたが

お付き合いいただけたらと思います。前半の銀さんの心情「このままじゃリバになるんじゃね?」、実は管理人の気持ちだったりします(笑)。

途中で謝ってリバに切り替えようと思った時期もありましたが、銀土派の方からの拍手コメに励まされて銀土を貫くことに決めました!

土方さん、いよいよ「受け」のレッスン開始です。18禁になりますので、注意書きに飛びます。