銀さん教えてレッスン5
銀時と土方のお泊りデートから一週間。多忙を極める土方はそう簡単に外泊することなどできず
隊士達も漸く外泊ショックから立ち直りかけていた。しかし、再び彼らを絶望させることが起こった。
「どどどどーゆーことですか、副長!」
副長室に山崎の悲痛な叫びが響き渡る。
「っせェな…特に理由なんかねェよ」
「じゃあ何でですか!?俺、かなり頑張りましたよね?」
「だから、よくやったと言ったじゃねーか」
「何で言うだけなんですか!今まではもっと…」
「それはやめたってさっき言ったじゃねェか…同じこと、何度も言わせんじゃねェ!」
「ぎゃあああ〜!」
褒められに行ったはずの山崎は殴られて副長室を追い出された。
その足で山崎が向かったのは銀土撲滅隊本部―沖田の部屋である。
「大変です、沖田隊長!」
「どうしたんでィ…プッ、何でィそのツラ…。土方さんにやられたのか?
報告に行って殴られるたァどんなヘマやらかしたんでィ」
「違いますよ!隊長と違って俺、仕事はきちんとこなしてますから」
「へぇ…俺からも殴られてェのか?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!違います!すいません!」
拳を握った沖田と距離をとり、山崎はここへ来た理由を説明する。
「今回の報告に行ったら『よくやった』って、それだけだったんです!…いつもなら抱き締めて
くれるのに!だから俺、聞いてみたんですよ。そしたら『それはもうやめた』って……うぅっ…」
山崎は涙ながらに先程の出来事を語った。
「なんでそんな…」
「理由を聞いても『ない』の一点張りなんです」
「…旦那か?」
「そうとしか考えられませんよ!こうやって徐々に俺達と副長の仲を裂いていこうって
魂胆なんです、きっと!命懸けで仕事した結果『よくやった』の一言だけなんて酷すぎる!」
「でもよ…いつ旦那と会ったってんだ?この一週間、土方さんはずっと仕事詰めで…」
「うーん……あっ、そうだ!一昨日の巡回中、旦那と会ったんですよ!」
「…そん時、何か言ってたのかィ?」
「ただ挨拶しただけでした。…旦那も仕事に行くところみたいで新八くん達と一緒でしたし…でも
あの時しかないですよ!きっと、こっそりメモを渡すとか何かして…」
「…行くか」
「えっ…どこへ?」
「心が狭くて独占欲の強いクソ天パ野郎のところに…」
「行きましょう!」
沖田と山崎は鼻息荒くかぶき町へ向かった。
* * * * *
「ひどいじゃないですか、旦那!」
「今度はなに〜?」
ものすごい剣幕で万事屋へ乗り込んできた沖田と山崎を見て、銀時はうんざりだと溜息を吐く。
どうせ二人は土方との仲を邪魔しに来たのだから持て成す必要はないと中には入れず
玄関先の立ち話で済ませることにした。
「おたくら、仕事じゃねェの?」
「その仕事が滞るような事態になったから来たんでさァ」
「は?まさかまだ十四郎の唇狙ってんの?」
「それも諦めたわけじゃありませんがね…それ以前のことです」
「それ以前?」
「恍けたって無駄ですよ!副長が態度を変える原因なんて旦那以外に考えられません!」
「だから何のことだかサッパリ…」
「抱擁がなくなったんでさァ」
「はっ?あの、手柄挙げた部下にするご褒美ってやつ?」
「そう!ギュッとするくらいいいじゃないですか!旦那だって新八くん達によく抱き付かれてるし」
「そうでさァ。仲間同士の絆を深めるのにある程度のスキンシップは必要ですぜィ」
「えっと…十四郎がやらないって言ったんだよな?」
「自分で言わせておいて白々しい!」
「いや、俺…何も言ってないけど?」
「「へっ?」」
二人は目を丸くして銀時を見詰めた。
「…言ってない?何も?」
「うん。あんまいい気がしてなかったのは確かだけど、お前らが言うような理由も少しはあると思うし
それは続けていいって前に言ったことがある」
「マジですかィ?」
「じゃあ何で副長は…」
「さあね…。もしかして、邪な目で見られてんのに気付いて嫌んなったんじゃね?」
「そんなぁ…」
「まっ、そういうわけで俺は関係ないんで、お引き取りくださーい」
「「………」」
「まだ何かあんの?いい加減仕事に戻らないとさァ、上司に怒られるんじゃないの?」
「分かってますよ!」
「今日のところは帰りやす」
「ばいば〜い」
銀時は上辺だけの爽やかな笑みを浮かべて二人を見送った。
そしてすぐに玄関の扉を閉めて事務所の電話機まで走り、愛しい恋人の電話番号をダイヤルする。
『もっもしもし!』
「どうした?」
『ごめんね。急に客が来ちゃって…今終わったからすぐそっちに向かうよ!』
「慌てなくて大丈夫だぞ」
『本当にごめんね!じゃあ、またあとで』
「ああ」
簡潔に用件だけを伝え、再び玄関まで走る。
今日は土方と会う約束をしていた。そろそろ待ち合わせ場所へ行こうかと思っていたところに
沖田と山崎が現れてしまい、何とか早く帰さねばと心の中ではかなり焦っていたのだ。
* * * * *
「ほんとーに、ごめん!」
約束のホテルに着き、土方の顔を見るなり銀時は深く頭を下げた。
「別に気にしてねェって。…俺だって遅れることあるし」
「でも十四郎が遅れる時は仕事だし…」
「銀さんも仕事じゃねェのか?」
「違うよ。客っつっても招かざる客っつーか…」
「…もしかして、家賃の取り立てか?」
「ハハハ…まあ、そんなとこ」
「色々と大変そうだな…」
遅刻に腹を立てていないようで安心した銀時は、先程沖田達が言っていたことの真相を
探ってみることにした。ホテルの部屋に入り、他愛もない日常会話をしつつそれとなく話を切り出す。
「あのさァ…十四郎は頑張った部下達を抱き締めて褒めてるんだよね?」
「…そ、それ…もう、やめたんだ」
ややトーンダウンして、何やら言いにくそうに土方は答える。
「やめたの?何で?」
「銀さんが、嫌なんじゃないかと思って…」
「…どうしてそう思ったの?俺、前に大丈夫って言ったよね?」
「そうだけど…」
消え入りそうな声で呟いて土方は俯いてしまう。銀時は土方を抱き寄せ、肩をさすりながら言った。
「実を言うとね、あまりよくは思ってなかったんだ…」
「本当に?」
「うん。でも、部下を褒めるのだって仕事のうちだし、それくらいは仕方ないとも思ってた」
「そっか…」
「俺の気持ち、何で分かったの?」
「………俺が、嫌だったから」
「部下を褒めるのが嫌だったの?」
「そうじゃなくて…その…銀さんが、他のヤツとしてんの見て…」
「えっ!俺、誰かと抱き合ってた?いつ?」
「抱き合ってたっつーか…この前、巡回中に会った時に…始末屋が、抱き付いてた…」
「…そうだっけ?」
銀時はその時のことを思い出してみるが、土方と会えた嬉しさが優先されて、忍者のストーカーが
纏わり付いていたかどうかまでは覚えていなかった。更に言うと、ストーカーに抱き付かれるのは
不可抗力であって、まさかそのように見られているとは思いもしなかった。
「正直言って、どうでもいいヤツのことなんか覚えてないんだけどさァ…十四郎がそんな風に思って
くれたなんて嬉しいよ」
「嬉しい?何でだ?…俺、すげぇ意地悪なこと言ってる…。始末屋だって、銀さんが好きなのに…」
「意地悪じゃないよ。恋人を独り占めしたいと思うのは当たり前のことなんだよ」
「…そうなのか?」
「友達とか仲間とかと違って、恋人は一人だけでしょ?」
「ああ」
「だから特別扱いしたいし、されたいと思うのは当然。それが仲間に対する『好き』と恋人に対する
『好き』の違い。まあ、実際はそれぞれの生活があるから必ず最優先ってわけにはいかないけどね」
「…銀さんも、そう思ってる?」
「もちろん。だから十四郎の思いが嬉しいんだよ。俺だって、十四郎のトクベツになりたいから」
「もう、なってる…」
銀時の胸にギュッと抱き付く土方を、銀時は優しく抱き締めた。
「ありがとう。大好きだよ、十四郎」
「俺も、大好き」
二人はそのまま、互いの思いを確かめ合うようにきつく抱き合っていた。
(10.10.25)
このシリーズの土方さんは恋愛経験そのものが不足しているので性の知識以外にも学ぶことは多いと思い、今回のような形になりました。付き合い始めの土方さんの
気持ちは恋愛感情というより「憧れ」に近いものだったのかもしれません。交際を続けていくうちに本当の恋愛感情に発展して、それゆえに独占欲が芽生えました。
誰にでも(ご褒美で)キスしてた土方さんからすれば凄い進歩です。次のレッスン6では再び性のレッスンが始まると思います^^
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
追記:続き書きました。全編18禁です。→★
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