※120χネタです。




トリックもトリートも選べない奴の為の話


トリックオアトリートと唱えるだけでお菓子がもらえる、超能力者もびっくりなイベント――ハロウィン。そのハロウィンパーティーを主催しておきながら、拗ねて二時間も閉じこもったバカな男は更にバカな計画を立てていたらしい。

翌日の昼休み、屋上で一人静かに弁当を食べていた僕の元へバカな男――海藤がやって来た。
「よっよう斉木、奇遇だな」
全然奇遇じゃない。お前が僕を探していたことは、昼休み開始直後から分かっている。もっと言えば、何とかして二人きりになれないかと朝から考えていたことも分かっている。だから敢えて誰も来ないこの、雨の日の屋上で過ごしていたというのに。
「ここは濡れないんだな」
僕の力で雨を寄せつけないだけなのだが、塔屋が風避けになっているのだと勝手に解釈して海藤は隣に腰を下ろし、弁当を広げ出した。
仕方ない。僕が食べ終わるまでは話くらい聞いてやるか。……聞かなくても分かっているのだがな。
「昨日は、その……みっともないところを見せてすまなかった。ハロウィンに乗じてダークリユニオンから刺客を刺し向けられてだな……」
昨日に限らず、お前のみっともない姿なんて見飽きている。だからいちいち「嫌われてたらどうしよう」などと考えるのはやめろ。
「本当なんだ!部屋の奥からハロウィンの魔物が出て来て、お菓子をあげたら消えたんだ!」
それは僕だ。というか、嫌いにならないでくれという心の声がうるさくて本来の声が聞き取りにくい。どうしてここまで僕に執着できるんだ?友達なら他にも……ああ、そうだ。コイツは僕のことを友達とは思っていなかった。
(やっぱり、デートできなかったこと怒ってるのかな)
何!?僕が?いつ?デートした?
確かにここのところ週末は大抵海藤と二人で会っていたが、断じてデートなどではない。ただの暇潰し。たまたま何の予定もない時に誘われたから行ってやったまでだ。それにコイツは僕好みのスイーツ店を色々知っているからな。
(斉木は二人だけでハロウィンパーティーしたかったのかな)
違う。
(そうだよな。あんなに早く来てくれたんだもんな。それなのに皆を呼んだから怒って先に帰っちゃったんだ)
違う。目的――お菓子をもらうこと――が達成されたから帰っただけだ。冗談じゃない。

海藤の僕に対する気持ちは知っているが、それに応えた覚えはない。僕はそもそも友達だって作る気はなかったんだ。それなのに次から次にわらわらと群がってきて迷惑している。

その僕がどうしてコイツとデートしたがらなきゃならないんだ。

海藤のことは嫌いじゃない。だがそれだけだ。別にコイツが夢原さんにどれだけフラグを立てようが、窪谷須と下の名前で呼び合おうが好きにすればいい。むしろ、そうして僕以外との交流が深まるのを歓迎している。なのにコイツときたら……
(クリスマスは二人でロマンチックに過ごすから、ハロウィンは皆でわいわいやる方が斉木も喜ぶと思ったんだけど……)
クリスマスを二人で過ごす約束などしていないし、僕はどんな時でも一人でいるのが好きだ。
(トリックオアトリートと言われてもわざとお菓子をあげずイタズラされるのを待つ、そんなハロウィンを斉木は期待して……)
ふざけるな。そんなバカップルにお約束なハロウィンを僕が願うはずないだろ。これだから中二病は。
(どんなイタズラをされたかったんだろう)
イタズラなんかされたくない。
(抱きしめる、とか?まっまさかキキキキキ……)
いい加減にしろ。
僕は空になった弁当箱を閉じて立ち上がった。
「さっ斉木!」
海藤も慌てて立ち上がり僕の学ランの裾を引く。
「トトトトリートオアトリート!」
うん。「オア」の意味がないぞ。塾で勉強し直せ。
「あ、あの……」
必死過ぎて自分の間違いに気付いていない海藤が憐れに思えて、僕はポケットに入っていた飴玉を渡してやった。
この飴は昨日、海藤が散蒔いたものの一つだ。持ち主に返すだけだから惜しくはない。
「ええっ!?お菓子、くれるのか……」
飴玉一個とはいえこの僕からお菓子をもらったんだぞ。何を残念がっているんだ。
「あ、これ昨日あげた飴じゃないか。返すよ」
その代わりイタズラさせろとでも言うつもりか?その手には乗ら……
「パ……父さんが出張先で見付けたコーヒーゼリー味の飴なんだ」
それを早く言え。
僕は包みを解いて飴玉を口に放り込んだ。甘さの中にほのかな苦み、時折感じる濃厚なクリーム。あのぷるんとした食感がないだけで、これはまさしくコーヒーゼリーの味わい。
「美味いか?」
はっ、マズイ!いや、飴は美味いがこの状況はマズイ。
お菓子がなくなった今、僕はイタズラされてしまう。それどころか、まるで僕がイタズラに誘ったみたいではないか。
(もう怒ってないかな?機嫌直してくれたかな?)
最初から怒ってもいないし機嫌も悪くない。だから、次の休みに二人だけでハロウィンパーティーをやり直そうなどと考えるな。何で当たり前のように次の休みも僕と会う気でいるんだ。
「さ、斉木……?」
それなら今ここで、トリックオアトリートだ。そうすればパーティーのやり直しなどというバカげた考えを改めるだろう。
トリックオアトリート――僕は海藤と向かい合い近付いていく。
「いっ今はお菓子を持ってなくて……だが、次の休みには用意しておくから二人でハロっ!?」
二人の距離をゼロにして、僕はコーヒーゼリー味の飴を海藤にくれてやった。
辛うじて飴を口内に留めつつ口を半開きにしたまま固まる海藤。これではトリック「アンド」トリートだな。
僕も勉強し直さなきゃならないらしい。

次の休み、お前の部屋で勉強するからコーヒーゼリーを用意しておけ。


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