デートしてくだΨ
僕の名は斉木楠雄、超能力者である。そのことを知られぬよう人との関わりを極力避け、目立たないように暮らしてきた。だがしかし、高校に入ってからというもの、一部の同級生が僕と頻繁に関わるようになってしまった。悪い連中ではないのだが勝手に懐かれて迷惑している。 ……などということは、ここを読む人なら既に知っているはずだ。超能力者の僕には分かる。
本題に入ろう。
今、僕が特に困っているのは同じクラスの海藤瞬だ。中二病を拗らせて友達のいない海藤は一人でいる僕を同類と勘違いして……などということも既に知っていると分かっている。 ともかく、僕と友達になりたいと思うのは海藤の自由なので放っておいた。もう友達になった気でいるのも自由なので放っておいた。だが最近のヤツの思考は放っておけないレベルに達している。 「さっ斉木……今週の日曜、空いてるか?(頑張れ俺!大丈夫!斉木とはもう親友同士と言っても過言ではない関係だ!)」 ……過言だ。 昼休み、燃堂が購買へ行った隙を突いて海藤が話し掛けてきた。僕を映画に誘おうとしているのは一ヶ月前から知っている。 「映画に行かないか?」 ほらな。だが僕と映画館の相性は最悪なんだ。行くわけがないだろ。しかも、 「たったまたまチケットが二枚手に入って……(本当は自分で買ったんだけど、そんなこと言ったらこれがデートだってバレかねない。斉木に想いを伝えるのはまだ早い)」 僕がどうして困っているか、お分かりいただけだだろうか。親友だと思うのは過言だがまあ許そう。だがデートはダメだ。内臓レベルまで透視したって男と女の違いくらい分かるぞ。 女子にだって好かれたくないのに、男に好かれたとなれば完全に悪目立ちするじゃないか。修学旅行で夢原さんにフラグを立ててやったんだからそっちに行け。 「映画は嫌いか?なら買い物に行かないか?(この前、斉木のに似たヘアピン売ってる店見付けたんだよなー)」 何処のジャンプショップだ?まさかそんなグッズまで?……いやいや、行かないぞ。そもそもこれはファッションで付けてるわけではない。お前のネックレスと一緒にするな。 (あーあ、ショッピングもダメか……) 海藤は肩を落としているが仕方ない。僕は目立ちたくないから告白もされたくない。そのためには関係が深まったなどと誤解されないようにしなくては。純粋に友達としてならたまに出掛けるくらいしてやってもよかったが、その「先」へは別の人と行ってくれ。 (新しいヘアピン買ってあげて、そのあと有名パティシエプロデュースのスイーツ付きランチを食べに行こうと思ってたのに……) ……純粋に友達としてならたまに出掛けるくらいしてやってもいいか。 「行ってくれるのか!?(わーいわーい!)じゃあ(バンザーイ!)駅前に(よっしゃー!)十(やったー!)時に(ひゃっほー!)待ち合わせな?」 心の声がうるさくて全く分からなかったのだが……ああ、十時に駅前か。 一通り浮かれ終わると海藤は「日曜駅前十時、日曜駅前十時……」と心の中で唱えはじめた。そこまでしなくても覚えられるだろ。というか僕と出掛けられるんだから、忘れたくても忘れられないだろ。 ……照橋さんの気持ちがちょっと分かったな。 「日曜は面白いものを見せてやるぜ。待っていろ斉木(九時……いや、念のため八時に着くようにしよう)」 どう考えても待つのはお前だな。僕は瞬間移動で行けるから十時まで家で寛がせてもらおう。
待てよ……待ち合わせ場所に直接瞬間移動したら人目につくな。人がいない所を千里眼で探す時間も入れると寛ぐのは九時半までか……。いや、家にいると父さんに模様替えを手伝ってくれとか頼まれるかもしれないから九時には出ておくか……。そういえば日曜の朝八時からは改造人間サイダーマン二号のテレビ放送だな。それを見た遊太が僕に会いに来たら面倒だからその前に……
別に、用事ができたら海藤を待たせておけばいいのだが、出掛ける前に疲れることはしたくないからな。……何故か画面の向こうから「ツンデレ萌え」という心の声が聞こえるが、僕のことじゃないよな? 僕は海藤のことなんか何とも思ってないからな。
* * * * *
日曜日。 朝八時過ぎに僕は待ち合わせ場所に着いてしまった。……正確に言うと、待ち合わせ場所が見える場所に着いた。海藤はまだ来ていない。アイツ、八時に来ると言ったじゃないか(心の中で)。僕を待たせるとはいい度胸だな。千里眼で居場所を突き止めてやろう。
(うーん、大丈夫かなー……) なんだ……駅のトイレにいるじゃないか。たまたま用を足しに離れた時に僕が来ただけか。 で、コイツは洗面台の前で何を悩んでるんだ。 (やっぱ前髪切りすぎたかなー……) 知るか。お前の前髪は片目が隠れていたりいなかったりと元々定まっていない。そもそもこの話に絵はないから、お前が昨日、いつも行く所ではなく有名美容室でわざわざカットしてもらったことなんて、黙っていれば読者に気付かれることはないぞ。 なのに海藤はまだトイレの鏡を見ながら髪をいじっている。 (まだ時間はあるし、もう少しここでセットしていこう) ふざけるな!僕がもう来てるにもかかわらず誘ったお前が遅れるだと?テレパシーで僕の到着を知らせてやる! (斉木……来てる……) (えっ?何だ今の……斉木が、来てる?) 虫の知らせを装えば、まさかそんなでも一応……と海藤がトイレから出て来た。なので僕も待ち合わせ場所に向かう。 「さっ斉木!?早いな!」
あ……
現在八時半を回ったところ。マズイ。これでは僕が楽しみにしていたみたいじゃないか。 (もしかして斉木も俺と同じで逸る気持ちを抑え切れずに?) いや、全く逸ってない。僕がここにいる訳を何か考えなくては…… そうだ。母さんに買い物を頼まれたとでも言えばいい。そしたら一度家に戻れる。フッ……海藤、お前はあと一時間半ここで待っていろ。 「そ、そうか。日曜の朝から大変だな(斉木が俺なんかのために早く来るわけないか)」 分かってるじゃないか。 (やっぱり俺と斉木は親友にも程遠い……ただの友達……いや、何度か話したことがあるだけの知り合いにすぎないんだ) そこまで卑屈にならなくてもいいんじゃないか? 仕方がないので、頼まれてた物は売り切れてたから買い物は終わったと言ってやった。 「そそっそれなら少し早いがデー……かけるか?」 デートって言おうとしたな。浮かれ過ぎだバカめ。僕はまだお前と付き合う気などない。
まだ?
まだって何だ。僕は未来永劫コイツと付き合うつもりなんかないぞ。だいたい、人など所詮骨と肉の塊だ。海藤だって僕の目で見れば通行人Aと違いは…… 「おっふ!」 「む?どうかしたか?」 海藤の服が透けた途端おふってしまった。この僕が……恐るべき漆黒の翼!
この日はなるべく海藤を見ないようにして買い物と食事を済ませた。全然楽しくなかった。デザートのスイーツは美味しかったが一人で食べた方がより美味しかったに違いない。……僕の小遣いでは何度も食べられないランチコースだったが。 とにかく二人で出掛けただけでデート気分になられて迷惑している。海藤とは金輪際……暫くは……少しの間……二人きりで会わないからな。
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