皆さんは天の国を知っていますか?
雲の上にあるとされ、「理想郷」「楽園」などと謳われる天の国。今日は、そんな天の国で暮らす
天使達のお話です。
ひむつひせん〜天使の日常〜
「あ〜退屈……」
雲のベッドに寝そべり暇を持て余しているのは天使の銀時。ワンショルダーの丈の短い白い衣を
纏った彼は銀髪天然パーマがトレードマークの、珍しく労働が嫌いな天使です。
天使の仕事とは、人間達を幸せにすること。
そこに対価などありません。ここでは衣食住全てが神様より与えられます。世のため人のために
活動することを至上の喜びと感じる天使達にとって、働くことそのものが生きがいなのです。
ですから銀時の考え方は天使として異質な、つまり非常に「人間的」とも言えるものでしょう。
「退屈なら働けよ」
「えーっ……」
銀時の前に現れたのは同じく天使の十四郎。こちらはノースリーブで銀時よりも長い、膝丈の衣を
身に着けています。銀時と十四郎は天使学校の同級生で、こうして一人前になった後もしばしば
行動を共にしているのです。
銀時の怠け癖が心配でならない十四郎の、小言は続きます。
「中級試験受けてないの、同期でお前だけだぞ?」
「俺、受験資格ねーから」
より高位の天使となる試験、受けるには多くの人間を幸せにする必要があります。先に述べた通り
天使は働くことが好きですから、ある程度の期間を経れば、自然に受験資格を得られるのです。
銀時のような変わり者を除いて。
十四郎はもう何年も前に中級天使となり、更に言えば上級試験の受験資格だって獲得済みです。
「今から人間界に行くぞ、銀時」
「俺が行かなくたって優秀な天使達が人間を幸せにしてんだろ」
「人間の数が多くて手が足りねぇんだ」
人間は億単位で存在しますが天使の数は千程度。天使は人間の何十倍も長生きはするものの、
神様からしか生み出されないのでそうそう数が増えないのです。
銀時は言います。
「人間みたいに男と女作ればどんどん増えるのにな」
「性差や血の繋がりを理由に争う人間達もいる。きっと神様はそれを憂慮されたんだ」
天使に性別はありません。銀時と十四郎も人間の男性に近い姿形をしていますが男でも女でも
ないのです。
でもなァ……銀時はごろりと俯せに転がって、顔だけ十四郎へ向けました。
「子ども作る時の人間、すげぇ気持ち良さそうじゃねーか。やってみてェなー……」
「体の作りが違うから無理だぞ」
「そうだけどさァ……」
性別のない天使には生殖器官もありません。ですから、自分にできないことができる人間を
銀時は羨ましいとさえ思っていました。そして人間に憧れる理由はもう一つあります。
「あと、パフェってのを食べてみたい!」
「だから体の作りが……」
「分かってる!でも美味そうなんだもん!」
天使の主食は雲なのです。銀時の寝ているベッド用の雲とは多少異なりますが、雲は雲。
人間の食べ物のように鮮やかな色もなければ芳しい香りもありません。
そんな魅力的な世界で暮らす人間達はとても生き生きとして見え、天使の助けなど要らないように
銀時は思えてならないのです。
尤も、一番は動くのが面倒臭いだけなのですけれど。
説得は無駄だと銀時の腕を引き、十四郎は強引に立ち上がらせました。
「とにかく行くぞ!」
「はいはーい……」
取られた腕を十四郎のそれと組んで、銀時は久しぶりに人間界へ降りていきます。
「行ったな」
「行きましたね」
現れたのは十四郎達の様子を伺っていた上級天使の勲と総悟です。彼らと十四郎は中級試験で
出会い、共に切磋琢磨していましたが、何かと理由を付けて上級試験を受けたがらない十四郎を
問い詰めたことがありました。
――銀時と離れたくないんだ。
上級天使ともなれば後輩の育成など、人間を幸福にする以外の仕事も任せられます。そうなれば
居住地も新たな仕事に見合った場所を提供されることになるのです。そこが今の家から遠く離れて
いたら、今のように毎日銀時と会うことはできなくなります。
怠け者の天使――銀時はあまり良くない意味で有名でしたから、同級生だという彼を自分の手で
導きたいのだと、その時の勲と総悟は理解しました。
しかし、それから幾度も彼らのやりとりを見守ってきて、最初の見解が誤りだったと感じるように
なったのです。勲は言います。
「トシと銀時は、恋人同士のようだなァ」
「夫婦の方がいいと思いませんか?」
会う機会の多い天使同士は自然と仲良くなりますが、彼らには同窓生という以上の固い絆が見て
とれました。
天の国の住人達は全てに愛を与える存在です。裏を返せばそれは特定の誰かと愛し合うことは
ないということ。にもかかわらず十四郎と銀時は、まるでカップルのように見えるのです。
当人達にその気はありませんが、周りからはそう思われていました。
そんな仲睦まじい彼らは今、人間界の「江戸」という町におりました。十四郎に促されて銀時が
杖を振れば、髷を結った男性の上にキラキラと星が降り注ぎます。これで彼には幸せなことが
起こるでしょう。
この煌めきも天使の姿ももちろん人間には見えません。
「十四郎は仕事しねぇの?」
「するに決まってんだろ」
十四郎が杖を振れば、半径十メートル圏内が輝きに包まれました。己との違いに銀時は驚きます。
「いつの間にそんな技を……」
「中級に受かればお前も使えるようになるぞ」
「マジでか!」
「少しはやる気出たか?」
「まあな」
気分も新たに銀時は道行く人々皆に杖を振り、幸せを齎していきました。もう大丈夫だと十四郎は
銀時から離れます。他の人達を幸せにするために。
そうして暫く別行動していましたが、銀時が面白いものを見付けて十四郎を呼び寄せました。
「十四郎〜!」
「どうした?」
「凄い人間発見!」
「は?」
まあ見てみろよと案内された先は何処かの宿の二階。刀を磨く黒衣の男を銀時は指差し示します。
「コイツ、十四郎そっくり!」
「……そうだな」
特に表情の変わらない十四郎。銀時にとっては面白くない反応です。
「知ってたの?」
「ああ」
銀時よりも沢山この世界に来ている十四郎は、既に出会っていても不思議はありませんが……
つまんねぇのと拗ねる銀時へ、十四郎はとっておきの情報を教えてあげることにしました。
「お前に似てる人間も、この近くに住んでるぞ」
「えぇっ!何処!?」
「こっちだ」
「あ、ちょっと待って」
カッコイイからサービス――銀時は目の前の人間に向け、杖を数回振ってから外へ飛び立ちました。
「ここ?」
「ああ。家は別にあるが今はここにいる」
十四郎に連れられて銀時がやって来たのはイケダヤという名のホテルです。壁をすり抜け、銀時は
見付けました。髪の色まで自分とそっくりな人間を。しかも彼は「銀時」と呼ばれているでは
ありませんか。天使の銀時は驚かずにいられません。
ちなみに、先の十四郎そっくりの男性の名は土方十四郎といいます。
「コイツも銀時……?」
「坂田銀時というらしい」
「そうなんだー……」
十四郎は一ヶ月くらい前に坂田銀時を発見し、以来、こちらへ来るたびに彼とその周辺で杖を
振るっていました。特定の人間に肩入れするのはあまり良くないことだと分かっていますが、
その容姿から、どうしても気になってしまうのです。
「十四郎っぽい人間とは知り合い?」
「多分違うんじゃねぇかな」
ふうんと抑揚のない返事をしながらも銀時の瞳は煌めいていました。
「よしっ、コイツとアイツを結婚させよう!」
「はあぁぁぁ!?」
「先ずは運命の出会いだな……ちょっと行ってくる」
「待て待て待て!」
先程の場所へ飛んで行こうとする銀時の腰へ縋り付き、十四郎は引き止めました。二人は男同士。
この国では結婚できないのだと。
「何それ!これだから人間の作った法律は……」
「だいたい、何で結婚させたいんだよ」
「俺達に似てるから」
「は?」
「この顔とあの顔は深〜く愛し合えるはずだ」
皆を愛せない代わりに特別な存在を作れること、これも人間の良い所だと銀時は断言しました。
そして、自分そっくりな人間が十四郎そっくりな人間と特別な関係になれたら嬉しいのだとも。
争いの絶えない人間同士ですがこの二人なら大丈夫だと銀時は力説します。十四郎もそれに賭けて
みたくなりました。
「とりあえず会わせてみるか」
「俺、人間の十四郎を呼んで来るから十四郎はソイツを見張ってて」
「ああ」
今度こそ銀時は飛んで行きました。
「呼んで来る」といっても天使の姿は人間には見えません。けれど強い気持ちで語り掛ければ声を
届けることができるのです。人間はそれを「閃き」や「お告げ」などと呼んでいます。
銀時の思いは見事に伝わり、件の男はホテルイケダヤに向かいました。
ただ一つ予想外だったのは大勢の部下を引き連れていること。物々しい雰囲気は銀時が「運命の
出会い」をやめさせたくなるほどです。しかし人間達は止まりません。
御用改めである――襖を破壊する勢いで坂田銀時のいる部屋に乗り込んだ土方十四郎と部下達。
逃げながらも応戦する坂田銀時の仲間達。
そして遂に土方の刀が坂田を捉えました。
「ぎゃあああああ!」
銀時の叫び声は勿論彼らには届きません。瞳孔が開いているだの、死んだ魚の目だのと言い合う
二人を銀時は何とか宥めようとしますが、「天使の囁き」に耳を貸せる状況ではないようです。
更に別の場所からバズーカが放たれました。
「ひいぃぃぃぃぃ!」
実害はないものの銀時の体を砲弾が貫きます。坂田と土方は「幸運にも」怪我など負っていない
ようですが、銀時の描く関係からはどんどん遠ざかっていきます。
「もう行くぞ」
争う二人に涙を流す銀時を見て、十四郎は天の国に帰ることを決めました。
「十四郎、でも……」
「今、俺達にできることはない。落ち着いたらまた来よう」
銀時と十四郎だから大丈夫なんだろ――そう慰められて銀時は帰っていきました。
「俺、キューピッド目指そうかな……」
帰りしな、銀時はこんなことを言いました。人間に愛を、特に恋慕の情を、与える天使になりたいと。
「お前にゃ向いてるかもな。ただ、中級試験よりも難しいらしいぞ?」
「うん。でも頑張ってみるよ」
「応援してる」
「ありがと」
銀時と十四郎は手を取り合って天の国へ戻りました。
人間界の二人が結ばれるのはもう少し先のこと。それは愛の天使の力でしょうか、それとも――
何はともあれ、天使達は今日も人間達に幸せを振り撒いてくれるのです。
おしまい
(14.02.08)
161000hitキリリクより「パラレルもので、無自覚(?)にいちゃいちゃする土銀土」でした。幼馴染系がお好きとのことでこんな感じになりましたが、
普通に学パロとか希望でしたらすみません^^; 折角のパラレルリクだったので、公式パラレル(3Zとかホストとか)からも離れてみました。
天使の話は大分前に書きましたが、今回はそれともまた違った設定で。「無自覚」をどうするか考えて、恋愛感情のない世界にしてしまいました。
リクエスト下さった神ノ様、このようなものでよろしければ神ノ様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。もしもサイトをお持ちで「載せてやってもいいよ」という時は
拍手からでも掲載先をお知らせください。飛んでいきます!
それでは、ここまでお読み下さった全ての皆様ありがとうございました。
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