いちむまん〜溜息の告白〜
繁華街から少し離れた川縁に開かれたおでんの屋台。土方十四郎は溜息とともに冷酒を呷る。
「何かあったのかい?」
「コイツの悩みなんざ仕事関係に決まってんだろ」
店主の問いに答えたのは坂田銀時。土方の数少ない――唯一とも言える――真選組以外の飲み仲間
である。今、この屋台に二人のほか客はいない。
「また物騒な事件が起こるのか?あーやだやだ……親父、はんぺんと竹輪。コイツにもね」
「はいよ」
思考の似ている二人。ふらりと飲みに出掛けて偶然出会すなんてこともしばしば。その度に食って
かかって喧嘩して、店主に怒鳴られ店を追い出されて……いつしか隣で飲むのに慣れれば思考の
似ている二人、よき理解者となっていったのだ。
今宵、おでんで一杯やろうと誘ったのは銀時である。
当たり前のように竹輪を口に運びつつも土方の溜息は止まらない。連れがこんな状態では折角の
おでんも不味くなるというもの。
「マジで事件か?結構ヤバイ?」
「いや、総悟だ」
「……また嫌がらせ?」
「まあ、そんなところだ」
「いつもいつも大変だねぇ……」
具体的な内容にまで踏み込まれなかったことにホッとして、しかし次の瞬間、事態は何も好転して
いないのだとまた溜息を吐いて酒を呷る。
「総悟のヤロー!」
空にしたグラスをどんと置けば、店主に代わり銀時が一升瓶から酒を注いだ。
「よしっ、今日はパーっといこうぜ!」
「いってやる……いってやるぞコノヤロー!」
「よっ、土方くん男前っ!」
瞬く間にグラスを再び空にすれば、銀時がまたそこを酒で満たす。三杯目もすぐ飲み干して、
けれど四杯目に入る前、銀時は店主に注文をした。
「大根としらたきと、ウインナー巻きちょうだい」
「はいよ」
「ウインナー巻きって……ガキか」
笑いながら自分は何にしようかと鍋を覗き込む土方。空のグラスは銀時の横に置かれたまま。
上手く気を逸らせたと銀時は一先ずグラスを回収した。
土方はさして酒に強くはない。勢いに乗って四杯目もあの調子で飲めば悪酔いしかねない。
ここからペースを落としてやらないと……自分も同じようなものだから分かるのだ。
「お前ね、ウインナー巻きナメんなよ?おでんなのに肉、それがウインナー巻きの魅力よ」
「肉が食いたきゃ牛すじがあるだろ。あっ、俺、牛すじと玉子と大根で」
「はいよ」
「俺は牛より豚派なんですー」
「高くて食えねェんだろ?素直になれば牛すじ奢ってやるぞ?」
「人様の納めた税金で食ってる分際で偉そうに……」
「テメーが納めた税金なんざ、ウチの雑用係一日分にもならねェよ」
「お前、銀さんの納税額知ってんの?実は高額納税者よ?」
「ならケイタイくらい持て」
「電話なんざ一家に一台で充分なんだよ。今日だってちゃーんとお前に連絡できただろ?」
「俺が連絡つかねェんだよ。いっつも留守にしやがって……」
「頑張って働いてんの」
だからケイタイと堂々巡りの会話は弾み、いつの間にか土方の溜息はなくなっていた。
* * * * *
「土方くん、次はカラオケ行かねぇ?」
「あ?」
おでんで一杯を終えてネオン街を歩く二人。まだ帰るには早いと二軒目の相談。
「お前、歌なんか歌えんのかよ」
「歌えますー。チョッコレイト〜、チョットコレイト〜、チョコレイトーはァ〜……」
「その歌、カラオケに入ってないだろ」
口ずさんだのは某菓子メーカーのCMソング。その後も出てくるのはCMソングや印象的なサビの
一部のみ。「ロクに歌えねーじゃねェか」「じゃあお前はどうなんだ」……他愛もない言葉の
応酬をしつつ、カラオケ店を通り過ぎていった。
「あ……」
「どうした?」
何もない袋小路の手前でいきなり土方は立ち止まる。今日、銀時と会ってからずっと頭を悩ませて
いた溜息の原因を思い出してしまったのだ。不本意なことこの上ないがやるしかない。何もせずに
帰ることはできないのだから。
煙草を携帯灰皿へ放り込み、土方は決意を固めた。
「ちょっと来い」
「は?」
銀時の右腕を引いて薄暗い路地に連れ込む。突然のことによろけた銀時の両肩を掴み、正面から
視線を交わらせた。
「好きだ」
「……はい?」
「お前に惚れてる」
「えっと……」
「愛してる」
「お、おう……」
こうもド真ん中ストレートで来られるとこっちが恥ずかしいではないか……思わず目を逸らした
銀時に土方はバッと抱き付いた。
「ちょっ……」
「好きだ万事屋」
「あ、あのね……」
未だ頭の整理が付かず、狼狽するばかりの銀時をぎゅうぎゅうと抱き締め好きだと繰り返す土方。
その重みに圧され後退っていく銀時。その背に回る土方の腕が壁に当たり漸く止まった。
肘から下をパタパタ揺らしつつ銀時は愛の告白を聞き続ける。体が熱い――おでん効果は十歩で
切れて、夜風に芯から冷えていたはずなのに。これがコイツの温もりか……
空中で手を結んで開いてまた結んでまた開いて、銀時はそっと土方の腰の左右に手の平を乗せた。
「あー……銀さんもー、土方くんのことー、いいなって思ってました」
「ほ、本当か!?」
「おう。なので、その……二軒目はカラオケやめてホテルにしませんか?」
「プッ……いきなりかよ」
「嫌ならいいですー」
抱き合った姿勢のまま「恋人達の」会話は流れていく。
「嫌なわけあるか」
「ならもう今夜は寝かさねーからな」
「それはこっちの台詞だ」
「いいや、銀さんの方が確実に寝かせませんー」
「小さく前へならえから動けねぇような野郎にゃ無理だな」
「あ?」
未だ軽く添えられるだけの手を揶揄されて、銀時は拳を握り、思い切り土方の腰へ押し付けた。
痛がりながらも土方の腕は銀時に巻き付いて離れることはなく、銀時の手も「小さく前へならえ」
から動くことはない。
いつものようにどうでもいいことで争う二人。その距離はいつもよりずっと近付いていた。
* * * * *
数時間前、土方は屯所を出る際、沖田に呼び止められた。
「今日も旦那ですかィ?」
「ああ」
「もう随分と長いですよね……『友達』付き合いが」
「ほっとけ」
「虚しくないんですか?惚れた相手と友達ごっこなんて」
「うるせぇよ」
「俺が代わりに言ってやりましょうか?」
「ふざけんな」
「俺は本気ですぜ。タイムリミットは今日」
「あ?」
「土方さんが今日中に告白しないなら、明日、俺が旦那に土方さんの気持ちを伝えます」
「てめっ……」
「いい部下を持って幸せですねィ。あっ、お礼なら厠の掃除当番交代でいいですよ」
「誰がやるか!」
こうして土方は最悪の事態を阻止するため、自らの秘めた思いを吐露することに決めたのだった。
(14.02.02)
16万打リクエストより、原作設定で「表面上は(あくまでも表面上は)男前に押して押して押しまくって口説く土方さん」でした。
どんな「表面上」にしようか迷った挙句、沖田に脅されてということになりました^^ 前半で、銀さんの「パーっといこうぜ」に対しての「いってやる」は
「言ってやる」だったりします。リクエストは「お互いがそれぞれ、なんだかんだ言いつつ相手を好きだなぁと思うお話」とも書かれていましたが、
この辺りは私の書く物に共通しているところですね。「根底はリバ」との希望でしたので、きっとあの後ホテルで二人はリバると思います*^^*
リクエスト下さったビバリバ様、いつもありがとうございます!こんなものでよければビバリバ様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。もしもサイトをお持ちで
「載せてやってもいいよ」と言う時は拍手からでも掲載先をお知らせください。飛んでいきます!
それでは、ここまでお読み下さった全ての皆様、ありがとうございました!