後編


捕物は見事に成功。伝説の威を借りるような輩に大した力はなく、アジトは制圧、党首を含む
その場にいた者達は全て逮捕。党員名簿も押収し、残党もまもなく捕縛されるだろう。
そして銀子と十四子は今、女物の服を着て万事屋に向かっていた。
銀子は以前も着たノースリーブの白い着物。十四子は黒地に牡丹をあしらった着物姿。
性転換ウイルスの効き目が切れるまでの数日間、休みを取らされてしまい十四子は不満げな様子。

「ったく、何で休まなきゃなんねーんだ」
「まあまあ、ずっと働き詰めだったんだからいいじゃない」
「他のヤツらも同じだ。なのに俺が最初に……」
「上司が休まないと部下は遠慮して休めないものよ。だから私だって敢えてグータラしてるの」

お前はただ怠けてるだけだと思ったがツッコむのも面倒で、十四子は舌打ちで会話を打ち切った。


*  *  *  *  *


「ただいまー」
「銀さん遅かったですね」
「マヨラーとしっぽりいけたアルか?」

万事屋の玄関。出迎えに来た新八と神楽は女性二人を見て足を止めた。

「えっと……銀さん、ですよね?」
「そうよ~。で、こっちは土方十四子。私達、同棲することになったから」
「戻るまで世話になるだけだ」
「痛っ!」

銀子の肩を後ろから叩き、十四子は事情を説明すると言って居間へ入っていく。神楽はその後を
追い、新八は茶を入れようと台所へ向かった。



「……話は分かりました」

いきさつを聞き新八も神楽も十四子がここで生活することを快諾。十四子はもう一度頭を下げた。

「すまんな。コイツまで巻き込んじまって」
「気にしないで下さい」
「元はといえば不法侵入した銀ちゃんが悪いネ」
「お前らなァ……」

十四子のことは災難だったと同情を見せるのに、銀子には自業自得と厳しい二人。終いには、
よからぬことを考えて沖田と共謀した疑いまでかけられた。

「ンなわけねーだろ!俺だって女になってんだ。被害者だぞ!」
「銀ちゃんならマンネリ解消にユリプレイとか言いそうネ」
「そういや痩せ薬はテメーが言い出したんだったな……」
「まさか銀さん……」
「違う!」

恋人が綺麗になるのを望むのは当然だと反論すれば、体型で美醜を決め付けるのは失礼だと新八。
神楽も同意する。

「けっけど実際、今の方が綺麗だろ?銀子さんといい勝負だろ?」
「マヨ子の圧勝アル」
「ますます不釣り合いに見えますよ」
「ふんっ!何とでも言いなさい!私と十四子はラブラブなんだからっ!」
「やめろ」

目を閉じ、唇を突き出して迫る銀子を十四子が拒む。
新八と神楽もそれに加勢し、自分の家にもかかわらず立場のない銀子であった。

それでもめげずに厠の所作を教えてやるだの風呂の入り方を教えてやるだのと銀子の猛攻は続き、
だがそれは悉く撃墜されてしまう。
そして遂に就寝時間。銀子は最後の手段に打って出た。

「お願いしますぅぅぅぅぅぅぅ!!」

洞爺湖仙人直伝の最終奥義・DOGEZA。

「エッチなことはしないんで、せめて、せめて同じ部屋で寝て下さいぃぃぃぃぃ!!」

自身の寝室に布団を二組敷いてその前で頭を下げる銀子。その前に立つ十四子は、洗い髪の水分を
バスタオルで拭いつつ息を吐いた。こんな下らないことで一所懸命になる理由が分からない。

「どうせ適当な理由付けてヤるつもりだろ」
「そんなことない!ほら、布団もちゃんと二つあるから!」
「……何でそこまでして一緒に寝たいんだ?」
「恋人と近くにいたいのは当然でしょ!?なに?十四子は私と一緒にいたくないの!?」
「いや、そんなことは……」

お前はヤること優先なのかと思ってと本音を漏らせば、心外だと銀子。

「好きな人とは、そりゃあヤりたいと思うけど……今はお互い普通の状態じゃないんだから
仕方ないでしょ。でもヤれなくたって、そばにいることはできるじゃない」
「万事屋……」

差し出された手を取って十四子も腰を下ろす。そのまま二人の唇が重なった。

「今日はここまで。戻ったらいっぱいシましょ?」
「ああ、そうだな」

離れていく唇に寂しさを感じた十四子であったが、確かにこれ以上は無理だとも思う。
細い腕に柔らかな感触――常と違い過ぎる体はまるで、別人のそれのようだった。



こうして十四子の万事屋生活が二日過ぎ、三日目の早朝。まだ日が昇らぬ時刻に銀子は自身の
体に違和感を覚えて目を覚ました。急に体が重くなったような、けれど逆に軽くなったような
そんな不思議な感覚。起き上がるとすぐにその正体が判明。

「戻った……」

寝巻の上から体を触って実感。平らな胸、股の間にぶら下がる「銀四郎」……銀時は慌てて隣の
布団を確認した。すやすやと眠る姿は十四子のまま。もうじき戻るだろうと布団の中から様子を
伺っていたものの動きはなく、いつの間にか銀時も二度目の眠りに就いてしまった。


「おいこら起きろ万事屋!」
「んあ?」

朝、銀時は頬を足蹴にされて目覚めた。見上げた先は腕組みをして睨み付ける十四子。

「あれっ?まだ戻ってねーの?何で?」
「こっちが聞きてーよ!」

頬をさすりつつ起きれば、何で戻ってるんだと不機嫌な様子で聞かれた。

「昨日の夜……いや、もう日付変わってたかな……まあ、ともかくいきなり戻ったんだよ。
そん時お前の方見たけどまだ髪が長くて、そろそろ戻るかなーって思って見てたんだけどね」
「チッ……」

予想はしていたが銀時も原因は分からないらしい。やはり総悟を問い詰めるしかないかと十四子は
朝食も摂らず銀時と屯所へ向かった。



「これはこれは、漸く夫婦になる決心が付いたんで?」
「ふざけんな!」

銀時と共に屯所の食堂に現れた十四子。沖田は相変わらずのポーカーフェイスを崩さない。

「何で俺だけ戻らねーんだよ!」
「そんなこと俺に聞かれてもねィ……あ、そうだ。旦那と結婚するために女でいたいと
望んだからじゃないですか?」
「そんなこと望んでねェ!!」
「あらら、可哀相な旦那ですね。土方さんは遊びのつもりみたいですぜ」
「違うでしょ沖田くん。俺達は俺達のまま生涯添い遂げるって誓ってんだから」

だから早く愛する土方くんを元に戻してねと銀時にまで言われてしまうと立つ瀬がない。
沖田は渋々ながら白状した。それは、性転換ウイルスの解毒法を調べていた山崎が発見した事実。
黙っていた方が面白そうだと沖田が情報を止めていたのだ。

「痩せ薬との相乗効果でウイルスの効き目が通常の三倍になるらしいです」
「で、元に戻る方法は?」

頬杖をついて、十四子は淡々と沖田を「取調べ」ていく。怒鳴られることに慣れた沖田にとって
こういった態度の方が堪えた。素直に反省の色を見せるタイプではないが、誤魔化しや反論は
一切できそうもない。

「あるにはあるんですが、取り寄せるのに一ヶ月はかかるみたいです」
「……つまり、一番早いのは何もしないで待つってことか?」
「はい」
「始末書な」
「はい」
「それと、戻るまで俺の代理で外との会議に出てもらう」
「はい」
「会議の内容はこの後説明する」
「はい」
「失敗したら減給な」
「……はい」

そういうことでと近藤にも了承を得て、十四子と銀時も食堂で朝食を摂った。


「お前は帰っていいぞ」

食事を済ませ、沖田を副長室に呼んだ十四子。銀時はまだ十四子の側を離れようとしない。
そもそも銀時を連れてきたのは一方のみ戻ったということを沖田に突き付けるため。万事屋の
仕事だって滞っているだろうし、これ以上銀時を拘束する気はなかった。

「何言ってんだ!ムサい野郎の中に女の子が一人なんて危ないだろ!」
「お前と俺の関係は皆知ってる。いくら女に飢えててもホイホイ手ェ出してこねーよ」

銀時の強さは分かっているし十四子だってゆくゆく元に戻る。その時の報復を考えたら
恐ろしくて手出しができないに違いない。力が弱まっている隙に命を狙われる危険性もあるが、
それを一番やりそうな沖田を封じ込めたのだ。銀時の手を煩わせる必要はないように思える。

「お前、この三日間鏡見たか?すっげー美人になってんだぞ!理性なんかすぐ吹っ飛ぶって!
後で殴られても斬られてもいいって襲ってくるかもしれない!!」
「……つーかそれ、お前がヤりたいことじゃねーのか?」

この三日間、何度も今の顔を確認しているが、それほど美人だとは思えない。その一番の理由は
男の時との違いの少なさであった。睫毛が伸びたせいでやや目が大きく見え、全体的に華奢に
なっているから男と言うには無理がある。だが銀時のように全く別の顔貌になったわけではない。
胸もさほど豊かではなく、元の姿を知っている部下達が「女の魅力」を感じるなど有り得ない。
十四子に魅力を感じるのはおそらく、土方本人に魅力を感じている人物のみ――つまり、銀時しか
いないと土方は考えていた。

「俺はお前を本当に愛してるから我慢できる!」
「もう勝手にしろ」

これ以上、沖田の前で恥ずかしいことは言われたくないと十四子は仕事に入った。
銀時は部屋の隅で大人しく、だが十四子に何かあればすぐに飛んでいくと木刀を握り締めている。
十四子は自分の魅力に気付いていない。それは、男の姿の時にも言えたこと。自分に愛を語る
銀時を「物好き」だと思っていて、そこまで惹きつける魅力があるのだとは思っていないのだ。

だから銀時は心配で仕方がない。

通常の業務を全てはこなせない状況にある十四子。どうしたって部下を頼ることになるはずだ。
頼られた部下がいい働きをすれば褒めるだろう。美人な上司に褒められて感極まって……なんて
ことが起こらないとも限らない。いや、絶対に起こる!そんな十四子を護れるのは俺だけだと
使命感を持ち、体が戻ったらこの分のお礼も含めていっぱいヤれると下心も併せ持ち、それから
「土方」が戻るまでの約一週間、銀時は副長専属護衛として屯所に居座るのだった。

(13.09.30)


「銀さんが先に戻る」までがリクエストだったのですが……あまり設定を活かしきれずすみません^^; 女体化って難しいですね!
文中でも書いていますが、X子は顔の中身が土方さん+睫毛なだけなので、痩せた十四子は線の細い土方さんになるんじゃないかと。
十四子が貧乳なのは個人的な好みです^^; リクエスト下さった明夜様、こんなのでよろしければ明夜様のみお持ち帰り可です。
それでは、ここまでお読み下さった全ての皆様ありがとうございました!




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