後編
女装した銀時に連れられて土方がかまっ娘倶楽部に入店すると同時、ホステス達に取り囲まれた。
先程銀時が服装について言っていたが、彼女らの姿を見て納得。ある者は丈の短い着物で逞しい
太股を惜し気もなく晒し、またある者は袖のない着物でこれまた逞しい二の腕を晒していた。
「この人がパー子の彼氏?やだっイケメンじゃなーい」
「私この人知ってるわ。鬼の副長さんでしょ?」
「おいっ!」
輪の外へ弾き出されている銀時を呼びつつ睨み付けてやれば「俺じゃない」との弁解。
「神楽がバラしちまったんだよ」
「安心して。お客様のプライバシーは守るわ」
「ああどうも」
こんなに騒がれて今更プライバシーもへったくれもないと土方は思う。すると人垣を掻き分けて
銀時が土方の元へ。
「コイツは俺の客だから。お前ら早く散れ」
しっしと蝿でも追い払うように手を振って、銀時はホステス達を持ち場に戻らせる。だが一人の
ホステスが銀時達の前に進み出た。
「どういうことだパー子」
「げっ……」
真っ赤なチャイナドレスに身を包んだ彼女の名はヅラ子――言わずと知れた指名手配犯である。
「貴様まさか幕府の狗とチョメチョメ……」
「ひっ土方くん、VIPルーム行こうか!個室の方がいいだろ?なっ!」
「待てパー子!」
「話は後でね!」
さあさあ早くと土方の背中を押して、銀時は黒い扉の奥に消えた。
「なあ、今のヤツ……」
「なっ何か!?まさかあの子を指名したいとか言うんじゃないでしょうね!」
そう明るくない店内。あの程度ならヅラ子の正体に気付くことはないだろう。だがこれ以上の
接触は避けておくべきだ。でないと店で流血沙汰なんてことになりかねない。そんなことになれば
依頼料もパーだ。パー子だけに、なんて全然面白くねーよ!とにかく、土方には閉店までここに
いてもらって、ヅラ子を先に帰さねェと――そんな銀時の焦燥は別の形で土方に伝わる。
「安心しろ。俺にはお前だけだ」
「そ、それはどうも……」
聞いたこともないような甘い台詞を吐かれ、どう反応したらよいのか分からなかった。一先ず、
革張りのソファーに人ひとり分の距離を空けて座り、視線を斜め向こうに。
実は土方も照れて逆側を見ているから、銀時も同様に照れていることに気付けなかった。
「少しはまともなヤツがいるんだなと思っただけだぞ」
「あーそうね。他は化け物だからね……」
「ああ」
「そっか……」
「…………」
「…………」
会話が途切れ、気不味い静寂が訪れる。
二人の関係に「恋人」などという名前が付いてしまったから、基本喧嘩腰だったこれまでの態度を
改めなくてはと思っているものの、では実際にどう接すればよいのか未だに模索中。
聞きたいことを尋ね終えたら沈黙となることが常であった。
「そうだ!何飲む?水割りでいいか?」
「あ、ああ」
そんな二人の様子を新八と神楽とかまっ娘メンバー皆で密かに伺っていた。
「初々しいわねぇ。いつもこんななの?」
「僕らも二人でいるのを見たのは初めてで……」
「掘ったり掘られたりしてるはずなのにおかしいアルな……」
「本当はまだなんじゃない?見栄張っちゃったのよ、きっと」
会話が続かなくて身体で語り合っているなどとはつゆ知らず、二人を温かく見守る面々。
一方、見守られている二人は、
「水割りでいいのか?」
「客はお前だろ。好きなの頼めよ」
「もっと高いもんの方がいいのかと……」
「あー……個室入った時点で結構かかるから別にいいよ」
「そうか」
「うん」
「…………」
「…………」
またしても沈黙。
「焦れったいわね。私が行って盛り上げてこようかしら」
「待ちなさい。あれはきっと幕府の狗を退屈させて戦力を削ぐ作戦よ」
「ヅラ子さん、それは絶対違うと思います」
「二人ともヘタレなだけネ」
「何やってるのよ」
VIPルームに張り付いていたところに後ろから声がかかる。ドスの効いたこの声は……
マドマーゼル西郷であった。
「アンタ達、接客はどうしたの」
「ごっごめんなさいママ。パー子の彼氏が来てて……」
「あの子に彼氏なんていたの?」
「それが全然進展してないみたいだから、私達で何とかしてあげようって話してたの」
ほぼ興味本位で見ていただけだが、西郷の手前尤もらしい理由を取り繕っておく。
それを聞いた西郷がVIPルームの中を覗き込めば、黙ってグラスを傾ける二人の姿。
「なるほどね……でも結構可愛い子じゃない」
「ママ?」
「こんな所に閉じ籠もってちゃ勿体ないわ」
入るわよ――言うと同時に扉を開けて、西郷もVIPルームの中へ。
「ホステスやってみる気ない?」
「は?」
いきなり入って来て何を言うのだと土方が不快感を顕わにするも、西郷は構わず隣へ腰を
下ろした。西郷の重みで土方の体が揺れる。
「ウチで働いてみない?」
「断る」
「コイツ、愛想悪いから接客は向いてねーよ」
横から銀時も援護射撃。個人的には土方の女装を見てみたくはあるが、いくらなんでもホステスは
可哀相だ――というか、そんな格好で他の野郎の前に出すのは嫌だと「この時」の銀時は思った。
「愛想が悪いのはパー子も同じでしょ」
「私は気怠さを売りにしてるんですぅ」
「とにかく、ものは試しよ。やってみましょう?」
「公務員なんで他の仕事は……」
「ならアナタの売り上げはパー子につけとくわ」
「えっ!」
ここで銀時の目の色が変わる。かまっ娘軍団に比べたら土方の女装はかなりまともに見えるはず。
となると多少無愛想でも客は付くかもしれない。土方一人がここで飲むよりも、土方が何人かの
客に飲ませた方が売り上げ的には……
「一緒に頑張ろうね、マヨ子」
肩にぽんと手を置いて、銀時は今日一番の笑顔を土方に見せた。
「誰がマヨ子だ!俺ァやらねーぞ!」
「大丈夫よぅ。私がヘルプについてあげるから」
「衣装はこっちにあるわ」
「離せェェェェェェェ……」
二人に両脇を固められ逃げることも能わず、どこからともなく現れた神楽が「ウチにはお腹を
空かせた定春が待ってるネ」などと涙ながらに語ったところで観念した。神楽の涙が嘘であると
見抜いていたけれど、恋人の家族に頼られては邪険にできない。
哀れ土方は銀時と西郷の手で、かまっ娘倶楽部臨時ホステス・マヨ子に仕立てあげられていった。
以前、新八が使用したお下げ髪を左右に装着。深緑色の着物には蝶が舞う。ピンクの花柄よりは
マ
シだと自分を奮い立たせ、土方は銀時とともに客席へ。
「こんばんはぁ、パー子でーす」
「……マヨ子です」
客は五人の男性グループで、年齢層はバラバラ。職場の上司と部下といったところか。
ここで働くことは渋々了承したものの積極的に稼ぐつもりはない土方。「女性らしい」振る舞い
などはせず、いつもどおりの声音で話した。
「マヨ子ちゃん?初めて見る子だねぇ……」
「今日だけの臨時です」
コの字型のソファーの中央に座る客の左側に土方、その二つ隣に銀時が座る。
ホステス二人は薄めの水割りで乾杯。
「パー子ちゃんは甘い物だよね?マヨ子ちゃんは何が好きなの?」
「マヨネーズです」
「この子、何にでもマヨネーズかけるのよ」
「それでマヨ子ちゃんかー」
ハッハッハ――彼らの高らかな笑い声はこの直後、寿司にもフルーツにも容赦なく襲い掛かる
マヨネーズ決死行によって鎮静化された。だがそこはこの店の常連客。
「いいね、その遠慮ないかけっぷり」
「ただの美人じゃないところが実にいい!」
強烈な個性は寧ろ魅力的に見えるようですぐに立ち直った。
「昔からマヨラーなの?」
「はい」
「毎日マヨネーズ食べてるの?」
「はい」
「ちょっとマヨ子〜、アナタ『はい』しか言ってないじゃない。もっと話さなきゃダメよ」
「……はい」
「また『はい』!?」
「ハハハ……二人は仲良しなんだねー」
「まあ、それなりに」
「そこは『はい』でしょーが!」
「ハハハハ……」
接客に不慣れなマヨ子をパー子が軽妙なトークでカバーして、二人の掛け合いは客達に受け入れ
られていった。
* * * * *
「どうせ僕なんて地味で何の取り柄もないし……」
「そういうヤツは誰と組んでも失敗しないから組織では重宝される……ですよ」
若い会社員風の客を自身の部下よろしく励ます土方。その言葉に感銘を受けた男は土方の手を取り、
「結婚して下さいマヨ子さんんんんん!」
声を限りに求婚した。これには銀時が黙っていない。
「マヨ子にプロポーズなんて百年早いのよ」
「じゃあパー子さんでもいいですぅぅぅぅぅ!」
「でもとは何よ!」
「ハハハハ……ん?」
銀時のおかげもあり土方が大分この仕事にも慣れてきた頃、遂にパフォーマンスの時間となった。
店内が一段と暗くなり、前方のステージが照らされる。
「ようこそかまっ娘倶楽部へ〜!」
「今夜のステージはセクシーダーンス!」
「踊り子には手を触れないでねん!」
客達の視線がステージに集まっていく。その先では元々薄着であったホステス達が音楽に乗って
体をくねらせながら帯を外していた。
それを見て、先程プロポーズした客が不安げに尋ねる。
「あの……マヨ子さんもステージに立つんですか?」
「私とマヨ子は接客専門なの」
銀時の言葉に客は胸を撫で下ろした。ステージではランジェリー姿のアズミらに混じり、肌襦袢を
着込んだヅラ子が扇を振っている。チャイナドレスより露出が減っているがツッコまずにいよう。
何せヅラだから――出演中のホステスらの分まで銀時は土方と客に酒を注いで回った。
しかし、
「パー子!早く上がって来なさい!」
事情を知らないヅラ子から舞台へ上がれと呼ばれる銀時。
「ごめんヅラ子。私、そっちには行けないの」
「ツートップで頑張ってきたのに……そんなにマヨ子と一緒にいたいの!?」
「ちっ違うわよ!」
「ダメよヅラ子」
割って入ったのはアズミ。マイクを持ったまま彼女は話し続ける。
「愛する二人を引き裂いちゃダメよ」
「バッ……!」
アズミの言葉にざわめきたつ客席。件のプロポーズ男が、
「マヨ子さんとパー子さんてそういう関係なんですか!?」
驚いたように聞けば、その肩に西郷が手を置いて、
「お兄さん、惚れた女の幸せを祝ってやれるのがいい男ってもんよ」
彼に対して慰めの言葉をかける。それに応えて若い男はドンペリを注文した。
「マヨ子さんとパー子さんに乾杯!」
「よく言ったわ!」
「パー子、アナタそこまでマヨ子のことを……」
ヅラ子の目にも涙が光る。そして次々に起こるドンペリコール。
「さあ、二人の未来に乾杯よ!」
当人を置き去りに店内は盛り上がっていく。銀時と土方は狼狽えただ立ち尽くすのみ。
そんな二人に舞台上から声がかかった。
「何してるのよ。こっちに来てお客様にお礼を言いわなきゃ」
「え……」
「ちょっ……」
どうしてこうなった。店の手伝いに来ただけなのに。客として連れて来られただけなのに。
二人は下着姿のかまっ娘達に舞台へ担ぎあげられてしまった。
「では誓いのキッスを……」
「ふざけんなヅラ!」
「ヅラじゃない、ヅラ子だ」
「いいからやっちゃいなさいよ」
「まだなんでしょ?私達が見ててあげるから」
「はあ!?」
まだどころかこの三ヶ月で百回以上してますが何か?とは言えなかった。もう店内は二人の
ファーストキスを見守る体制が整ってしまっている。えっ、これ、やらなきゃダメな感じ?
ふざけんな、こんな大衆の面前でやれるか!――二人が目で会話を交わすその間にも、
「はじめてーの、ちゅう〜♪」
「きみとちゅう〜♪」
歌まで歌って祝福ムードを勝手に演出。するとどうしたわけか土方が目頭に手を当て涙ぐむ。
「おい、どうした?」
「この歌は小さな侍コ〇助の秘めた思いを歌った感動の、ううっ……」
「どこが感動!?」
「万事屋、コ〇助の分まで幸せにしてやるからな!」
「おむっ!?」
お前はキ〇レツ大百科の何を見てたんだとツッコむより早く、土方にその唇を塞がれてしまった。
「きゃあぁぁぁぁぁ!やったわ!」
「お幸せに!」
「ぷはっ……おいテメー!」
何とか口は離したが未だ興奮冷めやらぬの土方は力の限り銀時を抱きしめる。
良かったわね、幸せにしてもらうのよ――次々と祝福を受けて銀時は次第に腹が立ってきた。
何で俺がこんな扱い受けなきゃなんねーんだ!
「顔上げろ」
土方の耳元で囁いて、言われたとおり正面に戻ってきたその唇目掛け突進。
「んぶっ!」
ぶつかる勢いで口付けた。
俺がお前を幸せにしてやるんだっつーの!――という熱い思いを込めて。
二度目の口付けに沸き立つ店内。かまっ娘倶楽部は今日、過去最高の売り上げを記録した。
(13.09.11)
リクエスト内容は「ヅラ子その他かまっ娘メンバーに振り回される二人」でした。かまっ娘大好きです^^ 女装してなくても「パー子」呼びで、銀さんがそれを気にしていない
ところも好きです。そして、土方さんがコ○助好きというのは勝手な妄想です。銀さんは2番以降も(うろ覚えですが)歌えるくらいド○えもん好きということが判明したので
土方さんが好きな不二子アニメは何かと考えた末、こうなりました。土方さん「武士」って言葉に弱いし、トッシーのとき「ナリ」って言ってたし。
ここで終わりじゃありません!おまけの土銀土エロ付けます!土銀土というか、いつもの受け同士っぽいエロですが……でもリクエストが土銀かリバ、だったので土銀土と言い張ります!
アップまで少々お待ち下さいませ。
追記:おまけはこちら→★