たまには友情がテーマでもいいんじゃないかと思いまして・・・最終話
夕食が終わり、土方に入浴を勧めて兄妹四人で後片付けをする。
「なんだか……部屋全体がマヨネーズ臭い気がするな。」
「土方さん……かなり独特な味覚をしているのね。」
「あの野郎……金さんお手製プリンまでマヨネーズ塗れにしやがって!」
「何だよ皆……土方はマヨネーズが好きなんだよ。別にいーじゃん。」
「いくら好きでも限度ってもんがあるだろ。」
「おい銀時、明日の朝はマヨネーズ禁止って言っとけよ。」
「何だよ金時兄ィ。前に相談した時はマヨネーズOKって言ってたのに……」
「言ってねーよ!だいたいあん時は、まだ付き合ってな……あ、いや、お前が、もっと土方に
好かれたいと言ってたからだな……」
パー子の中で、銀時と土方は以前から愛し合っていたことになっているため、金時はしどろもどろに
あの時と今は違うのだと説明する。
「とにかく俺、土方に嫌われたくねーから注意する気ねェし。皆も余計なこと言うなよ!」
「二人の愛のためだものね。協力するわ。」
「パー子が、そう言うなら……」
「チッ……仕方ねーな。」
パー子のためならプリンマヨネーズという暴挙も黙認させられるのだと、銀時は必死で笑いを
堪えていた。
「ところで銀時兄ィ……土方さんとどこまでいってるの?」
「は?」
「おー、そうだな。俺も知りてぇ。」
「うむ。保護者として知っておく必要があるな。」
「誰が保護者だ……。つーか、保護者には一番言えねェことじゃねーか。」
「えっ?もう、家族には言えないところまで進んでるの?」
「そりゃそーだろ。何せ泊まりに来るくらいだからな。……銀時の部屋、パー子の部屋から
離しといて正解だったな。あんまうるさくすんじゃねーぞ。」
「教師としてそれは認められん!第一、パー子の教育上よくない!」
「勝手に決めんなよ……。俺と土方はそういう爛れた関係じゃねーの!」
これは、土方と予め打ち合わせておいた想定問答の一つであった。
恋人となったからには、友人とはしないことをしていると思われるのは当然のことである。
けれど二人は、敢えて「何もしていない」と正直に答えることに決めていた。
* * * * *
数日前、学校の屋上にて。
「なあ土方……俺達、どこまで進んでることにする?」
「泊まりに行く時はまだ、付き合って一週間くらいだろ?何もしてなくていいんじゃねーか?」
「それじゃあ怪しまれねぇ?チュウくらいしてることにしよーぜ。」
「……坂田お前、キスしたことあるか?」
「何だよいきなり。……ねえよ。」
「俺も。」
「ていうか、今その情報必要?」
「経験のないことを『ある』って騙すのはキビシくねーか?突っ込んだ質問されたらボロが
出やすい。お前の兄貴達は経験あるんだろうから、余計に……」
「あー、確かに。」
「だからよ、何もやってねェ理由を考えようぜ。」
「理由?」
「例えば……大学受かるまではそういうことはしねェ、とか。」
「土方お前、受験すんの?ていうか俺、進路とか決めてねェし。」
「は?」
「ンなもん、三年になってから決めりゃーいいじゃん。」
「お前なァ……。じゃあ、お前が将来のこと真面目に考えるようになるまでオアズケってことで
いいな?」
「何ソレ?俺、めっちゃカッコ悪いじゃん!」
「協力してやってんだから、そのくらい我慢しろ。」
「チクショー。……でも、兄貴達に聞かれたら『土方が照れてさせてくんない』って言うからな。」
「おい!」
「見栄張ってるフリすんだよ。で、お前は後で真実を言えばいいだろ。」
「仕方ねーな……」
というような取り決めが行われていた。
* * * * *
「土方って結構奥手でさァ……だからゆっくり愛を育んでる最中なの。」
「偉いわ銀時兄ィ!土方さんのこと、大事にしてるのね!?」
「勿論だよ。」
感激しているパー子の横で、銀八と金時はアイコンタクトを送り合っていた。
土方が入浴を終えると、入れ替わりで銀時が入る。その間、土方は銀時の部屋で過ごしていたのだが、
そこへ銀八と金時がやって来た。
「土方くんに聞きたいことがあってね……ちょっといいかい?」
穏やかな笑顔を向けられて拒むこともできず、土方は二人を部屋に入れた。
「あの……何ですか?」
「緊張しなくていいぜ。別に、二人の交際を反対しようってんじゃねーから。」
「は、あ……」
「単刀直入に聞く。土方、お前銀時とどこまでヤった?」
「ど、どこまでって、あああの……」
想定していた質問とはいえ、本当に面と向かって聞かれるとは思っていなかった土方は本気で
慌ててしまう。けれどそれは銀時の言う「奥手」と上手くリンクして、兄達を不審がらせる
ことにはならなかった。
「驚かせてすまない土方くん。ウチの兄弟はかなりオープンでね……実は君達が付き合う前から
色々と相談に乗っていたんだよ。」
「そ、そうなんですか……。俺、一人っ子なんでそういうのよく分からなくて……」
「まあ、同性の恋人がいるなんてフツー、そう簡単にカミングアウトできねーよな。お前は家族に
言ってねーの?」
「あ、はい。……すみません。」
「謝ることはないさ。キミの年頃じゃ、異性の恋人がいたって親には隠したがるものだ。」
「そんでな?銀時にどこまでヤったんだって聞いたら、お前が尻込みしてるみたいなことを
聞いたからさっ。」
「俺達でよければ相談に乗るぞ。……勿論、銀時には言わないから安心したまえ。」
ここまで来て土方は、二人が銀時の答えに違和感を持ち、自分の所へ確かめに来たのだと悟る。
「え、えっと、その……べ、別に、俺は、そういうのが嫌、とかじゃなくて……」
「経験がねェからビビってる?大丈夫だよ。銀時も童貞だから。初めて同士、本でも見ながら
ヤりゃあいいんじゃね?」
「あ、いえ、そうじゃなくて……今は、部活と勉強を頑張りたくて……だから、受験が終わるまで
そういうことはって……」
「受験!?まだ一年以上先だろ!?」
「いや……本気で進学を目指す生徒の中には、高校入学直後から大学入試のことを考えてる者もいる。」
「さっすが高校教師……。それでお前は受験のため、銀時の前で奥手のフリをしてるってわけか。」
「あ、いえ……銀時くんには、正直に話してます。」
「そんで納得した?アイツなら『キスだけでも』とか言いそうだけど。」
「…………」
土方は咄嗟にどう返してよいか分からず黙って俯いた。それを肯定ととった金時が続ける。
「言われたんだ?」
「で、でもっ、銀時くん自身、卒業後の進路について何も考えてないんですよ!?それなのに、
そんなことできません!」
「ハァ〜……クソ真面目だな、お前。」
「いいじゃないか。これで銀時が少しでも真面目になってくれれば……」
「動機は不純だけどな〜。」
「とにかく俺は、パー子に悪影響が出なければそれでいい。」
「あっ、それは言えてる。……お前らが今夜、あんあん騒ぐんじゃねーかと心配してたんだ。」
「そういうことはなさそうで安心したぞ。これからも銀時をよろしくな、土方くん。」
「じゃあね〜。」
「…………」
言いたいことだけ言って、銀八と金時は部屋から出て行った。
* * * * *
「……ってことがあった。」
銀時が浴室から戻ると、土方は先程の兄達とのやり取りを話して聞かせた。
「へえ〜……まあ、お前が一人の時を狙って何かしら仕掛けてくるとは思ってたけどよ……」
「部屋出た後『やっぱ付き合ってんのはマジみてぇだな』って言ってんのが聞こえたから、
まだ疑ってたっぽいぞ。」
「マジでか?そういえばプラトニックだって言った時の兄貴達、変な顔してたな。」
「お前、欲望に素直そうだもんな……」
「おいィィィ!失礼なこと言うなよ!?銀さん紳士だから!」
「はいはい……」
「信じてねェな?」
「よく分かったな。」
「てんめ……」
「ハハハハ……」
二人は明け方まで他愛もない話をして、友情を深めるのだった。
* * * * *
土方が「恋人として」坂田家を訪れてからおよそ一ヶ月後の日曜日。
パー子が友人と出掛けたため、坂田家の男三人だけの昼食は残り物で作った炒飯。
「あーあ、何で日曜の昼を野郎三人で過ごさなきゃなんねぇんだよ。折角、出勤前のひと時を
パー子と一緒に過ごせると思ったのにさぁ……」
「それは俺だって同じだ。休みの日をパー子とゆっくり過ごせると……。そういえば銀時、最近
土方くんとはどうなんだ?」
「あ?ああ、土方ね……。また連れて来る?」
「メシの時間以外でな。あれから暫くの間、マヨネーズを見るのも嫌になった!」
「ハハッ……じゃあ、今度は日帰りか?テキトーな時に頼んで来てもらうよ。」
「「頼んで?」」
銀八と金時の声がハモる。
「おい銀時、『頼んで』とはどういうことだ?」
「どういうって何が?」
「土方に何を頼むんだよ。」
「恋人のフリに決まってんだろ。」
「「はあ!?」」
銀時のタネ明かしにより、二人の兄は再び声をハモらせた。
「フリだと!?おい、どういうことだ銀時!」
「なに慌ててんの?……えっ、まさか銀八兄ィ、本気で俺と土方がデキてるとか思ってた?ププッ。」
「いや、だってお前……」
「マジで俺に口説き方とか聞いてきたじゃねーか!」
「あれっ?金時兄ィもマジだと思ってた?おいおい、そんなんで客の女の子といい感じになれんの?
ナンバーワンの座も危ういんじゃね?」
「じゃあ何であんなことしたんだよ!」
「パー子のために決まってんじゃん。ていうか、土方と付き合えつったの兄貴達だろ?だから俺、
土方に頼んで恋人のフリしてもらったんじゃねェか。……パー子のために。」
兄達の怒りを鎮めるため、銀時はあくまで妹のためにやったと主張する。
「だ、だが、パー子がいない時でも土方くんを口説いていると言って……」
「女子って勘が鋭いだろ?目の前にいる時だけ演技したくれぇじゃ、すぐ見破られちまうって。」
「ま、まあ……」
「そうだが……」
「それに、家ん中じゃいつパー子に聞かれるか分からねーし。……いや〜、ずっと演技し続けるのは
大変だったぜ。わざわざ早起きするとかさァ……。でも兄貴達まで信じてたとは驚きだぜ。
てっきりパー子のために合わせてんだと思ってた。いや〜、マジでウケる!」
銀時はテーブルを叩きながら大笑いする。
「俺がゲイのわけねーじゃん!ていうか兄貴達にも人の言うことを素直に信じるピュアな心が
あったんだな。ププーッ……」
「銀時!」
「てめェ!」
「いや〜、いいと思うよ。いつまでも純粋な少年の心を持ち続けてくれたまえキミタチ。ハッハッハ……」
高らかに笑い声を上げ、銀時は空になった自分の食器を流しへ運ぶ。
「じゃあ俺『友達の』土方とカラオケ行く約束してっから。じゃあな、ピュア兄貴!プププッ……」
小馬鹿にするように笑いながら銀時が表へ出た瞬間、兄達の握っていたレンゲの柄が砕けた。
完全にしてやられたと思うものの「パー子のため」という大義名分がある以上、怒るに怒れず、
二人は手の中のレンゲの破片をテーブルへ叩き付けることしかできなかった。
* * * * *
「よっ!」
待ち合わせの駅前にいた土方に銀時は軽く右手を上げて声を掛ける。
「遅ェよ。他のヤツら、先に行っちまったぞ。」
「悪ィ悪ィ。……で、何で土方はここで待ってんの?『先行く』ってメールでもくれりゃあ、
それで良かったのによ。」
「チッ……ジャンケンで負けたんだよ。」
今日は銀時と土方と、そして高杉、桂、坂本の五人でカラオケに行く約束をしていた。高杉らは
銀時と中学時代からの友人である。銀時と土方の距離が近付くにつれ、銀時の友人と土方、
土方の友人と銀時との距離も近付いていた。
二人はカラオケ店に向かって歩いて行く。
「そうそう……さっき、兄貴達に例のことバラしたんだ。」
「マジでか?どうだった?」
「ププッ……二人ともポカーンとしちゃってよー、オメーにも見せてやりたかったぜ!」
「ハハッ……そりゃ良かったな。」
「いや〜、マジで傑作だったぜ。ありがとな、土方。」
「別に……。俺も結構楽しかったしな。」
笑顔で作戦成功を称え合いながら、二人はカラオケ店へ入っていった。
(11.08.16)
というわけで、高校生友情物語これにて完結となります。「IV」で物騒なことを言っていた高杉くんですが、無事に土方くんと仲良くなれた模様です。
壮大な目標(タイトル)が達成できたかは微妙ですが、銀時くんと土方くんは確かに熱い友情を育んでくれました。友達同士だと分かっていても
邪な目で見てしまうという方、管理人と友情を育んでください(笑)!実はこの話には元ネタがあります。といっても、末っ子で紅一点の妹を兄達が
猫可愛がりして、すぐ上の弟は酷い扱いをされるってところだけですけど。桃花/タイフーンという大昔の少女漫画です。…これを書くためにちょっと
調べてみたら、少し前に台湾でドラマ化されてたみたいですね。この漫画の主人公・桃花は腐女子じゃありませんよ。念のため^^;
それでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました!
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